シビュラロスを起こしています。が、来たる土曜日になんと!9/1を回すんですね~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!
未通過で回したことを少しだけ後悔するくらいには好きなシナリオです。出し惜しみしたら殺します。使えるものは全部使ってきてほしいです。
9/1、海原に嫁す、惨劇に至る純愛は私の手持ちシナリオの中では手加減しませんシナリオです。(殺すかもしれないことに怯えているKP)
未通過で回したことを少しだけ後悔するくらいには好きなシナリオです。出し惜しみしたら殺します。使えるものは全部使ってきてほしいです。
9/1、海原に嫁す、惨劇に至る純愛は私の手持ちシナリオの中では手加減しませんシナリオです。
COC「VOID」HO2自機・潮がエオルゼアでミコッテになって過ごす話その2。ただの私得。
該当シナリオ及びFF14暁月のフィナーレのネタバレはありませんが暁月エリアまでの地名が出ます。気になる方は閲覧をお控えください。
潮ッテその2
眠い。そう億劫に感じながら潮は目を開ける。占領しているソファから起きあがろうとしてみるが、ふかふかしているクッションと自分を包む毛布の感触、ちりちりと揺れる暖炉の温もりがどうも自分を纏ったまま離してくれそうもない。
頑張って起きあがろうと四苦八苦する反面、身体は正直なものでそのままゆっくりとクッションへと倒れ込んでいく。
その体をそっと支えられて、魅惑のふかふかとの接触は阻まれた。
「おはようございます、潮さん」
眠い目をしぱしぱと瞬かせて声の方を見れば、赤髪を揺らしながら青年が柔らかく笑みを浮かべていた。
*
こちらに来て、潮の環境はひどく忙しないものになった。
まずこの世界のことを知る前に自分の体のことから知るべきだったのだからそれも仕方ないのかもしれない。アンドロイドだった時にはなかった空腹や眠気などの生理現象に翻弄された。それに加えて、ミコッテ族(この世界の人間の種類らしい。自分の世界で言うならアメリカ人やロシア人と言ったものだろうと潮は解釈している)としては長身なのだが体力は人並みやや少なめ、と言ったところらしい。エーテルと言うこの世界を構成するエネルギー量もあまり多くなく、冒険者としては魔術職も前衛職もあまり向かないかもしれないと言うのはルカの言だ。事実潮はやることをやってすぐ眠る、と言う生活スタイルになっている。このままではいけない、と一度無理をして起きていたら何でもないところですっ転んでそのまま寝落ちしてしまい、結果余計に迷惑を掛けてしまっている。
「焦らなくてもいいさ。できるできないより、まずどういう状態であるかの把握やそれに慣れることも大切だと思うし。ウシオさんのペースで掴んでいけばいい」
そう酒を飲みながら朗らかに言うアベルの言葉通り、もどかしい気持ちを抑え込んで自分の体と眠気に抗う日々を送っていた。起きている間はカンパニーハウスの掃除をしてから読み書きをルカやフィオナに教わる。幸い記憶力は良かったので、誰かからの伝言係やメモ帳がわりになったりしている。この辺りはアンドロイドの時とあまり大差ないな、と少しほっとした。文字もゆっくりとなら読めるようになっている。また潮の調子がいい時はその時頼まれた者と近場で買い出しへ向かい、金銭の支払い等を学んでいた。日本のように通貨に種類はなく、ギルと呼ばれる貨幣何枚分と計算するらしい。単純で覚えやすかったから、買い出し要員に任命された時は不安定な自分の足元が少し落ち着いたようで嬉しかった。
ただ、まだ文字の読み書きはあやふやだからまだ付き添いは外されないままだ。少し不服だったりする。
そんな潮を見かねたのか、はたまた本当に言葉の通りだったのか。少し遠いところへの買い出しをルカに言い渡されたのはつい先日の話のことである。
「ウシオはん、ちょいと遠いところへ買い物行って欲しいねん」
「? 構わないがどこへ?」
「リムサや、リムサ・ロミンサ。君が保護された都市やなぁ」
その単語にああ、あそこかと納得する。白い珊瑚礁でできた、潮騒の響く都市。あの時は確かすぐに倒れてしっかり見ることもできなかった。
