基本うちよそ、自キャラの話。時系列は順不同。TRPGシナリオ・FF14メインストーリーのネタバレがある作品があります。記載しているのでご注意ください。R18タグの作品のパスワードは関連CPのどちらかの身長で開きます。
#CoC #明彦飯
藤堂明彦と清水芳のPM18:14
「どヘタクソ」
「…」
綾小路邸の台所にて、最早台所の主と化した明彦は目の前の男にひたすら淡々と罵声を浴びせていた。
「何回言えばみじん切りとさいの目切り覚えんだよあんた。もう4回目だぞ」
「ど、どっちも一緒やん…」
「一緒に見えるなら眼科行け。もしくは前髪上げろ馬鹿」
「…ボク一応君より年上ですけど」
「今教えてるのは俺だけど」
明彦の冷たい視線を受けながら清水芳は返す言葉もありませんと両手をあげた。
ことの発端は芳が学校帰りの明彦を待ち伏せていたところだった。部活中の小桃を待つ間の暇つぶしをしている明彦の前にふらりとこの男が現れたのだ。そして明彦の用など気にもとめずに引きずるように明彦共々綾小路邸へと押しかけた。(尚この様子をプールサイドから小桃が見ていたことを明彦は知らない)
話を聞けば料理を教えて欲しい、という内容に明彦は開いた口がふさがらなかった。お互い面識はあるがいい印象はない。胡散臭くて気味が悪い、が明彦の芳への認識だ。
そんな男が気まずそうに自分に料理を教えてくれ、と頭を下げてきたのだ。食わせてくれ、ではなく。教えてくれ、と。
明彦は最初「くっだらねえ、自分で調べろ」と切り捨てたのだが芳の「これ、欲しい?」とすっと差し出された小桃の部活中の姿(スクール水着)と京都三条の某有名包丁店の包丁を差し出された瞬間
「しゃーねぇなぁ任せとけよ!!!」
と力いっぱい了承してしまったわけだ。我ながら情けないレベルのちょろさだった、とは後日本人談である。
そんなわけで急遽始まった料理教室だが芳は右も左もわからない状態だった。本人に聞けばインスタントを温めるくらいはできる、と胸を張っていたが明彦からすれば言語道断もいいところだ。新聞を丸めてその後頭部を思い切り張り倒すと顎で早く台所へ行けと指示したのが10分前。
それからは散々だった。火を使わせればすぐに焦がし、包丁を持たせると指を切りまくり、米を洗剤で洗おうとし始めるわで散々だった。重要なので二度言わせてもらった。10分の間で既に散々だった。三度言わせてもらった。
ただ芳は不器用ではあるが物覚えは早かった。いびつながらも皮の剥かれたじゃがいもの芽を取りながら明彦はほう、と感嘆の息を漏らす。いつも秋奈の所用を聞きに来る時のあのニヤケ顔は今は微塵もなく、細い目はいつになく真剣だった。いて、という言葉とともに指に新しい傷ができたのを見て明彦は絆創膏を渡す。ありがとお、と言う間伸びた言葉は普段見ている彼からは想像つかないほど穏やかだった。
「なあ、なんで料理しようとしたんだ?」
芳のできない部分、主に味付けのあたりをフォローしながら明彦は聞いてみた。ただの好奇心だった。しかしその問に返事はなく、訝しげに芳を見上げた明彦は開いた口が塞がらなかった。
顔面を真っ赤にしたままこっちを凝視し、顔を引きつらせている芳にただただ驚いた。明彦はみりんを計量カップから大量にこぼしていたし芳は深く指を切っていたがお互いそれどころではない。明彦は驚いているし芳は引きつっている。とてもシュールな光景だった。
やがて二人はぎこちない動きで手当と片付けをする。その合間に芳はぼそぼそと呟くように明彦の問に応えた。
「…同居しとるやつの、負担になりたないねん…ろくなこと、できへんから…」
その答えに明彦は目を丸くする。ただ意外だった。答えてくれることも、その答えの内容も。血も涙もないような、ろくでなしだと思っていたからだ。
だから次の明彦の言葉も仕方ないといえば仕方ないのだが、これが自爆になるとは誰が予想できようか。
「でもあんた、そんなのは女にやらせそうじゃねえか」
「お、んなやのうて…男やねん…」
昔の明彦なら、わからなかった。
しかし今の明彦には彼女がいる。飛鳥井小桃という、彼女(腐女子)が。
「あんたゲイかよ!!!うわこっちくんな!!!」
「ゲイちゃうわ!!!あとお前とかこっちから御免こうむるわボケェ!!!」
つまり、そういうことである。
ぎゃあぎゃあ騒いでいる二人を尻目に、煮込んでいた肉じゃがはほくほくと炊き上がっていた。
できた肉じゃがを大きめのタッパーに入れて芳に渡し、追い出してから明彦はiPhoneを見た。Lineの通知を見て思い切り床にiPhoneを叩きつけ破壊する。
『ねえ明彦くん、隣にいたお兄さんは誰?どっちが攻でどっちが受かしら?』
その一言に対する返事を放棄しながら。
しかしそのあと芳が何を思ったのか明彦の料理を教わりに来るのが習慣化して明彦の心は一部死んだ。畳む
藤堂明彦と清水芳のPM18:14
「どヘタクソ」
「…」
綾小路邸の台所にて、最早台所の主と化した明彦は目の前の男にひたすら淡々と罵声を浴びせていた。
「何回言えばみじん切りとさいの目切り覚えんだよあんた。もう4回目だぞ」
「ど、どっちも一緒やん…」
「一緒に見えるなら眼科行け。もしくは前髪上げろ馬鹿」
「…ボク一応君より年上ですけど」
「今教えてるのは俺だけど」
明彦の冷たい視線を受けながら清水芳は返す言葉もありませんと両手をあげた。
ことの発端は芳が学校帰りの明彦を待ち伏せていたところだった。部活中の小桃を待つ間の暇つぶしをしている明彦の前にふらりとこの男が現れたのだ。そして明彦の用など気にもとめずに引きずるように明彦共々綾小路邸へと押しかけた。(尚この様子をプールサイドから小桃が見ていたことを明彦は知らない)
話を聞けば料理を教えて欲しい、という内容に明彦は開いた口がふさがらなかった。お互い面識はあるがいい印象はない。胡散臭くて気味が悪い、が明彦の芳への認識だ。
そんな男が気まずそうに自分に料理を教えてくれ、と頭を下げてきたのだ。食わせてくれ、ではなく。教えてくれ、と。
明彦は最初「くっだらねえ、自分で調べろ」と切り捨てたのだが芳の「これ、欲しい?」とすっと差し出された小桃の部活中の姿(スクール水着)と京都三条の某有名包丁店の包丁を差し出された瞬間
「しゃーねぇなぁ任せとけよ!!!」
と力いっぱい了承してしまったわけだ。我ながら情けないレベルのちょろさだった、とは後日本人談である。
そんなわけで急遽始まった料理教室だが芳は右も左もわからない状態だった。本人に聞けばインスタントを温めるくらいはできる、と胸を張っていたが明彦からすれば言語道断もいいところだ。新聞を丸めてその後頭部を思い切り張り倒すと顎で早く台所へ行けと指示したのが10分前。
それからは散々だった。火を使わせればすぐに焦がし、包丁を持たせると指を切りまくり、米を洗剤で洗おうとし始めるわで散々だった。重要なので二度言わせてもらった。10分の間で既に散々だった。三度言わせてもらった。
ただ芳は不器用ではあるが物覚えは早かった。いびつながらも皮の剥かれたじゃがいもの芽を取りながら明彦はほう、と感嘆の息を漏らす。いつも秋奈の所用を聞きに来る時のあのニヤケ顔は今は微塵もなく、細い目はいつになく真剣だった。いて、という言葉とともに指に新しい傷ができたのを見て明彦は絆創膏を渡す。ありがとお、と言う間伸びた言葉は普段見ている彼からは想像つかないほど穏やかだった。
