ちょっとSKIMAをどうするか考えあぐねている。もう少し宣伝させてもらってもいいのか…ご依頼専用のフリメのアドレスも増やしたい。なんか思ったよりちゃんと準備できてなかったなと反省しておる。
一月二月で準備して、三月~四月の間にどうにかしよう。
一月二月で準備して、三月~四月の間にどうにかしよう。
CoCシナリオ「オールドメン・アクト・ライク・エンジェルズ」のネタバレがある。後日談。
#CoC #ネタバレ #上田剛 #メンジェ
貴様の矮小な罪悪感など断罪も救済もするに値しない
「判決を言い渡す」
時折遠くなる音の中、無罪と言われた瞬間どこか萎えて無感動になる自覚を抱えたまま、上田は弁護した相手の罵倒を聞き流した。嘘つき、勝とうと言ったくせに、etc.
その一切合切が途切れ途切れに聞こえて、感情に何も響かず、ただ淡々と頭を下げて申し訳ありませんでしたと熱すら込められない謝罪を吐き出した。
*
自首しよう、そう覚悟した頃には全てが終わっていた。奇天烈も通り越した、口にするのも忌々しい格好で、恐怖と不愉快の全てを入り混ぜたようなあの空間で起こった出来事を夢と切り捨て、流れたニュースで現実だと思い知ったのはかなり早い段階だ。四十年も続いただろうあの悍しいカルトそのものの出来事が自分の白昼夢ではなく現実にあったものとして再認識した瞬間思わず頭を抱えて半日程動けなくなったくらいだ。
それでも、そんな上田の心象もお構いなしに日常は過ぎていく。何度も自首しようとか、人をあんな惨たらしく殺した自分が誰かを弁護士するなんてちゃんちゃらおかしいと自嘲しても、あれはしょうがない事なのだと、そうしないと自分が死んでいたかもしれないと言い聞かせても無駄だった。許されたくて裁かれたくて、けど誰も、共に巻き込まれて行動した二人の男達以外は上田が何をしたのか知らないから誰にも吐き出せないまま、一ヶ月を無理やり過ごした。
*
お前最近様子おかしいぞ。長めの休みやるから病院行ってこい。
事務所長からそう言われて一週間の休暇を言い渡されて上田はしどろもどろになった。
耳がおかしくなった自覚はあったが、それでも依頼人や裁判官、相手の検察や別の弁護士の口元を見ていれば聞こえない事を差し引いても答弁は出来ているはずだ。証拠は揃えても裁判に負けるのはよくあることで、上田自身の戦績は良くも悪くも普遍的で、病院に行けと言われる程ではないはずなのだ。それを所長に伝えても取り付く島もなく強制的に休まされ、挙げ句の果てに病院まで本当に紹介されてしまった。あの件もあり何がなんでも行きたくなくて抵抗したが恩人に困り顔をされてしまったら上田は何も言えなくなってしまったのだ。
紹介された病院はいくつもの科を抱えた大型の病院だった。それがあさひのクリニックを、藤堂医院を思い出させて腹の底から苦いものが込み上げる。耳鼻科で診療されてから心療科へ回される。細かい事は聞き流す、というより普通に聞こえづらかったので理解などほとんど出来やしなかったが、どうやらストレス性の難聴らしかった。
「何か、悩みでもあるようでしたらカウンセリング等もしてますけど、どうされます?」
「……いや、いいです。大丈夫なんで」
そうですか。それだけ言うと深くは踏み込まず処方する薬の説明に入ったことに安堵した。
会計もそこそこに逃げ出すように病院から飛び出す。あの、清潔感に紛れた薬品臭さから逃げ出したかった。脳裏に鮮明に映るのは自分が轢き殺した、否すり潰した男の最後の顔と、ドリルの先からわずかに溢れた血の色と。そして逃げて見ないようにしていた、重機の下の人体とも言えない肉片。
「あれ、上田さんじゃん。纐纈さんと待ち合わせでもしてたの?」
は? と思わず顔をあげる。色付きのメガネと、まだ冷えるのに有名な菓子のイラストがプリントされているふざけたTシャツ。老木とそのすぐ隣には助けてくれ、と言わんばかりの顔をした纐纈がいた。
*
「はえ〜上田さんも体調不良だったの。大変だね〜」
どうしてこうなった。知るか俺に聞くんじゃねえ。
視線だけで纐纈と簡単なやりとりをして、目の前で何故か二人前頼んだパフェを見てえぇ〜? 俺甘いものの気分じゃなかったのになんで頼んだんだろ? と首を傾げながら口に甘味を運んでいる。