少しだけ慣れた土地から、あまり知らない場所へ。不安と同時に、感じたことのない気持ちが無縁を過ぎる。
それは、没頭するような内容の本を捲る時の気持ちのような。
それが何かわからず内心首を傾げている潮に気付かず、ルカは続ける。
「あそこになぁ、チビらが使うフライパンとかハンマー注文しとんねん。あと漁師ギルドへ魚の卸やな。ベル坊やらなっちゃんが釣って、余ったやつ。質は悪ないし、ちょっとしたお小遣い程度になるんよ。その買い付けと……ああそうそう、そこに道具一式注文してあんねん。その引き取りやね」
「俺でいいのか? 引き取りとかなら何とかなるが、買い付けはしたことがない」
「構わんよ。アベルとナツキから、って言うたらちゃんと見てもらえるで。あ、せや」
ルカは何か思いついたように懐から紙と封筒を取り出すと、近くに置いてあった羽ペン(日本のような、ボールペンらしきものはないらしい。あちこちにインク瓶と羽ペンが設置されているのだ)にインクをつけてさらさらと何かを書く。それを封筒に入れて蝋で封をすると潮に投げて渡した。
「ついでにこれ、ギルドマスターか、シシプ言う人に渡しといて。あと付き添いは……せやなぁ……あ、丁度ええわ」
少し考え込む素振りを見せたルカは、潮の背後へおういと軽く声をかけた。彼はきょとんとして潮とルカを見、なんですか? と小走りに駆け寄ってきた。
「明日確かなんもあらへんだやろ? ウシオはんの買い出し付き合いついでにあれそれ教えたって。……ウシオはん、この子はなぁ……」
*
「おはよう、龍。悪い、また寝そうになった」
「あはは、ちょっと頑張ってましたけど負けてましたね」
碧の目を細めて龍が笑う。普通なら怒るところなのだろうが、二度寝しかけたのは事実だし龍はおっとりと笑うから、バカにされている感じがしないのだ。事実彼にもそんなつもりはないのだろう、すぐに俺も二度寝しちゃう時あるんで気持ちわかりますよとフォローを入れてくる。
昨日たまたま近くを歩いただけだと言うのに突然自分の面倒を押し付けられてさぞ迷惑だろうな。そう思った潮がそのことについて謝罪すると彼は今のようにふわりと笑って首を横に振った。
「明日予定がないのは本当ですし、大丈夫ですよ。俺でよければお付き合いさせてください」
そこまで言って頭まで下げられた。間違いなく面倒を見てもらう側なのは自分なのに逆に低姿勢に返されて潮がしどろもどろになる。その様子を小さく笑いながら見たルカは龍に何事かを耳打ちしてほな明日朝の便で向かったって、と踵を返したのだ。
「そう言えば、ルカに何を言われていたんだ?」
昨日の光景を思い出し、ふと疑問に思ったことを問えば龍はああ、と教えてくれた。
「ついでに交感のやり方を教えておいてくれと頼まれていました」
「こうかん?」
「はい。難しい理屈は俺もよくわかってないんですけども」
曰く、自分のエーテルと街や都市に設置されているクリスタルへ通し、また自分の中へクリスタルのエーテルを通すことによってその場所へ一瞬でたどり着くことができる、という。色々な理屈はあるが、要は自分とクリスタルのパスを繋ぐ方法を教えておけと頼まれたそうだ。
「それができたら今後は船に乗らなくても、何か用があったらすぐに飛んでいけますから。便利ですよ、テレポ」
「……俺は魔法は向いてないと言われたんだが」
「ああ、多分戦闘職としてはと言うことじゃないでしょうか? 生まれつきエーテル量が少なすぎるとかでないなら結構誰でもできる魔法です」
思わず、潮の耳がぴょこんと跳ねる。魔法。文字通りロボット学やら何やら、科学の結晶であった自分には本当に無縁だったもの。それが使えるかもしれないのだ。
楽しみにならないわけがない。
それが押し殺せないと言わんばかりに耳がぴこぴこ、尻尾がひょこひょこと動いている。その様子を見ながら龍は一瞬目を丸くしてから微笑する。
「ルカさんが多めにお小遣いを渡してくれました。交感と買い出しが終わったらビスマルク風エッグサンドでも食べましょうか」
「びすまるくふうえっぐさんど」
「元は労働者向けの携帯食だったのを、高級レストランがアレンジしたものですね」