「なあ、なんで料理しようとしたんだ?」
芳のできない部分、主に味付けのあたりをフォローしながら明彦は聞いてみた。ただの好奇心だった。しかしその問に返事はなく、訝しげに芳を見上げた明彦は開いた口が塞がらなかった。
顔面を真っ赤にしたままこっちを凝視し、顔を引きつらせている芳にただただ驚いた。明彦はみりんを計量カップから大量にこぼしていたし芳は深く指を切っていたがお互いそれどころではない。明彦は驚いているし芳は引きつっている。とてもシュールな光景だった。
やがて二人はぎこちない動きで手当と片付けをする。その合間に芳はぼそぼそと呟くように明彦の問に応えた。
「…同居しとるやつの、負担になりたないねん…ろくなこと、できへんから…」
その答えに明彦は目を丸くする。ただ意外だった。答えてくれることも、その答えの内容も。血も涙もないような、ろくでなしだと思っていたからだ。
だから次の明彦の言葉も仕方ないといえば仕方ないのだが、これが自爆になるとは誰が予想できようか。
「でもあんた、そんなのは女にやらせそうじゃねえか」
「お、んなやのうて…男やねん…」
昔の明彦なら、わからなかった。
しかし今の明彦には彼女がいる。飛鳥井小桃という、彼女(腐女子)が。
「あんたゲイかよ!!!うわこっちくんな!!!」
「ゲイちゃうわ!!!あとお前とかこっちから御免こうむるわボケェ!!!」
つまり、そういうことである。
ぎゃあぎゃあ騒いでいる二人を尻目に、煮込んでいた肉じゃがはほくほくと炊き上がっていた。
できた肉じゃがを大きめのタッパーに入れて芳に渡し、追い出してから明彦はiPhoneを見た。Lineの通知を見て思い切り床にiPhoneを叩きつけ破壊する。
『ねえ明彦くん、隣にいたお兄さんは誰?どっちが攻でどっちが受かしら?』
その一言に対する返事を放棄しながら。
しかしそのあと芳が何を思ったのか明彦の料理を教わりに来るのが習慣化して明彦の心は一部死んだ。畳む
#CoC #明彦飯 #うちよそ
藤堂明彦と桜森夫婦+αの12月24日
「ええと、こいつを…うぇぇぇえええぇぇ…?」
年間自室にいる時間より長くいるであろう台所で、明彦は頭を抱えていた。目の前には少々大きめのチョコレートでコーティングされたケーキがあり、バラの形を取ったマジパンやあらかじめチョコペンで書いた幾何学模様のチョコプレート、その他諸々が作られ所狭しと並べられていた。。
それを見ながら明彦は頭を抱える。いくら調理・製菓・工作が好きだからと言ってこれはやりすぎたと。せっかく作ったのにケーキの上に並べられないではないかと。
「俺はアホか…いや、アホだった…」
うろうろと台所を落ち着きのない動物のように動き回っていた明彦は、ふと戸棚を開けた。恐らく秋奈の買ってきたであろうお徳用のマシュマロとビスケットに目をつけたのだ。勢いよく冷蔵庫の扉をあけ(メキ、と冷蔵庫が軋んだのには気付かなかったらしい)はちみつを見つけると引っ張り出しっしゃと小さくガッツポーズをする。
「秋奈さんグッジョブだぜ…毎回食えねえのに大量に買ってくんのは謎だけどな」
そんなことをつぶやきながら明彦はビスケットの裏にはちみつを塗っていく。ある程度の枚数塗って、塗ってない方のビスケットにマシュマロを乗せていく。電子レンジを500wに合わせ熱を通すこと数秒、ふんわり膨らんだマシュマロを見ながらはちみつ付きのビスケットで挟み余っていたガナッシュでコーティングする。
その作業を延々と繰り返し、チョココーティングのビスケットを冷ましている間にケーキの方を飾り、ビスケットの方が冷えたのを見計らってそちらにも余った装飾を施した。
ここまでして、明彦はまた頭を抱えることになる。
「…………作りすぎた」
明らかに渡す人数以上の量になった菓子を眺め呆然と呟いた。
いくつかは秋奈と栞へと冷蔵庫へ突っ込み、ラッピングしたそれを片手に明彦は家を出る。目的地へ行く最中、見知った赤いクセ毛みやり丁度いいやと声をかけた。かけたのだが。
「………おい、何やってんだあんた…」
「んー?見て分からないかい?」
「分かんねえよ。不自然に電柱に隠れてるだけだろうが」
明彦がジト目で見やるとなぁんだ、わかってるじゃねえかと独特な口調で山田義弥が軋むような笑い声をあげた。神出鬼没でどこへ行けば会えるのかと考える間もなく現れた義弥に明彦はぐい、と小さい方の包みを押し付ける。
「? これはなにかね???」
「お菓子。作りすぎた、やる」
「ほぉぉお?ボクに?お前さんがぁ?」
ぱちりと片目を瞬きさせて明彦と包みをみやり、にんまりと笑う。うわ、と明彦が思ったのも束の間明彦の顔を下から覗き込んで不気味に歪んだ笑みを覗かせた。
「なァんだよォ~、旦那、結構俺のこと好きなんじゃ…」
「一々うっぜぇわアホが!!」
最後まで言わせず、明彦は容赦なく義弥を宙に放り投げた。
暫く義弥と戯れ、別れてから明彦は目的地へと到着した。広々としたコーナーはここで飼育されている馬たちの為にあり、時間帯が重なったのか外でゆっくりと歩いている馬を眺め、ふと馬を引いている人影を見つけ、近づいた。向こうも気がついたのかぺこりと頭を下げる。下の方で二つに結んだ桜色の髪が動きに合わせて下へと流れる。
「藤堂さん、こんにちわ」
「うっす、おーじさんたちいる、いますか?」
「やだなぁ、藤堂さんのが年上じゃないですか。普通でいいですよ」
と、快活に笑う桜森さくらにわかったと頷く。
「そういえばお兄ちゃん夫婦ですよね、丁度向こうの仕事終わったから家の方に居ると思いますよ」
「おう、サンキュー。あ、そうだ、これ」
思い出したように明彦はさくらにも義弥と同様の包みを渡す。きょとんとしたさくらの顔に既視感を覚えて思わず吹き出しそうになるのをなんとか堪えて明彦は普段から邪魔してる礼だと告げる。
「わ、わ…そんなの気にしなくてもいいのに」
「いや、結構おーじさんには世話になってるし、お前の家に上がらせてもらって割と好き勝手してるしな」
「ありがとうございます!」
「だからいいって…ところでよ」
突然意味深に声を潜めた明彦に首をかしげさくらは明彦の妙に真剣な顔を見上げる。それに気づいて明彦は少し屈んで
「…馬肉、食いたいから1頭もらっていいか?」
その瞬間、だめです!!!食べれないですから!!!というさくらの絶叫がコーナー中に響き渡った。
「もう、そんな意地悪言っちゃったんですか?」
「いや…冗談って気づいてくれるかなって…」
「だからと言って言っていい冗談と言ってはいけない冗談があるだろう?」
「…はい、すいません…」
ちょっと泣きそうな形相で叫んださくらの声を聞いて飛び出してきたのは明彦の尋ね人で二人揃って飛び出してくる辺りやはり仲がいいなぁとしみじみ思う。そんなことを考えている明彦に尋ね人のうちの片方、きさりが声をかけた。
「所で、私たちを訪ねてきてくれたって聞いたんですけど…」
「なんだ?分からないことでもあるのか?」
「いや、そうじゃねえんだけど…これ」
そう言って二人の前に、一番大きな包みを差し出し照れくさそうに明彦は告げた。
「おーじさん、きささん…ええと、め、メリークリスマス…大したもんじゃねえけど、プレゼント…に、なりゃあいいなぁ」
「! はい、メリークリスマス、です…!」
