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小説
CoC「Sibyl-シビュラ」ネタバレ有 後日談
#CoC #ネタバレ #シビュラ #刀木イヴリン
果たしてこれは心酔と、忠義と、愛と言えるのだろうか?

テレビ通話の向こうで、男性が話をしている。それを聞きながらイヴリンは相槌を打ち、時々質問を返した。通話画面とは別にメモアプリを立ち上げていて、聞いた内容を入力する。それを何度も繰り返す。

『では――さん、こちらを一旦二週間後までに提出してください』
「はい、わかりました。出来次第メールで送らせていただきます」
『よろしくお願いします』

簡単な挨拶だけ済ませると通話は切れた。ふう、と一息ついてすっかり冷めた珈琲を口に含む。酷く濃く、苦く、酸味がある。その上雑味がすごくて好きではない。むしろ嫌いな味だ。
けれども、雑に淹れられたそれは短時間とはいえ眠気を払ってくれるのだからしょうがない。コスパも考えるとエナジードリンクより遥かに安い。

(まさか、またこう言う業務にかかわるなんて思わなかったな)

そう思いながら、ぴしゃりと締め切られている襖に目を向けた。

*

WSSを裏切り、シビュラたちとその神々で逃げ出してからイヴリンがすぐにしたことは生活基盤を整えることだった。己の神が口を開く前に自分の戸籍の抹消行為及び身分偽造を行い、少ない元手で仮住まいを決めて、さっさと手に職をつけたのだ。前職での経験が存分に生きて表社会でも裏社会でもやっていけそうなところは弊社に感謝、と思ったのは記憶に新しい。

「禍津様、わたしは少し業務を行いますので何かあればおっしゃってくださいね」
「いいや、お前が頑張っているのなら私は邪魔にならないようにしよう。励みなさい」

他の神々とは違い、イヴリンの崇め愛する神は聞き分けがいい。彼自身、神官のイヴリン以外に興味もないようで仕事中は基本的に瞑想しているし、買い出し等も頼めば留守を預かってくれる。(イヴリンが長期間離れていたのは実験による神の観察をしていた時だけだったので、少々心配したが杞憂だった)事前に伝えれば、宅配の受け取りもしてくれた。そういう意味でも助かる。助かるが、少しだけ寂しいとも感じる。

『おや、イヴリン。そこで詰まってるんですか?』
『……なに、悪い?』
『いえいえ。しかし、困りましたねぇ。貴女のその仕事が終わらないと二人のブレイクタイムができないんですけど』
『じゃあちょっと黙っててよ。考えてるんだから』
『ふふ。あ、そうそう。ここをこうすればいいのでは?』
『へ?えっ、あ、あー……そうか、ここかぁ……』
『解決ですね。では今は切り上げて、リフレッシュついでに私とお茶でもどうです?』
『……わかったよ』

ふと脳裏に過る過去の記憶が浮かんで消える。手助けする前に絶対ちょっかいをかけてきてはイヴリンの手を止めてはヒントを落として仕事を取り上げる。今思えば根を詰めていた自分に対しての気遣いだったのだろう。
彼と彼の神の差異を見つけてはちくりと胸の奥を走る痛みに、自業自得だとひっそりとため息をついた。

*

「――リン、イヴリン」
「ッ、は、はい!」

肩に軽い振動、そして落ち着いた、ゆったりとした声。少し意識が飛んでいたのか、イヴリンは禍津の声で飛び起きた。見れば心配そうにのぞき込んでいる神の相貌が視界に飛び込んできた。一瞬、國人さんと呼び掛けて慌てて話を逸らす。

「申し訳ございません! わたし眠って、あ、お、お食事の時間でしたか!? すぐ作ります!」
「いや、慌てなくていい。いつものぱそこん…ですか。その音がしなくなったものだから気になったのだ。疲れているのだろう? 今夜は私が作りますよ」
「いやいやいやいやいや! 禍津様にそんな、家事なんてさせられません! わたしがやりますから!」

ばたばたと立ち上がりエプロンをひっつかんで支度するイヴリンに、ぽつりと言葉が落とされる。

「……私では、やはり頼りにならないか?」

振り向けば、ロザリアとの闘いで気を失って目覚めた後のような困った表情を浮かべて自分を見ている禍津がいた。困っている、というよりどこか気落ちしたような、先程まで見せていた笑みを浮かべてはいたものの、弱弱しい。それが余計に沈んでいるように見える。

ぞっとした。まずイヴリンが感じたものはそれだった。彼の心配よりも先に、自分が仕える神にそのような表情をさせてしまったという事実に恐れた。それを顔に出さないようにして、一呼吸入れてそんな自分に嫌悪する。同時に、気づかなかった自分にも。

ここで二人で暮らし始めてから、禍津には極力何もさせないようにしていた。宅配に関しては致し方なく頼みはしたが、それでもその一回切りだ。
なぜなら彼は神、自分は神官。奉仕するのが当たり前。しかしそれより平等な感情がお互いの中にあることを失念していたのだ。

少し、難儀だなぁ。そんなことを考える。

「禍津様。頼りにならないなんてそんなことはありません。立場上わたしは貴方様に、雑務をお願いできません。ただそれだけです」
「……愛し合っているのに? 体も重ね、心も通わせた。お前は私に、嬉しい言葉を言ってもくれたのに?」
「愛だけでは神と人は平等にはなりませんわ」

お互いに抱いた情愛が通ずる、というだけなのだ。自分と彼は。身の程は弁えないといけない。わかっている。ただ、元恋人の姿をしているだけの尊い存在なのだ。彼が望めども、それだけは覆らない。覆ってはならない。そのようなことはあってはならない。彼の神は彼ではない。混同してはいけない。禍津國人はもう、世界のどこにも、天国にも地獄にもいない。情愛であっても、彼と同じような愛し方ではいけない。

彼以上に尊い(かみ)を、イヴリンは知らない。他のシビュラ達が仕える神々も素晴らしいが、ズ=チェ=クォンという存在程だとは思わない。だから、へりくだらないでほしい。わたしより上に、常にいてほしい。使ってほしい。わたしをわたしをわたしを。人間(わたし)を。わたしを見てくれる。使ってくださる。それだけで十分満たされるのに、これ以上頼るなんて恐れ多い。

けれども彼は、半分人間になってしまった。なら、その部分は『刀木イヴリン』として満たさないといけない。なぜならわたしは彼のお気に入りなのだから。

「ただ……そうですね、わたしのお料理の評価をお願いしてもよろしいでしょうか? レシピを見ながらとは言え、まだ自信がないのです」
「お前の作る料理はどれもおいしいですよ」
「もうっ、それでは成長できませんわ! 禍津様のお好みだって、もっと知りたいですのに!」

そう少し頬を膨らませてしまえば、彼は落ち込んだ笑顔をいつもの胡乱なものに変えた。どうやら、機嫌は直ったらしい。そのことにほっとしながら彼を食卓で待つよう伝えて食事の準備に取り掛かる。
和食は一通りやっただろうか。では今日は洋食にしてみようか。くどくないものを選んで、様子を見よう。神に捧げるものなのだ、不快の一片でもあってはならない。しかし、同じものでは意味がない。本来食事の必要のない存在なのだ。愉しんでいただく娯楽として、つまらないことはできない。

包丁を握る手が、微かに震えた。畳む
小説
COC「VOID」HO2自機・潮がエオルゼアでミコッテになって過ごす話その2。ただの私得。
該当シナリオ及びFF14暁月のフィナーレのネタバレはありませんが暁月エリアまでの地名が出ます。気になる方は閲覧をお控えください。
#CoC #VOID #本城潮 #クロスオーバー
潮ッテその2

眠い。そう億劫に感じながら潮は目を開ける。占領しているソファから起きあがろうとしてみるが、ふかふかしているクッションと自分を包む毛布の感触、ちりちりと揺れる暖炉の温もりがどうも自分を纏ったまま離してくれそうもない。
頑張って起きあがろうと四苦八苦する反面、身体は正直なものでそのままゆっくりとクッションへと倒れ込んでいく。
その体をそっと支えられて、魅惑のふかふかとの接触は阻まれた。

「おはようございます、潮さん」

眠い目をしぱしぱと瞬かせて声の方を見れば、赤髪を揺らしながら青年が柔らかく笑みを浮かべていた。



こちらに来て、潮の環境はひどく忙しないものになった。
まずこの世界のことを知る前に自分の体のことから知るべきだったのだからそれも仕方ないのかもしれない。アンドロイドだった時にはなかった空腹や眠気などの生理現象に翻弄された。それに加えて、ミコッテ族(この世界の人間の種類らしい。自分の世界で言うならアメリカ人やロシア人と言ったものだろうと潮は解釈している)としては長身なのだが体力は人並みやや少なめ、と言ったところらしい。エーテルと言うこの世界を構成するエネルギー量もあまり多くなく、冒険者としては魔術職も前衛職もあまり向かないかもしれないと言うのはルカの言だ。事実潮はやることをやってすぐ眠る、と言う生活スタイルになっている。このままではいけない、と一度無理をして起きていたら何でもないところですっ転んでそのまま寝落ちしてしまい、結果余計に迷惑を掛けてしまっている。

「焦らなくてもいいさ。できるできないより、まずどういう状態であるかの把握やそれに慣れることも大切だと思うし。ウシオさんのペースで掴んでいけばいい」

そう酒を飲みながら朗らかに言うアベルの言葉通り、もどかしい気持ちを抑え込んで自分の体と眠気に抗う日々を送っていた。起きている間はカンパニーハウスの掃除をしてから読み書きをルカやフィオナに教わる。幸い記憶力は良かったので、誰かからの伝言係やメモ帳がわりになったりしている。この辺りはアンドロイドの時とあまり大差ないな、と少しほっとした。文字もゆっくりとなら読めるようになっている。また潮の調子がいい時はその時頼まれた者と近場で買い出しへ向かい、金銭の支払い等を学んでいた。日本のように通貨に種類はなく、ギルと呼ばれる貨幣何枚分と計算するらしい。単純で覚えやすかったから、買い出し要員に任命された時は不安定な自分の足元が少し落ち着いたようで嬉しかった。
ただ、まだ文字の読み書きはあやふやだからまだ付き添いは外されないままだ。少し不服だったりする。
そんな潮を見かねたのか、はたまた本当に言葉の通りだったのか。少し遠いところへの買い出しをルカに言い渡されたのはつい先日の話のことである。

「ウシオはん、ちょいと遠いところへ買い物行って欲しいねん」
「? 構わないがどこへ?」
「リムサや、リムサ・ロミンサ。君が保護された都市やなぁ」

その単語にああ、あそこかと納得する。白い珊瑚礁でできた、潮騒の響く都市。あの時は確かすぐに倒れてしっかり見ることもできなかった。
少しだけ慣れた土地から、あまり知らない場所へ。不安と同時に、感じたことのない気持ちが無縁を過ぎる。
それは、没頭するような内容の本を捲る時の気持ちのような。
それが何かわからず内心首を傾げている潮に気付かず、ルカは続ける。

「あそこになぁ、チビらが使うフライパンとかハンマー注文しとんねん。あと漁師ギルドへ魚の卸やな。ベル坊やらなっちゃんが釣って、余ったやつ。質は悪ないし、ちょっとしたお小遣い程度になるんよ。その買い付けと……ああそうそう、そこに道具一式注文してあんねん。その引き取りやね」
「俺でいいのか? 引き取りとかなら何とかなるが、買い付けはしたことがない」
「構わんよ。アベルとナツキから、って言うたらちゃんと見てもらえるで。あ、せや」

ルカは何か思いついたように懐から紙と封筒を取り出すと、近くに置いてあった羽ペン(日本のような、ボールペンらしきものはないらしい。あちこちにインク瓶と羽ペンが設置されているのだ)にインクをつけてさらさらと何かを書く。それを封筒に入れて蝋で封をすると潮に投げて渡した。

「ついでにこれ、ギルドマスターか、シシプ言う人に渡しといて。あと付き添いは……せやなぁ……あ、丁度ええわ」

少し考え込む素振りを見せたルカは、潮の背後へおういと軽く声をかけた。彼はきょとんとして潮とルカを見、なんですか? と小走りに駆け寄ってきた。

「明日確かなんもあらへんだやろ? ウシオはんの買い出し付き合いついでにあれそれ教えたって。……ウシオはん、この子はなぁ……」



「おはよう、龍。悪い、また寝そうになった」
「あはは、ちょっと頑張ってましたけど負けてましたね」

碧の目を細めて龍が笑う。普通なら怒るところなのだろうが、二度寝しかけたのは事実だし龍はおっとりと笑うから、バカにされている感じがしないのだ。事実彼にもそんなつもりはないのだろう、すぐに俺も二度寝しちゃう時あるんで気持ちわかりますよとフォローを入れてくる。

昨日たまたま近くを歩いただけだと言うのに突然自分の面倒を押し付けられてさぞ迷惑だろうな。そう思った潮がそのことについて謝罪すると彼は今のようにふわりと笑って首を横に振った。

「明日予定がないのは本当ですし、大丈夫ですよ。俺でよければお付き合いさせてください」

そこまで言って頭まで下げられた。間違いなく面倒を見てもらう側なのは自分なのに逆に低姿勢に返されて潮がしどろもどろになる。その様子を小さく笑いながら見たルカは龍に何事かを耳打ちしてほな明日朝の便で向かったって、と踵を返したのだ。

「そう言えば、ルカに何を言われていたんだ?」

昨日の光景を思い出し、ふと疑問に思ったことを問えば龍はああ、と教えてくれた。

「ついでに交感のやり方を教えておいてくれと頼まれていました」
「こうかん?」
「はい。難しい理屈は俺もよくわかってないんですけども」

曰く、自分のエーテルと街や都市に設置されているクリスタルへ通し、また自分の中へクリスタルのエーテルを通すことによってその場所へ一瞬でたどり着くことができる、という。色々な理屈はあるが、要は自分とクリスタルのパスを繋ぐ方法を教えておけと頼まれたそうだ。

「それができたら今後は船に乗らなくても、何か用があったらすぐに飛んでいけますから。便利ですよ、テレポ」
「……俺は魔法は向いてないと言われたんだが」
「ああ、多分戦闘職としてはと言うことじゃないでしょうか? 生まれつきエーテル量が少なすぎるとかでないなら結構誰でもできる魔法です」

思わず、潮の耳がぴょこんと跳ねる。魔法。文字通りロボット学やら何やら、科学の結晶であった自分には本当に無縁だったもの。それが使えるかもしれないのだ。

楽しみにならないわけがない。

それが押し殺せないと言わんばかりに耳がぴこぴこ、尻尾がひょこひょこと動いている。その様子を見ながら龍は一瞬目を丸くしてから微笑する。

「ルカさんが多めにお小遣いを渡してくれました。交感と買い出しが終わったらビスマルク風エッグサンドでも食べましょうか」
「びすまるくふうえっぐさんど」
「元は労働者向けの携帯食だったのを、高級レストランがアレンジしたものですね」
「食べる」

潮の食いつきの良さにまた笑って、龍はじゃあいきましょうかと潮をソファから引っ張り起こした。



船に揺られて三日後。二人はリムサ・ロミンサの港に立っていた。

「ぉえ……」
「潮さん、これ。多少楽になります」

青い顔をして道の端で座り込んでいた潮に苦笑しながら龍がレザーカンティーンを受け取る。促されるまま蓋を開けておずおずと中身に口をつけて、耳が跳ねた。

「ラッシーだ」
「はい。ミントで風味つけてるからさっぱりしてるでしょう? 船酔いした人はよく飲んでるんですよ」

ちびちび飲み始めた潮の隣に腰掛けが龍は自分たちが乗ってきたのとは別の船を眺めて、物流増えたなぁ、と呟いた。

「? 元々こうじゃなかったのか?」
「ええ、結構色々大変だったんです。ラザハンからの香辛料を手に入れるのに苦労しました」
「他のものじゃダメなのか?」
「使い方によってはそれでもいいんでしょうけど、種類が多くて質もいいんです。グリダニアは木材やハーブがよくて、ウルダハは金属や宝石類だったかな」
「じゃあここは?」
「魚と船ですね。今日は難しいかもしれませんが、その内造船場とか見に行ってもいいかもしれません」

そう言う龍に頷いて、潮はラッシーに口をつける。全部飲み切るとカンティーンをすっと取られた。それくらいは自分で、と言う前に龍に遮られる。最も本人にそのつもりはなかったのだが。

