小説
FF14新生エオルゼア2.0及びジョブクエスト:戦士レベル50までのネタバレを含みます。
#ネタバレ  #FF14  #自機
戦士になった日

――この日、一つの闘争心が産声を上げた。


「「弱い」オメなんて!兄者じゃねえ!!オラの夢は!誰にも邪魔させねえ!!」

そんな咆哮とそのあとに続く剣戟を、アベルは聞いた。

戦士を復興させるのが夢だと、人懐っこい笑顔を浮かべてそういったのはキュリアス・ゴージという、戦士の里の出の男だった。自分も斧を使うからと共に始めたその理想への歩みはいつしかアベルを斧術士から戦士へと変えていた。だからだろうか、彼の夢へ共に歩むのがとても心躍る日々となり、いつしか戦士が本当に世界に認められれば、と思うようになった。

そんな彼が、飲まれているような、悲鳴のような咆哮を上げた。
嫌な予感を抱いてたアベルは真っ赤な古の戦装束を纏いワインポートまでの道を駆け抜ける。

嫌な予感ほど当たるとはよく言ったもので、アベルが駆けつける頃にはキュリアス・ゴージとその兄の雌雄は決していた。

倒れているのが彼の兄だろうことは聞かずともわかる。しかしゆっくりとアベルを見たキュリアス・ゴージのその目は理性を失いただ爛々と輝いていた。
 
「キュリアス・ゴージ…!」
「許さねえ…邪魔させねえ…「古の戦装束」は…全部…オラんだ…」
「違うだろう!あんた、自分の夢も忘れたのか!?そんなもののために動いてきたわけじゃないだろう!俺たちは!」
「オメのじゃねえ!今すぐ返せ!!」

アベルの声が届かないまま、キュリアス・ゴージが斧を振り上げる。咄嗟に自分も構えて受け止めていなければ真っ二つになっていたのはアベルの方だった。上から重くのしかかる重圧にアベルはギリ、と奥歯を噛み締める。
純粋な力勝負ではアウラとルガディンという種族差でアベルが劣る。このままでは押し負ける、と咄嗟にキュリアス・ゴージの腹を蹴り距離を取る。

吹き飛ばされたキュリアス・ゴージはそれをものともせず、ただ飲まれるままにアベルへ再び斧を振り上げる。今度は受け止めずにいなして流し、反撃する。
持ち手の部分であご下を狙うが理性を失っている彼にどこまで効果があるか。この小手先技が通用するのか。そんなアベルの不安は的中し、脳震盪を狙ったその一撃は難なく躱され下に振り下ろされた斧は振り上がり際にアベルの頬を掠めていく。

これは、相手の心配をしている余裕はない。

そう判断したアベルは防御の構えを解いた。代わりに攻め込むべく腰を深く落としキュリアス・ゴージの懐へと突っ込む。

狙うは胴体だった。彼を痛めつけるのでは?という懸念は無理やり頭の隅に追いやり下段から切り上げる。身体を無理やり逸らして躱され、彼の鎧に傷をつけるだけに終わったが体制を崩したところを更に踏み込み、斧を振り下ろす。
先ほどとは体制が逆になる。せめぎ合う中、キュリアス・ゴージの瞳に一瞬だけ理性が戻ったのをアベルは見逃さなかった。

「キュリアス・ゴージ!」
「う、ぐぅ…ッ!逃げ、ろ…!このままじゃ、オラ、オメを殺しちまう…!」
「馬鹿野郎!何を言ってる!」
「オラは、オラは…原初の魂を、制御できねえ…!バケモノみたいになっちまう…!オラの、ゆめは…もう…!」

悲しげに歪んだ、飲まれかけの瞳がアベルを見た。その瞬間、アベルの内側で何かが爆発した。

――何か、ではない。アベルの想い、そのものが。

「ふっざ、けるなああああああああああああああああああッ!!!」

思い切りキュリアス・ゴージを吹き飛ばし守りの構えととったそこに、アベルはこれ以上ないくらいに斧を叩きつけた。自分の想いが届いて欲しいと、切に願って。

「なんでそう簡単に諦めようとしてる!復興させたいと言っていたじゃないか!!ッ、一緒に、戦士を認めてもらおうと!!ここまで歩んできたじゃないか!」 
「ッ、あ、べる」
「今更お前だけの夢だなんて言わせるか!!――俺たちの夢だろうが!!諦めさせるか!!呑まれるなら何度でも引っ張ってやる!!お前が!!お前が本当の戦士になるまで何度だって!!!」
「っ、グ、ぁ」
「だから、ッ、だから勝手に諦めるな!!」  

技もへったくれもない、ただ斧を不器用に一心不乱に振り回す。

――いつものように、流されるままに見た夢に何を熱くなっているのだろう。いつものように適当に流されて、適当に行き着く先へ行けばいいのに、何を自分は踏みとどまっているのだろう。

ワインポートへの道を駆け抜ける間、アベルはずっと疑問に思っていたことだ。自我が薄いのは自他共に認める事実で、自分もそれでいいと思っていた。

自我が強いのは、辛いことだと思っていた。
流されるだけなら、後悔だってない楽な道だった。
いつものように、大きな流れに身を任せていれば良かったのだ。

――本当は。

(楽な方に逃げていたのは俺の方だった)

夢を語るキュリアス・ゴージの姿に羨望に近い何をを抱いた。

(流されていればよかった?今までどおり?)