「食べる」
潮の食いつきの良さにまた笑って、龍はじゃあいきましょうかと潮をソファから引っ張り起こした。
*
船に揺られて三日後。二人はリムサ・ロミンサの港に立っていた。
「ぉえ……」
「潮さん、これ。多少楽になります」
青い顔をして道の端で座り込んでいた潮に苦笑しながら龍がレザーカンティーンを受け取る。促されるまま蓋を開けておずおずと中身に口をつけて、耳が跳ねた。
「ラッシーだ」
「はい。ミントで風味つけてるからさっぱりしてるでしょう? 船酔いした人はよく飲んでるんですよ」
ちびちび飲み始めた潮の隣に腰掛けが龍は自分たちが乗ってきたのとは別の船を眺めて、物流増えたなぁ、と呟いた。
「? 元々こうじゃなかったのか?」
「ええ、結構色々大変だったんです。ラザハンからの香辛料を手に入れるのに苦労しました」
「他のものじゃダメなのか?」
「使い方によってはそれでもいいんでしょうけど、種類が多くて質もいいんです。グリダニアは木材やハーブがよくて、ウルダハは金属や宝石類だったかな」
「じゃあここは?」
「魚と船ですね。今日は難しいかもしれませんが、その内造船場とか見に行ってもいいかもしれません」
そう言う龍に頷いて、潮はラッシーに口をつける。全部飲み切るとカンティーンをすっと取られた。それくらいは自分で、と言う前に龍に遮られる。最も本人にそのつもりはなかったのだが。
「さて、買い物に行く前に交感してしまいましょうか。ついでにサマーフォードのクリスタルも」
*
ざわざわと数多の人が行き交っている中、それはそこにあった。大きく切り出されたそれに幾つかの装置がついていて、原理も理屈もわからないが浮いて、ゆっくり自転している。それに二人は近いた。
「じゃあ、触れてみてください」
「? 呪文とかそういうのっていらないのか?」
「ええ、交感はあくまでエーテルを通すだけなんです。この場所に、潮さんの事を刻んで残す。やってみてください」
ちょっと思ってたのと違う。耳をへたんと垂れさせながら言われるままクリスタルに手のひらを押し当てた。ひやりと、冷たさが手のひらに伝わったのは一瞬で。
自分の中に何かが流れ込んでくる。それは決して嫌なものじゃなく、じんわりと自分に馴染んでいく。
しばらくすると、その感覚もなくなり後にはクリスタルの冷ややかさだけが残った。
「……多分、終わった? どうだろうか」
「はい、それで大丈夫です。じゃあ次はサマーフォードの方へ行ってみましょう。そっちも交感できたら一度テレポ使ってみましょう」
*
荷物を持って動くのは危ないから、先に交感を。そう言われるまま潮は龍について行った。道中羊に似た生き物や大きくて耳の長いネズミをみているとあれはシープ、あっちはマーモット等龍が簡単に説明してくれた。自分が最初襲われていたあの気持ち悪い生き物も遠目に見えて思わず及び腰になってしまったが、大丈夫ですよと龍が笑う。
「グーブゥはこっちから手を出さない限り襲ってきません。大きくて口も怖いですけど、基本的には他の種と共生できるくらい大人しいんです」
「……俺、最初にあいつに襲われたんだが」
「それは……状況を見てないから何とも言えないですね……もしかして何か、別の事で気が立ってたのかも」
そんな説明を受けながら、サマーフォードまでの道を歩く。
目的地のクリスタルが見えてきた、その時だった。
急に周りを囲まれる。それはその辺りを歩いている生物ではなく人間だった。恐らく、脛に傷を持つ者たちなのだろう。冷静に考えてから潮ははっとした。
(そうだ、俺戦えない)
「よお、お兄ちゃんたち。俺たちちょっと困ってんだわ。少し助けちゃくれねえか?」
口調こそお願いの体を取っていたが、明らかに威圧だった。略奪者たちと対面し、しかも自分は戦えないと焦る潮をよそに龍はどこ吹く風、と行った様子で
「あ、無理です。だってメリットないし」
「アァ!?」
「んだと……?てめえ、下手に出てりゃいい気になりやがって」
「いや全然下手に出てないじゃないですか。思いっきり圧かけて脅しにかかってるじゃないですか」
「ちょ、おい……龍、それ以上は」