「さて、買い物に行く前に交感してしまいましょうか。ついでにサマーフォードのクリスタルも」



ざわざわと数多の人が行き交っている中、それはそこにあった。大きく切り出されたそれに幾つかの装置がついていて、原理も理屈もわからないが浮いて、ゆっくり自転している。それに二人は近いた。

「じゃあ、触れてみてください」
「? 呪文とかそういうのっていらないのか?」
「ええ、交感はあくまでエーテルを通すだけなんです。この場所に、潮さんの事を刻んで残す。やってみてください」

ちょっと思ってたのと違う。耳をへたんと垂れさせながら言われるままクリスタルに手のひらを押し当てた。ひやりと、冷たさが手のひらに伝わったのは一瞬で。

自分の中に何かが流れ込んでくる。それは決して嫌なものじゃなく、じんわりと自分に馴染んでいく。

しばらくすると、その感覚もなくなり後にはクリスタルの冷ややかさだけが残った。

「……多分、終わった? どうだろうか」
「はい、それで大丈夫です。じゃあ次はサマーフォードの方へ行ってみましょう。そっちも交感できたら一度テレポ使ってみましょう」



荷物を持って動くのは危ないから、先に交感を。そう言われるまま潮は龍について行った。道中羊に似た生き物や大きくて耳の長いネズミをみているとあれはシープ、あっちはマーモット等龍が簡単に説明してくれた。自分が最初襲われていたあの気持ち悪い生き物も遠目に見えて思わず及び腰になってしまったが、大丈夫ですよと龍が笑う。

「グーブゥはこっちから手を出さない限り襲ってきません。大きくて口も怖いですけど、基本的には他の種と共生できるくらい大人しいんです」
「……俺、最初にあいつに襲われたんだが」
「それは……状況を見てないから何とも言えないですね……もしかして何か、別の事で気が立ってたのかも」

そんな説明を受けながら、サマーフォードまでの道を歩く。
目的地のクリスタルが見えてきた、その時だった。

急に周りを囲まれる。それはその辺りを歩いている生物ではなく人間だった。恐らく、脛に傷を持つ者たちなのだろう。冷静に考えてから潮ははっとした。

(そうだ、俺戦えない)
「よお、お兄ちゃんたち。俺たちちょっと困ってんだわ。少し助けちゃくれねえか?」

口調こそお願いの体を取っていたが、明らかに威圧だった。略奪者たちと対面し、しかも自分は戦えないと焦る潮をよそに龍はどこ吹く風、と行った様子で

「あ、無理です。だってメリットないし」
「アァ!?」
「んだと……?てめえ、下手に出てりゃいい気になりやがって」
「いや全然下手に出てないじゃないですか。思いっきり圧かけて脅しにかかってるじゃないですか」
「ちょ、おい……龍、それ以上は」
「こんなことしてないでさっさと手に職つけてはどうですか? 折角世界情勢も落ち着いてきたんですから」

潮の静止も虚しく龍の煽りが止まらない。当然それに乗っからない程ならず者達の気は長くない。怒声を上げながら、二人へ得物を手に襲いかかってくる。

どうする、逃げるか? そう考える潮に龍の荷物が投げ渡された。

「ッ」
「潮さん、少し待っててくださいね」

言うや否や、潮の返事も待たずに龍は浅く腰を落とした。斧を振り上げた一人に向かって突っ込んでいく。
りゅう、と声をかけようとして音にならなかった。

どん、と音がしたと思ったら斧を構えていたルガディン族の男が呻き声を一つ零して血に倒れ伏す。一瞬男たちに動揺が走るが数では圧倒していると龍へと打って出る。

柔らかな光を湛えたまま、龍の目が細められる。
背後から襲ってきたハイランダー族の男の腹を容赦なく蹴りあげ正面から剣を振り下ろしてきたミコッテ族を自分の得物で受け止める。
彼が手にしていたのは刀だった。叩き切る事に長けている剣と鍔迫り合うには相性が悪い。それを相手も分かっているのだろう、押し切れると口元を笑みの形に歪めていた。

それを一瞥して小さく、しかし相手に分かるように溜息を着いた。碧の目が退屈そうに男を見下ろす。
なんだ、と男が疑問に思うより龍が動くのが早かった。
すっ、と自分の身ごと刀を引いた。力を込めていた男は当然前へとバランスを崩して倒れそうになる。踏ん張らせない、と言わんばかりに龍の刀が男の首へと振り下ろされた。

声も上げれず立て続けに倒れた仲間を見て、ならず者達はたたらを踏んだ。龍は手にした刀を肩に担ぐと彼等を睥睨する。

「ああ、殺してません。峰打ちなので生きてますよ。このままこの人達ごと消えていただけるならイエロージャケットにも言いません。何処へでも行けばいい」
「……断ったらどうする」
「殺します」

ああ、どっちにしろイエロージャケットには通報しないことになるなぁ。退屈そうに龍がそう言い放つ。前者は情けだった。後者は、明確な殺意だった。殺すなら、通報する意味も無いだろう? そう言外に意味を含ませる。

それを挑発だと受け止め、いきり立つ男達を制し、彼らの代表だろうミッドランダー族の男は倒れた仲間を担がせて撤退していく。その姿が遠く離れるまでじい、と彼等を見ていた龍は姿が無くなったのを確認するとふう、と溜息を着いた。

「ああ、潮さん。すいませんお待たせしてしまって。行きましょうか」
「……」

けろりと、男達に襲われる前の雰囲気で接してくる龍の目の前で、へたり込んでしまった。同時に嫌な汗がぶわりと溢れる。潮さん!? と慌てる龍に大丈夫だと言いたいのに目が合わせられない。
戦闘は、ああ言う風に敵意を向けられることはアンドロイドの時からあって、平気だと思っていた。事実、平気だったのだ。

生身で感じる悪意と殺意が、ひどく恐ろしい。

こんなものを人間は——伊智や六月は、公安として受けていたのか。
そっと背中をさすられる。一瞬びくりと震えて、ゆっくり見上げると龍が心配そうに潮の背中に手を這わせていた。

「わ……るい、驚いて」
「いや、俺もごめんなさい。失念してました、ちゃんと潮さんのことを聞いていたのに。怖かったですよね」

潮は口籠る。怖かったと認めるのが恥ずかしいのも少しはあったかもしれない。けど、それ以上に何を言えば気遣いをくれる彼を困らせないのかがわからない。困らせたいわけでも、萎縮させてしまいたいわけでもないのだ。
なのに言葉は思いつかなくて、何が正解かもわからない。いつもなら演算で最適解がわかったのに。

ずっと、暗い所で歩き回っているような気分だ。

申し訳ないと思うのに。そう思いながら動けない潮が大丈夫だと言えるようになるまで龍は側で座って待っていた。



しかし人間とは現金なもので、ある程度落ち着いてからもう一つ新しい経験をした後に美味いものを食うとすぐ立ち直ってしまうらしい。ビスマルク風エッグサンドを口いっぱいに頬張りながら潮は尻尾を揺らしていた。

あの後、無事サマーフォードのクリスタルと交感し、早速テレポを使用してみた。直前まで龍が青い顔をしていたが多分、クリスタルの色が照り返しただけなのだろう。そう思い、教えられた通りその魔法を行使する。

最初に感じたのは視界のブレだった。その後自分という存在が解けて行き、『リムサ・ロミンサに行きたい』という意思だけがふわふわと漂って——気がついたら都市の雑踏の中に立っていたのだ。後から追いかけてきた龍がほっとした様子で潮を見る。

「よかった、うまく行ったみたいで」

確かにそう言った。その言葉の意味を潮は——聞かなかった。
それどころでは無い。大興奮だった。尻尾の毛と言う毛はぶわりと広がり耳は忙しなく跳ねまくる。思わず龍の両腕を掴んで揺さぶっていた。

「り、りりりり龍!! いま、ふわって、ふわってした!!」
「あ、ああ……それは……」
「ふわってしたと思ったらここにいた!! なあ、これが魔法なのか!?」

ギラギラと両目をカッ開き、頬を紅潮させて自分が魔法を使ったという事実にはしゃぐ潮にあはは、と龍は苦笑いをする他ない。

「気分が悪いとかは」
「ない!!」
「無いならよかった……あいてててて、潮さん、痛い、腕痛いです」

ぎゅううう、と力一杯握られて、なんなら爪も立てられながらも龍はどう、どうと潮を宥める。漸く手を離すが興奮が冷めない潮に小さく笑みが溢れる。ぴこぴこ、ぴこぴこと耳がよく動くこと。微笑ましさを感じながらも「お使い済ませてご飯にしましょうか」と龍は潮に告げた。



言われていた物を引き取り、ついでにと他のメンバーに頼まれていた物も買って、ついでに龍から潮へと、言語を学ぶための羽ペンと羊皮紙を教えてもらいご機嫌でサンドイッチを頬張る。柔らかいパンには炒ったくるみが入っており、甘みの中にも香ばしさを感じる。そのパンの間には新鮮なレタスとスクランブルエッグが挟まっていた。これだけ見れば、潮の世界にもあったエッグサンドだろう。
しかし、使われている卵が違うのかコクがあり、黄色味も少し濃いような気がする。レストラン向けにか、半熟で焼かれた卵はとろりと口の中で溶けて広がった。パンだけ、スクランブルエッグだけでも美味しいのに両方合わさって不味いわけがない。もむ、もむと口の可動域を全力で動かしながら夢中で食べていく。
テーブルを挟んだ反対側では、龍が飲み物を飲んで一息ついていた。薄いピンクの液体が、氷を上へと持ち上げながら揺れている。何かと聞いたらピーチジュースと教えてもらい、せっかくだからと同じものを頼んで、運ばれてきたそれを飲んでみる。
食感はとろりとしていた。果肉をしっかり濾したのか、意外と粗い所は感じない。味も果物だけの味というより、スパイスが含まれているのか時折ぴり、と刺激を感じた。甘みに刺激は合わない物だと思っていたがそうでもない。オレンジもいいが、ピーチもいいな。そう思いながら口でとろみごと味を楽しんだ。

そうしてひと心地ついてから、龍はテーブルに貨幣を置き、潮に声をかける。

「じゃあ最後のお使い、済ませましょうか」
「漁師ギルドだったか?魚の卸売と、商品の受け取り……ああ、そうだ。ルカからこれを預かったんだった」
「? なんですか? それ」
「さあ……ギルドマスターかシシプっていう人に渡せとしか」
「なるほど」

そう言いながら潮を立ち上がり、漁師ギルドへ足を向ける。背後でウエイターがまたのお越しを、と言うのが聞こえた。



レストラン『ビスマルク』のあった上甲板層から下甲板層へ降りて、更に裏手側。エーデルワイス商会前にそのギルドはあった。魚がギルド入り口で天日干しされていたり、生簀を覗いているギルド員がちらほら目に映る。屋内にも小さいがしっかりした生簀が備え付けられており、中には魚達が悠々と泳いでいた。
その縁にいる非常に小柄な人物に、龍は声を掛ける。

「シシプさん、ご無沙汰してます」
「あら? まあ、リュウじゃない! 釣ってる?」
「俺は最近園芸ギルドの仕事ばかりですね。人使い荒くって……代わりになっちゃんがアベルさんと頑張ってますよ。はい、これ。アベルさんとなっちゃんの釣果です」
「あら、私としては是非貴方にも頑張って欲しいんだけどな? っと、ありがとう。……うん、さすがアベルさん。状態もいいし、釣った後の処理も完璧ね。こっちはなっちゃんかしら? 魚の口が少し抉れてるわね……これはギルドで買うと少し値段を落とさないといけないわ」
「わかりました。それでお願いします」
「ああっ待って待って! 私が個人的に買わせてもらうわ。なっちゃん、十分お魚さんの扱いが上手になってきたんだもの。特別にはなまるをあげたいわ」

そう言いながらにこにこと笑い、財布から貨幣と取り出していた彼女はふと視線を上げた。龍とのやり取りを眺めていた潮と視線が合う。

「あら? そっちの人は初めましてね。私はシシプ、ギルドマスター代行よ」
「ああ、潮だ。最近彼と同じFCで世話になってる」
「そうなのね。あっ、じゃあ、これは貴方のかしら」

そう言いながら彼女は立てかけてあった細長い包みを潮に手渡した。首を傾げながら受け取る潮に、龍が開けていいですよと頷く。
そっと開けると、そこには釣り竿と他の釣具が一式包まれていた。
目を瞬かせる潮に、シシプはにこりと笑いかける。

「アベルさんから連絡をもらっていたの。初心者向けの釣具を一式用意してくれないか、って」
「……俺の」
「そう、貴方の。ほら、ここ。持ち手を見て頂戴。紫色に染色した皮を使っているの。ここのリクエストはミツコからだったわ。貴方の色だったのね」

そう言って微笑むシシプの事が視界に入らなかった。

アンドロイドだった時は、自分に実装されているシステムや備品の全ては使用権こそあれど全て警察の、『人間』の物だった。相方からはアクセサリーをいくつか貰ったり、食事機能があるから料理を作ってもらったりはしたが、そういう稀有な事をするのは彼だけで、他の人間からこの様に贈り物として何かを受け取ったことがなかったのだ。
貰えると思っていなかったし、彼以外に願った事もないから。

だから咄嗟にどうアクションすればいいのか、何を言えばいいのか言葉が詰まってしまう。数刻前に龍に対して抱いた恐怖と同じだった。しかしその時よりも血の巡りがいい気がした。ふわりふわりと、浮いてしまうような。そんな心地。

「……もしかして、気に入らなかったかしら?」

シシプの不安そうな声に我に返って、ゆっくりと首を横に振る。

「いや……驚いたんだ。驚いて、嬉しくて。どうしたらいいかわからなくなった」
「そう、それなら良かった! うふふ、そうよね。人間嬉しいとびっくりが同時にきたらどうしたらいいのかわからなくなってしまうもの。よくわかるわ」
「シシプもそうなるのか?」
「ええ、勿論! 自分が今まで出会えなかったお魚さんを釣り上げた時とかね!」

ちゃめっ気たっぷりにウインクする彼女に思わず笑って、はたとポケットに入れっぱなしだった手紙の存在を思い出す。

「ああ、そうだ。これルカから預かったんだ」
「あら、secretの経理さんから?」

シシプは手紙を受け取ると、封を切り手紙を読み始める。あの組織はシークレットって言うのか、と潮がぼんやり考えているとかさりとかみが擦れる音がした。

「ええ、わかりました。ルカさんに承りましたって伝えておいて」
「わかった」
「……その様子だと手紙の内容は知らないわね? ネタバラシはしていいかしら?」

シシプが龍を見る。龍は苦笑いを浮かべて「多分いいと思いますよ。あの人もドッキリ大好きだし」とGOを出す。わからないのは潮だけだ。
首を傾げている潮ににんまりと笑ったシシプはずい、とその小さな手で潮を指差した。

「後継人ルカ・ミズミとアベル・ディアボロス両名から依頼により……本日付でウシオ・ホンジョウを漁師ギルド員見習いとして歓迎しましょう!」
「は……はい……?」

突然歓迎され、訳がわからないと言った潮に「やっぱり事前説明必要じゃないかしら?」「俺もそう思います」と言うシシプと龍の会話が耳に飛び込んできてやっと事態を飲み込んでいく。

「ちょ、っと待ってくれ! 事情があって、俺はこの世界の言語が危ういんだ。それなのにここでも世話になるなんて……それに釣りなんてした事がない!」
「ええ、だから見習いだと言ったでしょう? 文字の読み書きの件についても手紙に書いてあったわ。それを踏まえてうちに来てもらおうかなって」
「かなって、そんな簡単に……」
「それとも釣りは嫌かしら? 興味ない?」

そう言われて、潮はうぅんと呻いた。
興味があるかないかで言うなら、ある。時折魚以外のものが釣れると(なんでグリフォンが釣れるんだ。グリフォンも釣られるなよ、と突っ込んだのは記憶に新しい)皆楽しそうだった。ああやって喜んでもらえるならやってみたいと思う。
人が楽しいと、自分も嬉しくなる。存在意義を感じて安心するのだ。
しかし、同時に自分が過眠気味であることも自覚している。釣り糸を垂らして待っているなんてできるのだろうか。何より今の自分は、アンドロイドだった時に比べてできないことが余りに多すぎる。人間が当たり前にできる事すらもできない。漸く飲食と眠気に違和感がなくなってきたと言うレベルだ。
口籠る潮に、龍がぽんと肩を叩く。