「明彦くん…!」
夫婦揃って顔を明るくされて恥ずかしさが増し、少し俯いた明彦にきさりが開けてもいいですか?と聞いてくる。小さく肯けばかさかさと紙を開く音がして、またもや夫婦そろって声をあげた。
「す、すごいです…!おいしそうです…!」
「これは…プロ顔負けじゃないか…」
二人の眼前には艶やかなガナッシュでコーティングされ、ほんのりと柔らかい色で着直されたバラのマジパン、Merry Christmasと書かれた文字だけのチョコプレート、少量のアザランで上品に飾り付けられ…ケーキの下に桜士ときさりを模したマジパン細工が添えられていた。
「はは、きさりさんにそっくりだな」
「ええ、桜士さんにとてもよく似てます。明彦さんすごいです」
「そ、そこまで言われると…恥ずかしいんだけど…サンキュー…」
「食べてしまうのが勿体無いな…」
「え、こんなんいくらでも作るから食ってくれよ…ほら、二人でケーキ入刀!的な?」
照れくさすぎて訳の分からないことを言い始めた明彦に勿体無いと言いながらもきさりは小さなナイフを持ってくる。それをそっと取り上げて明彦は包みについていたリボンをくくりつけきさりに返せば二人共頬を赤らめ小さなナイフを二人で持つ。
ナイフの刃は柔らかくケーキに沈んでいく。それを八等分繰り返し一切れを皿へ移そうとしたときまた二人から声が上がった。
「わぁ…っ!」
「サン・セバスチャンじゃないか…!」
通常生地とココア生地が交互に入れ替わり綺麗なモザイクを描くケーキにちょっと頑張ったんだぜ、と明彦は頬を掻く。
「いつも世話になってるから、あれだ、うん。ありがとう的な…?んで、末永くお幸せに!」
最後の一言が本気混じりの軽口で、桜士ときさりは一瞬ぽかんとして、おかしそうに笑ったのだ。畳む
藤堂明彦と桜森夫婦+αの12月24日
「ええと、こいつを…うぇぇぇえええぇぇ…?」
年間自室にいる時間より長くいるであろう台所で、明彦は頭を抱えていた。目の前には少々大きめのチョコレートでコーティングされたケーキがあり、バラの形を取ったマジパンやあらかじめチョコペンで書いた幾何学模様のチョコプレート、その他諸々が作られ所狭しと並べられていた。。
それを見ながら明彦は頭を抱える。いくら調理・製菓・工作が好きだからと言ってこれはやりすぎたと。せっかく作ったのにケーキの上に並べられないではないかと。
「俺はアホか…いや、アホだった…」
うろうろと台所を落ち着きのない動物のように動き回っていた明彦は、ふと戸棚を開けた。恐らく秋奈の買ってきたであろうお徳用のマシュマロとビスケットに目をつけたのだ。勢いよく冷蔵庫の扉をあけ(メキ、と冷蔵庫が軋んだのには気付かなかったらしい)はちみつを見つけると引っ張り出しっしゃと小さくガッツポーズをする。
「秋奈さんグッジョブだぜ…毎回食えねえのに大量に買ってくんのは謎だけどな」
そんなことをつぶやきながら明彦はビスケットの裏にはちみつを塗っていく。ある程度の枚数塗って、塗ってない方のビスケットにマシュマロを乗せていく。電子レンジを500wに合わせ熱を通すこと数秒、ふんわり膨らんだマシュマロを見ながらはちみつ付きのビスケットで挟み余っていたガナッシュでコーティングする。
その作業を延々と繰り返し、チョココーティングのビスケットを冷ましている間にケーキの方を飾り、ビスケットの方が冷えたのを見計らってそちらにも余った装飾を施した。
ここまでして、明彦はまた頭を抱えることになる。
「…………作りすぎた」
明らかに渡す人数以上の量になった菓子を眺め呆然と呟いた。
いくつかは秋奈と栞へと冷蔵庫へ突っ込み、ラッピングしたそれを片手に明彦は家を出る。目的地へ行く最中、見知った赤いクセ毛みやり丁度いいやと声をかけた。かけたのだが。
「………おい、何やってんだあんた…」
「んー?見て分からないかい?」
「分かんねえよ。不自然に電柱に隠れてるだけだろうが」
明彦がジト目で見やるとなぁんだ、わかってるじゃねえかと独特な口調で山田義弥が軋むような笑い声をあげた。神出鬼没でどこへ行けば会えるのかと考える間もなく現れた義弥に明彦はぐい、と小さい方の包みを押し付ける。
「? これはなにかね???」
「お菓子。作りすぎた、やる」
「ほぉぉお?ボクに?お前さんがぁ?」
ぱちりと片目を瞬きさせて明彦と包みをみやり、にんまりと笑う。うわ、と明彦が思ったのも束の間明彦の顔を下から覗き込んで不気味に歪んだ笑みを覗かせた。
「なァんだよォ~、旦那、結構俺のこと好きなんじゃ…」
「一々うっぜぇわアホが!!」
最後まで言わせず、明彦は容赦なく義弥を宙に放り投げた。
暫く義弥と戯れ、別れてから明彦は目的地へと到着した。広々としたコーナーはここで飼育されている馬たちの為にあり、時間帯が重なったのか外でゆっくりと歩いている馬を眺め、ふと馬を引いている人影を見つけ、近づいた。向こうも気がついたのかぺこりと頭を下げる。下の方で二つに結んだ桜色の髪が動きに合わせて下へと流れる。
「藤堂さん、こんにちわ」
「うっす、おーじさんたちいる、いますか?」
「やだなぁ、藤堂さんのが年上じゃないですか。普通でいいですよ」
と、快活に笑う桜森さくらにわかったと頷く。
「そういえばお兄ちゃん夫婦ですよね、丁度向こうの仕事終わったから家の方に居ると思いますよ」
「おう、サンキュー。あ、そうだ、これ」
思い出したように明彦はさくらにも義弥と同様の包みを渡す。きょとんとしたさくらの顔に既視感を覚えて思わず吹き出しそうになるのをなんとか堪えて明彦は普段から邪魔してる礼だと告げる。
「わ、わ…そんなの気にしなくてもいいのに」
「いや、結構おーじさんには世話になってるし、お前の家に上がらせてもらって割と好き勝手してるしな」
「ありがとうございます!」
「だからいいって…ところでよ」
突然意味深に声を潜めた明彦に首をかしげさくらは明彦の妙に真剣な顔を見上げる。それに気づいて明彦は少し屈んで
「…馬肉、食いたいから1頭もらっていいか?」
その瞬間、だめです!!!食べれないですから!!!というさくらの絶叫がコーナー中に響き渡った。
「もう、そんな意地悪言っちゃったんですか?」
「いや…冗談って気づいてくれるかなって…」
「だからと言って言っていい冗談と言ってはいけない冗談があるだろう?」
「…はい、すいません…」
ちょっと泣きそうな形相で叫んださくらの声を聞いて飛び出してきたのは明彦の尋ね人で二人揃って飛び出してくる辺りやはり仲がいいなぁとしみじみ思う。そんなことを考えている明彦に尋ね人のうちの片方、きさりが声をかけた。
「所で、私たちを訪ねてきてくれたって聞いたんですけど…」
「なんだ?分からないことでもあるのか?」
「いや、そうじゃねえんだけど…これ」
そう言って二人の前に、一番大きな包みを差し出し照れくさそうに明彦は告げた。
「おーじさん、きささん…ええと、め、メリークリスマス…大したもんじゃねえけど、プレゼント…に、なりゃあいいなぁ」
「! はい、メリークリスマス、です…!」
「明彦くん…!」
夫婦揃って顔を明るくされて恥ずかしさが増し、少し俯いた明彦にきさりが開けてもいいですか?と聞いてくる。小さく肯けばかさかさと紙を開く音がして、またもや夫婦そろって声をあげた。
「す、すごいです…!おいしそうです…!」