再会してからは早かった。何が早かったと言えば老木の動きがだ。元々とっ捕まっていた纐纈はもちろん目の前にいたのが老木だと認識した瞬間回れ右をした上田を容赦なく引っ捕まえて感動の再会〜、等ふざけた事を言いながら近くの喫茶店へ連れて行かれた。一人で思うまま注文していく老木に難聴の上田、ほぼ治っているとは言えチック症の纐纈にストップをかける余力はない。おっさん三人が顔を突き合わせて、そのうち一人は淡々とパフェを食べている図に一ヶ月の苦悩も少し馬鹿らしくなる。
「あ、これ上田さんの奢りね。弁護士さんって儲けてそうだし」
「あ? ……あ!? バカ言うなギリギリで生きてるわ!」
「えぇー……宛にしてたのに。じゃあ纐纈さんは? タクシーの運転手さんなんでしょ?」
「……ざ、んねんながら、今月はや、休んでて余裕、な、いな」
渋面でそう答える纐纈にええぇ? とさして残念そうな顔もせず呻いて、しかしまあいいやと再びパフェに口をつける。その隣にフライドポテトの山やらチキンステーキやら山盛りになっているのだが、それらを食うつもりなのだろうか。このトンチキな男は。上田の視線に気づいた老木はわざとらしく体をくねらせていやん、と気持ちの悪い声をあげた。
「何? 俺の事そんなに好き?」
「……? は!? バカ言ってんじゃねえよ気持ち悪ぃなお前! そんなに食えんのかって思っただけだ!」
「え? 食べたかったら食べてもいいよ? それ二人のだし」
「そ、んなに、食える、か、!」
「一人で食え!!」
「えーしょうがないなあ」
しょうがない、で済むのだろうか。そのまま一人で何事か喋りながら一人で注文した料理の山を消費し始める老木に、耳が聞こえないからと言い聞かせて上田は無視した。纐纈も同じ選択をした。
*
案の定、食べすぎた老木が苦しい〜動けない〜とごねたので二人で抱えて拾ったタクシーに詰め込み、彼の住居の近くらしい場所まで送る。なんでこんなことをしているのか、と上田が一瞬虚無に襲われる。
「ほえー、上田さんってこの事務所なんだねえ。纐纈さんはあのタクシー事務所なんだ。なるほどね、タクシー頼むとき指名するね」
「は?」
素っ頓狂な纐纈の声で我に帰る。いつの間にくすねたのか、老木の手には二枚の紙片がつままれていた。二人の職業用の名刺だった。
「お前こら返せ! 普通に窃盗だぞそれ!!」
「名刺って人に渡すためにあるからいいじゃ〜ん」
「あ、んたに!渡したお、覚えはない、ッ!」
「じゃあちょうだい? オッケーオッケーありがとー」
のらりくらりと躱してへらへらと笑う老木に纐纈が食ってかかる。上田も文句を追加しようとして、ふと冷静になる。
「あんたら、俺が何したか分かってこんなことしてんのか?」
ぽろりと溢れたのはそんな言葉だった。老木がキョトンとし、纐纈は吐きかけた溜息を止める。いや、わからないならいいと続けようとした上田の言葉をわざとかそれともたまたまか、どちらとも読めないタイミングで老木があぁ! と声をあげる。
「あれだよね、院長ブチっとやったやつ! あれかっこよかったよね〜」
「は……?」
ドリルギュイーン、ってさぁ。からから笑いながら不謹慎もいいところの発言を繰り出す老木に上田が固まる。察したらしい纐纈が軽くポンと肩に手を置いた。
「あ、の時は、あんたの行動が、さ、最適だった」
「何が、だ。俺は殺したんだぞ?」
「さんざ、ん。人を、巻き込んで、じ、自分たちだけ、栄えてきたに、人間、だ。酌量の余地ありじゃ、ないか、?」
「そーそー、と言うか上田さんがやらなきゃどのみち無理ゲーだったでしょあんなの。俺か纐纈さんがやってたよ」
ノーカンノーカン、と軽く言う老木に纐纈があんたは不謹慎すぎだ、と勢いよくど突く。いったぁ! と悲鳴をあげる老木の声を聞きながら上田はそうじゃないと言おうとして、やめた。なんだか馬鹿馬鹿しくなってしまったのだ。何が、とは言わないが。
許しが欲しいんじゃない。裁かれた上で許されるまで償わせて欲しかったんだ。
けど到底、俺が願っても叶うことはないらしい。畳む
#CoC #ネタバレ #上田剛 #メンジェ
貴様の矮小な罪悪感など断罪も救済もするに値しない
「判決を言い渡す」
時折遠くなる音の中、無罪と言われた瞬間どこか萎えて無感動になる自覚を抱えたまま、上田は弁護した相手の罵倒を聞き流した。嘘つき、勝とうと言ったくせに、etc.