「できるできないじゃなくて、やりたいかそうじゃないかで選んだらどうですか?」
「……やりたいか、そうじゃないか」
「できるできないなんて、始めないとわからないし。それにこう言うきっかけを貰えたのなら遠慮なく使えってしまえばいいと思います」

あの人たちだってそのつもりでしょうし。何か問題起きたら責任取って貰えばいいんですよ。
そんなことを笑って言われてしまえば、できるかどうかで選んでいられなくなる。後ろ盾になってもらって、ここまで付き添ってもらって。道具を贈ってもらって口添えだってしてもらった。それでしないのはどうなんだろう。
正解がわからない。甘えているように感じて気が引けている。けれども用意したのはこちらだと言われてしまったら潮が断る理由はなくなってしまうのだ。

「じゃあ……色々迷惑をかけると思うが」

ぺこ、とシシプに頭を下げる。小さなララフェルのマスター代行はできないうちはそれでいいじゃないと言って笑った。



さて、その日の夜。テレポでFCハウスまで戻った二人を出迎えたのはルカだった。おかえりぃ、と間延びした声に龍が戻りましたと返す。その後ろでテレポの余韻に浸っていた潮を見て、無事やったんやなとこれまたのんびりと言った。その言葉に現実へ帰ってきた潮は首を傾げる。

「? 無事だったとは?」
「んあ? ああ、テレポてな。魔法適正低すぎると途中でエーテルが解けて消えるねん」

まあ死ぬんと同義やなあ。
ほけほけととんでもない事を言われ潮はびん、と尻尾を立たせ龍はあちゃあと頭を抱える。その様子を見てぐるんと龍に向き直ると最初テレポした時のように彼の両腕を引っ掴みぐわんぐわんと揺らした。

「あちゃあって!! 知ってたのか!!」
「ええ……まあ……」
「何で!! 言って!! くれない!!」
「俺が口止めしたからやなぁ」

いたたたたた、と痛がり困る龍を掴んだまま顔だけルカに向くと尖った牙をむき出しにして潮は噛み付いた。

「そう言う重要なことは先に言え!! 何も知らずに大はしゃぎしてただろうが!! 下手したら俺はふわふわしながら消えてたところだぞ!!」
「ええやん、ちゃんとできたんやで」
「それは結果論だ!!」
「結果論やね、でもちゃあんと理屈もある。説明したるで……おん、龍坊のこと離したり。腕ちぎれてまうわ」

それを言われてはっとして、慌てて龍の腕から手を離す。いてて、と腕をさする龍に謝ると悪いのはルカさんなのでとにこやかに返された。
それをジト目で返してからしっしと龍を手で追い払う。荷物片付けてきまーす、と龍はその場を去った。

「ほんなら理屈やね。君、テレポした瞬間どないなった?」
「どうって……なんか目がぼやけたと思ったらふわっと……」
「自分が解けてく感じしたやろ」

そう言われてん、と小さく頷く。ええ、ええ。その感覚正しいで。そう答えてルカは続ける。

「実際、解けとるんよ。テレポ言うんは、一度自分の存在を分解しとるんよ。それをエーテライトクリスタルを目印に地脈……この星の血管みたいなもんやな。それを辿って目的地へと移動し、その先で肉体を再構築する魔法なんや。せやから、結構メンタルに負担が来るんやわ」
「……つまり、最初から『失敗すると死ぬかも知れない』と知ってたら…」
「頭の回転良うて助かるわぁ。せやね、雑念入ったらそれこそ地脈で迷子になってお陀仏や」
「……黙ってた理屈はわかった。でもなんで魔法適性の低い俺に使わせようとした。その理由がその話はないぞ」
「なんで、て。魔法使ったことない、機械の魔力なんぞ知らへんわ。あるかないかの想像もつかんのやったら無い~言うんが最善やろ」

呆れたようにため息を突かれ、潮は押し黙る。自分も同じ問題に当たったら全く同じ答えを出していたのがわかるから。
それはそれとして、未だ納得ができない。

「……今回は成功したが、もし失敗して死んでたらどうするつもりだったんだ」
「ワンチャン、帰れるんちゃう?」

あっけらかんと言い放ったルカに目をひん剥く。彼曰く、潮より先にいた、赤毛の『同郷』が不慮の事故で死にかけた。だが、手当をしよう、助けようと動いている間に体ごとごっそり消えていたという。またあるものは「帰ります」と一言告げてクルザス西部地方の氷山から身を投げた。だが付近をどれだけ探しても遺体が見つからず、しばらくしてからけろりと現れ「お久しぶりです」としばらく過ごすとまた帰るという言葉と共に自死地味た行動を取ったのだ。それ以降、彼女は現れていないし、当然遺体も見つかっていない。

「……盲点だったというか、なんというか」
「まあほんまに帰れとるんかは知らんで? ナギちゃんとコハクはんはそれ以来見とらへんし、センリちゃん、マサシはんやったかな。そいつらも戦乱のある地域行って帰ってきてへんからね。ただ、帰れとる可能性はあるんちゃうかな。せやもんで、今回テレポが失敗してもプラスもマイナスもあらへんかなぁ、と」
「……それはそれとして伝えておいて欲しかったというか」
「なっはっは。まあ俺はそう言う性やねん。許したって。ところで……就職、できましたかいな」

意地の悪い笑みをふっと和らげたルカに、潮は一瞬虚を突かれる。なんのことか思い当たって、ふっと笑ってしまった。

「おかげさまで。見習いという身分からだが」
「それは良かったわ。……ひとつだけ、言うといたるわな。俺が知っとる感じやとそっちは命は等しく大切なんやろうけど、こっちはちゃう」
「!」
「等しいのは死の方や。それ以外はびっくりするくらい不条理で、命の価値に大小がある。せやから、小競り合いもするし……今んとこ大丈夫やろうけど、大きな戦争かて起きる。そんなもん起きんでも、物盗りに命ごと持ってかれる言うんはここじゃあ珍しないことなんよ。気を抜いとったら死ぬんは力のない方やし、相手が間違えとっても力が強い方がまかり通る」

今朝の、龍とならず者たちとのやり取りを思い出す。自分たちが敵わないと知った瞬間撤退を指示した男と、過剰なまでに殺意を向けていた龍と。それがこの世界の命の縮図なのだろうか。
押し黙った潮に、ルカはふっと笑う。

「元が機械であっても覚えておき。ここじゃあ命のやり取りは身近なもんで、けど誰かが死ぬ言うんはきっと、そっちと変わらんくらい悲しいし、さみしい。せやからな、ある程度は力つけ。物としての性能ちゃうよ、命としての力や」

そいでそれは、戦うことだけやないんやで。
そう言う彼の顔はどこまでも穏やかで、凪いでいた。

*

その理由が、わからない。三日ぶりの地下のソファで船を漕ぎながら潮はルカの言葉を考える。
死ぬことだけが平等で、命に価値の差がある。けれども、喪失の悲しみは世界を超えていても同じ。そして、戦うことだけじゃない強さ。今までは考えたことはなく、潮からすれば人間は全員等しく助け守る存在だった。そしてそんな彼らを物としての価値で救い、性能で圧倒しても彼らには向けられることはない。だから、ルカの言葉が。この世界のあり方が上手く飲み込めずにいた。

きっと、今はとても眠いから。頭が上手く働かないんだ。

そう思い、思考に無理やり蓋をする。眠りに落ちる。今日はとにかく忙しなくて――とても驚いたり嬉しかったりしたから、良く眠れそうだ。
根拠もなくそう思いながら瞼を閉じる。寝息はすぐに地下室に響いた。畳む
小説
COC「VOID」HO2自機・潮がエオルゼアでミコッテになって過ごす話。ただの私得。該当シナリオ及びFF14暁月のフィナーレのネタバレはありませんが暁月エリアまでの地名が出ます。気になる方は閲覧をお控えください。
#CoC #FF14 #本城潮  #クロスオーバー
潮ッテオムニバス

どん、と全身に走る衝撃で意識が浮上する。次いでじんじんと響くような痛みが広がって身動きが取れなくなる。

(あれ?俺、センサー切ってたっけ?)

そもそも今どういう状況なんだ。
潮は困惑と共に目を開いた。……目を開いた?
潮は最新型のアンドロイドだ。状況を把握する際にはカメラが起動し、映像として周囲を捉えると同時に演算機能が稼働しデータとして物事を捉える。瞬きはするが所詮は人間としての模倣のため、する必要がない。

だから、本来何かを見るのに目を開くなんて行為はありえないのだ。それを己がやった事。周りを見ても状況がまるで分からない事。遮断出来ない痛みがあること。回るはずの思考が止まったままであること。その全てに潮は困惑した。

困惑したままだったから、眼前の驚異に意識が向かなった。本来、ありえない事なのに。

ぶん、と何かを振ったような音がして潮がそれに意識を向けた時には既にそれは振り下ろされようとしていた。

人間など優に超える巨躯は灰色で、極端に短い足とは対照的に振り上げられた腕はとても長い。頭の上に咲いている花の可憐さと、その顔に付いている牙の並んだ巨大な口がアンバランスで不気味さを強調していた。
それに向けられていたのは、明確な敵意で。

見上げたまま潮は固まった。何かしようと言う考えすら思いつけなかった。ああ、あれに打たれたら流石に壊れるな――そんなことを考えた。
振り下ろされた腕は、しかし身構える事すら出来なかった潮を襲うことはなかった。

ひらりと、視界に淡く桜色が靡く。

それと同時に灰色の巨躯がずしんと音を立てて地へ倒れ伏す。砂埃に咳き込んで、その事にまた困惑する。

「おにいさん〜大丈夫〜?」

そんな潮に、緊迫感も何も無い、間伸びた声がかけられた。
見れば、尻もちを付いている自分を見下ろすように少女が立っている。潮より随分小柄なその少女は、薄い桜色の変わったデザインの服を着ていた。先程見たのはこれか、と納得しながらも彼女を観察する。そして首をかしげるはめになった。
金髪に薄桃色のグラデーション。それだけ見ればそういうヘアカラーなのだろうかと思うだろう。事実潮も(人間とは事情は違うが)黒から紫という不思議な色合いの髪色をしている。だが、目を引いたのはそこではない。
本来人間の耳に当たる場所に、白い角が生えている。それだけではなく、同色の鱗が顔や手を覆っていた。更には腰くらいの場所からひょろりと鱗に覆われた尾が揺れていた。
更に両手で麗美な装飾の、しかしその体躯に対して大きすぎる斧を苦もなさげに持ち、不思議そうに潮を見ていた。

「? どうしたの〜?」
「あ、ああ。いや、何でもない」

流石に不躾に見過ぎたか。そう思って潮が目を逸らすと、少女は斧を背に背負いすいと手を差し出してきた。

「怪我とか大丈夫そうだねぇ。見えないところが痛かったら、アベルさんかフィオナさんに魔法で治してもらおっか。……でも、うーん。ちょっと埃っぽい? あっちに川があるから、そこで軽く顔とか洗ったほうがいいかも〜? 服もボロボロだし、イエロージャケットのおじさんたちに怪しまれちゃう」

なんだなんだ。知ってるけど普段聞かないような単語と全く知らない単語が同時に出てきたぞ。
目を白黒させる潮を、少女は問答無用で川へと引き摺っていった(比喩ではなく、本当に引きずられた)



がやがやと賑やかな、中世の日本を連想させるような都市内にある船着場に潮と少女はいた。

「……なあ、あの話って」
「うん〜。ウシオさん、私が拾ったから大事にするね〜」
「冗談じゃなかったかァ〜…」

にこにこと笑う少女に頭を抱える。ここに至るまで、あっという間だったというか長かったというか。何とも言えない気持ちになる。

まず、彼女の名前だがミツコと言うらしい。漢字は知らない、と言うよりわからない。漢字というものがあるのか、という問題まで遡る。と言うのも、話している内容はわかるし潮も当然の様に会話をしているのだが、あちこちにある看板を見ても知らない言語で書かれているのだ。それだけでかなり詰んでいる。

だが、それよりも潮を混乱の極みに突き落としたのは自分の状態だった。
まず、現在の潮はアンドロイドではない。それは痛覚がシャットアウトできないことと、ミツコに握られた手に彼女の手のひらにあるだろうマメの硬さと人肌が伝わって、ぞわりと何とも言えない感覚になったことで明確になった。そっと触れた自分の胸から響いた鼓動が決定的になり、今の潮は物ではなく人であると理解する。それだけならまだマシだったかもしれない。いや、マシではないのだが。
顔を洗って〜、とミツコに促されるまま近づいた川、その水面に映った自分の姿に絶句した。一応、人の形ではある。あるのだが、間違いなく余計なものがついていた。
ぴこぴこと、自分の頭で揺れる三角の細長い耳と、埃に塗れた毛長の尻尾。どちらも自分の感情で激しく蠢いている。と言うことは。

(……ねこじゃん!!!!)

猫人間になってしまったのだと自覚するには十分すぎる程の情報量で、演算機能のない頭はすぐにパンクした。固まった潮に、ミツコが不思議そうに覗き込んでくるのを視認して勢いよく彼女の肩を引っ掴む。結構乱暴だったのに彼女は微動だにしていなかったのが少し傷付いた。

「な、なあ!!ここってどこだ!?」
「ふぇ?ここ〜? えっとねえ、中央ラノシアだよ〜。オレンジが美味しいの〜」
「オレンジうまいのか。いいな……じゃなくて!!ラノシアってどこだ!?」
「??? ラノシアは、ラノシアだよ〜。あっちに行くとサマーフォード庄があって〜、あっちにいったらリムサ・ロミンサがあるの〜」
「さま…りむ……なんてなんて??」
「うんうん〜わかるよ〜リムサ・ロミンサって言いづらいし、覚えにくいよね〜。ラザハンとかウルダハみたいに、短くて覚えやすい名前にしたら良かったのにって思うよ〜」

ダメだ、会話の前提が噛み合ってない。はぁ、とため息をつきながら頭を抱えるとぐぅぅ、と音がする。発生源は潮の腹からだった。

「そうだ……腹って減るんだった……」
「大きな音だったねえ、お腹すいたの〜?」
「……多分」

そう答えた瞬間、視界がぐるりと回る。慌てるミツコの顔とどこか緊張感のない悲鳴にああ、俺って実は結構限界だったんだなぁと他人事のように考えて、そこで意識が途切れた。



潮が目を覚ましたのは、船の中だった。一瞬ここだどこ、と考えて自分が恐らく全く知らない場所に来たと言うことを思い出す。それはそれとしてなぜ船に? またしても変わった状況に困惑しているとすぐ近くにいたらしいミツコが顔の覗き込んできた。

「あ、おにいさん起きた〜。大丈夫〜?」
「あ、ああ……なあ、ここは? あの後どうなったんだ?」
「うん、その前におにいさんのお名前、知りたいな〜。呼び方わかんないんだもん」
「……悪い。本城潮だ」
「ホンジョウウシオ?ホンジョウさん?」
「潮でいい」
「ウシオさんが名前かぁ〜。なんだか、ドマの人みたいなお名前だねえ。私は、ミツコです。ミツコ・ハチヤ。お母さんがクガネ人で〜、お父さんがシャーレアン人の、デニールの遺烈郷生まれの遺烈郷育ちなの〜」

にこにことそう自己紹介をしてもらうものの、全く頭に入ってこない。それどころかまた知らない土地の話が出て目が回りそうになる。潮はそれらを聞くのを一旦やめて、今の状況だけをミツコに聞くことにした。

「みつこ、だな。で、今ってどうなってるんだ?」
「? どう?」
「ここ、船の中だよな?」
「ああ〜そうなの、そうなの!それお話しようと思っててぇ〜……その前にこれ、どうぞ〜」
「あ、どうも」

す、と差し出された串焼きを思わず手に取る。話を聞こうとすると「あの後二日間、寝てたんだよ〜。先に食べてね〜」と言われてしまってはそうするしかない。恐る恐る、串焼きを口にする。
最初に感じたのは旨味だった。何の肉かはわからないが、柔らかく焼き上げられたそれから肉汁が溢れ出しスパイスの香りと混ざって口いっぱいに広がる。暖かいのは彼女が気を遣ってできたてを用意してくれたからなのか温め直してくれたからなのか。そのまま崩れそうなトマトにもかぶりつけば熱されて増した甘みが口の中をリセットする。もう一つ赤いのはパプリカか。よく味わえば塩加減も程よく口の中からなくなってしまうのが勿体無い。
相方の作る料理もうまいと思っていたが、どうやら自分は今まで食事をちゃんとした意味で楽しめていなかったらしい。匂いという情報が追加されるだけでこうも化けるのかと感心した。
気がついたら二本あった串焼きはすぐになくなる。名残惜しそうな潮にミツコが小さく笑ったのが聞こえた。