「こんなことしてないでさっさと手に職つけてはどうですか? 折角世界情勢も落ち着いてきたんですから」
潮の静止も虚しく龍の煽りが止まらない。当然それに乗っからない程ならず者達の気は長くない。怒声を上げながら、二人へ得物を手に襲いかかってくる。
どうする、逃げるか? そう考える潮に龍の荷物が投げ渡された。
「ッ」
「潮さん、少し待っててくださいね」
言うや否や、潮の返事も待たずに龍は浅く腰を落とした。斧を振り上げた一人に向かって突っ込んでいく。
りゅう、と声をかけようとして音にならなかった。
どん、と音がしたと思ったら斧を構えていたルガディン族の男が呻き声を一つ零して血に倒れ伏す。一瞬男たちに動揺が走るが数では圧倒していると龍へと打って出る。
柔らかな光を湛えたまま、龍の目が細められる。
背後から襲ってきたハイランダー族の男の腹を容赦なく蹴りあげ正面から剣を振り下ろしてきたミコッテ族を自分の得物で受け止める。
彼が手にしていたのは刀だった。叩き切る事に長けている剣と鍔迫り合うには相性が悪い。それを相手も分かっているのだろう、押し切れると口元を笑みの形に歪めていた。
それを一瞥して小さく、しかし相手に分かるように溜息を着いた。碧の目が退屈そうに男を見下ろす。
なんだ、と男が疑問に思うより龍が動くのが早かった。
すっ、と自分の身ごと刀を引いた。力を込めていた男は当然前へとバランスを崩して倒れそうになる。踏ん張らせない、と言わんばかりに龍の刀が男の首へと振り下ろされた。
声も上げれず立て続けに倒れた仲間を見て、ならず者達はたたらを踏んだ。龍は手にした刀を肩に担ぐと彼等を睥睨する。
「ああ、殺してません。峰打ちなので生きてますよ。このままこの人達ごと消えていただけるならイエロージャケットにも言いません。何処へでも行けばいい」
「……断ったらどうする」
「殺します」
ああ、どっちにしろイエロージャケットには通報しないことになるなぁ。退屈そうに龍がそう言い放つ。前者は情けだった。後者は、明確な殺意だった。殺すなら、通報する意味も無いだろう? そう言外に意味を含ませる。
それを挑発だと受け止め、いきり立つ男達を制し、彼らの代表だろうミッドランダー族の男は倒れた仲間を担がせて撤退していく。その姿が遠く離れるまでじい、と彼等を見ていた龍は姿が無くなったのを確認するとふう、と溜息を着いた。
「ああ、潮さん。すいませんお待たせしてしまって。行きましょうか」
「……」
けろりと、男達に襲われる前の雰囲気で接してくる龍の目の前で、へたり込んでしまった。同時に嫌な汗がぶわりと溢れる。潮さん!? と慌てる龍に大丈夫だと言いたいのに目が合わせられない。
戦闘は、ああ言う風に敵意を向けられることはアンドロイドの時からあって、平気だと思っていた。事実、平気だったのだ。
生身で感じる悪意と殺意が、ひどく恐ろしい。
こんなものを人間は——伊智や六月は、公安として受けていたのか。
そっと背中をさすられる。一瞬びくりと震えて、ゆっくり見上げると龍が心配そうに潮の背中に手を這わせていた。
「わ……るい、驚いて」
「いや、俺もごめんなさい。失念してました、ちゃんと潮さんのことを聞いていたのに。怖かったですよね」
潮は口籠る。怖かったと認めるのが恥ずかしいのも少しはあったかもしれない。けど、それ以上に何を言えば気遣いをくれる彼を困らせないのかがわからない。困らせたいわけでも、萎縮させてしまいたいわけでもないのだ。
なのに言葉は思いつかなくて、何が正解かもわからない。いつもなら演算で最適解がわかったのに。
ずっと、暗い所で歩き回っているような気分だ。
申し訳ないと思うのに。そう思いながら動けない潮が大丈夫だと言えるようになるまで龍は側で座って待っていた。
*
しかし人間とは現金なもので、ある程度落ち着いてからもう一つ新しい経験をした後に美味いものを食うとすぐ立ち直ってしまうらしい。ビスマルク風エッグサンドを口いっぱいに頬張りながら潮は尻尾を揺らしていた。
あの後、無事サマーフォードのクリスタルと交感し、早速テレポを使用してみた。直前まで龍が青い顔をしていたが多分、クリスタルの色が照り返しただけなのだろう。そう思い、教えられた通りその魔法を行使する。