呑まれ溺れそうになりながら、それでもアベルに逃げろという彼に尊敬を抱いた。

剣戟を響かせながらキュリアス・ゴージとアベルはぶつかり合う。アベルの一閃で篭手を吹き飛ばし腕を斬られながら。キュリアス・ゴージの一撃で吹き飛び、頭をしたたかに打ち付け血を流しながら。視界の半分を赤く染め、ぐらつく頭でアベルはよたりと立ち上がる。

思い出せ、なんでこんな旅路についたかを。己の主軸を。そしてその先々で生まれて育った思いを。

(――そんなことで、ニコラスを守れるものか…違う、それだけじゃない)

兄ちゃんみたいな冒険者になるよ、といった少年を思い出す。
ベルはおっきいのに優しいなぁ、と朗らかに笑う友を思い出す。
二人共、俺よりも強かったじゃないか。その時に思ったじゃないか。

彼女の存在は大きかった。けれども、今この時は自分に生まれた思いのが強かった。

(負けたく、ない)
「ッ、オオ、オオオオオオオオオオオ!!!」

闘争心が、魂の底から咆哮を上げる。再び呑まれたキュリアス・ゴージに向かって低く、早く突っ込んでいく。
共に歩もうと言ってくれた彼だからこそ、負けたくなかった。力に呑まれたままのキュリアス・ゴージに負けるわけには行かなかった。

生まれて初めて、アベルの内に勝利への執着が湧き上がる。

低姿勢で突っ込み、更にそこからぐんっと身を低く下ろす。両足を踏ん張り、床石を踏み抜かん勢いで力を込め、放たれた矢のように振り上げられた斧が、今度はキュリアス・ゴージの斧を裂いて吹き飛ばす。

キュリアス・ゴージも負けてはいなかった。大きくのけぞった姿勢を無理やり立て直し勢いよく斧を突き出す。アベルは咄嗟に避けるが避けきれず脇腹を大きく抉っていく。鮮血がキュリアス・ゴージの斧とアベルの顔に掛かる。
遅れてやってきた激痛にアベルが一瞬怯んだところを容赦のない一撃が襲いかかる。それを咄嗟に斧で受け溢れる赤に構わず踏ん張る。
ぼたぼたと垂れる血は、キュリアス・ゴージのものなのかアベルのものなのか。それすら判断できないほどに赤く広く広がっていく。

それなのにアベルは、笑っていた。

キュリアス・ゴージが一瞬怪訝な顔をする。その場違いなまでに穏やかな、それでいてぎらついた笑みの意味が分からずに。

「…強いな、あんたは」

掠れた、今にも消え入りそうな声が血の匂いに混ざって吐き出される。

正直、痛みも痺れ、手足に感覚がなかった。今すぐ地面に転がって目を閉じてしまいたかった。頭から流れる血も止まる気配がせず、掠めただけとはいえ肉を持っていく斧の一撃はアベルの四肢を浅からず裂いていた。

「…俺は、あんたに、勝ちたい」

ただ、痛みよりもその思いが何よりも強くて気にならなくなってしまったのだ。

「あんたに『戦士』として、勝ちたいッ!!」

思い切り、拮抗していた小競り合いを押し返す。よろめいたキュリアス・ゴージへと突っ込み、先ほど切り上げたほうとは逆の一閃を振り下ろす。

太い悲鳴と共に、キュリアス・ゴージの巨体が地に倒れる。

アベルもキュリアス・ゴージも満身創痍だった。それでもアベルは倒れるどころか、片膝もつかなかった。


溢れる歓喜は、初めて望み、得た勝利だからか。それともキュリアス・ゴージという男と戦えたという悦びか。今にも震えて砕けそうな膝は、しかししっかりと大地を踏みしめていて。

「――俺の、勝ちだ!!!」

アベルの勝鬨は、濃紺の星空に轟いた。


*

「本当に、わるかった…」
「もういいって、気にしすぎんだ。アベルは」

アベルとキュリアス・ゴージが顔を合わせたのはワインポートでの戦いから三日後だった。あのあと見事にぶっ倒れたアベルは連絡を受けたレイに運ばれたっぷり一晩目を覚まさなかった。目覚めたら開幕レイのげんこつとリコのビンタ、アキのタックルにルカの嫌味のオンパレード、更には呆れたようなヴィヴィアンのため息にフィオナの意味不明の妄言、止めにニコラスの「アベルのばか!!ばかばかばか!!!」という可愛らしいお叱りのもと外出許可をなんとかもらい今に至る。

「…キュリアス・ゴージ…その、あんたの兄は」
「…ああ、無事だ。ただ…怪我のせいで戦士を続けることは難しくなっちまった…オラが、呑まれちまったからだ」
「…けど、諦めるつもりはないんだろう?」

アベルが意地悪く聞くと、当然だ!とキュリアス・ゴージは頷いた。

今後の方針としては、兄に戦士の技の解読を続行してもらいアベルとキュリアス・ゴージはその技の習得のために更に鍛えていくということで決まった。

「やっぱり、オメはいちばんの戦士だな」

感心半分、悔しさ半分にそういうキュリアス・ゴージにアベルはしばらく沈黙して、首を横に降る。
 
「…いや、まだわからないぞ」
「え?でもオメは原初の魂の制御もできてたろ?そんで呑まれて暴走しちまったオラを助けて…」
「もし、これから先…あんたが原初の魂を制御できたなら?」
「…!」

アベルが言わんとすることがわかったのだろう、キュリアス・ゴージの澄んだ目が大きく見開かれる。

アベルも、口角を釣り上げる。いつもの穏やかな笑みではない、好戦的な光さえ宿した赤い双眸はキュリアス・ゴージをまっすぐ見た。

「…俺はそんなあんたと戦いたい。そして勝ちたい。だからその時まで『いちばんの戦士』は」
「ああ、お預けだな!」

ごつん、と突き出された拳に自分のそれをぶつける。次に戦う時は、絶対に同じ土俵に立っていようと誓う。そして。

「次は絶対、オラが勝つ!」
「そのセリフ、そっくりそのまま返すぞ…俺が勝つ!」畳む

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