小説
ちょろっと事後描写あり。直接描写はない。
#現代組 #うちよそ #R15
まあお決まりと言えばお決まりのパターン
 「じゃあせんせーのデビュー戦勝利を祝ってかんぱーい」
 「か、乾杯」
 ごちん、と鈍い音を立てながらビール缶同士がぶつかる。適当に買ったつまみだのジャンクフードだのをあたりに広げて雫月は目の前の男にへらりと笑いかける。長身を縮こまらせるように座った男は彼の大学の非常勤の講師だった。名前は浅霧十鵲。変わった名前だったから妙に頭に残っていた。
 何故講師の彼が雫月の下宿先にいるかというと話は数時間前に遡る。

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 「あれ、先生ちゃう?」
 趣味のサバイバルゲーム会場にて、友人の相田雄輔の間延びした声に雫月が目を瞬かせる。あれ、と指さされた方を見ると確かに見覚えのある姿がそこにはあった。
 「なにしてんだろこんなとこで・・・ってまー普通に考えりゃサバゲーだよな」
 「そうやったとして意外すぎへん?・・・佐辺君、またなんかしたんちゃうの?見かけたから追っかけて来たとかありそうやん」
 「いや何もしてねぇ、じゃなくてあいちゃん俺をなんだと思ってんの?」
 「問題児」
 「割と真面目に生きてんだけどなぁ」
 雄輔の冗談(?)に苦笑で返して雫月が歩を進める。行き先がわかった雄輔は苦笑を一つこぼしてその後ろについて行く。
 難なく人混みをかいくぐり、目的の人のすぐ隣まで行ってぽんと軽く叩く。
 「こんな所で何してんすか?せーんせ」
 返事の代わりにじゃこ、と鈍い音が響く。雫月が固まり雄輔が焦ったように目の前の銃口をずらしてくれた。
 「浅霧先生、人に銃口向けたらあかんって」
 「・・・えっと、どちら様でしょうか」
 雄輔が絶句する。まあ非常勤だし覚えてなくてもしょうがねえな、と無理やりそう思うことにして雫月はあんたの生徒ですと頬を引き攣らせた。

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 「いやほんとせんせ人の事覚えて無さすぎでしょ」
 けたけたと笑う雫月に十鵲が気まずそうにビールを口に含む。雄輔は別の用事が有るからと先に別れたため今はいない。さっき謝ったじゃないですか、と拗ねる姿に雫月の中の十鵲の印象が崩れては組み直される。
 同じ講座を受けている友人も雫月も彼に対して何を考えているのか分からない、少々気味の悪い講師だった。素性もしれないし最低限の会話しかしない。余り関わりたくない類の人間である、と言うのが彼への第一印象だ。
 しかし喋って見れば結構すぐ拗ねたり、デビュー戦の反省点を言えば次はこうすると負けず嫌いを見せてきたり。雫月の冗談に本気で驚いたり少し笑ったりと、かなり感情豊かだった。何より自分が興味のあることに対して饒舌に喋るのだ。聞き心地のいい声とまとまっていてわかりやすい話し方に雫月も思わず踏み込んで質問をして、と会話が途切れなかった。
 時計が日付を超えたあたりで、雫月は十鵲に声を掛けようとした。2人で相当飲んだし、終電も無いだろうから泊まっていけと言うつもりだった。現にそこそこアルコールに強い自分が目を回している。結構早い段階で顔を赤くしていた講師1人追い出すのも気が引けたのだ。
 その言葉は、十鵲の唇でせき止められた。
 酔ったらキス魔になるタイプなんだろうな、と緩く考えていた雫月はしかし次の瞬間長身に押し倒されて組み敷かれる。
 「ちょ、せんせ?」
 退いて、と薄くは無い胸板を押し返す。しかし熱に浮かされた目はずっと物欲しそうに雫月を見ていた。こくり、と喉が鳴る。どちらのものかは分からない。まずいと訴えていた理性は十鵲の熱とアルコールに当てられて溶かされる。
 やがて十鵲が雫月の唇を再度塞いだ。大きな手が雫月のシャツの下に潜り込んで、そして。

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 雫月はぱち、と目を覚ました。薄ら寒いのは服を着ていないからだし腰が痛くて下肢がベタつくのはまあつまりそういう事なんだろう。思ったよりダメージねえな、と思いながら煙草に手を伸ばす。誰かと寝た後の習慣だった。身体に回された長い腕が少し邪魔だった。動いたからか引き込むように腕に力が込められる。跳ねている髪を梳いたのはなんとなくだった。
 薄らと十鵲が目を開ける。素っ裸の雫月を見て跳ねるように飛び起きた。
 「・・・」
 「おはよ、せんせ」
 鬱血と歯型だらけで、しかも掠れた声の雫月と下着だけしか着けていない自分の状態で全て察したのだろう。
 「・・・すいません、でした・・・ッ!」
 下着1枚で土下座された。

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 雫月がシャワーから出ると十鵲が抜け殻のような顔でテーブルに簡単な食事を並べている光景に目を白黒させる。
 「え、何。つか材料とかなかったよね?」
 「買ってきて作りました・・・」
 「別に帰ってよかったのに」
 「帰れるわけないでしょう!?その、無理させましたし・・・」
 あっけからんとした雫月の言葉に十鵲が目を剥く。その直後目に見えて落ち込んだ講師にわかりやすいなぁと苦笑した。
 「まあせんせーは気持ちよかったかも知んないけど俺全然イってねえし、あちこち痛いし」
 「う」
 「中出しされたし、俺処女食われたし」
 「・・・すいませ」
 「でもメシ作ってくれたし、それでチャラでいーよ」
 は?と思わず十鵲が素っ頓狂な声を出す。並べられたサンドイッチをひとつ摘んで口に放り込む。自分の為に食事を用意されたのはいつ以来だっけと考える。
 「下手くそだったけどね」
 よかったね、女の子じゃなくて俺で。大ダメージを受けたのか崩れ落ちた十鵲に雫月は嘲笑ではない笑みをひとつへらりと零した。

 その後、
 「わ、私も童貞でしたからね!?」
 と言うとてつもなくどうでもいい十鵲のカミングアウトに雫月はものすごく生ぬるい眼差しでそっかぁ、と呟くのだった。


 「なんですかその目は!!」
 「いや、初めてなら下手くそでもしょうがねえよ、うん」
 「慰めてるんですか!?貶してるんですか!?」畳む

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