最初に感じたのは視界のブレだった。その後自分という存在が解けて行き、『リムサ・ロミンサに行きたい』という意思だけがふわふわと漂って——気がついたら都市の雑踏の中に立っていたのだ。後から追いかけてきた龍がほっとした様子で潮を見る。
「よかった、うまく行ったみたいで」
確かにそう言った。その言葉の意味を潮は——聞かなかった。
それどころでは無い。大興奮だった。尻尾の毛と言う毛はぶわりと広がり耳は忙しなく跳ねまくる。思わず龍の両腕を掴んで揺さぶっていた。
「り、りりりり龍!! いま、ふわって、ふわってした!!」
「あ、ああ……それは……」
「ふわってしたと思ったらここにいた!! なあ、これが魔法なのか!?」
ギラギラと両目をカッ開き、頬を紅潮させて自分が魔法を使ったという事実にはしゃぐ潮にあはは、と龍は苦笑いをする他ない。
「気分が悪いとかは」
「ない!!」
「無いならよかった……あいてててて、潮さん、痛い、腕痛いです」
ぎゅううう、と力一杯握られて、なんなら爪も立てられながらも龍はどう、どうと潮を宥める。漸く手を離すが興奮が冷めない潮に小さく笑みが溢れる。ぴこぴこ、ぴこぴこと耳がよく動くこと。微笑ましさを感じながらも「お使い済ませてご飯にしましょうか」と龍は潮に告げた。
*
言われていた物を引き取り、ついでにと他のメンバーに頼まれていた物も買って、ついでに龍から潮へと、言語を学ぶための羽ペンと羊皮紙を教えてもらいご機嫌でサンドイッチを頬張る。柔らかいパンには炒ったくるみが入っており、甘みの中にも香ばしさを感じる。そのパンの間には新鮮なレタスとスクランブルエッグが挟まっていた。これだけ見れば、潮の世界にもあったエッグサンドだろう。
しかし、使われている卵が違うのかコクがあり、黄色味も少し濃いような気がする。レストラン向けにか、半熟で焼かれた卵はとろりと口の中で溶けて広がった。パンだけ、スクランブルエッグだけでも美味しいのに両方合わさって不味いわけがない。もむ、もむと口の可動域を全力で動かしながら夢中で食べていく。
テーブルを挟んだ反対側では、龍が飲み物を飲んで一息ついていた。薄いピンクの液体が、氷を上へと持ち上げながら揺れている。何かと聞いたらピーチジュースと教えてもらい、せっかくだからと同じものを頼んで、運ばれてきたそれを飲んでみる。
食感はとろりとしていた。果肉をしっかり濾したのか、意外と粗い所は感じない。味も果物だけの味というより、スパイスが含まれているのか時折ぴり、と刺激を感じた。甘みに刺激は合わない物だと思っていたがそうでもない。オレンジもいいが、ピーチもいいな。そう思いながら口でとろみごと味を楽しんだ。
そうしてひと心地ついてから、龍はテーブルに貨幣を置き、潮に声をかける。
「じゃあ最後のお使い、済ませましょうか」
「漁師ギルドだったか?魚の卸売と、商品の受け取り……ああ、そうだ。ルカからこれを預かったんだった」
「? なんですか? それ」
「さあ……ギルドマスターかシシプっていう人に渡せとしか」
「なるほど」
そう言いながら潮を立ち上がり、漁師ギルドへ足を向ける。背後でウエイターがまたのお越しを、と言うのが聞こえた。
*
レストラン『ビスマルク』のあった上甲板層から下甲板層へ降りて、更に裏手側。エーデルワイス商会前にそのギルドはあった。魚がギルド入り口で天日干しされていたり、生簀を覗いているギルド員がちらほら目に映る。屋内にも小さいがしっかりした生簀が備え付けられており、中には魚達が悠々と泳いでいた。
その縁にいる非常に小柄な人物に、龍は声を掛ける。
「シシプさん、ご無沙汰してます」
「あら? まあ、リュウじゃない! 釣ってる?」
「俺は最近園芸ギルドの仕事ばかりですね。人使い荒くって……代わりになっちゃんがアベルさんと頑張ってますよ。はい、これ。アベルさんとなっちゃんの釣果です」
「あら、私としては是非貴方にも頑張って欲しいんだけどな? っと、ありがとう。……うん、さすがアベルさん。状態もいいし、釣った後の処理も完璧ね。こっちはなっちゃんかしら? 魚の口が少し抉れてるわね……これはギルドで買うと少し値段を落とさないといけないわ」