「これは…プロ顔負けじゃないか…」
二人の眼前には艶やかなガナッシュでコーティングされ、ほんのりと柔らかい色で着直されたバラのマジパン、Merry Christmasと書かれた文字だけのチョコプレート、少量のアザランで上品に飾り付けられ…ケーキの下に桜士ときさりを模したマジパン細工が添えられていた。
「はは、きさりさんにそっくりだな」
「ええ、桜士さんにとてもよく似てます。明彦さんすごいです」
「そ、そこまで言われると…恥ずかしいんだけど…サンキュー…」
「食べてしまうのが勿体無いな…」
「え、こんなんいくらでも作るから食ってくれよ…ほら、二人でケーキ入刀!的な?」
照れくさすぎて訳の分からないことを言い始めた明彦に勿体無いと言いながらもきさりは小さなナイフを持ってくる。それをそっと取り上げて明彦は包みについていたリボンをくくりつけきさりに返せば二人共頬を赤らめ小さなナイフを二人で持つ。
ナイフの刃は柔らかくケーキに沈んでいく。それを八等分繰り返し一切れを皿へ移そうとしたときまた二人から声が上がった。
「わぁ…っ!」
「サン・セバスチャンじゃないか…!」
通常生地とココア生地が交互に入れ替わり綺麗なモザイクを描くケーキにちょっと頑張ったんだぜ、と明彦は頬を掻く。
「いつも世話になってるから、あれだ、うん。ありがとう的な…?んで、末永くお幸せに!」
最後の一言が本気混じりの軽口で、桜士ときさりは一瞬ぽかんとして、おかしそうに笑ったのだ。畳む
#CoC #うちよそ #明彦飯
藤堂明彦と飛鳥井小桃のPM12:52
朝日がまぶた越しに視界を刺激するのを感じて明彦はゆっくりと目を開ける。腕に抱えている温もりを覗き込んでまだ健やかな寝息をたてているのを確認して、起こさないようにそっと腕を抜く。
熟睡している小桃の額に軽く唇を押し当ててそろりとベッドから抜け出した。
散乱していた二人分の服を畳んで部屋の隅に置き(小桃の下着は目を背けてそっと服の間に隠したのは誰にも言うまいと心に誓った)適当にシャワーを浴びて、そのまま給湯器のスイッチを入れて湯を張り自分のテリトリーとも言える台所に立つ。今は午前十一時を回ったところだった。前日、勉強がわからないと小桃に勉強を教えてくれと頼み込み綾小路邸へと来てもらったのだが、秋奈も栞も数泊出かけるというのもあり、まあ盛り上がってしまったのだ。無茶させただろうか、と心配な反面乱れる小桃を思い出しかけ慌てて頭を振り四散させる。
起きる頃には昼くらいか、と考え明彦は冷蔵庫を開ける。ようやく利いてきた暖房に軽く舌打ちしつつ冷蔵室から野菜室を漁る。その後戸棚に近寄りじっと眺めうん、と一人頷いた。
寝起きに重たいのもなんだろう、と引っ張り出してきたのは人参、ジャガイモ、キャベツ、玉ねぎ、ブロックベーコンだ。ここまで出して小桃の食べられないものを確認し忘れたことに再び舌打ちしつつ、嫌いと言ったらそれだけ避けてしまえばいいと考え直して非常に手際よくジャガイモの皮をむき、少し大きめに切っていく。
キャベツも何枚か葉を剥がし適当な大きさに千切り、ベーコンもブロック状から細く切り分けて、涙をにじませながら刻んだ玉ねぎを別の容器に移したところで明彦は少し呻いた。
余談だが、明彦は調理という行動の中で唯一人参の皮むきが苦手である。以前皮むき器で皮を剥こうとした際、明彦自身の握力に皮むき器が耐え切れず破壊したことがある所為だ。だからと言って包丁で剥くには非常にやりづらい形をしているこの野菜をどうしてやろうかと毎度悪戦苦闘する。
と、ふと明彦の視界に恐らく前日栞が置いていったであろう製菓の本が目に付く。その表紙を見て明彦は俺天才かも、とひとりごち調理器具のしまってある引き出しを漁りだした。
ふわ、と漂ってくる香りに小桃は意識を浮上させた。目元を少し擦り、隣で一緒に寝ていた明彦がいないことを確認してああ、なにか作ってるのかと寝起き特有の緩やな思考を巡らせる。着た覚えのない、恐らく七分丈であろうシャツはきっと彼のだろう適当に予測し、下着だけを履いて香りにつられるようにふら、と部屋から出ていった。
案の定、明彦は台所にいた。背中を向け小鍋をかき回している背中に声をかければおはよ、と振り返り、目に見えて動揺した。
「…?明彦くん?どうしたの?」
「こ、こっちが聞きてぇよ…!下!下履け!」
「?? 履いてるわよ?」
「すいませんパンツだけでなくもう一枚お履きください!!俺のハーパンお貸しします!!!」
もの凄い勢いで押し付けられたハーフパンツについでに風呂沸いてるから入って来てくれお願いします!という明彦の叫びに小桃はくすりと笑う。裸を見るのも、触れ合うのも、初めてではないはずなのに毎回戸惑う様が少し面白い。はいはいと二つ返事で小桃は浴室に向かった。
体も温まり借りた服を来て小桃が台所に戻る頃にはすっかり用意が整っていた。野菜のスープとフランスパンに生ハムのブルスケッタが乗った物が並べられ丁度後片付けが済んだらしい明彦が飲み物を両手に突っ立っていた。
「おう…えーと、食う?」
「ええ、頂こうかしら」
ことりと置かれたカップには淹れたてらしい紅茶が湯気を立てていた。ふと見ると明彦はホットミルクを入れているようで、この組み合わせで果たして合うのだろうか?と小桃は疑問に思ったが聞くのも野暮か、と口には出さなかった。
「じゃあ、いただきます」
「どーぞ」
俺もいただきます、と両手を合わせる明彦をみながら小桃はフランスパンをかじる。オリーブオイルが塗られ、カリカリに焼き上げてあるフランスパンの上に乗っているブルスケッタが思ったよりもさっぱりとした味で小桃は少し驚きながら咀嚼する。
「明彦くん、これ…」
「んぇ?あー、くどいかなってヨーグルト混ぜた」
「そう…丁度いいわ」
少し行儀悪く、口に物を入れたまま喋る明彦になるほど、と小桃は納得しながら今度は野菜スープに手を付けようとして、止まる。
目をぱちくりとしながら小桃が見たものは、鮮やかな橙色の花だった。花だけならわかるが花びらまで浮いておりおかわりをよそいに立ち上がる明彦をまじまじと見てすごい、と思わず呟いた。
「…明彦くんって、本当に器用ね」
「器用じゃねえよ、人参の皮剥くの苦手だから誤魔化しただけ」
誤魔化しただけのレベルなのだろうか、これは。
思わず二度見したそれは型をくり抜いた、では済まない様な桜の花だった。食べるのが勿体無い。そう思っていたのだが目の前で作った当の本人が容赦なく桜の花を口に放り込んでいくのを見て思わず脱力し、釣られるように口に入れる。硬すぎず柔らか過ぎもしないそれを噛むのは少し抵抗があったが、しっかり味がなじんでいてただの人参とバカにはできなかった。
「そいやあさ、飛鳥井って今日なんか用事あんのか?」
「? ないわよ。強いて言うなら明彦くんの勉強を見るくらいね」
もごもごと食べ進めながら降ってきた話題に、小桃が今日の予定を思い出しながら答える。
と、じゃあ勉強はちょっと休憩してさ、と明彦はほんの少し照れくさそうにはにかんだ。
「ちょっと遅いけど、二人で出かけねえ?飛鳥井の好きなところ、ついてくからさ」
「…良いわよ、行きましょう」
控えめなデートのお誘いに、小桃もつられるようにはにかんだ。
余談
某所某温泉宿にて。
「全く、気を使わせていることを多少なりとも察したらどうだ。あの甥っ子は」
