プロローグ

何もなかった。見渡す限りの灰色の地と暗い中ほんのりとだけ光を反射するだけの岩が浮いている以外は何もない場所だった。水も、風も、熱量も。何もかもがなくて冷え切っている。
その中に一つだけ異質なものがあった。

巨大な木だった。

否、そのような有機物はとうの昔に滅び朽ちて、その欠片すら残っていない。あくまで木の形をした、大地に積みあがった灰色の土くれがかろうじて木と呼べる体裁を保っているようなそんなものだ。その木の根元に一つ、丸い影がある。

それは人の形をしていた。人の形であるだけのものだ。灰色の大地の上に座り込んで天を仰いでいた。
女の形をしたそれは、蒼銀の目で空の星をなぞっている。灰色の大地に、金糸交じりの長い赤毛が広がって、まるで血だまりのようだ。その中に納まるように座り込んでひたすら天を仰いでいる。

これは、長い時間天だけを見ていた。時々気が向いたら少し動いて、また巨大な地面の塊(これに呼称等ないので暫定的に木と呼ぶことにする)の麓に戻って座り込んで天を仰ぐ。

何度も朝が来た。何度も夜が来た。その間に幾多の星が生まれて輝き、そして死んでいった。

最早時を数える等、それにとっては意味はなく。終わった世界の空をただ眺める。
その合間に微睡んで思い出すのは、はるか昔。この世界が、星が終わる瞬き一つのような合間の出来事。おしまいまでの、ほんの少しの熱量と激動、ただそれだけ。

——これは、終わった世界でただ一つ残されたモノが、過去を思い出しては微睡み、ただ幾多の星を見送るだけの話。もう全てがとうの昔に終わった後の話だ。