その一切合切が途切れ途切れに聞こえて、感情に何も響かず、ただ淡々と頭を下げて申し訳ありませんでしたと熱すら込められない謝罪を吐き出した。
*
自首しよう、そう覚悟した頃には全てが終わっていた。奇天烈も通り越した、口にするのも忌々しい格好で、恐怖と不愉快の全てを入り混ぜたようなあの空間で起こった出来事を夢と切り捨て、流れたニュースで現実だと思い知ったのはかなり早い段階だ。四十年も続いただろうあの悍しいカルトそのものの出来事が自分の白昼夢ではなく現実にあったものとして再認識した瞬間思わず頭を抱えて半日程動けなくなったくらいだ。
それでも、そんな上田の心象もお構いなしに日常は過ぎていく。何度も自首しようとか、人をあんな惨たらしく殺した自分が誰かを弁護士するなんてちゃんちゃらおかしいと自嘲しても、あれはしょうがない事なのだと、そうしないと自分が死んでいたかもしれないと言い聞かせても無駄だった。許されたくて裁かれたくて、けど誰も、共に巻き込まれて行動した二人の男達以外は上田が何をしたのか知らないから誰にも吐き出せないまま、一ヶ月を無理やり過ごした。
*
お前最近様子おかしいぞ。長めの休みやるから病院行ってこい。
事務所長からそう言われて一週間の休暇を言い渡されて上田はしどろもどろになった。
耳がおかしくなった自覚はあったが、それでも依頼人や裁判官、相手の検察や別の弁護士の口元を見ていれば聞こえない事を差し引いても答弁は出来ているはずだ。証拠は揃えても裁判に負けるのはよくあることで、上田自身の戦績は良くも悪くも普遍的で、病院に行けと言われる程ではないはずなのだ。それを所長に伝えても取り付く島もなく強制的に休まされ、挙げ句の果てに病院まで本当に紹介されてしまった。あの件もあり何がなんでも行きたくなくて抵抗したが恩人に困り顔をされてしまったら上田は何も言えなくなってしまったのだ。
紹介された病院はいくつもの科を抱えた大型の病院だった。それがあさひのクリニックを、藤堂医院を思い出させて腹の底から苦いものが込み上げる。耳鼻科で診療されてから心療科へ回される。細かい事は聞き流す、というより普通に聞こえづらかったので理解などほとんど出来やしなかったが、どうやらストレス性の難聴らしかった。
「何か、悩みでもあるようでしたらカウンセリング等もしてますけど、どうされます?」
「……いや、いいです。大丈夫なんで」
そうですか。それだけ言うと深くは踏み込まず処方する薬の説明に入ったことに安堵した。
会計もそこそこに逃げ出すように病院から飛び出す。あの、清潔感に紛れた薬品臭さから逃げ出したかった。脳裏に鮮明に映るのは自分が轢き殺した、否すり潰した男の最後の顔と、ドリルの先からわずかに溢れた血の色と。そして逃げて見ないようにしていた、重機の下の人体とも言えない肉片。
「あれ、上田さんじゃん。纐纈さんと待ち合わせでもしてたの?」
は? と思わず顔をあげる。色付きのメガネと、まだ冷えるのに有名な菓子のイラストがプリントされているふざけたTシャツ。老木とそのすぐ隣には助けてくれ、と言わんばかりの顔をした纐纈がいた。
*
「はえ〜上田さんも体調不良だったの。大変だね〜」
どうしてこうなった。知るか俺に聞くんじゃねえ。
視線だけで纐纈と簡単なやりとりをして、目の前で何故か二人前頼んだパフェを見てえぇ〜? 俺甘いものの気分じゃなかったのになんで頼んだんだろ? と首を傾げながら口に甘味を運んでいる。
再会してからは早かった。何が早かったと言えば老木の動きがだ。元々とっ捕まっていた纐纈はもちろん目の前にいたのが老木だと認識した瞬間回れ右をした上田を容赦なく引っ捕まえて感動の再会〜、等ふざけた事を言いながら近くの喫茶店へ連れて行かれた。一人で思うまま注文していく老木に難聴の上田、ほぼ治っているとは言えチック症の纐纈にストップをかける余力はない。おっさん三人が顔を突き合わせて、そのうち一人は淡々とパフェを食べている図に一ヶ月の苦悩も少し馬鹿らしくなる。