「まあまあ、ほら…普段から色々助けてもらってますし…それに、好きな子といるときくらいは二人でそっと、させておいてあげましょう、先生」
「…まあ、いいさ」
そんな会話が露天風呂で展開されているなどとは、明彦も小桃も思いもしなかった。畳む
藤堂明彦と飛鳥井小桃のPM12:52
朝日がまぶた越しに視界を刺激するのを感じて明彦はゆっくりと目を開ける。腕に抱えている温もりを覗き込んでまだ健やかな寝息をたてているのを確認して、起こさないようにそっと腕を抜く。
熟睡している小桃の額に軽く唇を押し当ててそろりとベッドから抜け出した。
散乱していた二人分の服を畳んで部屋の隅に置き(小桃の下着は目を背けてそっと服の間に隠したのは誰にも言うまいと心に誓った)適当にシャワーを浴びて、そのまま給湯器のスイッチを入れて湯を張り自分のテリトリーとも言える台所に立つ。今は午前十一時を回ったところだった。前日、勉強がわからないと小桃に勉強を教えてくれと頼み込み綾小路邸へと来てもらったのだが、秋奈も栞も数泊出かけるというのもあり、まあ盛り上がってしまったのだ。無茶させただろうか、と心配な反面乱れる小桃を思い出しかけ慌てて頭を振り四散させる。
起きる頃には昼くらいか、と考え明彦は冷蔵庫を開ける。ようやく利いてきた暖房に軽く舌打ちしつつ冷蔵室から野菜室を漁る。その後戸棚に近寄りじっと眺めうん、と一人頷いた。
寝起きに重たいのもなんだろう、と引っ張り出してきたのは人参、ジャガイモ、キャベツ、玉ねぎ、ブロックベーコンだ。ここまで出して小桃の食べられないものを確認し忘れたことに再び舌打ちしつつ、嫌いと言ったらそれだけ避けてしまえばいいと考え直して非常に手際よくジャガイモの皮をむき、少し大きめに切っていく。
キャベツも何枚か葉を剥がし適当な大きさに千切り、ベーコンもブロック状から細く切り分けて、涙をにじませながら刻んだ玉ねぎを別の容器に移したところで明彦は少し呻いた。
余談だが、明彦は調理という行動の中で唯一人参の皮むきが苦手である。以前皮むき器で皮を剥こうとした際、明彦自身の握力に皮むき器が耐え切れず破壊したことがある所為だ。だからと言って包丁で剥くには非常にやりづらい形をしているこの野菜をどうしてやろうかと毎度悪戦苦闘する。
と、ふと明彦の視界に恐らく前日栞が置いていったであろう製菓の本が目に付く。その表紙を見て明彦は俺天才かも、とひとりごち調理器具のしまってある引き出しを漁りだした。
ふわ、と漂ってくる香りに小桃は意識を浮上させた。目元を少し擦り、隣で一緒に寝ていた明彦がいないことを確認してああ、なにか作ってるのかと寝起き特有の緩やな思考を巡らせる。着た覚えのない、恐らく七分丈であろうシャツはきっと彼のだろう適当に予測し、下着だけを履いて香りにつられるようにふら、と部屋から出ていった。
案の定、明彦は台所にいた。背中を向け小鍋をかき回している背中に声をかければおはよ、と振り返り、目に見えて動揺した。
「…?明彦くん?どうしたの?」
「こ、こっちが聞きてぇよ…!下!下履け!」
「?? 履いてるわよ?」
「すいませんパンツだけでなくもう一枚お履きください!!俺のハーパンお貸しします!!!」
もの凄い勢いで押し付けられたハーフパンツについでに風呂沸いてるから入って来てくれお願いします!という明彦の叫びに小桃はくすりと笑う。裸を見るのも、触れ合うのも、初めてではないはずなのに毎回戸惑う様が少し面白い。はいはいと二つ返事で小桃は浴室に向かった。
体も温まり借りた服を来て小桃が台所に戻る頃にはすっかり用意が整っていた。野菜のスープとフランスパンに生ハムのブルスケッタが乗った物が並べられ丁度後片付けが済んだらしい明彦が飲み物を両手に突っ立っていた。
「おう…えーと、食う?」
「ええ、頂こうかしら」
ことりと置かれたカップには淹れたてらしい紅茶が湯気を立てていた。ふと見ると明彦はホットミルクを入れているようで、この組み合わせで果たして合うのだろうか?と小桃は疑問に思ったが聞くのも野暮か、と口には出さなかった。
「じゃあ、いただきます」
「どーぞ」
俺もいただきます、と両手を合わせる明彦をみながら小桃はフランスパンをかじる。オリーブオイルが塗られ、カリカリに焼き上げてあるフランスパンの上に乗っているブルスケッタが思ったよりもさっぱりとした味で小桃は少し驚きながら咀嚼する。
「明彦くん、これ…」
「んぇ?あー、くどいかなってヨーグルト混ぜた」
「そう…丁度いいわ」
少し行儀悪く、口に物を入れたまま喋る明彦になるほど、と小桃は納得しながら今度は野菜スープに手を付けようとして、止まる。
目をぱちくりとしながら小桃が見たものは、鮮やかな橙色の花だった。花だけならわかるが花びらまで浮いておりおかわりをよそいに立ち上がる明彦をまじまじと見てすごい、と思わず呟いた。
「…明彦くんって、本当に器用ね」
「器用じゃねえよ、人参の皮剥くの苦手だから誤魔化しただけ」
誤魔化しただけのレベルなのだろうか、これは。
思わず二度見したそれは型をくり抜いた、では済まない様な桜の花だった。食べるのが勿体無い。そう思っていたのだが目の前で作った当の本人が容赦なく桜の花を口に放り込んでいくのを見て思わず脱力し、釣られるように口に入れる。硬すぎず柔らか過ぎもしないそれを噛むのは少し抵抗があったが、しっかり味がなじんでいてただの人参とバカにはできなかった。
「そいやあさ、飛鳥井って今日なんか用事あんのか?」
「? ないわよ。強いて言うなら明彦くんの勉強を見るくらいね」
もごもごと食べ進めながら降ってきた話題に、小桃が今日の予定を思い出しながら答える。
と、じゃあ勉強はちょっと休憩してさ、と明彦はほんの少し照れくさそうにはにかんだ。
「ちょっと遅いけど、二人で出かけねえ?飛鳥井の好きなところ、ついてくからさ」
「…良いわよ、行きましょう」
控えめなデートのお誘いに、小桃もつられるようにはにかんだ。
余談
某所某温泉宿にて。
「全く、気を使わせていることを多少なりとも察したらどうだ。あの甥っ子は」
「まあまあ、ほら…普段から色々助けてもらってますし…それに、好きな子といるときくらいは二人でそっと、させておいてあげましょう、先生」
「…まあ、いいさ」
そんな会話が露天風呂で展開されているなどとは、明彦も小桃も思いもしなかった。畳む
藤堂明彦のご飯時
1話読み切りシリーズ。自探索者の話ですが基本的に特定のシナリオのネタバレはない。うちよそだったりうちうちだったりする。
#CoC #明彦飯
藤堂明彦のAM6:00
iPhoneから控えめにアラームが響く。いつもこの時間に起きているからかさほど大きな音を立てなくても起きれるようになった明彦は寝ぼけ眼で起き上がった。いつもほぼ使ってない勉強机の足と頻繁に使っている炬燵机を視界に入れながらぼりぼりと後頭部を掻いて、おまけにあくび一つ零して固まった関節をばきばきと鳴らす。視界に映った腕とふくらはぎには見事に畳の跡がついていた。
適当に顔を洗い、前髪を全部後ろに流した状態で夏特有の湿気を孕んだ台所へ行く。いつもなら少し急ぐのだが今は夏休み、ゆったりしていてもあまり関係ないので明彦はのんびりと冷蔵庫を漁る。昨日、春彦たちとお遊びで買って食べきれなかったバケツアイスと、常備しているバターとはちみつ。この間栞からリクエストされた際に使ったチョコソースを見て頭の中で作れそうなものを探す。
