小説 2025/01/09 Thu #CoC #うちよそ #明彦飯 続きを読む藤堂明彦と飛鳥井小桃のPM12:52 朝日がまぶた越しに視界を刺激するのを感じて明彦はゆっくりと目を開ける。腕に抱えている温もりを覗き込んでまだ健やかな寝息をたてているのを確認して、起こさないようにそっと腕を抜く。 熟睡している小桃の額に軽く唇を押し当ててそろりとベッドから抜け出した。 散乱していた二人分の服を畳んで部屋の隅に置き(小桃の下着は目を背けてそっと服の間に隠したのは誰にも言うまいと心に誓った)適当にシャワーを浴びて、そのまま給湯器のスイッチを入れて湯を張り自分のテリトリーとも言える台所に立つ。今は午前十一時を回ったところだった。前日、勉強がわからないと小桃に勉強を教えてくれと頼み込み綾小路邸へと来てもらったのだが、秋奈も栞も数泊出かけるというのもあり、まあ盛り上がってしまったのだ。無茶させただろうか、と心配な反面乱れる小桃を思い出しかけ慌てて頭を振り四散させる。 起きる頃には昼くらいか、と考え明彦は冷蔵庫を開ける。ようやく利いてきた暖房に軽く舌打ちしつつ冷蔵室から野菜室を漁る。その後戸棚に近寄りじっと眺めうん、と一人頷いた。 寝起きに重たいのもなんだろう、と引っ張り出してきたのは人参、ジャガイモ、キャベツ、玉ねぎ、ブロックベーコンだ。ここまで出して小桃の食べられないものを確認し忘れたことに再び舌打ちしつつ、嫌いと言ったらそれだけ避けてしまえばいいと考え直して非常に手際よくジャガイモの皮をむき、少し大きめに切っていく。 キャベツも何枚か葉を剥がし適当な大きさに千切り、ベーコンもブロック状から細く切り分けて、涙をにじませながら刻んだ玉ねぎを別の容器に移したところで明彦は少し呻いた。 余談だが、明彦は調理という行動の中で唯一人参の皮むきが苦手である。以前皮むき器で皮を剥こうとした際、明彦自身の握力に皮むき器が耐え切れず破壊したことがある所為だ。だからと言って包丁で剥くには非常にやりづらい形をしているこの野菜をどうしてやろうかと毎度悪戦苦闘する。 と、ふと明彦の視界に恐らく前日栞が置いていったであろう製菓の本が目に付く。その表紙を見て明彦は俺天才かも、とひとりごち調理器具のしまってある引き出しを漁りだした。 ふわ、と漂ってくる香りに小桃は意識を浮上させた。目元を少し擦り、隣で一緒に寝ていた明彦がいないことを確認してああ、なにか作ってるのかと寝起き特有の緩やな思考を巡らせる。着た覚えのない、恐らく七分丈であろうシャツはきっと彼のだろう適当に予測し、下着だけを履いて香りにつられるようにふら、と部屋から出ていった。 案の定、明彦は台所にいた。背中を向け小鍋をかき回している背中に声をかければおはよ、と振り返り、目に見えて動揺した。 「…?明彦くん?どうしたの?」 「こ、こっちが聞きてぇよ…!下!下履け!」 「?? 履いてるわよ?」 「すいませんパンツだけでなくもう一枚お履きください!!俺のハーパンお貸しします!!!」 もの凄い勢いで押し付けられたハーフパンツについでに風呂沸いてるから入って来てくれお願いします!という明彦の叫びに小桃はくすりと笑う。裸を見るのも、触れ合うのも、初めてではないはずなのに毎回戸惑う様が少し面白い。はいはいと二つ返事で小桃は浴室に向かった。 体も温まり借りた服を来て小桃が台所に戻る頃にはすっかり用意が整っていた。野菜のスープとフランスパンに生ハムのブルスケッタが乗った物が並べられ丁度後片付けが済んだらしい明彦が飲み物を両手に突っ立っていた。 「おう…えーと、食う?」 「ええ、頂こうかしら」 ことりと置かれたカップには淹れたてらしい紅茶が湯気を立てていた。ふと見ると明彦はホットミルクを入れているようで、この組み合わせで果たして合うのだろうか?と小桃は疑問に思ったが聞くのも野暮か、と口には出さなかった。 「じゃあ、いただきます」 「どーぞ」 俺もいただきます、と両手を合わせる明彦をみながら小桃はフランスパンをかじる。