小説
アベニコ。YPのある発言から妄想したネタ。
#FF14 #うちよそ
互いの硬さ
 「ねえねえアベル」
 酷く弾んだ声がアベルの角を震わせる。ゆっくり振り返れば満面の笑みのニコラスが期待を隠さずアベルを見ていた。ああ、かわいい。思わず口に出そうになったのを飲み込んでどうした、とぎこちなく笑みを返して返事をする。アベルの下手くそな笑みを馬鹿にせず更ににこー、となんとも緩い音が聞こえそうな笑顔を返してくるニコラスに不器用な心臓が高鳴りっぱなしだ。
 「あのねえ、アジムステップで聞いたんだけどあそこのゼラの人たちは、大好きを角をくっつけて伝えるんだって。アベルは知ってたの?」
 「? そうなのか?」
 「知らないの?」
 二人してきょとんと呆ける。アウラ・レンのニコラスが知らないのはともかくとして(同一種族とは言えレンとゼラでは大きく文化が違うのだ)アウラ・ゼラのアベルが知らないのはなんともおかしな話だ。その意味合いを読み取ったのか特に気にすることもなくああ、と手元のグラスを回しながらアベルが口を開く。
 「俺の一族は特殊なんだ。主な種族がアウラ・ゼラってだけで他種族からも大勢が混ざってる移動民族だったし」
 「そう言えばそうだよね。私の故郷にも年に3回くらいしかこなかったし」
 「だろ?色々変わった種族だったって未だに仕事先で言われるんだ・・・それは置いといて、その中でアウラ・ゼラの特性だけが飛び出してたら他の種族の住民がなじまないかも、っていう理由で色々なくなった風習もあるんだ。それは他種族も同じでミコッテ族の命名規則とかそういったものも含めてな。多分その角をくっつける、って言う奴もなくなった風習の一つなのかもしれないなぁ」
 当然新しくできた風習もあるみたいだけど、とアベルはくいとグラスを傾ける。お昼からお酒?とニコラスに顔を顰められて残念普通のジュースだと苦笑で返す。ついでに手元のグラスをニコラスに渡せばアベルの手からちびりと飲んで酒気がないのがわかったのかそのまま飲み始める。
 ああ、かわいい。今日何度目かわからない感嘆にアベルの頬が緩む。いつものさわがしいFCハウスの喧騒も悪くはない・・・いやかなり疲れるので御免被りたいな、と思い直す。それはさておき、ニコラスと過ごす穏やかな時間が酷く愛おしいと思う。
 恋焦がれて気が狂いそうになったこともある。嫉妬や欲望に荒れ狂ったこともある。二度と会えないかもしれないと、絶望したことさえあった。今でもたまにそうなりそうなことはあって、けれどもニコラスが飛び込んできてくれるから凶悪は衝動は今でもなりを潜めていてくれるのだ。
 本当に、好きだなぁ。口には出さず、膝の上へ座ったニコラスの髪をそっと梳く。お世辞にも手入れが行き届いたとは言えないその髪が好きだ。日焼けしてほんの少し指先に引っかかるのがとても彼女らしくて、好きだ。
 「ねえアベル」
 いつの間にかアベルの手からグラスをもぎ取ってジュースを飲み干していたニコラスが好奇心で輝かせた瞳をアベルに向けていた。なんとなく言いたいことがわかった気がして苦笑する。それでもきちんと思ったことは口に出して伝えたいニコラスだ、きっと理解したことはわかった上で告げてくるのだろう。
 「ちゅーもいいんだけど・・・角、くっつけてみない?」
 好きを伝える種類は多い方が素敵でしょう?そう言って立ち上がって、座り込んでいるアベルの両頬を手で挟み込む。鱗を撫でる手が心地いい。アベルのそれより小さくて、けれどもたこができているその手が好きだ。その手に自分の手を重ねながらニコラスを見上げる。
 「いいぞ。でもあんまり勢いよくしないようにな?俺の角硬いんだから、ニコの角が欠ける」
 「わかってるよ!じゃあ失礼しまーす」
 元気のいい声に苦笑する。こつ、と宛てがわれた音が角に響いて脳へ伝える。この風習が伝えられていなかったなのもあるが、他人とこうやって角を合わせるのは初めてだなとぼんやり考えた。
 その思考は、脳に直に響くような音で吹き飛んだのだが。
 「ッ!?」
 「ひゃあっ!?」
 ニコラスが擦り合わせた側の角を抑えながら飛び退いた。相当驚いたのだろう、尻尾の鱗が逆だって尻尾自体もびんと立ち上がってしまっている。それはアベルも同じで全身の鱗が逆だった。心臓がバクバクと全力疾走している。
 響いた音自体はよく聞くような在り来たりな摩擦音だった。それが脳内に響いた瞬間なんとも言えない感覚が過って気が付けばぞわりと身体が粟立った。愛情表現なんて生易しいものではなかった。一気に劣情を煽るような、そんな感触だった。
 それはどうもニコラスもおなじだったらしい。顔を真っ赤に染めて口をはくはくとうごかしていた。きっと間違いなく、アベルも同じ顔をしているのだろうけれども。
 「こ、これっ、だめだね!びっくりしちゃった!あは、あははは・・・」
 言い出しっぺだからか引き攣った笑みを浮かべながら乾いた声を出すニコラスにアベルは近寄ってしゃがみこむ。未だに角を抑えていたニコラスの腕を引っ張って、無防備になったその角に唇を近づけた。
 「あ、べる?」
 「明日、ニコラスは休暇だったか?」
 「・・・そ、うだよ・・・アベルも?」
 「いや、長期依頼が入ってる」
 上擦ったニコラスの声がえぇ、と驚愕に変わる。しかしアベルはそれどころではなかった。明日のことなどもうどうでもよくて、今はただ目の前の愛おしい女の事しか見えていないしかんがえていない。彼女が関わるとなりふり構わなくなると知っているのは果たして何人くらいなのだろうか。なにせ、本人にも自覚がないことなのだから。
 「明日なんて知らない。なあ、ニコラス」
 「・・・な、に?」
 「今夜、抱くから空けておいてくれ」
 日が沈むまでは耐えるから。それだけ言うとアベルは足早に家を出て行った。ああは言ったが恐らく明日の準備でもしに行ったのだろう。その背中を見送ってニコラスは暫く座り込んだまま立ち上がれなかった。別にご無沙汰という訳ではない。ただいつだってニコラスを求めてくるときのアベルはいいか?といつだってニコラスの返事を待っている。
 あんなにストレートに求めてきて、ニコラスの答えを聞かなかったのははじめてだったのだ。
 「・・・あ、アベル、ずるいよ、それ・・・ッ!」
 突然豹変した夫にニコラスが絞り出すよう呟いた。そしてなんとなく今夜がいつもよりも長い夜になりそうだと考えて今度は顔全部を真っ赤に染めたのだ。

 同じ表情を手で抑えながら違う部屋でしているアベルの事は気付かずに。畳む

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