「美味しかった?」
「……ああ、美味かった。ありがとう」
「よかったぁ〜、ウシオさんムーンキーパーだから好きかなぁと思って作ったの〜。確か、あなた達の伝統料理だって聞いたから〜」
「……そ、そうか……って、作った? 取ってきたじゃなくて??」
「そうなの〜。材料もあったしね〜。……あっ、そうそう。今だね〜。今はねえ、リムサ・ロミンサからクガネに向かってる船に乗ってるんだよ〜」
「……移動したのか」
「うん。アベルさんがねえ、ウシオさんに会いたいって言ってたから〜」

曰く、潮が気絶した後ミツコは彼女の属するグループの責任者に連絡を取ったらしい。その責任者がアベルという人物らしいことまでは理解した。
潮は自分の状況をミツコではなくアベルに話すと決める。彼女を信用できないわけではないのだが、いかんせん自分より子供なのだ。絵空事だと笑い飛ばされるなら理解はできるが鵜呑みにしてしまうと彼女のためにもならないだろう。ならば判断力がありそうな人に話をするべきだと、いつもより回らない頭でそうきめる。

そう決めた潮の耳に、ミツコのとんでもない言葉がとびこんできた。

「それでね〜、アベルさんに‘迷子拾ったの〜。飼ってい〜い〜?’って聞いたんだぁ。そしたらねえ、‘イイヨォ!!!’だってぇ! 良かったねえ〜。でもねえ、ルカさんが一回どんな人か見なきゃいけないから、連れてきてって言ってたの〜。会った日は経費で飲みや〜!って言ってた!」
「………」

……迷子は拾って飼うものじゃないだとか、そんな軽いノリで見ず知らずの男を連れ込む許可を出すなだとか、人をダシにして宴会するなだとか言いたいことが物凄くあるが、飲み込んでそうか、とだけ返す。
俺の判断、間違ってるかも。そんな一抹の不安を抱えながら二人を乗せた船は波に揺られていた。



クガネについてから、更に小舟に揺られる。そうしてたどりついたのはシロガネ冒険者住居区の小さな家だった。ミツコに手を引かれながらその建物へと入っていく。

「ただいま〜」
「あー!みっちゃんおかえり、おかえりー!」
「なっちゃんだぁ〜!ただいま〜、リュウさんと釣り、楽しかった〜?」
「楽しかったー!!あのねえ、めちゃくちゃでっっっっかいおしゃかなが……あれ? その人誰ー?」
「あ!そうだ! アベルさんいる?」
「いるよいるよー!下でお酒飲んでるよー」
「ありがと〜」
「どいたまして!」

ミツコと青髪の、自分と同じように耳と尾の生えた少女が楽しげに話しているのを聞きながら潮は俄かに顔を顰めた。来客があるのに酒を飲むのか、という呆れと果たしてそんな相手に荒唐無稽な話をしていいものか、と言う不安だ。

(……いつもなら、不安だったら感情切ってしまえるのにな)

少し不便に思いながらミツコに促されるまま建物の地下へと案内される。

さて、地下とは言うものの想像よりも何というか、ぬるい空気感が漂っていた。自分と同じ形の人や、明らかに頭身のおかしい小さな人、耳が尖った長身の人に最早獣に分類した方が良い人らしき存在が潮へ不躾に視線を投げかける。
そんな中、アベルという責任者の姿を捉えて思わず半歩ひいてしまった。

本棚の前に置かれた椅子にこしかけても潮の肩くらいの高さに頭がある。それだけで相当な巨躯を思わせた。
加えて潮を見る双眼は鮮やかな赤と、自分のメインボディと同じく白目の部分が黒い。客観的に見るとこうも不気味に感じるものなのかと思った。それに肌も髪も、抜けるように白い。光の加減では気味悪く映る。
更に、ミツコと同じ種類の人間なのだろう。彼にも角と鱗、尾が付いている。その色は肌色と対照的に真っ黒で照明を鈍く照らし返している。

「ウシオさん…で良いのか? アベル・ディアボロスだ。楽にしてくれ、面接とかそういう堅苦しいものではないから」

しかし聞こえてきた声が存外柔らかく穏やかで、潮は呆気にとられる。尻尾が動揺に反応してか、忙しなく揺れてしまう。その様子に苦笑しながら「見目はまあ、よく怖いと言われるから大丈夫だ」と彼は続けた。

「みっちゃんから大体のことは聞いた。何でも迷子だとか」
「……まあ、そう言う感じだな。……飼うって言われたんだが」
「あー……彼女、言葉の選びが独特だからな……保護したいって意味だったんだろう……多分」
「多分って……不安になるようなことを言わないでくれ」
「はは、すまない」

苦笑交じりにそう言ってくるアベルに潮は脱力した。なんと言うか、ペースが乱れるというか。けれどもこれはこれで悪くないような。

「所でウシオさんはどうしたいんだ? 元居た場所に戻りたいだろうが……住まいや自分の一族の事は何か話せるだろうか?」
「それは、そのだな……帰りたい場所はあるしどこかもわかるんだが…どうすればいいか検討もつかないんだ」

そこまで言って、潮は口籠った。どう切り出すべきか、そもそもこれをこの場で言っていいのか。人目もあるのに?

「ルカ」
「はいな。……ほーい全員仕事しいや~? ほれほれ、しゃきしゃき稼いで我らがマスターの酒代出したってや」
「は? ベルの酒代に消すくらいなら川に金捨てるわ」
「なんでェ!?!?」

部屋にいた人たちは、自分と同じ種族だろう訛りの強い男の発言に文句を言いつつ出ていく。人払いをしてくれたらしい。後には潮とアベル、訛りの強い男だけが残った。

「話を切って申し訳ない。人が多いと話しにくいかと勝手にしてしまったんだが」
「……いや、助かる。俺も人前でしていい話かどうか悩んだから」
「よかった。……ああ、彼はルカ・ミズミ。うちの経理件面白おじさんだ」
「紹介に預かりましたァ、面白おじさんことルカ・ミズミですゥ。よろしゅうね。あとベル坊話し終わったらど突かせろや」
「全力で迎え撃っていいか?」
「アホか。お前の全力とか俺消し飛ぶわボケ。……ほんでウシオはんですっけ? 事情、仔細伺ってもええやろか?」

アベルに言いたいことだけ言ったルカは潮に向き直る。色彩の異なる目が興味深そうに覗き込んできて居心地が悪い。
それでも、戻るためのきっかけでも掴めれば。そう思い潮は口を開く。

「俺もばからしいとは思うんだが、別の世界から来たっていう奴かもしれないんだ」

*

潮が一通り自分の身の上を語る。途中アンドロイドという存在についてルカがやたら食い気味に質問してきた以外は特に茶々を入れられず最後まで話し切った。
一息つくと、アベルは自分の顎を撫でながらルカを見る。彼は何を聞かれるのか察したのか、先ほどまでの気味悪い笑みを苦笑いに変えた。

「ルカ、今日ってじい様は?」
「ピクシー族にいたずらされてん。笑いながらあやつら全員一羽残らず羽毟ってやる言うて第一世界に飛んでったわ」
「何やってんだあのじじい!!」

いやほんと何やってんのあの人!! と頭を抱えて叫ぶアベルを見、きょとんとする潮にルカが肩をすくめる。

「結構な、君みたいなんが多いんよ、うち。更にそういうのに詳しい人がおるんやけど、今マジでしょーもない事情で留守にしとってなぁ」
「そ、そうなのか……? 珍しくないのか」
「いんや? 珍しいんは珍しいんよ。ただうちはそういうもんの遭遇率が異様に高いってだけや。ただ、ウシオはんみたいに元が機械やった存在は初めてやからなぁ」
「は、はぁ…」
「……詳しいわけではないんやけど、君、ニホンいう国はわかるん?」
「俺のいる国だ!」

知った単語に思わず食いついた潮にルカはそうかそうかぁ、とのんびり笑う。

「せやったら、いずれ戻れるやろ。どないなっとるかわからんけど、戻ったと思うたらこっちに帰ってきて~ってやつもおんねん。そことここ、壁のようなもんが緩いんやろうね」
「だったら、尚のこと早く戻りたい。残しておきたくない人がいるんだ」
「あんなぁ。世界超えるてひょんなことで出来てまう割に方法がまだ確立されとらんのやで? 焦って危険なことしてまうより少しでもええ方法選べるんやったら慌てんでええやろ」
「それは……そうだが」
「それになぁ。はよ戻りたいって思うくらいええ人おんねんやろ? 尚の事無事で帰らなあかん。その方法が今はのんびり構えるだけしかないなら、それでもええやん」

じい様帰ってくるまでのんびりここで過ごしてええと思うで? あの人おらんと俺らだけやとできることって限られとるし。

その言葉に何となく、目が覚めたような心地になった。
よくよく考えれば、元々そうだった。人間を守り手助けする側の存在だったから、自分の無事を顧みずとも、人間さえ生きていれば自分は直るのだから思考や演算に自分の安否をいれたことがなかったのだ。
そうだ。俺が壊れてたら伊智が悲しむ。いや、こちらでは『死ぬ』なんだろう。どちらにせよ、いい顔はしない。

「……で、ウシオさんはどうしたいんだ? 身元の保証が必要ならうちを利用してもらって構わない。みっちゃんが責任とって面倒見てくれるだろうし」
「冗談じゃなかったのか、それ」
「うちは元々こうだ。拾ってきたり、連れてきた奴が面倒をみる。俺が集まりの代表としてできるのは身元と、衣食住の約束だけだ」
「ちなみに、この世界のことを教えてもらえたりは」
「ああ、せやったらグブラ図書館かヌーメノン大書院連れてったるわ。俺本借りててん、ついでやし色々調べたらええ。元が機械なんやったら人間の生き方もようわからんのやろ?」
「……こちらの文字の読み書きが、できない。多分」
「「あぁ~」」

アベルとルカが口を揃えて苦笑いをする。聞けば、こちらに来た『同郷』たちも最初はそうだったという。その事情も含めて他のメンバーに口添えしてくれるとのことだった。
断る理由が、潮にはない。なのに、「助けてもらう」事実に対してこんなに後ろめたいのはアンドロイドの性なのだろうか。
潮がはっきり答えを出す前に、返事を待っていたアベルが口を開いた。

「……勿論、ただじゃない。同伴ありで、まだ大人だと認められていない子たちも働いているんだ。最低限の言語を覚えたら、この世界のことを学んでもらいながらウシオさんにも働いてもらう」
「……! それは、いい。こちらもその方がいい、というかただ助けてもらうのは嫌だ、俺は助ける側だから、だから、その……」
「なら問題ない。帰るまでは君のペースで、この世界で、沢山のことを聞いて、感じて、そのことに考えてながら生きてみればいいさ」

そして、少しだけ俺達の生きている世界を好きになってくれたら嬉しいと思う。
最後にグラスを傾けてから、柔く笑ってアベルは言った。

*

「あ!ウシオさん!」

地下から上がってきた潮にミツコが駆け寄っていく。

「ね、ね?アベルさん、ウシオさん飼っていい?」

開口一番あらゆる方面に誤解をうみそうな言葉を発したミツコにルカも潮もアベルも苦笑いする。

「みっちゃん、実は迷子は飼えないんだ。でもしばらくはここで一緒に過ごしてもらうことになったから、先輩として助けてあげて欲しい」
「え!? でもそれって、飼うってことだよね~?」
「いや、だから違」
「私ねえ、一度飼ってみたかったの~! おおきなねこちゃん!」

おおきなねこちゃん。総言い放ち眩しいまでの笑顔の彼女に、邪気はない。
その瞬間、これ本気だと潮の耳と尾が総毛立つ。アベルはミツコにニコラスと同種の匂いを嗅ぎつけた。ルカは半笑いでその光景を見ていた。
三者三様の有様にミツコは気付くことなくぎゅう、と潮の両手を握る。痛い。大変に痛い。

「大事にするねえ~。これからよろしくねぇ、ウシオさん~!」
「ア、アア、ウン、ハイ、ヨロシクオネガイシマス」

潮のカタコトの発言を鵜呑みにし、よ~しがんばるぞ~とミツコがそのまま手をぶんぶんと振る。
その様子をあまりに哀れに思ったのだろう。「ほんまやったらタダ働きなんぞごめんやねんけど…普通にかわいそうがすぎるんでなんかあったら言いや? 助けたるわ」とルカがこそりと耳打ちし、潮は勢いよく頷いた。こればかりはアンドロイドの性がどうこう言っていては、尊厳が破壊される気がしたので。

――そんな感じで、潮はミコッテ族としてしばらくそこで生きることになったのだった。畳む
小説
CoC「庭師は何を口遊む」「紫陽花栽培キット」ネタバレ有り。いつかの日の話。
#CoC #ネタバレ #庭師
止まりそうになる足を叱咤して歩を進める。周りにはスーツ姿の人間が男女関係なく忙しそうに行き交い、その風景に懐かしさが少しと気まずさが大半、心を占める。何人かは見たことのある人間だったが、どうやら自分には気づいていないらしい。何人かはちらちらと視線を向けるが、それどころではないらしい。すぐに前を向いたり、通話中の携帯端末に意識を向けている。

(案外、スーツ着てればわからないもんなんだな)

鯨伏はそんな光景を、少しずれた思考で見ながら歩いていた。かつて、零課で着ていた服装で署の敷地内を歩く。今日こそは目的の人を見つけなければ。これ以上長引いたら戻りたくなくなってしまう。あの居心地のいい家で、最高という言葉すら足りない友人と過ごす日々に甘えて終わってしまう。

だから、今日は注意されるまで粘る。気まずさだとか、怯える心だとかそんなものはかつて逃げ出したことのツケなのだ。精算しきれるとは到底思えはしないのだが。

そんなことを考えながら、ふと視線をあげて鯨伏は駆け出した。いた、いた!と心が叫ぶ。長身が突然動いたものだからその場にいた数人、もちろん鯨伏が探していた人物も。
しっかりと、視線が合う。その表情が驚愕に染まる。

「い、鯨伏!?」
「――ご無沙汰してます、猪狩さん」

鑑識の猪狩幸太郎に軽く頭を下げた。

*

話がしたいんです。割と大事かも知れない話を。そう鯨伏が猪狩を喫茶店へ誘った。丁度午後から非番だったから、と猪狩もその様子を茶化すことなくついてきてくれる。

チェーン店ではなく個人経営の、閑古鳥が鳴いているようなそんな店。取り敢えず珈琲を頼み、テーブル席で向かい合って座る。からん、とアイスコーヒーに入れられた氷が溶けてグラスの中身を緩くかき混ぜる。そんな様子を見ながら鯨伏は黙り込んでいた。

(……なにから はなし すれば いい? これぇ……!?)