「わかりました。それでお願いします」
「ああっ待って待って! 私が個人的に買わせてもらうわ。なっちゃん、十分お魚さんの扱いが上手になってきたんだもの。特別にはなまるをあげたいわ」
そう言いながらにこにこと笑い、財布から貨幣と取り出していた彼女はふと視線を上げた。龍とのやり取りを眺めていた潮と視線が合う。
「あら? そっちの人は初めましてね。私はシシプ、ギルドマスター代行よ」
「ああ、潮だ。最近彼と同じFCで世話になってる」
「そうなのね。あっ、じゃあ、これは貴方のかしら」
そう言いながら彼女は立てかけてあった細長い包みを潮に手渡した。首を傾げながら受け取る潮に、龍が開けていいですよと頷く。
そっと開けると、そこには釣り竿と他の釣具が一式包まれていた。
目を瞬かせる潮に、シシプはにこりと笑いかける。
「アベルさんから連絡をもらっていたの。初心者向けの釣具を一式用意してくれないか、って」
「……俺の」
「そう、貴方の。ほら、ここ。持ち手を見て頂戴。紫色に染色した皮を使っているの。ここのリクエストはミツコからだったわ。貴方の色だったのね」
そう言って微笑むシシプの事が視界に入らなかった。
アンドロイドだった時は、自分に実装されているシステムや備品の全ては使用権こそあれど全て警察の、『人間』の物だった。相方からはアクセサリーをいくつか貰ったり、食事機能があるから料理を作ってもらったりはしたが、そういう稀有な事をするのは彼だけで、他の人間からこの様に贈り物として何かを受け取ったことがなかったのだ。
貰えると思っていなかったし、彼以外に願った事もないから。
だから咄嗟にどうアクションすればいいのか、何を言えばいいのか言葉が詰まってしまう。数刻前に龍に対して抱いた恐怖と同じだった。しかしその時よりも血の巡りがいい気がした。ふわりふわりと、浮いてしまうような。そんな心地。
「……もしかして、気に入らなかったかしら?」
シシプの不安そうな声に我に返って、ゆっくりと首を横に振る。
「いや……驚いたんだ。驚いて、嬉しくて。どうしたらいいかわからなくなった」
「そう、それなら良かった! うふふ、そうよね。人間嬉しいとびっくりが同時にきたらどうしたらいいのかわからなくなってしまうもの。よくわかるわ」
「シシプもそうなるのか?」
「ええ、勿論! 自分が今まで出会えなかったお魚さんを釣り上げた時とかね!」
ちゃめっ気たっぷりにウインクする彼女に思わず笑って、はたとポケットに入れっぱなしだった手紙の存在を思い出す。
「ああ、そうだ。これルカから預かったんだ」
「あら、secretの経理さんから?」
シシプは手紙を受け取ると、封を切り手紙を読み始める。あの組織はシークレットって言うのか、と潮がぼんやり考えているとかさりとかみが擦れる音がした。
「ええ、わかりました。ルカさんに承りましたって伝えておいて」
「わかった」
「……その様子だと手紙の内容は知らないわね? ネタバラシはしていいかしら?」
シシプが龍を見る。龍は苦笑いを浮かべて「多分いいと思いますよ。あの人もドッキリ大好きだし」とGOを出す。わからないのは潮だけだ。
首を傾げている潮ににんまりと笑ったシシプはずい、とその小さな手で潮を指差した。
「後継人ルカ・ミズミとアベル・ディアボロス両名から依頼により……本日付でウシオ・ホンジョウを漁師ギルド員見習いとして歓迎しましょう!」
「は……はい……?」
突然歓迎され、訳がわからないと言った潮に「やっぱり事前説明必要じゃないかしら?」「俺もそう思います」と言うシシプと龍の会話が耳に飛び込んできてやっと事態を飲み込んでいく。
「ちょ、っと待ってくれ! 事情があって、俺はこの世界の言語が危ういんだ。それなのにここでも世話になるなんて……それに釣りなんてした事がない!」
「ええ、だから見習いだと言ったでしょう? 文字の読み書きの件についても手紙に書いてあったわ。それを踏まえてうちに来てもらおうかなって」
「かなって、そんな簡単に……」
「それとも釣りは嫌かしら? 興味ない?」
そう言われて、潮はうぅんと呻いた。