「あ、これ上田さんの奢りね。弁護士さんって儲けてそうだし」
「あ? ……あ!? バカ言うなギリギリで生きてるわ!」
「えぇー……宛にしてたのに。じゃあ纐纈さんは? タクシーの運転手さんなんでしょ?」
「……ざ、んねんながら、今月はや、休んでて余裕、な、いな」
渋面でそう答える纐纈にええぇ? とさして残念そうな顔もせず呻いて、しかしまあいいやと再びパフェに口をつける。その隣にフライドポテトの山やらチキンステーキやら山盛りになっているのだが、それらを食うつもりなのだろうか。このトンチキな男は。上田の視線に気づいた老木はわざとらしく体をくねらせていやん、と気持ちの悪い声をあげた。
「何? 俺の事そんなに好き?」
「……? は!? バカ言ってんじゃねえよ気持ち悪ぃなお前! そんなに食えんのかって思っただけだ!」
「え? 食べたかったら食べてもいいよ? それ二人のだし」
「そ、んなに、食える、か、!」
「一人で食え!!」
「えーしょうがないなあ」
しょうがない、で済むのだろうか。そのまま一人で何事か喋りながら一人で注文した料理の山を消費し始める老木に、耳が聞こえないからと言い聞かせて上田は無視した。纐纈も同じ選択をした。
*
案の定、食べすぎた老木が苦しい〜動けない〜とごねたので二人で抱えて拾ったタクシーに詰め込み、彼の住居の近くらしい場所まで送る。なんでこんなことをしているのか、と上田が一瞬虚無に襲われる。
「ほえー、上田さんってこの事務所なんだねえ。纐纈さんはあのタクシー事務所なんだ。なるほどね、タクシー頼むとき指名するね」
「は?」
素っ頓狂な纐纈の声で我に帰る。いつの間にくすねたのか、老木の手には二枚の紙片がつままれていた。二人の職業用の名刺だった。
「お前こら返せ! 普通に窃盗だぞそれ!!」
「名刺って人に渡すためにあるからいいじゃ〜ん」
「あ、んたに!渡したお、覚えはない、ッ!」
「じゃあちょうだい? オッケーオッケーありがとー」
のらりくらりと躱してへらへらと笑う老木に纐纈が食ってかかる。上田も文句を追加しようとして、ふと冷静になる。
「あんたら、俺が何したか分かってこんなことしてんのか?」
ぽろりと溢れたのはそんな言葉だった。老木がキョトンとし、纐纈は吐きかけた溜息を止める。いや、わからないならいいと続けようとした上田の言葉をわざとかそれともたまたまか、どちらとも読めないタイミングで老木があぁ! と声をあげる。
「あれだよね、院長ブチっとやったやつ! あれかっこよかったよね〜」
「は……?」
ドリルギュイーン、ってさぁ。からから笑いながら不謹慎もいいところの発言を繰り出す老木に上田が固まる。察したらしい纐纈が軽くポンと肩に手を置いた。
「あ、の時は、あんたの行動が、さ、最適だった」
「何が、だ。俺は殺したんだぞ?」
「さんざ、ん。人を、巻き込んで、じ、自分たちだけ、栄えてきたに、人間、だ。酌量の余地ありじゃ、ないか、?」
「そーそー、と言うか上田さんがやらなきゃどのみち無理ゲーだったでしょあんなの。俺か纐纈さんがやってたよ」
ノーカンノーカン、と軽く言う老木に纐纈があんたは不謹慎すぎだ、と勢いよくど突く。いったぁ! と悲鳴をあげる老木の声を聞きながら上田はそうじゃないと言おうとして、やめた。なんだか馬鹿馬鹿しくなってしまったのだ。何が、とは言わないが。
許しが欲しいんじゃない。裁かれた上で許されるまで償わせて欲しかったんだ。
けど到底、俺が願っても叶うことはないらしい。畳む
自探索者小噺 シナリオのネタバレはありません。
#CoC #不破碧
何でもない日のエトセトラ
あら碧さん、と呼ばれて私は振り返る。今担当している患者の鈴木さんがニコニコしながら車椅子を動かしていた。