オリーブオイルが塗られ、カリカリに焼き上げてあるフランスパンの上に乗っているブルスケッタが思ったよりもさっぱりとした味で小桃は少し驚きながら咀嚼する。 「明彦くん、これ…」 「んぇ?あー、くどいかなってヨーグルト混ぜた」 「そう…丁度いいわ」 少し行儀悪く、口に物を入れたまま喋る明彦になるほど、と小桃は納得しながら今度は野菜スープに手を付けようとして、止まる。 目をぱちくりとしながら小桃が見たものは、鮮やかな橙色の花だった。花だけならわかるが花びらまで浮いておりおかわりをよそいに立ち上がる明彦をまじまじと見てすごい、と思わず呟いた。 「…明彦くんって、本当に器用ね」 「器用じゃねえよ、人参の皮剥くの苦手だから誤魔化しただけ」 誤魔化しただけのレベルなのだろうか、これは。 思わず二度見したそれは型をくり抜いた、では済まない様な桜の花だった。食べるのが勿体無い。そう思っていたのだが目の前で作った当の本人が容赦なく桜の花を口に放り込んでいくのを見て思わず脱力し、釣られるように口に入れる。硬すぎず柔らか過ぎもしないそれを噛むのは少し抵抗があったが、しっかり味がなじんでいてただの人参とバカにはできなかった。 「そいやあさ、飛鳥井って今日なんか用事あんのか?」 「? ないわよ。強いて言うなら明彦くんの勉強を見るくらいね」 もごもごと食べ進めながら降ってきた話題に、小桃が今日の予定を思い出しながら答える。 と、じゃあ勉強はちょっと休憩してさ、と明彦はほんの少し照れくさそうにはにかんだ。 「ちょっと遅いけど、二人で出かけねえ?飛鳥井の好きなところ、ついてくからさ」 「…良いわよ、行きましょう」 控えめなデートのお誘いに、小桃もつられるようにはにかんだ。余談 某所某温泉宿にて。 「全く、気を使わせていることを多少なりとも察したらどうだ。あの甥っ子は」 「まあまあ、ほら…普段から色々助けてもらってますし…それに、好きな子といるときくらいは二人でそっと、させておいてあげましょう、先生」 「…まあ、いいさ」 そんな会話が露天風呂で展開されているなどとは、明彦も小桃も思いもしなかった。畳む
藤堂明彦と飛鳥井小桃のPM12:52
朝日がまぶた越しに視界を刺激するのを感じて明彦はゆっくりと目を開ける。腕に抱えている温もりを覗き込んでまだ健やかな寝息をたてているのを確認して、起こさないようにそっと腕を抜く。
熟睡している小桃の額に軽く唇を押し当ててそろりとベッドから抜け出した。
散乱していた二人分の服を畳んで部屋の隅に置き(小桃の下着は目を背けてそっと服の間に隠したのは誰にも言うまいと心に誓った)適当にシャワーを浴びて、そのまま給湯器のスイッチを入れて湯を張り自分のテリトリーとも言える台所に立つ。今は午前十一時を回ったところだった。前日、勉強がわからないと小桃に勉強を教えてくれと頼み込み綾小路邸へと来てもらったのだが、秋奈も栞も数泊出かけるというのもあり、まあ盛り上がってしまったのだ。無茶させただろうか、と心配な反面乱れる小桃を思い出しかけ慌てて頭を振り四散させる。
起きる頃には昼くらいか、と考え明彦は冷蔵庫を開ける。ようやく利いてきた暖房に軽く舌打ちしつつ冷蔵室から野菜室を漁る。その後戸棚に近寄りじっと眺めうん、と一人頷いた。
寝起きに重たいのもなんだろう、と引っ張り出してきたのは人参、ジャガイモ、キャベツ、玉ねぎ、ブロックベーコンだ。ここまで出して小桃の食べられないものを確認し忘れたことに再び舌打ちしつつ、嫌いと言ったらそれだけ避けてしまえばいいと考え直して非常に手際よくジャガイモの皮をむき、少し大きめに切っていく。
キャベツも何枚か葉を剥がし適当な大きさに千切り、ベーコンもブロック状から細く切り分けて、涙をにじませながら刻んだ玉ねぎを別の容器に移したところで明彦は少し呻いた。
余談だが、明彦は調理という行動の中で唯一人参の皮むきが苦手である。以前皮むき器で皮を剥こうとした際、明彦自身の握力に皮むき器が耐え切れず破壊したことがある所為だ。だからと言って包丁で剥くには非常にやりづらい形をしているこの野菜をどうしてやろうかと毎度悪戦苦闘する。