興味があるかないかで言うなら、ある。時折魚以外のものが釣れると(なんでグリフォンが釣れるんだ。グリフォンも釣られるなよ、と突っ込んだのは記憶に新しい)皆楽しそうだった。ああやって喜んでもらえるならやってみたいと思う。
人が楽しいと、自分も嬉しくなる。存在意義を感じて安心するのだ。
しかし、同時に自分が過眠気味であることも自覚している。釣り糸を垂らして待っているなんてできるのだろうか。何より今の自分は、アンドロイドだった時に比べてできないことが余りに多すぎる。人間が当たり前にできる事すらもできない。漸く飲食と眠気に違和感がなくなってきたと言うレベルだ。
口籠る潮に、龍がぽんと肩を叩く。
「できるできないじゃなくて、やりたいかそうじゃないかで選んだらどうですか?」
「……やりたいか、そうじゃないか」
「できるできないなんて、始めないとわからないし。それにこう言うきっかけを貰えたのなら遠慮なく使えってしまえばいいと思います」
あの人たちだってそのつもりでしょうし。何か問題起きたら責任取って貰えばいいんですよ。
そんなことを笑って言われてしまえば、できるかどうかで選んでいられなくなる。後ろ盾になってもらって、ここまで付き添ってもらって。道具を贈ってもらって口添えだってしてもらった。それでしないのはどうなんだろう。
正解がわからない。甘えているように感じて気が引けている。けれども用意したのはこちらだと言われてしまったら潮が断る理由はなくなってしまうのだ。
「じゃあ……色々迷惑をかけると思うが」
ぺこ、とシシプに頭を下げる。小さなララフェルのマスター代行はできないうちはそれでいいじゃないと言って笑った。
*
さて、その日の夜。テレポでFCハウスまで戻った二人を出迎えたのはルカだった。おかえりぃ、と間延びした声に龍が戻りましたと返す。その後ろでテレポの余韻に浸っていた潮を見て、無事やったんやなとこれまたのんびりと言った。その言葉に現実へ帰ってきた潮は首を傾げる。
「? 無事だったとは?」
「んあ? ああ、テレポてな。魔法適正低すぎると途中でエーテルが解けて消えるねん」
まあ死ぬんと同義やなあ。
ほけほけととんでもない事を言われ潮はびん、と尻尾を立たせ龍はあちゃあと頭を抱える。その様子を見てぐるんと龍に向き直ると最初テレポした時のように彼の両腕を引っ掴みぐわんぐわんと揺らした。
「あちゃあって!! 知ってたのか!!」
「ええ……まあ……」
「何で!! 言って!! くれない!!」
「俺が口止めしたからやなぁ」
いたたたたた、と痛がり困る龍を掴んだまま顔だけルカに向くと尖った牙をむき出しにして潮は噛み付いた。
「そう言う重要なことは先に言え!! 何も知らずに大はしゃぎしてただろうが!! 下手したら俺はふわふわしながら消えてたところだぞ!!」
「ええやん、ちゃんとできたんやで」
「それは結果論だ!!」
「結果論やね、でもちゃあんと理屈もある。説明したるで……おん、龍坊のこと離したり。腕ちぎれてまうわ」
それを言われてはっとして、慌てて龍の腕から手を離す。いてて、と腕をさする龍に謝ると悪いのはルカさんなのでとにこやかに返された。
それをジト目で返してからしっしと龍を手で追い払う。荷物片付けてきまーす、と龍はその場を去った。
「ほんなら理屈やね。君、テレポした瞬間どないなった?」
「どうって……なんか目がぼやけたと思ったらふわっと……」
「自分が解けてく感じしたやろ」
そう言われてん、と小さく頷く。ええ、ええ。その感覚正しいで。そう答えてルカは続ける。
「実際、解けとるんよ。テレポ言うんは、一度自分の存在を分解しとるんよ。それをエーテライトクリスタルを目印に地脈……この星の血管みたいなもんやな。それを辿って目的地へと移動し、その先で肉体を再構築する魔法なんや。せやから、結構メンタルに負担が来るんやわ」
「……つまり、最初から『失敗すると死ぬかも知れない』と知ってたら…」
「頭の回転良うて助かるわぁ。せやね、雑念入ったらそれこそ地脈で迷子になってお陀仏や」
「……黙ってた理屈はわかった。でもなんで魔法適性の低い俺に使わせようとした。その理由がその話はないぞ」
