小説
FF14 自機『アベル・ディアボロス』の話。種族の自己解釈・自己表現があります。ほんのり相方が出ています。(notうちよそ)
#FF14 #自機
我らの親愛、此処に有り

「ねえねえアベル、アベルの一族の話を聞かせて」

ニコラスのその言葉にまたかと呆れ半分微笑ましさ半分で笑みが溢れる。アベルとしては何度も語ってしまい少々飽きている上それが自分の生まれのことだから妙な羞恥心に苛まれるので御免被りたい。しかし愛しの妻がそれを望んでいるのなら、と随分中身の少なくなったグラスをテーブルに置いてあぐらをかいた上に座り込んでいるニコラスを抱きしめる。話の終盤で舟を漕ぐのはかなり前から知っていた。

「本当にこの話好きだな、ニコは」
「うん、好きなの。寝物語にもちょうどいいしね~」
「はいはい。寝たかったら好きなときに寝てください」

はぁい、と言いながらもたれ掛かってくる重みを腹で受けながらアベルは口を開いた。

*

それは、昔々のお話だ。誰も覚えていないアウラ・ゼラの女性が、アジムステップで生きる自分の種族から逃げ出した。理由はわからない。謀略だとも夜逃げだとも、駆け落ちだとも言われているが真相はどこにも記されていない。とにかくその女性はそこから逃げ出した。

逃げて、逃げて。乗っていた馬が過労で息絶え食料が尽き水が枯れても彼女は逃げ続けて、今で言うオサード地方から遠く離れたイシュガルドの地で倒れふした。
その時の彼女は己の一族からではなく竜詩戦争真っ只中だったイシュガルドの民に角と尾のせいでドラゴン族の手先だと追われていた。ドラゴンとイシュガルディアンに追われて力尽きた彼女を救ったのはヒューラン族の旅人だったと伝わっている。

そこから彼女と彼の逃亡ではない、世界を巡る旅が始まった。同じ頃彼女は彼に教わりながら己の一族にはなかった文化である文字に触れていたからか、手記を残している。初めて見る海、吹き荒れる砂嵐、空も覆う木々のさざめき。全てが彼女にとって初めてで、心を動かしたと不格好で柔らかい字でしたためていた。

同時に旅の先々で色々な人と出会った。

俊敏なミコッテ族、大柄で力強いルガディン族、聡明なエレゼン族、小柄だが器用なララフェル族、隣で歩む彼と同じ、他種族の文化に貪欲で柔軟なヒューラン族。それに蛮族と呼ばれる亜人たち。
いい人も悪い人もいた。気の合う人もいればそうでもない人もいた。何かを背負う人もいれば自由に生きている人もいた。

世界の大半を巡った頃、彼女は一つやりたいことを見つけていた。それをヒューランの彼に告げると彼とはそこで別れている。何故かは手記にも残っていない。ただ別れたという事実が記されているだけだ。

彼女はあちこちの、種族にかかわらず色んな人を集めた。共通していたのはみな居場所がなかった。居場所を求めた。止まり木を欲した。そういう人たちだった。
最初は六人、次の年は十二人、二十四人、三十六人と増えていった。どんどん増えて、時々減って、彼女は彼女たちとなった。一つの移動民族が誕生した瞬間だった。どうしてそのようなことをしたのか、彼女は手記に綴っている。

『誰かと笑っている世界の中で、いつだって誰かが一人で生きている。好んで一人でいるのかもしれないけれども、そんな人だって止まり木が欲しいでしょう。何より一人はとても心細いでしょう。私はそんな人たちの家になりたかった。』

彼女は孤独を恐れていたのだ。そんな人たちの寄り添える場所が欲しいと思ったのだ。自分は旅人だった彼に救われた、けれども他の人は?一人寂しくいるのかしら。そんなことはとても悲しいことだと、彼女はそう思ったのだろう。

そしてその手記には、一枚の羊皮紙が挟まっている。

『ここにいることが窮屈なら旅立っていけばいい。疲れたなら帰ってこればいい。誰かの歩みの力になりたい。ひとりぼっちの誰かがひとりぼっちじゃなくなって誰かと笑える最初の一歩になればいい。忘れないで。私は、私たちはいつだってここにいる。』

―――
――


「『私たちはディアの一家。一族なんて、堅苦しい言い方しなくてもいいのでしょう?私たちは家族で良き友なのだから』それが初代ディアの一家の女当主の言葉だ」

アベルが語り終えるとニコラスの頭がかくんと揺れる。ああ、寝たのかと苦笑して抱き直しベッドへ連れて行く。

諸説あるがそれが今のディアの一家に伝わるディア創立の逸話である。そのせいかアベルの一族は割合的にアウラ・ゼラが若干多い多種民族となっている。皆が皆ではないけれども陽気でおおらかでよく笑う。
突然家族が増えることもあればやりたいことが見つかったからと旅立っていくものもいる。ざっくばらんに言えば来る者拒まず去る者追わずだし、ディアの中で友から家族になるものも少なくない。世界を回っているのはおそらく初代当主が旅を続けた名残だろうと言われていたり。まあこのあたりはアベルの一族に興味を持った考古学博士に協力した時伝えたことではあるが。今の当主は腕相撲で決まったらしいと言った時の博士の顔は暫く笑えそうなくらい呆気に取られていたっけ。

権威への欲求が非常に低く、けれども世界を回る旅の商売人の一族故に代表を取らなければ色々と面倒だとはわかっている。が、基本誰がなってもディアはディアのままなので毎回当主決めは適当だ。神経質な人とは一緒にいさせられないなと思ったのは旅に出たばかりの頃だったか。

ニコラスに布団をかけながらなんとなくディアが恋しくなって久々に帰ろうかな、なんて思えるくらいにはアベルも自分の一族を愛している。

『ディア』とは、親愛という意味である。明日の友、良き隣人、未来の家族へ。――日溜まりのような、親愛を。畳む

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