と、ふと明彦の視界に恐らく前日栞が置いていったであろう製菓の本が目に付く。その表紙を見て明彦は俺天才かも、とひとりごち調理器具のしまってある引き出しを漁りだした。
ふわ、と漂ってくる香りに小桃は意識を浮上させた。目元を少し擦り、隣で一緒に寝ていた明彦がいないことを確認してああ、なにか作ってるのかと寝起き特有の緩やな思考を巡らせる。着た覚えのない、恐らく七分丈であろうシャツはきっと彼のだろう適当に予測し、下着だけを履いて香りにつられるようにふら、と部屋から出ていった。
案の定、明彦は台所にいた。背中を向け小鍋をかき回している背中に声をかければおはよ、と振り返り、目に見えて動揺した。
「…?明彦くん?どうしたの?」
「こ、こっちが聞きてぇよ…!下!下履け!」
「?? 履いてるわよ?」
「すいませんパンツだけでなくもう一枚お履きください!!俺のハーパンお貸しします!!!」
もの凄い勢いで押し付けられたハーフパンツについでに風呂沸いてるから入って来てくれお願いします!という明彦の叫びに小桃はくすりと笑う。裸を見るのも、触れ合うのも、初めてではないはずなのに毎回戸惑う様が少し面白い。はいはいと二つ返事で小桃は浴室に向かった。
体も温まり借りた服を来て小桃が台所に戻る頃にはすっかり用意が整っていた。野菜のスープとフランスパンに生ハムのブルスケッタが乗った物が並べられ丁度後片付けが済んだらしい明彦が飲み物を両手に突っ立っていた。
「おう…えーと、食う?」
「ええ、頂こうかしら」
ことりと置かれたカップには淹れたてらしい紅茶が湯気を立てていた。ふと見ると明彦はホットミルクを入れているようで、この組み合わせで果たして合うのだろうか?と小桃は疑問に思ったが聞くのも野暮か、と口には出さなかった。
「じゃあ、いただきます」
「どーぞ」
俺もいただきます、と両手を合わせる明彦をみながら小桃はフランスパンをかじる。オリーブオイルが塗られ、カリカリに焼き上げてあるフランスパンの上に乗っているブルスケッタが思ったよりもさっぱりとした味で小桃は少し驚きながら咀嚼する。
「明彦くん、これ…」
「んぇ?あー、くどいかなってヨーグルト混ぜた」
「そう…丁度いいわ」
少し行儀悪く、口に物を入れたまま喋る明彦になるほど、と小桃は納得しながら今度は野菜スープに手を付けようとして、止まる。
目をぱちくりとしながら小桃が見たものは、鮮やかな橙色の花だった。花だけならわかるが花びらまで浮いておりおかわりをよそいに立ち上がる明彦をまじまじと見てすごい、と思わず呟いた。
「…明彦くんって、本当に器用ね」
「器用じゃねえよ、人参の皮剥くの苦手だから誤魔化しただけ」
誤魔化しただけのレベルなのだろうか、これは。
思わず二度見したそれは型をくり抜いた、では済まない様な桜の花だった。食べるのが勿体無い。そう思っていたのだが目の前で作った当の本人が容赦なく桜の花を口に放り込んでいくのを見て思わず脱力し、釣られるように口に入れる。硬すぎず柔らか過ぎもしないそれを噛むのは少し抵抗があったが、しっかり味がなじんでいてただの人参とバカにはできなかった。
「そいやあさ、飛鳥井って今日なんか用事あんのか?」
「? ないわよ。強いて言うなら明彦くんの勉強を見るくらいね」
もごもごと食べ進めながら降ってきた話題に、小桃が今日の予定を思い出しながら答える。
と、じゃあ勉強はちょっと休憩してさ、と明彦はほんの少し照れくさそうにはにかんだ。
「ちょっと遅いけど、二人で出かけねえ?飛鳥井の好きなところ、ついてくからさ」
「…良いわよ、行きましょう」
控えめなデートのお誘いに、小桃もつられるようにはにかんだ。
余談
某所某温泉宿にて。
「全く、気を使わせていることを多少なりとも察したらどうだ。あの甥っ子は」
「まあまあ、ほら…普段から色々助けてもらってますし…それに、好きな子といるときくらいは二人でそっと、させておいてあげましょう、先生」
「…まあ、いいさ」
そんな会話が露天風呂で展開されているなどとは、明彦も小桃も思いもしなかった。畳む