暫く冷蔵庫の扉に持たれていた明彦はバターを取り出しシンクの上に置いて、次は戸棚に向かう。引っ張り出したのはスライスされていない食パンだった。それと珈琲豆、紅茶の缶を抱え、行儀悪く足で戸を閉めると再びシンクの前へ戻った。
包丁とまな板を出し、パンを半分ほど切り分け、残りは片付ける。半分になったパンをさらに三等分に分けて中身を切り出し、サイコロ状に切る。ふわふわとしたそれを潰さない程度にするのは結構難しい。こういう時に自分のバカ力が嫌になるんだよなぁと明彦はため息をつく。
なんとか切り分けたそれを再びパンの耳の枠にはめ、隙間に薄く切ったバターを挟み込みアルミホイルを被せてオーブントースターへ突っ込んだ。ジジジ、とオーブントースターから聞こえる音をBGMにやかんに水を入れてコンロを捻る。点火したのを確認して三枚皿を用意してカップを二つ、グラスを一つ机に置く。紅茶の茶葉をジャンピングティーポットに入れ、珈琲豆をミルに少し入れてガリガリと回す。秋奈からしたらこの作業は結構きついものがあるとぼやいていたが明彦からしたら別段力が必要な作業でもないので、このレバーを回している間は何も考えずにいられる時間でもある。挽いたばかりの豆から香りがわずかに鼻を突く。粗挽きが好き、と秋奈は言ってたなぁとまだ寝ぼけてるような頭で考えていれば軽快な音がなる。オーブントースターが止まった音だった。
明彦はガスを切り、再びのっそりと動く。階段をこれまたゆっくり登ると通り過ぎた部屋から物が落ちたような音がした。恐らく栞が何か落としたのだろう。悲鳴は上がってないので大したものは落としてないんだろうなと予測してそのまま叔母の部屋へと入っていく。
床に散らばった原稿用紙を踏まないようにベッドに近づく。昨日脱稿したと言っていたのでよほど辛かったのか着替えずに布団に包まっている秋奈の肩をそっと揺らす。以前疲れてるのだろうなと起こさずにいたらなぜ起こさないんだと怒られた。きっちり七時に起きれないのが嫌らしい。
「秋奈さん。朝。七時」
「…ぅ」
布団団子はそれを呻いたきり動かなくなった。一度浮上した意識が再び落ちたのを確認して明彦はため息を着く。そして恐らく、耳のあるだろう位置まで顔を近付けて小さく低く囁く。
「…原稿、脱字あったけど」
「ッ!?」
その瞬間跳ね上がるように起きた秋奈から飛んできた掛け布団をキャッチし、明彦はにやりと笑っておはようと言う。その瞬間にやけた顔に枕が飛んできたのは言うまでもない。
二人で台所まで戻ると、栞が珈琲をサイフォンにセットしているところだった。自分の分の紅茶にはすでにお湯が入ってる。
「…あ、先生、明彦さん。おはようございます」
「うっす」
「おはよう…」
三者三様の挨拶をして、明彦は置いてあったトーストを皿に移す。離れていたとは言っても短時間だったのでまだ冷えてはいない。最後の仕上げと明彦は冷凍庫からアイスを取り出し、丸くくり抜いてそれぞれのパンの上に乗せる。
「チョコとはちみつどっちがいい?」
「あ、えっと、チョコでお願いします」
「両方」
少し恥ずかしそうに答える栞とまだ眠いと目で訴える秋奈をみてうぃー、と抜けた返事を返す。三つのアイスの乗っかったトーストにそれぞれチョコソース、はちみつ、そして両方かける。とろりと黄金色が流れていくのをなんの感動もなく見ながら手を動かしていると背後からふわりと珈琲の香りが広がった。挽いている時よりも心なしか温もりを得たそれになんとなく落ち着きながら明彦は器用に三枚の皿をもってテーブルに移動する。
「ハニートーストか」
「おう。あっちぃからアイス乗っけた」
「でかした」
憮然とした表情で言い放つ秋奈に、栞と明彦は苦笑する。栞は大量の角砂糖とミルク、珈琲の入ったマグカップを秋奈の前に起き、牛乳の入ったグラスを明彦の前に、最後に自分の紅茶を手に席に着いた。
「いただきます」
「いただきますね、明彦さん」
「おー」
律儀に手をあわせて声を出す秋奈にこの人ほんとに俺より年上だよなと思いながら上に乗っているアイスをフォークで崩す。サイコロ状に詰められたパンの隙間に溶けて染み込みバターと混ざる。それを口の中に入れればさくりとした食感のあとバニラとバター、遅れてはちみつの味が口に広がる。隣を見れば秋奈は完全に目が覚めてきたのかさくさくと切り分けては無心で口の中にトーストを放り込んでいたし、反対に栞はゆっくりと口に運んでいた。
「秋奈さん、そんなに急いで食わなくてもいいだろ。脱稿したなら今日はフリーなんだし」
「何を言う。出来立てが逃げるだろう」
口の端にチョコソースをつけ、真剣な顔で手を止める秋奈に明彦と栞はそろって苦笑する。なんだかんだ言って口の中にものを残した状態で喋らないし話しかけられると手を止めて相手をちゃんと見るあたり本当に律儀だなと思う。人と向き合う時にとことん真剣に誠実になる秋奈だからこそだろうが、身内の自分たちにくらい多少ルーズでもいいのにな、と二人で目を合わせて小さく笑った。
「む、なんだ。そんなに意地汚く見えて面白かったのか?人を笑うとは二人共ひどいではないか」
「笑うに決まってんだろ、口にチョコついてる」
「む。むむ」
「先生動かないでください、拭きますから…取れましたよ」
「…むむむ」
流石に恥ずかしかったのか、少し顔を赤らめていた秋奈は話題を変えるようにフォークで冷蔵庫を指す。
「明彦、昨日知り合いから桃を譲ってもらったんだ。それで何か作れ」
「あれ貰い物か。わかった」
満足げに頷く秋奈を見ながら明彦は冷めてきたハニートーストを口に放り込む。 ━━━━今日は暑いから、冷たいものでも作ろうか。畳む
1話読み切りシリーズ。自探索者の話ですが基本的に特定のシナリオのネタバレはない。うちよそだったりうちうちだったりする。
#CoC #明彦飯
藤堂明彦のAM6:00
iPhoneから控えめにアラームが響く。いつもこの時間に起きているからかさほど大きな音を立てなくても起きれるようになった明彦は寝ぼけ眼で起き上がった。いつもほぼ使ってない勉強机の足と頻繁に使っている炬燵机を視界に入れながらぼりぼりと後頭部を掻いて、おまけにあくび一つ零して固まった関節をばきばきと鳴らす。視界に映った腕とふくらはぎには見事に畳の跡がついていた。
適当に顔を洗い、前髪を全部後ろに流した状態で夏特有の湿気を孕んだ台所へ行く。いつもなら少し急ぐのだが今は夏休み、ゆったりしていてもあまり関係ないので明彦はのんびりと冷蔵庫を漁る。昨日、春彦たちとお遊びで買って食べきれなかったバケツアイスと、常備しているバターとはちみつ。この間栞からリクエストされた際に使ったチョコソースを見て頭の中で作れそうなものを探す。
暫く冷蔵庫の扉に持たれていた明彦はバターを取り出しシンクの上に置いて、次は戸棚に向かう。引っ張り出したのはスライスされていない食パンだった。それと珈琲豆、紅茶の缶を抱え、行儀悪く足で戸を閉めると再びシンクの前へ戻った。
包丁とまな板を出し、パンを半分ほど切り分け、残りは片付ける。半分になったパンをさらに三等分に分けて中身を切り出し、サイコロ状に切る。ふわふわとしたそれを潰さない程度にするのは結構難しい。こういう時に自分のバカ力が嫌になるんだよなぁと明彦はため息をつく。