顔面こそ真面目で、そして目を伏せて居る鯨伏だがその脳内は大パニックだった。勇んで来て、神童か猪狩かを探し、ようやく対面でき話をする絶好のチャンスなのに肝心の何を話すかを全く考えていなかったのだ。とにかく動かなければ、早く戻りたいから、戻れなくなる前に。その気持ちだけが早って相手に何を伝え、聞くかを本当に全然考えていなかったのだ。
そんな鯨伏に気付いてか、はたまたグラスに水滴が付いてしまうほどの時間を待たされたことにじれてなのか。先に口を開いたのは猪狩の方だった。

「アンタ、今何してんの?アンタのとこのチーフから鯨伏のことは長期の休職扱いにしてくれって言われたんだけど」
「……」
「退職届、出したんだって?ゼロ全員が謹慎中……あれか、スマホわすれたつって俺とあった時?」
「うぐ」

思わず呻く。そうだった。俺この人に嘘付いたんだった。忘れていた事に対する嫌悪感と罪悪感が腹の底で渦巻く。でも、これは自分でやったことだからと飲み込んで頭を下げる。

「嘘、ついてすいませ」
「で、いつ戻るの?」
「へ?」

鯨伏の謝罪を遮って、猪狩が問いかける。一瞬何を言われたのかわからなくて間抜けた顔で彼を見上げると猪狩もまた不思議そうに鯨伏を見ていた。

「だってその格好で署に来てた、ってことは戻ってくるんだろ?」
「え、あ、その」
「違うの? え、マジで辞めるつもり?」
「い、いや!ちが、違います!戻ります、戻りたいです!!」

え、嘘……俺の読み外れた……!? と大げさに口元を手で覆う猪狩に鯨伏が慌てて前のめりにそう叫ぶ。喫茶店のマスターが迷惑そうに二人を見た。その視線に苦笑いしながら頭を下げて、鯨伏は姿勢を戻す。

「……戻りたいんですけど、その前に狗噛さんには話をしたくて」
「? じゃあ電話でもなんでもして本人呼び出せばよかったじゃん。なんで直で来てんの?」
「前の携帯……解約して……皆の番号諸々無くしまして……」
「………アンタ、バカ?」
「返す言葉もないです、うっす」

しどろもどろにそう返す鯨伏に、猪狩がはぁーーーーーーー、と大げさなくらいにため息を着く。大体おおよそわかったぞ、という表情になったが怯みそうになる己に内心で激励し、鯨伏は言葉を続けた。

「その、零課のみんなに会う前に神童さんか猪狩さんに話しておきたいことがあって」
「何? 番号だったら普通に教えるけど流石に出戻りの仲介までは俺やらないよ? 多分、アンタが自分でしたいからこうやって来たんだろうし」
「はい、それはちゃんと自分で言います。番号もお言葉に甘えて教えて欲しい……ただ、ひとつ調べて欲しいことがあって」
「調べる?何を?」

訝しむ猪狩の目の前で、鯨伏はシャツのボタンと袖口のボタンをひとつずつ外す。その行動に不可解だ、と視線を向けていた猪狩が目を見張る。息を呑む音がする。はらりと、何かが机に落ちる音がする。
鯨伏の耳後ろから首筋を伝い、先程広げたシャツの襟から。緩められた袖口の隙間から鮮やかに紫陽花が咲き誇っていた。人の身体にしっかりと根を張り、瑞々しく咲くそれに言葉を失った猪狩が口をはくはくとさせている。

「……これを、的場のものと同じか調べて欲しいんです」
「え、は? そ、それはいいけど、なんなの、それ……」
「荒唐無稽な話ですけど、聞きます?」

狼狽えながらも鯨伏の状態が気になったのだろう、猪狩が頷く。その反応に目を伏せて口を開く。
思い返すのは、弱っていた紫陽花を見つけたこと。何日かかけて世話をしたこと。それが幼い少女になって、取り込まれそうになったこと――取り込まれそうになっている間、確かに幸せだったこと。
鯨伏は隠し事も嘘も得意ではない。だから包み隠さず全てを話した。傍から聞いていれば荒唐無稽ではすまない、気違いの人間の話に聞こえるだろう。だが、鯨伏は目の前で咲かせてみせたのだ。彼女であった花を。
呆気に取られたままの猪狩が、呆然としたまま言葉を吐く。

「……同じのかどうか調べて、どうすんの?」
「内容次第で、零課に戻ったときみんなに黙っておくか全部言うかを決めます。だって嫌でしょう? あ庭師事件を彷彿させるものがくっついてる奴が居るなんて」
「や、まあ……そりゃそうかもだけどさ……でも黙ってなくても、ゼロなら……あの人たちなら受け入れてくれるっしょ?」
「俺が嫌なんですよ。皆の目に『庭師』の時の色が混ざるのが」

その色は驚愕だった。失望だった。恐怖だった。嫌悪だった。――絶望、だった。

当然、その色は自分にもあった。それに押しつぶされて逃げ出した。今は大丈夫だと支えて待ってくれると言った人が居るし、遠い届かないところから背中を押してくれた存在にも出会って自分は進もうと思えたけれど、他の三人がどうかなんて、鯨伏には推し量れない。

「もう、傷付けたくないんですよ。玲央さ……獅子王さんから家族を奪っておいて今更何をと思うけど。でも、痛い思いも苦しい思いも、寂しい思いだってしなくて済むならそれでいいじゃないですか」
「アンタはそれでいいワケ?一人で背負い込むつもり?結構しんどいと思うんだけど」
「いやいや、背負い込むなんてそんな大層なことできないですよ。物理的な現象で何かあった時に一番前で暴れるくらいしか俺できないですし。でもこれを黙っておくのは、皆に庭師のことを思い出させたくないのと同じくらいに俺にとって忘れたくない大切なことだから。あの子の言葉に救われて。あの存在に祝福されて。その上で全部切って捨てた。それごと全部持って行くと決めたから」

かれてしまっても きっとずっと あなたがだいすきよ

この言葉を忘れたことなんて一度もない。もういないけれども、自分と一緒に咲いている。彼女も自分の背中を押してくれた存在のひとつだって思っている。だから、彼らが嫌がるならとこの身に咲いた花を切り落とそうだなんてもう思えなかった。
なら、自分ができることは彼女も彼も、彼らも全部連れて行くことくらいで。どこまでも止まらず進むことだけなのだ。

「クサいかもですけど……腹は括ったんです。今度はもう逃げない、って」
「……はー!マジでクサい!!すんげえ真面目な話じゃんそれ!!内容なんて想像の斜め上どころかど垂直!!真上すぎ!!」

苦笑する鯨伏にもう限界! と言わんばかりに猪狩が頭を抱えて天を仰いだ。すいません、と呟く鯨伏の紫陽花咲く手を引っつかみ、丁寧に摘み取る。

「どう? 痛くない?」
「……引っ張られると少し。あと刃物で切られる時はちょっと嫌な感じがします」
「神経はちょっと通ってる、ね。血……はもう平気?」
「自分のは平気ですよ。というか俺、涼さんの事件より前はスプラッタ平気でしたし」
「おっけ、じゃあちょっと血と、花の根の周りの皮膚も少し頂戴。もしかしたら追加で唾液とかも貰うかもだけど、まあ皮膚片と血液あれば十分っしょ。仕事の合間になるから時間はかかるけど結果出たら連絡する……から!!スマホ貸して!!ゼロと俺と神童ちゃんの連絡先いれといちゃる!」
「ありがとうございます」

そう言ってまだ新しい端末を猪狩に渡す。あれやこれやといじっている間にもうデータを移し終えたのだろう、鯨伏のスマートフォンを渡しながら猪狩は聞いてきた。

「もし的場ちゃんと同じだったらどうするの?」
「どうもしませんよ。ただちょっと、ざまあみろって思うだけで」
「どゆこと?」

猪狩が意味がわからない、と首をかしげる。その表情を見て鯨伏は口の端を釣り上げて獰猛に、子供のように得意げに、笑う。
きっと、こんなに歪んだ理由で笑うのなんて初めてだ。きっと人からは嫌な顔をされると思うから。

嫌われたくなくて。
ここにいていい理由が欲しくて。
欲しいけれども怖くて言い出せなくて。
奪ってしまった事実が恐ろしくて。
何もないと思い込んでいて、だから余計に手を伸ばせなくて。
『いい子』でいなきゃと、大人になった今ですら思い込んでて。

それらを全部噛み砕く。飲み込む。腹の中でどす黒く混ざり合って重く響く。いい感覚ではないのに、抱えて行けると根拠なく思った。

「死んでからしか咲けない的場より、生きたまま咲ける俺のが綺麗だろ、ってこと!」

――後に猪狩幸太郎はこう思ったらしい。
『あいつ、あんなに開き直ったこと言う奴だったっけ?』と。

*

後日、猪狩から連絡があった。鯨伏の紫陽花と相模原、泉、南から検出された花は類似しているという結果。だが、こうも続いていた。

『確かに性質はよく似てると思う。俺は専門じゃないけど。ただ、なんというかアンタの紫陽花はもう少し人間に近い組織を持ってたからもしかしたら独自に進化したのかも。全く同じもんじゃなかったよ』

『まあそれはそれとして、ちゃんと話して折り合い付いたら帰ってこいよ! 俺四人揃ったゼロ、そろそろちゃんと見たいんだから!』

雨の続く、そんな夜に届いたメッセージだった。畳む
小説
CoC「庭師は何を口遊む」ネタバレ有 後日談
#CoC #鯨伏琥白玖 #庭師 #ネタバレ
幻は解け、メッキは剥げた

幼少の頃の記憶は、実はない。琥白玖の記憶の始まりは親戚の心配そうな顔だった。琥白玖くん、大丈夫? 痛いところはない? その言葉に曖昧に頷いたのが、最初。

詳しく聞いたことはないが、どうやら親がハズレだったらしいというのは生きていく内に察しは付いた。親戚たちに聞けば揃って口を閉ざし目を逸らす。ああ、自分は愛されていなかったのかと漠然と思った。
だからだろうか、自分を引き取った親戚には勿論関係者の手伝いをした。そうすれば褒められた。褒められるのは純粋に嬉しい。必要でここにいてもいいのだと、安心した。

それは通い始めた学校でもそうだった。小学生の時も、中学生の時も、高校生の時も先生は勿論先輩の手伝いもして後輩の手助けもした。惚れていた女子はとりわけ気にかけた。同級生には不評だったが、彼らにも同じように施せば意見が変わった。

そうやって自分で作り上げた「いい子」のレッテルは、琥白玖を守った。時折身動きを取れないような、不快感を伴うなにかを感じたが見ないふりをした。褒めて、必要として。それだけが欲しくて誰かを助け続けた。隣で笑う少女が好きで。ありがとうと言う言葉が好きで。お前がいないと困ると言う言葉が好きで。けれども、自分で望んだそれを受け止めるたびに乾いていく。飢えていく。おかしいな、欲しいものは手に入っているのに。

やがて琥白玖は警察官になった。彼女の父親が警察官だったのだ。彼の真似をすれば、彼女にもっと好きになってもらえるかもしれない。だからまずはそれを目指した。警察官になっても琥白玖は変わらず誰かの手伝いをしていたように思う。いい奴、と言う太鼓判ももらえて、安泰だと思っていた。

それを、自分で引き金を引いて壊して、壊れていくさまを見ていた。

*

ふっと意識が浮上する。ここ最近でやっと見慣れ始めた天井だった。琥白玖はゆっくり瞬きをする。しかし起き上がろうとしない。少し身じろいだだけで、安物のソファはぎしと悲鳴を上げた。
『庭師』の一件から、厳密には辞表を出して零課から逃げ出して少ししか立っていないのにもう何年も前のような気がする。ただ、気がするだけだ。現に溢れそうになる万感には蓋をして直視しないようにしている。向き合ってしまえば、自分が壊れる気がして。

住まいを警視庁から遠く離れた場所に変えて携帯を変えて誰からの連絡も来ないように投げ捨てた。自分から捨ててきたのだ、誰も探しはしないだろう。死んでしまおうかとも思った。けど、的場の抱えた同じ種類の狂気を抱えたまま死にたくなかったし、死ぬのは怖い。それすらできない。
取り敢えず生きるだけ、を繰り返している。

貯金を少しずつ切り崩しながら今日することを考える。何もしていないよりはましで、日雇いのバイトはしていた。仕事中は楽だった、仕事のことだけを考えていればいい。身体を動かしていれば時間はすぎる。先輩にあたる中年の男が自分になにか言った気がするが聞こえない。
家に変えると必要最低限の家具とスミスマシンがぽつんと並んでいる。捨てようと思ったのだが処理が面倒で持ってきた。もうやる必要もないのに気がついたら使っている。身体を動かしていれば時間はすぎるから、問題はない。

眠る前が、一番辛かった。その日にあったことと過去のことを比べて、あの場所が恋しいと心が泣く。零課で、楽しかったこととメンツの顔を思い浮かべて虚しくなる。

早く、はやく切り捨てて生きることだけを考えたかった。これ以上のことは抱えたくなかった。誰とも関わりたくなかった。そのくせ寂しくて、探して欲しくて、戻りたいと騒ぎそうになる自分がいることを感じて嫌悪する。

気持ちが悪くて、嫌いで、疎ましくて。
でも嫌われたくなくて、軽蔑されたくなくて、自分もそこにいたかった。
いられる訳も、ないのにだ。本当に滑稽で嫌になる。

琥白玖を苛むように過去の夢を、子供のころの夢と零課にいた時の楽しかった時だけの夢を見る。
狗噛、獅子王、神宮寺。泉、相模原、猪狩、神童――的場。
まだ壊れていない理想がそこにはあって、目が覚めるたびもうないことを思い知る。なんで目が覚めるんだ。あのまま、あのまま眠っていればあそこにずっといられたのにと何度頭を掻き毟ったか。

起きた頭で繰り返されるのは相模原だと思っていた、自分が殺した南玲子の死体。神宮寺が打ち抜いた相模原の遺体。自分が殺したと知っても前に立った狗噛、家族を奪われていた事実を知ったその後も随伴した獅子王。彼らに、煽りとも取れる言葉を投げつける恍惚と笑う的場。そういえば、彼の言葉の中に自分に当てたものは無かったと気付いた。気付いてああ、自分は視野にすら入れてもらえていなかったのかと知った。

誰かの中に、残りたかった。いてもいいよと無条件に、いい子じゃなくても言って欲しかった。でも。

煽りでもよかった、一時は信頼した彼から自分に向けたものがなかったのが全てだった。
もう嫌われているに決まっているだろう、この役立たず。

そんな声が聞こえて、顔を上げる。たまたま映った鏡に自分の顔が写る。今にも癇癪を起こしそうな顔が見えた。笑顔は、絶やさないようにしていたのに。

いっそ、全力で誰かを傷つけてやろうか。誰かを守るなんて口実もないまま、自分のためだけに。あの時も自分のためだけに引き金を引いたけど、今度は何もないまま。

そんな度胸もないくせに。子供の声が、琥白玖の脳で囀って響く。がり、と自分の腕に爪を立ててうずくまって、ぐるぐると考えては行き場のない衝動も欲求も恐怖も不安も哀愁もごちゃまぜに混ぜ込んで吐きそうになりながら飲み込んだ。

建前すら持てない惨めな男がそこにいた。そこに「いい子」は、いなかった。畳む
小説
探索者のわやわや。ネタバレ等はありません。
#CoC #探索者 #小噺
金の星、灰の猫

「……」

ニコルは唖然としながら目の前のイギリス人の女を見ていた。凄い勢いで消えていくスイーツ。文字通り山を成していたそれを口に入れては美味しそうに咀嚼する様子に最早吐き気さえ覚えている。ニコルの手にしていたサンドイッチは幾分か前に食べることを放棄されていた。

『? ニコル、食べないの?』
『アンタが食べてるの見てたらもういいってなっちまったんだよ、ベアトリーチェ』

言いたいことは万も億もあるが、何とか抑えてそれだけ返事する。目の前のイギリス女改めベアトリーチェはじゃあ私にくださいと、ニコルが話すのとは異なる英語でそう答えた。



ニコルが日本へ入国し方々を回っていた時のことだった。道に迷ったニコルは目の前に薄汚れた金色の布を拾った。拾った、というかついてきたと言うべきだとはニコル談ではあるのだが、どうも拾われた側はそうは思っていないらしい。

小汚い布は、ベアトリーチェと名乗った。うっすらと黄色み掛かった、白にすら見える淡い波打つ髪を豪快に絡ませて鳥の巣を作っていたのを苦心しながら解いてやれば目の前の女はすぐにニコルに懐いた。財布を落として行き倒れていた彼女にこれっきりだと食事を奢ったのだが、その後は何をしてもついてきていた。何度か本気で撒いたにも関わらず気付けばニコルの行く先々に彼女の頭がひょっこり現れる。その度ニコルは肝を冷やしていた。

当然何か目的があるのか、と問い詰めたこともある。ニコルは住んでいた場所が場所だけに用心深かった。しかし疑われているベアトリーチェと言えば本当に何も企んでおらず、おそらく自分以外の外国人が珍しく、また助けてもらったからと言う理由で付いて回っているだけらしい。疑うだけ無駄だ、とニコルは色々諦めた。

『あ!ニコル見て、カエル!日本のカエルは小さくてかわいいわ!』
『へーへー、そうかい。腹の足しになら無さそうだな』
『食べない!なんてこと言うの!』

あちこちで見るなんの変哲もないものに一々騒ぐベアトリーチェをニコルが適当にあしらう。そうしただけベアトリーチェがうるさくなるもんだからいよいよニコルもムキになって言い返す。ベアトリーチェは楽しそうにそれに乗る。疲れてしまう結果は不本意にも一緒に過ごした数日で分かっているのに相手をするあたしもあたしだな、とニコルは自分にため息をついた。