「ああ、私が押しますから」
「すまないねえ、いつも助かるよ」
人好きのする笑顔を浮かべながら私を見上げる鈴木さんはもうすぐ退院だ。碧さん、碧さんと私を呼ぶ声はいつだって優しくて、その声がもう聞けなくなると思うとほんの少しだけ寂しい。けど、患者さんが良くなって日常へ送り出すのが私の仕事だと思えば嬉しさのが勝った。
「それでね、今度孫が生まれるの。この病院に入院するんですって」
「そうなんですね。鈴木さんとは入れ違いになってしまいますね」
「そうねえ。けど元気になれば私から会いに行けるから」
初夏の風が生ぬるさを孕んで私たちを撫でていく。少し汗を書いた鈴木さんの額を拭いながら退院後の楽しみですね、と頷くとそれはもう嬉しそうにそうなの、と弾んだ声が帰ってくる。
「それに、碧さんにも会えるでしょう?」
その声に思わず呆気に取られた。私は看護師で、鈴木さんは患者で。私は患者さんを大切に思うし患者さんは私たちを頼るけど、結局のところはビジネスライクだと思っていたから。
ぽかんとする私を見上げながら鈴木さんは柔らかい笑みで深く頷いてくれた。
「碧さんには怪我をしてから本当に良くしてくださって感謝してるの。それにね、うちは娘夫婦も息子夫婦も共働きでお見舞いは難しいって聞いてたから寂しいんだろうなって思っていたの。けど、碧さんは休憩時間でも私を見掛けたら声をかけてくれたでしょう? そのおかげで全く寂しくなかったのよ。勝手に私の娘だと思っちゃったくらい」
ころころと転がす様にそう言ってくれた鈴木さんは、とても優しい顔で。私はうっかり、ぽろりと泣いてしまったのだ。
*
「そんな事もあったわねえ」
休日の少しおしゃれな喫茶店で、私の大好きな声がころころと笑う。
「その節は驚かせてしまって本当にすいませんでした」
「いいのよ、嬉し泣きって聞いた時は私だって嬉しかったんだから」
患者さんから年上の友達に変わった鈴木さんはあいも変わらず柔らかく笑ってくれる。
鈴木さんご一家とはなんのご縁か、私が当直の日の夜に娘さんが産気付いてスタッフが少なかった事もあり助産に関わった。双子の赤ちゃんを抱きしめながらありがとうと言ってくれた娘さんの泣き笑いが鈴木さんそっくりで、思わずもらい泣きして目を腫らしながら家に帰ったっけ。
そんな話をしながら、鈴木さんはふと思いついたような顔をした。
「そういえば、碧さんご結婚は?」
「お恥ずかしながらまだ、そういう人はいなくて……」
「そう……ねえ、もし良かったら紹介しましょうか?」
私の弟の息子なんだけれども、真面目な人なの。あなたを幸せにとは行かなくても苦しい時は一緒に頑張ってくれる子なの。
どうかしら? と聞かれて私はきょとんとした。一瞬遅れてそれがお見合いの話だと理解する。
頭に過ったのは、ぼんやりとしてるのに美味しそうにご飯を食べる顔。
「ごめんなさい、お気持ちはとても嬉しいんですけど大丈夫です」
「あら、そう?」
「はい。ちょっと、気になる人がいるから」
私の言葉に今度は鈴木さんがきょとんとして、それは素敵ね、大切にしてねと笑ってくれたのだ。畳む
#CoC #不破碧
何でもない日のエトセトラ
あら碧さん、と呼ばれて私は振り返る。今担当している患者の鈴木さんがニコニコしながら車椅子を動かしていた。
「ああ、私が押しますから」
「すまないねえ、いつも助かるよ」
人好きのする笑顔を浮かべながら私を見上げる鈴木さんはもうすぐ退院だ。碧さん、碧さんと私を呼ぶ声はいつだって優しくて、その声がもう聞けなくなると思うとほんの少しだけ寂しい。けど、患者さんが良くなって日常へ送り出すのが私の仕事だと思えば嬉しさのが勝った。
「それでね、今度孫が生まれるの。この病院に入院するんですって」
「そうなんですね。鈴木さんとは入れ違いになってしまいますね」