なんとか切り分けたそれを再びパンの耳の枠にはめ、隙間に薄く切ったバターを挟み込みアルミホイルを被せてオーブントースターへ突っ込んだ。ジジジ、とオーブントースターから聞こえる音をBGMにやかんに水を入れてコンロを捻る。点火したのを確認して三枚皿を用意してカップを二つ、グラスを一つ机に置く。紅茶の茶葉をジャンピングティーポットに入れ、珈琲豆をミルに少し入れてガリガリと回す。秋奈からしたらこの作業は結構きついものがあるとぼやいていたが明彦からしたら別段力が必要な作業でもないので、このレバーを回している間は何も考えずにいられる時間でもある。挽いたばかりの豆から香りがわずかに鼻を突く。粗挽きが好き、と秋奈は言ってたなぁとまだ寝ぼけてるような頭で考えていれば軽快な音がなる。オーブントースターが止まった音だった。
明彦はガスを切り、再びのっそりと動く。階段をこれまたゆっくり登ると通り過ぎた部屋から物が落ちたような音がした。恐らく栞が何か落としたのだろう。悲鳴は上がってないので大したものは落としてないんだろうなと予測してそのまま叔母の部屋へと入っていく。
床に散らばった原稿用紙を踏まないようにベッドに近づく。昨日脱稿したと言っていたのでよほど辛かったのか着替えずに布団に包まっている秋奈の肩をそっと揺らす。以前疲れてるのだろうなと起こさずにいたらなぜ起こさないんだと怒られた。きっちり七時に起きれないのが嫌らしい。
「秋奈さん。朝。七時」
「…ぅ」
布団団子はそれを呻いたきり動かなくなった。一度浮上した意識が再び落ちたのを確認して明彦はため息を着く。そして恐らく、耳のあるだろう位置まで顔を近付けて小さく低く囁く。
「…原稿、脱字あったけど」
「ッ!?」
その瞬間跳ね上がるように起きた秋奈から飛んできた掛け布団をキャッチし、明彦はにやりと笑っておはようと言う。その瞬間にやけた顔に枕が飛んできたのは言うまでもない。
二人で台所まで戻ると、栞が珈琲をサイフォンにセットしているところだった。自分の分の紅茶にはすでにお湯が入ってる。
「…あ、先生、明彦さん。おはようございます」
「うっす」
「おはよう…」
三者三様の挨拶をして、明彦は置いてあったトーストを皿に移す。離れていたとは言っても短時間だったのでまだ冷えてはいない。最後の仕上げと明彦は冷凍庫からアイスを取り出し、丸くくり抜いてそれぞれのパンの上に乗せる。
「チョコとはちみつどっちがいい?」
「あ、えっと、チョコでお願いします」
「両方」
少し恥ずかしそうに答える栞とまだ眠いと目で訴える秋奈をみてうぃー、と抜けた返事を返す。三つのアイスの乗っかったトーストにそれぞれチョコソース、はちみつ、そして両方かける。とろりと黄金色が流れていくのをなんの感動もなく見ながら手を動かしていると背後からふわりと珈琲の香りが広がった。挽いている時よりも心なしか温もりを得たそれになんとなく落ち着きながら明彦は器用に三枚の皿をもってテーブルに移動する。
「ハニートーストか」
「おう。あっちぃからアイス乗っけた」
「でかした」
憮然とした表情で言い放つ秋奈に、栞と明彦は苦笑する。栞は大量の角砂糖とミルク、珈琲の入ったマグカップを秋奈の前に起き、牛乳の入ったグラスを明彦の前に、最後に自分の紅茶を手に席に着いた。
「いただきます」
「いただきますね、明彦さん」
「おー」
律儀に手をあわせて声を出す秋奈にこの人ほんとに俺より年上だよなと思いながら上に乗っているアイスをフォークで崩す。サイコロ状に詰められたパンの隙間に溶けて染み込みバターと混ざる。それを口の中に入れればさくりとした食感のあとバニラとバター、遅れてはちみつの味が口に広がる。隣を見れば秋奈は完全に目が覚めてきたのかさくさくと切り分けては無心で口の中にトーストを放り込んでいたし、反対に栞はゆっくりと口に運んでいた。
「秋奈さん、そんなに急いで食わなくてもいいだろ。脱稿したなら今日はフリーなんだし」
「何を言う。出来立てが逃げるだろう」
口の端にチョコソースをつけ、真剣な顔で手を止める秋奈に明彦と栞はそろって苦笑する。なんだかんだ言って口の中にものを残した状態で喋らないし話しかけられると手を止めて相手をちゃんと見るあたり本当に律儀だなと思う。人と向き合う時にとことん真剣に誠実になる秋奈だからこそだろうが、身内の自分たちにくらい多少ルーズでもいいのにな、と二人で目を合わせて小さく笑った。
「む、なんだ。そんなに意地汚く見えて面白かったのか?人を笑うとは二人共ひどいではないか」
「笑うに決まってんだろ、口にチョコついてる」
「む。むむ」
「先生動かないでください、拭きますから…取れましたよ」
「…むむむ」
流石に恥ずかしかったのか、少し顔を赤らめていた秋奈は話題を変えるようにフォークで冷蔵庫を指す。
「明彦、昨日知り合いから桃を譲ってもらったんだ。それで何か作れ」
「あれ貰い物か。わかった」
満足げに頷く秋奈を見ながら明彦は冷めてきたハニートーストを口に放り込む。 ━━━━今日は暑いから、冷たいものでも作ろうか。畳む
藤堂明彦とウィリアム=J=ブラウンの正午12:00
「おいポメヒコ早くしろよ!カオル帰ってくるだろ!?」
「急かすなよウィルさん・・・開けるぞ・・・!」
ごくり、と明彦とウィリアムが喉を鳴らす。がぱ、と冷蔵庫から肉の塊を取り出してお互いの顔を見合わせた。
事の始まりは一週間前、昼食をウィリアムと明彦が二人でとっていた時だった。スマホを眺めながら明彦がおお、と感嘆の声を上げた。
「? どしたポメ」
「ウィルさんこれ知ってっか?くんせーき」
ん、と渡されたスマホの画面を見れば煙で肉やチーズ、魚を燻している動画だった。やけにのんびり食べていると思ったらこれを見ていたらしい。くんせーき、という聞きなれない言葉にウィリアムが首をかしげる。
「いや、知らねえな。なにやってんだこれ」
「自分でハムとかベーコン作るらしいぜ」
「へー、んなこと家でできるのか?」
「ちょっと待ってろ」
そう言うとスマホを返してもらった明彦はたしたしと画面を叩く。ぱっと顔を明るくしてその画面をウィリアムに見せつけながら楽しそうに声を揺らす。
「専用の道具もあるけどダンボールとか一斗缶でもできるってよ!」
「まじか!?えっポメお前」
「作る」
わくわく。わくわく。そんな効果音が聞こえてきそうな明彦に釣られたのかウィリアムの顔もいたずらっ子のような笑みを浮かばせていく。
「肉はブタバラ?のブロックでいいよな?」
「おう、そみゅーる液?とかの材料は家にある奴でいけっから・・・あ」
「ポメ?」
「・・・最大ミッション、芳にバレない」
「あ」
芳、と家主の名前に二人で固まる。細身の大食いである芳にバレでもしたら全部食べられる、と二人で顔を見合わせる。
「・・・ウィルさん」
「わかってる」
スニーキングミッションだ、と二人で神妙な顔で頷いた。
豚バラのブロックを買ってきたウィリアムと下準備を済ませた明彦が二人で並んで台所に立つ。二人の手にはゴム手袋がピッタリと嵌められている。
「ポメヒコ、これいるのか?」
「元々保存食だから雑菌が入らねーように一応?」
「ふーん」
そう言いながら二人は目の前の肉の塊にフォークで穴を開けていく。ぶつぶつと肉が刺さる感触を感じながら表裏と側面にまんべんなく穴を開ける。