ニコルがぱ、と目を開けたのはほとんどの建物から光が消えた夜更けだった。山奥に借りたコテージの中を何かを物色しているような音が響く。物盗りか、と警戒しながら横目で見るとベアトリーチェが自分の荷物を漁っていた。ニコルのカバンならば取り押さえてやるつもりだったがそうじゃない。

ならこんな夜更けにこいつは何を?気になったら暴かずにはいられない。

『何やってんだ、こんな夜中に』
『あ、起きちゃった?』

むくりと体を起こしたニコルに特に驚くこともなく、ベアトリーチェはごめんごめんと小さく手を合わせた。そんなことどうでもいいよと言い捨てて、視線で質問の続きを促せばベアトリーチェはくふくふと小さく笑って手にしたものを見せつける。

『? なんだそりゃ?』
『星座盤と小型天体望遠鏡よ。今日は久しぶりに晴れたから』
『星なんて見てどうすんだ』
『どうもないわ、見て綺麗だなって思うだけ。強いて言うなら私のお仕事兼好きなこと』

そう言いながら目を伏せたベアトリーチェがいつもと違うように見えて、思わずニコルの心臓が跳ねる。いつものはつらつとした眩しさが、今だけどうにも柔らかい灯りのように感じて驚いたのだ。
落ち込んだわけではなく、どう見ても楽しみで仕方ないと言った風なのに雰囲気が違う彼女に驚いて、困惑する。

『ああ、そう。じゃああたしは寝直すとするから好きに、』
『ねえニコル』

一緒に見ない?
柔らかい笑みが、ニコルに向いた。



『はいどーぞ、コーヒーだよね?ミルクティーじゃなくてほんとによかった?』
『いつものでいいって』

湯気のたつマグを手渡されながら、ニコルは一口啜る。苦味と香りが口いっぱい広がりながら喉奥に滑り込んでいく感触にほう、と息をついた。隣ではいつの間に作ったのか、一人でハムサンドを頬張るベアトリーチェがいた。ぱちりと目があって、微笑まれる。それがなんだか気不味くて思わず目を逸らすが、ベアトリーチェが動いた音がしてまた彼女に視線を向けてしまう。

『うん、やっぱり今日はよく見える』

そう言いながら天を仰ぐベアトリーチェに、ニコルは言葉をなくした。

真夜中だと言うのに月が煌々と彼女を照らし、波打つ金糸に光を惜しみなく注ぐ。ランタンすら消しているのに、ベアトリーチェの周りだけ明るく見えた。いつだったか、ミサを行う教会に飾られたステンドグラスに描かれたマリアを思い出すが、それよりもベアトリーチェの方が実態を伴っていた。ニコルは、見たことがないものを信じない。だから実在する彼女の神聖さに似た何かを本物だと感じた。

純粋に綺麗だと思ったのは、いつ以来だ。

コーヒーではない何かを飲み込む。その音すら彼女の邪魔になりそうで、ニコルは思わず身を縮こまらせた。そして、腹の底にどろりと黒いものが滑り込む。

夜でも昼でも明るくて、人も疑わずただ笑っていられる彼女と、押し付けられた薄暗い過去からの、灰色の延長線を歩かされるだけの自分との落差に嫉妬した。押し付けられて、本当だったら変えられたかもしれないものまでずっと背負わされて、自分が探す人たちに会うまで自分は不安定のままで。

無性に叫びたくなった。彼女の髪を引っ掴んで引き倒して、力いっぱい殴りたい衝動に駆られた。静かな彼女の悲鳴を聞きたくなった。浅ましいのが自分だけだなんて思いたくなかった。

『ニコル、大丈夫』

柔らかい声だった。ニコルが思わず顔を上げる。ベアトリーチェは笑っていた。何もかもを許すと言った、高慢とも取れる目で。優しくて柔くて触れば壊れてしまいそうなのに、それでもベアトリーチェの方が強かに感じる。それはニコルの劣等感すらも宥めすかして行くようで、肩にかけられたタオルケットが呼応するようにずり落ちた。
それを拾ってもう一度ニコルの肩に掛けながらベアトリーチェはまた笑いかける。

『ニコルはニコルのままでいいの』
『……お前、あたしの何を知って』
『何も知らないわ。けど、ニコルったらずっと悩んでる顔をしてるんだもの。私じゃなくても分かっちゃうわ』

いつの間にかベアトリーチェの手にはカードの束が並べられていた。カンテラに光が入り、その手元を照らす。鮮やかにカード切って並べていく。紙が捲られる柔らかい音が静寂を止めていく。ニコルはその様子を眺めることしかできなかった。すい、と一枚のカードが目の前に差し出される。

『そのまま進んでニコル。大丈夫だから、星も数字もそう出てる』
『……なんだお前、シャーマンってやつか?生憎あたしは占いとかそう言うもんは信じない質でね』
『信じなくてもいいわよ、信じるものじゃないもの。結局占いなんて、数字の結果でしかない』
『だったら何で』
『私の占いは、背中を押すためのものだから』

ニコルだってどうしたいか、自分で分かっているんでしょう?
そう問いかけるベアトリーチェは笑っていなかった。とても真剣で、もしかすればニコルが初めて見た彼女の真顔なのかもしれない。
けれどもそれがどうしたっておかしく見えて、思わずニコルは笑ってしまったのだ。

『押されなくても、あたしは進めるってぇの』

そう、とベアトリーチェも笑った。



「すみまセーン!か、かご?かごままけん?に行くしたいデス。電車これ、あってるデスか?」
「かごましけん、だ」
「鹿児島県ですね」

駅員が苦笑しながら目の前の金と灰の頭を見る。外国人の対応は苦手なんだけどなぁ、という彼のぼやきは幸いにも目の前の二人には届いていない。だるそうな灰色と楽しそうな金色が印象的だな、とは思った。

「oh!そうデスそうデース!かごしま、けん!」
「わかる、した。よかったな。じゃ、ばいばい」

灰色が雑に手を振る。金色もそれに勢いよく返す。

『……――――』
『――! ――――!!』

最後に英語で何かを交わして、二人は別れた。義務教育以来英語など触っていない駅員は彼女たちが最後に何を言っていたのかはわからない。
けれども、良い旅なのだろうと思った。何故なら二人は笑っていた。金色は優しげに、灰色は呆れながらも微かに。そう、笑っていたのだから。

電車が走る。ニコルは東へ、ベアトリーチェは西へ。反対方向へ向かって進んでいく。畳む
小説
CoC「VOID」ネタバレあり。該当シナリオの後日談。同卓PCのお名前、及びよそ様の相方をお借りしています。
#CoC #VOID
幼気を縊る
蛍光灯が瞬いて、コンクリ質の壁に鈍く反射しているのに薄暗い。そんな拘置所は一昔も前の話だ。今は犯罪者との接見室も白に統一され、一定の明るさを保っている。その面会者側に潮は掛けていた。後ろには帽子を目深に被った相棒と、不安そうにしているアンドロイド課暫定班長が立っている。

不思議な感覚だと思う。本来ここに座るのは潮ではなく伊智か玲斗、つまり人間であってアンドロイドである自分ではないはずなのだ。立場が逆になっている。
奥の、強化ガラスの向こう側。その扉が開く。
人間の担当官の後ろから、有馬真二が姿を見せた。





有馬が潮との面会を希望している。不安そうに玲斗が潮と伊智にそう告げたのは半月前の事だ。あの事件の詳細は、世間には隠匿されている。それもそうだ、リボット社のアンドロイドは警察だって利用しているのだ。その社長が起こした事件による、警察へのイメージダウンを恐れて重要な部分は隠蔽されている。当然、当事者のアンドロイド課にも箝口令が敷かれていた。その処理に追われている中での事だった。

「俺としては…反対なんだけど。でも上層部はあわよくば潮に有馬真二の技術を引っ張り出させたいみたいでさ」

ごめん、抵抗しきれなかった。申し訳なさそうに謝る玲斗に構わないと告げる。はて、その時自分はどんな感情を抱いたいのだろうか。

「潮」

ふと隣を見たら帽子の鍔が映り込む。伊智が心配そうな、憤っているような、そんな微妙な顔で俺を見た。

「大丈夫だって。流石に丸腰だろうからさ。前みたく銃口を向けさせたりなんて出来やしないと思うし」

自分で言って、冷たいものが背中に走った、気がした。気がするのはこの体はもはやセンサーを切り替えなければ悪寒すら感じ取れないものになっているからだ。それでも確かに、そう感じた。”有馬潮”として。
またぞわり、とそれが背中を落ちる。雑音になりそうな思考に蓋をして潮は有馬との面会に応じた。




老けたな。強化ガラス越しに見る有馬を見た潮の感想はそれだった。夏央を取り込ませた機械の神の隣で立っていた時より狂気はなりを潜めているが、落ち窪んだ目には深く影を差している。艶を無くした白髪が不気味さを助長させていて、いっそ哀れだと思った。
機械の存在の潮ですらそうなのだから、背後に立つ人間二人はそれ以上に感じるだろう。伊智が息を呑む音がする。それを留意事項に留めておきながら潮は改めて目の前の男と向き合った。

視線が合う。絡む。その瞬間ぎょろりとした目が少し優しげに歪んだ。

「潮、調子はどうだ? 身体はどこも、痛くないかい?」

その言葉に搭載された演算機能は素早く「正気ではない」という答えを叩き出した。しかし、感情が確かな記憶を伴って揺れる。

『潮、調子はどうだ? ……すまない、仕事でちゃんといてやれなくて。痛い所はないかい?』

心臓が弱くてよく寝込んでいた潮に、頭を撫でながら不器用に温度をかたむけていた時の。
リフレインする記憶を無理やり蓋をする。勤めて自分はアンドロイドだと言い聞かせる。

「修繕とメンテナンスは済ませてある。問題はない」
「そうか。よかった……所で、夏央は?伊智くんは? 今日は一緒に遊んでいないのかい?」

言葉に詰まる。それ以上に機械すら焼け付くような衝動が口から出そうになった。なんとか押し留めているそれは確実に潮を焼いている。燃えている、とは少し違う。煮えたぎって尚、尽きないような。そんな衝動を呑み込む。
今は、有馬との会話を続けるのが最優先だ。そう言い聞かせる。

「伊智は今日、用事でいない。夏央は……シロウの散歩に出てるよ。俺は留守番だ」
「そうか、会えなくて残念だ」
「……用って、なんだ。会いたいと聞いたから来たんだが」
「そうなんだよ、お前にとっても朗報かもしれないんだ。できたんだよ、傑作とも言えるアンドロイドが」

有馬の顔が喜色に染まる。潮は不愉快で仕方なかった。あれだけのことをして、奪って、壊して、掻き乱したこの男が、自分だけ一番幸せだった時に戻っている。

あの時、殴り殺しておけば良かったか。

そうすれば自分が敗北した瞬間で終わらせてやったのに、とらしくない、物騒なことを考えている自分を自覚できないまま有馬の話は続く。どうやら技術のことを話しているらしく、断片的ではあるが、最新型の、潮のボディの詳細を話しているらしかった。
らしかった、と言うのは音声データとして記録はしているが、潮自身この話に興味がなかったからだ。興味がないと言うか、理解できないというか。背後で玲斗の小さな声が聞こえている。どうやら彼には内容がわかるらしい。それもそうだ、潮をメンテナンスしているのは玲斗なのだ。実際見て触っているのだからこの場にいる誰よりも精通している。

「だから、もうすぐだ。もうすぐ走れるようになるからな、潮」

瞠目した。本来アンドロイドにはない仕草だ。しかし、確実に潮は動揺した。
なんて言った、この男は。
聞き返すこともできないまま有馬を見る。その瞳は狂気に染まりきって現実を見ていない。けれども表情は、声音は、父親のそれだった。家族に向ける、愛情だった。

「お前、サッカーがしたいと言っていただろう? それに、シロウの散歩も。夏央とはプールに行きたいと言っていたし、伊智くんとは絵を描きに公園へ行ってみたいとも言っていたじゃないか」
「……ぁ」
「大丈夫、大丈夫だ。叶うから、叶えてあげるからな。潮」

この男は狂っている。わかっている、理解だってしていて、まともに取り合う必要は無い。それでも傾けられた感情は間違いなく暖かいもので、倒錯しているが本物で。
割り切ろうと、振り切ろうとしている、のに。

ガタン、と音がした。我に返って振り返ると玲斗が伊智を抑えている。荒い呼吸音が響いている。思わずバイタルを取ると酷く興奮しているのが分かった。
無言で立ち上がった潮に、玲斗がもういいんですか、と問う。もういい、これ以上は無駄だと吐き捨てた。

「? 潮、どうしたんだい? 何処へ」
「っお前が……!!」
「伊智」

激昂しかけた伊智の腕を強く掴んで制止する。なんで、と言いたげな伊智の視線を受け止めながら潮は少し逡巡する。

「……俺、今走れてるよ。お父さん」

それだけ告げて、伊智を引き摺って接見室を後にする。そうか、良かったと響いた柔らかい声は聞かなかったことにした。



「潮、おい、良いのかよあれ!」

引き摺られている伊智が噛み付いた。何が、と億劫に返した潮に少し言い淀む。

「……あんなの、逃避だろ?あれだけのことしでかして、黄海さんも、俺のお父さんとお母さんも、赤星兄さんだって……」
「それについてはもう殴ってある。終わった話だよ」
「終わったって、お前、有馬の行動で黒田さんが、お前だって!」
「……」

伊智が何を言いたいか、何となくわかる。有馬は狂うことで逃げたと言いたいのだろう。全てを巻き込みながらも遂げられなかったと言う現実から。お前は許せるのかと、伊智は言いたいんだろう。
彼はきっと、許せないんだろう。それでもいいと潮は思う。その権利が、有馬を憎む権利が彼にはある。
ただ一人、理不尽な憎悪を向けられて何もかも失っている。それは潮とて同じだが、失ったものに決定的な違いがあった。

伊智は大切な人たちを失った。潮は自分の命と時間を失った。その差異は、限りなく大きい。

だからなのだろうか。有馬を殴ってからはあの男を薄気味悪いと思いこそすれ憎悪はわかなかった。有馬潮がそうなのか、人の為の機械になってしまったからなのかは、分からないが。

「……潮?」

不安そうな伊智の声にはっとする。物思いに耽って相棒に応えない機体が何処にいる、と嫌悪してからなんともないから、と伊智から距離を取る。

「えっ、ちょ、何処に……」
「席を外すよ、仕事はもう終わったろ?」
「なら俺も……」
「少しだけ一人にしてくれ」

レミに位置情報は送っておくし、回線は開いてるから。何かあったら呼んでくれ。
それだけ告げて潮は踵を返す。背後で伊智と玲斗の声がする。聞こえていない振りをした。



二人から離れた潮が居たのは、夏央の墓前だった。時代や科学がどれだけ進もうとも故人を憂い尊ぶ心というものは人から消えることは無いらしい。最も、葬儀や手続きの大部分はデジタル化され、住職の仕事も機械に取って変わっている。その中でも唯一、墓というものは形として残っている。それもまあ、かなり形骸化されて来てはいるが。

墓石に刻まれた姉の名前を見る。そこには犬型ロボットが丸くなって停止している。
あの戦いの後、夏央の遺体に寄り添うようにこうなっていたらしい。その後どれだけ修復しても、燃料を足しても動かなかった。まるで拒絶するかのように。

そんな様子を眺めながら、制服のポケットからガラクタを取り出した。
レンズが割れて、フレームが歪んでいるメガネ。夏央のものだったそれはゴミと言って差し支えない。捨てるべきものだ。手元に置いておくなんて、非合理がすぎる。

けれども、潮はこれを手放せないでいる。


有馬の話を、伊智の言葉を、動かなくなったシロウを、夏央の死に目を思い出す。湧き上がる感情に名前がつけられないままだ。

同時に思う。これは本当に俺の感情か?と。
有馬潮の記憶を後付けされただけのアンドロイドが、感情を謳っているだけなのではないか。陽凪の様に感情学習機能がある訳でもない。それもそうだ。死にかけた有馬潮の依代になっただけの機械なのだから。