「そうねえ。けど元気になれば私から会いに行けるから」
初夏の風が生ぬるさを孕んで私たちを撫でていく。少し汗を書いた鈴木さんの額を拭いながら退院後の楽しみですね、と頷くとそれはもう嬉しそうにそうなの、と弾んだ声が帰ってくる。
「それに、碧さんにも会えるでしょう?」
その声に思わず呆気に取られた。私は看護師で、鈴木さんは患者で。私は患者さんを大切に思うし患者さんは私たちを頼るけど、結局のところはビジネスライクだと思っていたから。
ぽかんとする私を見上げながら鈴木さんは柔らかい笑みで深く頷いてくれた。
「碧さんには怪我をしてから本当に良くしてくださって感謝してるの。それにね、うちは娘夫婦も息子夫婦も共働きでお見舞いは難しいって聞いてたから寂しいんだろうなって思っていたの。けど、碧さんは休憩時間でも私を見掛けたら声をかけてくれたでしょう? そのおかげで全く寂しくなかったのよ。勝手に私の娘だと思っちゃったくらい」
ころころと転がす様にそう言ってくれた鈴木さんは、とても優しい顔で。私はうっかり、ぽろりと泣いてしまったのだ。
*
「そんな事もあったわねえ」
休日の少しおしゃれな喫茶店で、私の大好きな声がころころと笑う。
「その節は驚かせてしまって本当にすいませんでした」
「いいのよ、嬉し泣きって聞いた時は私だって嬉しかったんだから」
患者さんから年上の友達に変わった鈴木さんはあいも変わらず柔らかく笑ってくれる。
鈴木さんご一家とはなんのご縁か、私が当直の日の夜に娘さんが産気付いてスタッフが少なかった事もあり助産に関わった。双子の赤ちゃんを抱きしめながらありがとうと言ってくれた娘さんの泣き笑いが鈴木さんそっくりで、思わずもらい泣きして目を腫らしながら家に帰ったっけ。
そんな話をしながら、鈴木さんはふと思いついたような顔をした。
「そういえば、碧さんご結婚は?」
「お恥ずかしながらまだ、そういう人はいなくて……」
「そう……ねえ、もし良かったら紹介しましょうか?」
私の弟の息子なんだけれども、真面目な人なの。あなたを幸せにとは行かなくても苦しい時は一緒に頑張ってくれる子なの。
どうかしら? と聞かれて私はきょとんとした。一瞬遅れてそれがお見合いの話だと理解する。
頭に過ったのは、ぼんやりとしてるのに美味しそうにご飯を食べる顔。
「ごめんなさい、お気持ちはとても嬉しいんですけど大丈夫です」
「あら、そう?」
「はい。ちょっと、気になる人がいるから」
私の言葉に今度は鈴木さんがきょとんとして、それは素敵ね、大切にしてねと笑ってくれたのだ。畳む
#お知らせ
かつて第五人格のキャラクターを自分の解釈のまま動かす、いわゆる「弊荘園」という囲いで遊ばせてもらっていました。ですが人を選ぶジャンルな上、中々のグレーゾーンな楽しみ方なので(当時知識が浅く配慮もしていませんでした)一時期離れていたのですが、ありがたいことにもう一度見たいと言っていただけたので過去分を掲載します。気が向いたらまた筆を執るかもしれませんが声を大きくして書きました!とは言わないと思います(今私自身の旬ジャンルが違うのもあり頻度も低いと思いますので)
この手の遊び方はあまりよくないとは思いつつ、遊びとしては面白いと感じているのでこそこそ遊ばせていただきます。私のたこつぼだぞ精神で行きます。
・必ず鍵をつけた上で、折り畳みワンクッション挟んで投稿。これはR18であってもそうでなくてもこのような形を取ります
・タグは #たこつぼ荘園 とさせてもらいます。第五人格という単語では取り扱いません。但しジャンルとしては第五人格です
・ワンクッションにキャラクターとしてのCPを記載します。
一度これで様子見て、問題なさそうならばこのまま載せておきますし、問題が発生するようなら掲載を取りやめる、あるいは個人間でのみのやり取りに移行する等の対処をさせていただきます。畳む