そしてウィリアムは表面に塩をすり込んだ。少し塩っからさが欲しかったので肉の重さに対して2パーセントよりも心なし多めにすり込んだ。明彦は既に終わったのかごそごそと何かしていた。しかし自分の分に夢中なウィリアムが明彦のしていることに特に興味を持たず、しっかりと肉をラップでくるんでジップロックに入れる。
ジップロックの表面にあきひこ、うぃると小学生のような字が並んでいる。それを明彦が冷蔵庫の配置を変えて芳に見つからないようにしているのを見ながらウィリアムは口を開ける。
「これで一週間だっけか」
「って書いてあんな。時々ひっくり返すといいらしいぞ」
「そうか・・・カオルの足止めは任せとけ」
「わかった、ひっくり返すのは頼ってくれていいぞ」
きり、と二人で表情を引き締めた。
そこから一週間、ウィリアムと明彦の戦いが始まった。運悪く芳の休みが重なってしまい、腹を空かせた芳が台所をうろつく。ウィリアムがわざと甘えたり、明彦が大量に食べ物を与え冷蔵庫への接触がないように立ち回り続けた。その間明彦がまたこそこそと一人で何かをしているのをウィリアムは見かけたが今は内緒、とにんまり笑った明彦に楽しみにしてるとだけ伝えていた。
そして一週間後、昨日のことである。
その人翌日は芳が泊りがけの仕事だと聞いていた。叫び出しそうなのを抑えながら二人は冷蔵庫を開ける。血の混じった水分が出ているのを確認した明彦はうぃる、と書かれている方の肉をウィリアムに渡す。
「おお・・・!ちょっと水出てるぞ!」
「ウィルさん早くしろよ、塩抜きして乾燥まであんだぞ!」
「そうだな!」
興奮が冷めないまま二人は慌てて肉を水で洗い、少しの間だけ浸す。そうすることによって余分な塩分が抜け程よい塩辛さになると書いてあった。のだが。
「あれ、ポメのだけ色ちがくね?」
にわかに茶色味を帯びて、植物の破片のような物がくっついている明彦のブロック肉を見てウィリアムが首をかしげる。よくぞ聞いてくれた、と言わんばかりに明彦は親指をたてた。
「ピックル液作って浸した」
「? なんだそれ」
「ベーコンに味つける液。二人合わせて二キロもあんだ、味変えたほうがいいじゃん?」
「おっまえ・・・おっまえ!!俺の次くらいに天才かよ!?」
「そうかもしれねえ!!」
もはや声を抑えることもせず叫ぶ。と、入れたタイマーが二十分たったことを知らせる音が響いた。肉を明彦に託しウィリアムは庭先へ出る。
並べられた一斗缶を万能鋏で無理やり切っていく。煙がもれないように組み立てたり、鉄串を刺して行けば簡易版燻製器の完成である。ちょうど明彦の方も乾燥が終わったのか肉を持ってきた。タコ糸で結ばれたそれを見てウィリアムが思わず噴き出す。
「ちょ、ポメヒコお前、おまえぇ!それ、くっそ!うわははははは!!」
「まあやりたくなるよな!!」
どやぁ、とこの上なく腹の立つ顔をしながら亀甲縛りにされた肉の塊を両手に持ってウィリアムの前で揺らしてみせる。二人してテンションの落ち着かせどころを完全に見失っていた。
肉を吊るせるように渡された鉄串に合計二キロもの肉の・・・亀甲縛りされた塊が吊るされる。まだ吹き出しそうなウィリアムの隣で明彦がそっと仏のような顔でアルミホイルを敷いた。その上に乗っているものをみてウィリアムが目を見開く。
「・・・ポメ、お前ってやつは・・・!」
「ポメヒコさん、って呼んでいいぜ」
そっと閉じられる燻製器の戸の隙間から、水気を取ったたまごやササミが乗っていた。
そして片付けもとい証拠隠滅をし、味をなじませるために更に一晩おいた今日。明彦とウィリアムの昼食の時間。冷蔵庫で寝かせられたそれに思わず生唾を飲み込んだ。落とさないように取り出した肉の塊、いやベーコンを見て明彦がそっと包丁を取り出す。
「ウィルさん、厚さは」
「めっちゃ分厚くで!」
「任せろ!!」
もう誰にもとめられないテンションで明彦がベーコンを分厚く、大きく切り分けていく。今回したのは温燻という燻し方でしっかりと水分が抜けた肉特有の弾力が包丁越しに伝わる。それを熱していたフライパンに並べれば油も引いていないのにじゅう、といい音を立ててベーコンが焼ける。ウィリアムに頼んで食器の準備やパンを焼いている間、明彦が卵を割りながら別の作業も同時に進行していた。
そして、分厚いベーコンのベーコンエッグが並べられる。更に明彦が隣に並べたのはほんの少し茶色く色づいたカマンベールチーズや、ササミとたまごの燻製で作ったであろうサラダと、ウィリアムの席に赤ワインの入ったグラスを並べる。自分のところには牛乳の入ったマグであったが。
「ポメ、おいポメヒコ。まだ昼だぞ」
そうたしなめるようなことを言いながらもウィリアムの顔はにやけてひくついている。明彦がにひ、と笑い声を立てながらピースサインを向けた。
「飛鳥井は仕事、芳も仕事。普段やったら怒られるフルコースにんな野暮ったいこと関係ねーだろ?」
「そうだな、さんせー!」
「「いただきます!!」」
言うやいなやベーコンエッグ、というかベーコンにかぶりつく。ジューシーな歯ごたえと共に口内にふわりと広がったのは桜の香りで。ウィリアムの作ったベーコンはしっかりと塩味が付いていて卵の黄身を絡ませるだけでも十分おいしい上、明彦が味付けた方のベーコンは塩辛さだけではなく玉ねぎの甘みが加わってそれで酒が進む。サラダも、ササミとたまごにあらかじめ味をつけていたのだろうドレッシングなしでもフォークが止まらないし、明彦の思いつきで燻されたカマンベールチーズはとにかく伸びる。それをカリカリに焼いたフランスパンで掬ってかじればやはりチーズの匂い意外にも薫香が口の中いっぱいに広がる。
簡単に言うと、美味かった。うますぎた。市販のベーコンはなんなんだ、と言いたくなるレベルだった。二人共無言で口の中にベーコンだのなんだのを押し込み、飲み物で流し込む。
やがて空になった食器に腹をさすりながら二人そろって大きな息を吐いた。
「食いすぎた・・・」
「だな・・・いやでもこんなの食っちまうだろ、普通に・・・」
ワイン二本開けちまった、とぼやくウィリアムに苦笑した明彦がさて、と立ち上がる。
「ささっと片そうぜ。証拠隠滅、大事」
「そーだな、カオルにバレたらやべえしな」
「俺にバレたら、なんやの?」
時間が止まった。ぎぎぎ、と音が出ていそうな動きで振り返った二人の視線の先、にこにこと芳が笑って立っている。
「えろう美味そうなもん、二人で食うてるんやねぇ。ウィリアムは昼から酒ですかぁ」
「いや、あの」
「えっと、か、カオ」
「もちろん、あるんやんね?俺の分」
薄ら目を開きながら笑みを向け続ける芳に、ウィリアムも明彦もひぇ、と悲鳴を零す。
その目は笑っておらず、ただ、自分をのけものにした二人をどうしてやろうかと楽しげに歪んでいたのである。
更に一週間後、夜風味の強いベーコンや各燻製料理で酒を楽しむ芳と小桃がいる傍ら、様々な食材を合計二十キロほど延々と燻製し続け、その間芳からの催促を浴び続けた明彦とウィリアムが床に転がっていたのは言うまでもない。
「隠し事なんて、えらいさみしいことせんでもいくらでも言うてくれたら良かったのになぁ?俺もいくらでも頂けるんやし?」
「そうね、今度の新刊はこの二人で描くことにするわ」
「「慈悲はねーのかよ!?」」畳む