目の前の墓に視線を向ける。そこにあるのは夏央の名前だけ。有馬潮の記載は、どこにも無い。

記憶があるのに、存在していた証明が出来ない。はっきりしているのにあやふやで、形があるのにそれを自分だと言いきれない。

伊智のクレヨンを折ったのは。
そのクレヨンを夏央と一緒に買って返したのは。
画面に映る母と笑いあったのは。
父に外で遊びたいと、願ったのは。

間違いなく潮なのに、どこにも「俺」を見つけられなくて。

俺は本当に居たのかな、なんて。

「……なつ姉、俺、本当になつ姉の弟だった?」

答えは無い。何もかも明確にならないまま潮は踵を返す。答えが欲しい。俺はなんなのか。

当面は廃棄処分されないように、また有馬のような悲しみにくれないように。

人間たちへの心象を良くするために、愛嬌を撒いておこう。スパローへ行った二人には親しみが湧きやすいようにアンドロイドらしくなく居よう。伊智は俺でもいいと言いながら「有馬潮」を求めているから、それをなぞろう。

せめて、せめて今。ここにいる「俺」が、壊されないように。昔のことがぐちゃぐちゃて不明瞭で、それでも今ここに有るのは、間違いないから、だから。

否定、しないで。どうか。お願い。望む形でいるから。そういう形でいるから。楽しいねって、思って貰えるように。そうやって動くから。
ここに居させて。



軋む稼働音の合間に、ごめんねと今はもう聞けない声が響いた気がした。畳む
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CoC「黒幕が如く!」ネタバレあり。該当シナリオ後日談。よそ様のキャラクターをお借りしています。
#CoC #ネタバレ
つみかさね

目の前の小さな箱の中から聞こえる断末魔をつまらなさそうに聞きながら、芳は何もないところから異形のフィギュアを引っ張り出す。それを無造作に箱の中に放り込めばそれは中にいるものにとっての致命的な敵対者となり、圧倒的捕食者として非捕食者と成り下がった者を食い荒らした。

「精が出ますね」

仕切られた箱の隅に飛び散る血を眺めていると背後から声がかけられる。この数週間で幾分と聞き慣れた声に振り替える必要も感じず、箱を眺めたまま芳は薄ら笑いを浮かべた。

「まあな。ただ最近ボキャ貧やわ」
「そう言う割には律儀に皆殺しではありませんか」
「後出しで負けるジャンケンがあるやろか?」

その言葉に声の主がそれもそうだ、と心底楽しそうに笑う。彼はぽん、と芳の肩に手を置いた。吐息が耳に掛かる。ともすれば唇が触れそうな位の距離で男は芳に囁いた。

「本当に貴方は良い拾い物です。我が後継が天職なほどだ」
「お褒めに預かり光栄やわ、元祖様?」
「心は痛みませんか?」

気を使うような言葉だった。だがそこに一切の感情はない。ただ時々芳を揺さぶりたいのかこの男は唐突に芳の倫理観が一般からかけ離れているぞ、と暗に小馬鹿にしてくる時がある。最初こそ腹を立てたが今はそれすら可愛いと思えてしまうのだ。

「傷んだら、癒してもらえるやろか?」
「まさか」
「せやろ? そもそもほんまに痛むと思うてます?」
「それこそまさか、ですよ」
 くつくつと、混じり気なしの低い笑い声がふたつ。黒い空間に溶けて消えた。

 *

「芳、あのガングロ野郎に関わるのやめろ」

唐突だった。ウィリアムも小桃も、子供たちや嘉人もおらず明彦と二人きりという珍しい日だった。太陽が一番高い所から落ち始めた頃に起き出した芳を見るなり開口一番明彦がそんなことを言い出した。威圧的とも取れるその声音と言葉の意味に呆けていた頭がじわじわと覚醒する。

そして芳は自分の機嫌が急降下するのを自覚した。

「……俺の人脈にケチつけるんか。俺の顧客から仕事取っておいて、ええ根性やないか」
「ああ、あいつに関してはクレーム入れさせてもらう」

少し脅かせば目の前の子犬のような不良は引っ込むだろうとたかを括っていた芳は、しかし食らいついてきた明彦に面食らう。明彦は忌々しい、と心配を入り混ぜたような複雑な顔をしていた。それ以上に赤い目が芳を真っ直ぐ見ていたのがなんとなく居た堪れなくて芳の方から目を逸らしてしまった。その事実に釈然としないまま頭を通さず言葉を放り出す。

「なんや? お友達でもいじめられたんかいな。それやったらそういうんやめたれってお願いしといたろか? それやったら俺が誰とお付き合いしようが明彦には関係あらへんやろ」
「その台詞、あいつが人間じゃないってわかって言ってんのか。あいつは芳が、つか人間が関わって良いもんじゃない。あんたあいつに思ってるより軽く見られてんだよ。どうせ玩具だと思われてる。さっさと関わるのやめろ」
「は、何を言うてんの。そない妄想は卒業せんと痛いで」

なんだ。なんで俺は責められているんだ。

芳はわけがわからなかった。いつもなら明彦と口論すれば口八丁が十八番の芳が地団駄を踏む明彦を丸め込んで終わりで、今回もそなるはずだったのだ。なのに明彦は至極冷静に正論を返してくる。

そう、正論を。

「今一番痛いのはお前だよ」

正論、を。


言葉の意味を理解する前に芳は思わず明彦に殴りかかった。自分が沼男だということも頭から抜けて、触れば明彦を沼男にするということも考慮せず、ただ黙らせたくて殴りかかる。だが明彦はそれを分かっていたと言わんばかりに避ける。修羅場の数は芳のが潜っているだろう。しかし現場に出て、時折荒事もこなしている明彦のが自分の体の使い方を分かっていた。芳が勢いよく床に倒れ込む。

明彦に、自分より格下に見下ろされている。面倒を見てやっているものに、自分より下の存在に。
思わず部屋を呼び出しそうになった。
明彦の失望したような表情は見ないふりをして、自分にできる最大を持って排除しようとして、そして。

 *

断末魔が上がる箱を、芳はただつまらなさそうに見ていた。血飛沫が上がる。肉片が飛び散る。最後まで生きたいと視線を彷徨わせるその瞳が濁る瞬間を見る。

「あの子供も放り込んで仕舞えば良かったのに」

つい先程姿を消した男はやれやれと肩を竦めてそういった。芳は明彦をこの箱に入れなかった。我に帰ったからではない。無抵抗の明彦の間に割って入った白い毛玉の生き物に邪魔されたからだ。触手のような尾をバシン、と床に叩きつけながら唸りを上げるその小さな生き物に芳は正気を引き戻される。それを抱えながら明彦がボソリと呟いた。

『戻って来れなくなる前にどうにかしろよ』

そこから明彦とは会話をしていない。というよりもその真っ直ぐさがあまりに忌々しいと感じてしまい直視できなくなった芳から避けているのだ。明彦は何か言いたげにしているがそれにも気づかないふりをして。

もう一人、可哀想な人間を放り込む。悲鳴。血飛沫。断末魔。倒錯。迷走。発狂。明彦の言葉が薄れていく。

(こんなん、やめれるわけあれへんやろ)

他人を掌握する全能感に、芳はとっくの昔に戻れなくなっていたのだから。畳む
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FF14 自機『アベル・ディアボロス』の話。種族の自己解釈・自己表現があります。ほんのり相方が出ています。(notうちよそ)
#FF14 #自機
我らの親愛、此処に有り

「ねえねえアベル、アベルの一族の話を聞かせて」

ニコラスのその言葉にまたかと呆れ半分微笑ましさ半分で笑みが溢れる。アベルとしては何度も語ってしまい少々飽きている上それが自分の生まれのことだから妙な羞恥心に苛まれるので御免被りたい。しかし愛しの妻がそれを望んでいるのなら、と随分中身の少なくなったグラスをテーブルに置いてあぐらをかいた上に座り込んでいるニコラスを抱きしめる。話の終盤で舟を漕ぐのはかなり前から知っていた。

「本当にこの話好きだな、ニコは」
「うん、好きなの。寝物語にもちょうどいいしね~」
「はいはい。寝たかったら好きなときに寝てください」

はぁい、と言いながらもたれ掛かってくる重みを腹で受けながらアベルは口を開いた。

*

それは、昔々のお話だ。誰も覚えていないアウラ・ゼラの女性が、アジムステップで生きる自分の種族から逃げ出した。理由はわからない。謀略だとも夜逃げだとも、駆け落ちだとも言われているが真相はどこにも記されていない。とにかくその女性はそこから逃げ出した。

逃げて、逃げて。乗っていた馬が過労で息絶え食料が尽き水が枯れても彼女は逃げ続けて、今で言うオサード地方から遠く離れたイシュガルドの地で倒れふした。
その時の彼女は己の一族からではなく竜詩戦争真っ只中だったイシュガルドの民に角と尾のせいでドラゴン族の手先だと追われていた。ドラゴンとイシュガルディアンに追われて力尽きた彼女を救ったのはヒューラン族の旅人だったと伝わっている。

そこから彼女と彼の逃亡ではない、世界を巡る旅が始まった。同じ頃彼女は彼に教わりながら己の一族にはなかった文化である文字に触れていたからか、手記を残している。初めて見る海、吹き荒れる砂嵐、空も覆う木々のさざめき。全てが彼女にとって初めてで、心を動かしたと不格好で柔らかい字でしたためていた。

同時に旅の先々で色々な人と出会った。

俊敏なミコッテ族、大柄で力強いルガディン族、聡明なエレゼン族、小柄だが器用なララフェル族、隣で歩む彼と同じ、他種族の文化に貪欲で柔軟なヒューラン族。それに蛮族と呼ばれる亜人たち。
いい人も悪い人もいた。気の合う人もいればそうでもない人もいた。何かを背負う人もいれば自由に生きている人もいた。

世界の大半を巡った頃、彼女は一つやりたいことを見つけていた。それをヒューランの彼に告げると彼とはそこで別れている。何故かは手記にも残っていない。ただ別れたという事実が記されているだけだ。

彼女はあちこちの、種族にかかわらず色んな人を集めた。共通していたのはみな居場所がなかった。居場所を求めた。止まり木を欲した。そういう人たちだった。
最初は六人、次の年は十二人、二十四人、三十六人と増えていった。どんどん増えて、時々減って、彼女は彼女たちとなった。一つの移動民族が誕生した瞬間だった。どうしてそのようなことをしたのか、彼女は手記に綴っている。

『誰かと笑っている世界の中で、いつだって誰かが一人で生きている。好んで一人でいるのかもしれないけれども、そんな人だって止まり木が欲しいでしょう。何より一人はとても心細いでしょう。私はそんな人たちの家になりたかった。』

彼女は孤独を恐れていたのだ。そんな人たちの寄り添える場所が欲しいと思ったのだ。自分は旅人だった彼に救われた、けれども他の人は?一人寂しくいるのかしら。そんなことはとても悲しいことだと、彼女はそう思ったのだろう。

そしてその手記には、一枚の羊皮紙が挟まっている。

『ここにいることが窮屈なら旅立っていけばいい。疲れたなら帰ってこればいい。誰かの歩みの力になりたい。ひとりぼっちの誰かがひとりぼっちじゃなくなって誰かと笑える最初の一歩になればいい。忘れないで。私は、私たちはいつだってここにいる。』

―――
――


「『私たちはディアの一家。一族なんて、堅苦しい言い方しなくてもいいのでしょう?私たちは家族で良き友なのだから』それが初代ディアの一家の女当主の言葉だ」

アベルが語り終えるとニコラスの頭がかくんと揺れる。ああ、寝たのかと苦笑して抱き直しベッドへ連れて行く。

諸説あるがそれが今のディアの一家に伝わるディア創立の逸話である。そのせいかアベルの一族は割合的にアウラ・ゼラが若干多い多種民族となっている。皆が皆ではないけれども陽気でおおらかでよく笑う。
突然家族が増えることもあればやりたいことが見つかったからと旅立っていくものもいる。ざっくばらんに言えば来る者拒まず去る者追わずだし、ディアの中で友から家族になるものも少なくない。世界を回っているのはおそらく初代当主が旅を続けた名残だろうと言われていたり。まあこのあたりはアベルの一族に興味を持った考古学博士に協力した時伝えたことではあるが。今の当主は腕相撲で決まったらしいと言った時の博士の顔は暫く笑えそうなくらい呆気に取られていたっけ。

権威への欲求が非常に低く、けれども世界を回る旅の商売人の一族故に代表を取らなければ色々と面倒だとはわかっている。が、基本誰がなってもディアはディアのままなので毎回当主決めは適当だ。神経質な人とは一緒にいさせられないなと思ったのは旅に出たばかりの頃だったか。

ニコラスに布団をかけながらなんとなくディアが恋しくなって久々に帰ろうかな、なんて思えるくらいにはアベルも自分の一族を愛している。

『ディア』とは、親愛という意味である。明日の友、良き隣人、未来の家族へ。――日溜まりのような、親愛を。畳む
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FF14新生エオルゼア2.0及びジョブクエスト:戦士レベル50までのネタバレを含みます。
#ネタバレ  #FF14  #自機
戦士になった日

――この日、一つの闘争心が産声を上げた。


「「弱い」オメなんて!兄者じゃねえ!!オラの夢は!誰にも邪魔させねえ!!」

そんな咆哮とそのあとに続く剣戟を、アベルは聞いた。

戦士を復興させるのが夢だと、人懐っこい笑顔を浮かべてそういったのはキュリアス・ゴージという、戦士の里の出の男だった。自分も斧を使うからと共に始めたその理想への歩みはいつしかアベルを斧術士から戦士へと変えていた。だからだろうか、彼の夢へ共に歩むのがとても心躍る日々となり、いつしか戦士が本当に世界に認められれば、と思うようになった。

そんな彼が、飲まれているような、悲鳴のような咆哮を上げた。
嫌な予感を抱いてたアベルは真っ赤な古の戦装束を纏いワインポートまでの道を駆け抜ける。

嫌な予感ほど当たるとはよく言ったもので、アベルが駆けつける頃にはキュリアス・ゴージとその兄の雌雄は決していた。

倒れているのが彼の兄だろうことは聞かずともわかる。しかしゆっくりとアベルを見たキュリアス・ゴージのその目は理性を失いただ爛々と輝いていた。
 
「キュリアス・ゴージ…!」
「許さねえ…邪魔させねえ…「古の戦装束」は…全部…オラんだ…」
「違うだろう!あんた、自分の夢も忘れたのか!?そんなもののために動いてきたわけじゃないだろう!俺たちは!」
「オメのじゃねえ!今すぐ返せ!!」

アベルの声が届かないまま、キュリアス・ゴージが斧を振り上げる。咄嗟に自分も構えて受け止めていなければ真っ二つになっていたのはアベルの方だった。上から重くのしかかる重圧にアベルはギリ、と奥歯を噛み締める。
純粋な力勝負ではアウラとルガディンという種族差でアベルが劣る。このままでは押し負ける、と咄嗟にキュリアス・ゴージの腹を蹴り距離を取る。

吹き飛ばされたキュリアス・ゴージはそれをものともせず、ただ飲まれるままにアベルへ再び斧を振り上げる。今度は受け止めずにいなして流し、反撃する。
持ち手の部分であご下を狙うが理性を失っている彼にどこまで効果があるか。この小手先技が通用するのか。そんなアベルの不安は的中し、脳震盪を狙ったその一撃は難なく躱され下に振り下ろされた斧は振り上がり際にアベルの頬を掠めていく。

これは、相手の心配をしている余裕はない。

そう判断したアベルは防御の構えを解いた。代わりに攻め込むべく腰を深く落としキュリアス・ゴージの懐へと突っ込む。

狙うは胴体だった。彼を痛めつけるのでは?という懸念は無理やり頭の隅に追いやり下段から切り上げる。身体を無理やり逸らして躱され、彼の鎧に傷をつけるだけに終わったが体制を崩したところを更に踏み込み、斧を振り下ろす。
先ほどとは体制が逆になる。せめぎ合う中、キュリアス・ゴージの瞳に一瞬だけ理性が戻ったのをアベルは見逃さなかった。

「キュリアス・ゴージ!」
「う、ぐぅ…ッ!逃げ、ろ…!このままじゃ、オラ、オメを殺しちまう…!」
「馬鹿野郎!何を言ってる!」
「オラは、オラは…原初の魂を、制御できねえ…!バケモノみたいになっちまう…!オラの、ゆめは…もう…!」

悲しげに歪んだ、飲まれかけの瞳がアベルを見た。その瞬間、アベルの内側で何かが爆発した。

――何か、ではない。アベルの想い、そのものが。

「ふっざ、けるなああああああああああああああああああッ!!!」

思い切りキュリアス・ゴージを吹き飛ばし守りの構えととったそこに、アベルはこれ以上ないくらいに斧を叩きつけた。自分の想いが届いて欲しいと、切に願って。

「なんでそう簡単に諦めようとしてる!復興させたいと言っていたじゃないか!!ッ、一緒に、戦士を認めてもらおうと!!ここまで歩んできたじゃないか!」 
「ッ、あ、べる」
「今更お前だけの夢だなんて言わせるか!!――俺たちの夢だろうが!!諦めさせるか!!呑まれるなら何度でも引っ張ってやる!!お前が!!お前が本当の戦士になるまで何度だって!!!」
「っ、グ、ぁ」
「だから、ッ、だから勝手に諦めるな!!」  

技もへったくれもない、ただ斧を不器用に一心不乱に振り回す。

――いつものように、流されるままに見た夢に何を熱くなっているのだろう。いつものように適当に流されて、適当に行き着く先へ行けばいいのに、何を自分は踏みとどまっているのだろう。

ワインポートへの道を駆け抜ける間、アベルはずっと疑問に思っていたことだ。自我が薄いのは自他共に認める事実で、自分もそれでいいと思っていた。

自我が強いのは、辛いことだと思っていた。
流されるだけなら、後悔だってない楽な道だった。
いつものように、大きな流れに身を任せていれば良かったのだ。

――本当は。

(楽な方に逃げていたのは俺の方だった)

夢を語るキュリアス・ゴージの姿に羨望に近い何をを抱いた。

(流されていればよかった?今までどおり?)

呑まれ溺れそうになりながら、それでもアベルに逃げろという彼に尊敬を抱いた。

剣戟を響かせながらキュリアス・ゴージとアベルはぶつかり合う。アベルの一閃で篭手を吹き飛ばし腕を斬られながら。キュリアス・ゴージの一撃で吹き飛び、頭をしたたかに打ち付け血を流しながら。視界の半分を赤く染め、ぐらつく頭でアベルはよたりと立ち上がる。

思い出せ、なんでこんな旅路についたかを。己の主軸を。そしてその先々で生まれて育った思いを。

(――そんなことで、ニコラスを守れるものか…違う、それだけじゃない)

兄ちゃんみたいな冒険者になるよ、といった少年を思い出す。
ベルはおっきいのに優しいなぁ、と朗らかに笑う友を思い出す。
二人共、俺よりも強かったじゃないか。その時に思ったじゃないか。

彼女の存在は大きかった。けれども、今この時は自分に生まれた思いのが強かった。

(負けたく、ない)
「ッ、オオ、オオオオオオオオオオオ!!!」

闘争心が、魂の底から咆哮を上げる。再び呑まれたキュリアス・ゴージに向かって低く、早く突っ込んでいく。
共に歩もうと言ってくれた彼だからこそ、負けたくなかった。力に呑まれたままのキュリアス・ゴージに負けるわけには行かなかった。

生まれて初めて、アベルの内に勝利への執着が湧き上がる。

低姿勢で突っ込み、更にそこからぐんっと身を低く下ろす。両足を踏ん張り、床石を踏み抜かん勢いで力を込め、放たれた矢のように振り上げられた斧が、今度はキュリアス・ゴージの斧を裂いて吹き飛ばす。

キュリアス・ゴージも負けてはいなかった。大きくのけぞった姿勢を無理やり立て直し勢いよく斧を突き出す。アベルは咄嗟に避けるが避けきれず脇腹を大きく抉っていく。鮮血がキュリアス・ゴージの斧とアベルの顔に掛かる。
遅れてやってきた激痛にアベルが一瞬怯んだところを容赦のない一撃が襲いかかる。それを咄嗟に斧で受け溢れる赤に構わず踏ん張る。
ぼたぼたと垂れる血は、キュリアス・ゴージのものなのかアベルのものなのか。それすら判断できないほどに赤く広く広がっていく。

それなのにアベルは、笑っていた。

キュリアス・ゴージが一瞬怪訝な顔をする。その場違いなまでに穏やかな、それでいてぎらついた笑みの意味が分からずに。

「…強いな、あんたは」

掠れた、今にも消え入りそうな声が血の匂いに混ざって吐き出される。

正直、痛みも痺れ、手足に感覚がなかった。今すぐ地面に転がって目を閉じてしまいたかった。頭から流れる血も止まる気配がせず、掠めただけとはいえ肉を持っていく斧の一撃はアベルの四肢を浅からず裂いていた。

「…俺は、あんたに、勝ちたい」

ただ、痛みよりもその思いが何よりも強くて気にならなくなってしまったのだ。

「あんたに『戦士』として、勝ちたいッ!!」

思い切り、拮抗していた小競り合いを押し返す。よろめいたキュリアス・ゴージへと突っ込み、先ほど切り上げたほうとは逆の一閃を振り下ろす。

太い悲鳴と共に、キュリアス・ゴージの巨体が地に倒れる。

アベルもキュリアス・ゴージも満身創痍だった。それでもアベルは倒れるどころか、片膝もつかなかった。


溢れる歓喜は、初めて望み、得た勝利だからか。それともキュリアス・ゴージという男と戦えたという悦びか。今にも震えて砕けそうな膝は、しかししっかりと大地を踏みしめていて。

「――俺の、勝ちだ!!!」

アベルの勝鬨は、濃紺の星空に轟いた。


*

「本当に、わるかった…」
「もういいって、気にしすぎんだ。アベルは」

アベルとキュリアス・ゴージが顔を合わせたのはワインポートでの戦いから三日後だった。あのあと見事にぶっ倒れたアベルは連絡を受けたレイに運ばれたっぷり一晩目を覚まさなかった。目覚めたら開幕レイのげんこつとリコのビンタ、アキのタックルにルカの嫌味のオンパレード、更には呆れたようなヴィヴィアンのため息にフィオナの意味不明の妄言、止めにニコラスの「アベルのばか!!ばかばかばか!!!」という可愛らしいお叱りのもと外出許可をなんとかもらい今に至る。

「…キュリアス・ゴージ…その、あんたの兄は」
「…ああ、無事だ。ただ…怪我のせいで戦士を続けることは難しくなっちまった…オラが、呑まれちまったからだ」
「…けど、諦めるつもりはないんだろう?」

アベルが意地悪く聞くと、当然だ!とキュリアス・ゴージは頷いた。

今後の方針としては、兄に戦士の技の解読を続行してもらいアベルとキュリアス・ゴージはその技の習得のために更に鍛えていくということで決まった。

「やっぱり、オメはいちばんの戦士だな」

感心半分、悔しさ半分にそういうキュリアス・ゴージにアベルはしばらく沈黙して、首を横に降る。
 
「…いや、まだわからないぞ」
「え?でもオメは原初の魂の制御もできてたろ?そんで呑まれて暴走しちまったオラを助けて…」
「もし、これから先…あんたが原初の魂を制御できたなら?」
「…!」

アベルが言わんとすることがわかったのだろう、キュリアス・ゴージの澄んだ目が大きく見開かれる。

アベルも、口角を釣り上げる。いつもの穏やかな笑みではない、好戦的な光さえ宿した赤い双眸はキュリアス・ゴージをまっすぐ見た。

「…俺はそんなあんたと戦いたい。そして勝ちたい。だからその時まで『いちばんの戦士』は」
「ああ、お預けだな!」

ごつん、と突き出された拳に自分のそれをぶつける。次に戦う時は、絶対に同じ土俵に立っていようと誓う。そして。

「次は絶対、オラが勝つ!」
「そのセリフ、そっくりそのまま返すぞ…俺が勝つ!」畳む
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眠り熊様主催「文章力を鍛えたい」への参加作品
世界観:時代劇風の世界
三題お題:文学/雨/無二の存在
#三題お題
雨招き

 閉ざしていた国が開け、全てが動き出す不安定な時代に生きていたそいつは、何処にでも居るような、平々凡々で、争いごとが苦手。飛び抜けた能力も何もない男だった。親から独り立ちした後は売れない文字書きとその日暮らし、日雇いの仕事をするばかり。当然遠くになど行ける銭があるわけもなく、だからといってこれ以上のことをすると文章が、物語が綴れない。日暮の早い冬などは、特に。油が広まって来ていたとはいえ、庶民である男は大量に使う事を良しとしなかった。
 仕事から帰ればくたくたの身体に鞭打って、握り飯や漬物を適当に食らい、又は薄い汁物を欠けた茶碗で啜りながら筆を取り、文字を綴っては墨を滲ませた紙をくしゃりと潰して放り捨てる。そうやって紙屑を増やしてその中で眠り、明るくなれば目を開けて仕事へ向かう。時々完成した物語は、売れない。そうなると、その日は囲炉裏で一枚一枚、荼毘に伏す様に火に焚べていた。
 そんな単調で、生きていると言うには小火(ぼや)の様に、目立たない男だった。
 
 
 雨が降っていた。梅の実が膨らみ、間も無く百姓たちがこぞって獲りこむのだろう。雨も降らない日すら、灰色の雲が毎日のように厚く天を覆って、空気を湿らせている。
 雨が続いていた。男の目立たない生活も燻る様に続いていた。身体の節々に痛みが走り思う様動き回れない。男は雨が嫌いだった。時折煩わしそうに灰色を睨みつける。睨みつけたからと言って空が青に染まる訳でもなく、男の気分も晴れることはない。
 そんな日が続いた、雨の夜だった。小火が揺れる様な、そんな細やかな非日常が男の前に倒れていたのは。
 茶色と黒と、白。まだらの毛並みを持つ小さな生き物が雨と泥に塗れて倒れて伏せている。脚はあらぬ方向へと曲がり、顔にはしつこいくらい泥がこびりついている。本来は艶やかだろう毛並みを黒く汚していた。
 男は慌てて駆け寄った。平々凡々な男は目の前で息絶えそうな生き物の、その命が潰える所を見てはいられなかった。そうっと両手で掬い上げて、くったりと動かない生き物にばくばくと心の臓が駆け回る。
 
 そうして、男が拾って来たのは痩せ細った三毛猫だった。男は仕事の合間、筆を取る合間に彼女の様子を診ては死んでしまいやしないだろうか、と冷や冷やした。そういった詳しい者へ診てもらう、という考えは不思議と思いつかなかった。手拭いを割いて、曲がった脚に板を当てて巻きつける。泥で汚れた身体を洗い拭ってやれば力無く閉じた目元からは目やにが消える。漸く猫らしい顔を拝めたと、ここで一旦安心したものだ。
 身体も綺麗になり、穏やかに上下する腹にほう、と息を吐く。愛らしい、とは思わなかった。ただ生きていて良かったと安堵した。
 
 しかし、そのまま始まった同居猫との生活は彼女の寝姿程穏やかなものではなかった。まず、気を許してくれない。彼女は男が白飯に味噌だけを溶かした味噌汁をかけたものを持って近寄ろうものならしゃあ、と空気が疾る様な声をあげ、折れている脚の手当てをしようものなら引っ掻かれた。日雇いの仕事から戻れば、半紙をあたりに散らし男を辟易させた。
 けれども男は猫を追い出さなかった。怪我が癒えていないのもそうだが、雨が続いていたからだ。正直に言うと、男は何度か放り出してやろうとは思ったのだ。しかし、拾ったあの日の濡れぼそり泥に塗れ、息も絶え絶えの姿が脳裏に浮かんで、追い出してやろうと言う気持ちも萎れる。
 それに、猫が浅く眠る前でだと不思議と筆が進むのだ。書いては消し、一作生むのも苦労していたのが一作でき、また生まれ、そうして少しずつ男の物語は売れて行った。
 少し癪だが、自分以外の呼吸が聞こえるのは不思議と落ち着く……暴れられるのは、ごめんだが。
 そんな少し騒がしくなった日が続いたある日、男は魚売りから魚とかつぶしを買った。仕事は相変わらずだが、物語が売れるようになって少しばかり懐が暖かくなったからだ。毛が抜けて墨を上手く吸えなくなった筆から新しい筆に、押さえに使っていた石から文鎮へと買い換える。その礼という訳ではないが、猫へ何か贈りたくなったのだ。帰宅して、かつぶしを刃こぼれした包丁で削る。最初男にしゃあ、と泣いたきり睨みつけていた猫は、かつぶしの匂いを嗅ぎ取ったのかぴくりと耳をそちらに向けて、男の挙動を見つめていた。
 薄く削ったかつぶしを白飯へかけて、菜葉の入った味噌汁をかけて猫の方へやる。猫は、いつも男を警戒して男が寝た後で食べているらしい。だが、今日は違った。
 ちら、ちら。忙しなく男と飯を見た後に茶碗へ顔を突っ込んでそのままがっつき出した。余程腹が減っていた、と言えばそれまでだ。しかし、男は緩む口元を抑えられなかった。
 今の今迄、ずっと警戒して、唸って、拒絶されてきたのだ。目の前で飯を食わない程に。それが、目の前で飯を食っている。ただそれだけの事が男の心を優しく揺らした。
 
 それからは、共に飯を食う様になった。
 手当ての際、痛みから噛みつくことはあれど、その後男がそばにいても猫は唸る事はなく、偶に触れればごろりと喉を鳴らす。怪我が癒え、歩き回る様になる頃には猫から男の膝に座る事が多くなった。時折疎ましくなることもあるが、来なければ来ないで好きにさせている。長屋の石かべを掻いたり、水瓶の上へ乗り涼んでいたり。気ままな彼女の姿を見て、男の筆も進む。
 小さな波の様だった。平凡で凪いでいる生活が、心地の良い揺らぎのような。しとしと降り注いでは水溜りに立つ波紋の様な。仕事に行くのも物を書くのも相変わらずだが、心地良かった。
 
 晴れた日の事だった。男が仕事から戻ると長屋が燃えていた。後に聞いた話だとどうやら近所小火が起き、瞬く間に燃え広がったらしい。慌てて元の住処の焼け跡を探す。見つけたかったのは、少ない財でも、新しくした筆でも、気に入っていた文鎮でもない。猫だった。
 ねこ、ねこ、と探し回ったがついぞ彼女の姿も骸も見つけることは叶わなかった。
 また、凪いだ日々が始まった。新しく借りた住処から仕事に通い、筆を取っては紙屑を増やす。違ったのは、ひとつも物語を完成させられなくなったことだった。何枚も何枚も半紙を黒く汚して捨てていく。いつしか、男は筆を取らなくなった。使われなくなった半紙は火に焚べてしまい、硯で墨を擦ることもなくなった。筆は箪笥の奥へ無造作に入れられる。
 生きなくてはならないから仕事だけはした。仕事をして、帰って飯を食らい、寝る。以前に書いていた物語のわずかな収入もいつの間にかなくなっていた。
 
 幾度か同じ季節が巡ったある日の夜。その日もしとしとと雨が降っていた。今年の梅雨は気まぐれだ、だなんて話していたのはどこの誰だったか。そんなことを考えながら寝支度をしているとかりかり、かりかりと戸から音がする。なんだ、こんな夜中に。もののけか? 物取りか? それならそれで構わない。自分はすっかり落ちぶれた。筆も長く取ってはいない、その日暮らしを繰り返して、蓄えだってない。取られるものだって、自分のしようも無い命だけ。だから、怖くない——いや、少し怖いか。そんなことを思いながら戸をひいた。
 引いた瞬間、男の目はまんまるに広がって、その足元からにゃおん、と一声。どこか不満そうに響いた。
 目の前には、久しく見ることの無かった三色の斑目。大きいのがひとつと、小さいのがよっつ。ころころと転がる泥だらけの命を男は両手で掬って、泣いた。
 
 雨の日が続いた。男は以前の長屋にはもう居ない。武家程では無いが、立派な屋敷に一人と五匹で生きている。
 あの時の様に、泥だらけの傷だらけの猫たちを家に入れて洗って、手当てをし、汁物を掛けただけの粟を出してやる。子供たちはそれに食い付いたが、彼女は不満げになぉん、と鳴いて男を見上げる。以前は白米だったのに、と言われている様で。それが懐かしくて、同じものを出してやれないみっともなさで男は泣いた。しょうがないと、のっそり男の膝に掛かった重みと温もりに、また泣いた。
 
 生の凪を終えた男は、今日も筆を執る。傍には三毛猫の彼女が丸くなり耳だけを男に向けていた。
 筆先が踊る。
 
『閉ざしていた国が開け、全てが動き出す不安定な時代に生きていたそいつは、何処にでも居るような、平々凡々で、争いごとが苦手。飛び抜けた能力も何もない男だった。』……。
 
 雨音が、喝采を上げていた。畳む

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