「なんで、て。魔法使ったことない、機械の魔力なんぞ知らへんわ。あるかないかの想像もつかんのやったら無い~言うんが最善やろ」
呆れたようにため息を突かれ、潮は押し黙る。自分も同じ問題に当たったら全く同じ答えを出していたのがわかるから。
それはそれとして、未だ納得ができない。
「……今回は成功したが、もし失敗して死んでたらどうするつもりだったんだ」
「ワンチャン、帰れるんちゃう?」
あっけらかんと言い放ったルカに目をひん剥く。彼曰く、潮より先にいた、赤毛の『同郷』が不慮の事故で死にかけた。だが、手当をしよう、助けようと動いている間に体ごとごっそり消えていたという。またあるものは「帰ります」と一言告げてクルザス西部地方の氷山から身を投げた。だが付近をどれだけ探しても遺体が見つからず、しばらくしてからけろりと現れ「お久しぶりです」としばらく過ごすとまた帰るという言葉と共に自死地味た行動を取ったのだ。それ以降、彼女は現れていないし、当然遺体も見つかっていない。
「……盲点だったというか、なんというか」
「まあほんまに帰れとるんかは知らんで? ナギちゃんとコハクはんはそれ以来見とらへんし、センリちゃん、マサシはんやったかな。そいつらも戦乱のある地域行って帰ってきてへんからね。ただ、帰れとる可能性はあるんちゃうかな。せやもんで、今回テレポが失敗してもプラスもマイナスもあらへんかなぁ、と」
「……それはそれとして伝えておいて欲しかったというか」
「なっはっは。まあ俺はそう言う性やねん。許したって。ところで……就職、できましたかいな」
意地の悪い笑みをふっと和らげたルカに、潮は一瞬虚を突かれる。なんのことか思い当たって、ふっと笑ってしまった。
「おかげさまで。見習いという身分からだが」
「それは良かったわ。……ひとつだけ、言うといたるわな。俺が知っとる感じやとそっちは命は等しく大切なんやろうけど、こっちはちゃう」
「!」
「等しいのは死の方や。それ以外はびっくりするくらい不条理で、命の価値に大小がある。せやから、小競り合いもするし……今んとこ大丈夫やろうけど、大きな戦争かて起きる。そんなもん起きんでも、物盗りに命ごと持ってかれる言うんはここじゃあ珍しないことなんよ。気を抜いとったら死ぬんは力のない方やし、相手が間違えとっても力が強い方がまかり通る」
今朝の、龍とならず者たちとのやり取りを思い出す。自分たちが敵わないと知った瞬間撤退を指示した男と、過剰なまでに殺意を向けていた龍と。それがこの世界の命の縮図なのだろうか。
押し黙った潮に、ルカはふっと笑う。
「元が機械であっても覚えておき。ここじゃあ命のやり取りは身近なもんで、けど誰かが死ぬ言うんはきっと、そっちと変わらんくらい悲しいし、さみしい。せやからな、ある程度は力つけ。物としての性能ちゃうよ、命としての力や」
そいでそれは、戦うことだけやないんやで。
そう言う彼の顔はどこまでも穏やかで、凪いでいた。
*
その理由が、わからない。三日ぶりの地下のソファで船を漕ぎながら潮はルカの言葉を考える。
死ぬことだけが平等で、命に価値の差がある。けれども、喪失の悲しみは世界を超えていても同じ。そして、戦うことだけじゃない強さ。今までは考えたことはなく、潮からすれば人間は全員等しく助け守る存在だった。そしてそんな彼らを物としての価値で救い、性能で圧倒しても彼らには向けられることはない。だから、ルカの言葉が。この世界のあり方が上手く飲み込めずにいた。
きっと、今はとても眠いから。頭が上手く働かないんだ。
そう思い、思考に無理やり蓋をする。眠りに落ちる。今日はとにかく忙しなくて――とても驚いたり嬉しかったりしたから、良く眠れそうだ。
根拠もなくそう思いながら瞼を閉じる。寝息はすぐに地下室に響いた。畳む
#CoC #VOID #本城潮 #クロスオーバー
該当シナリオ及びFF14暁月のフィナーレのネタバレはありませんが暁月エリアまでの地名が出ます。気になる方は閲覧をお控えください。
潮ッテその2
眠い。そう億劫に感じながら潮は目を開ける。占領しているソファから起きあがろうとしてみるが、ふかふかしているクッションと自分を包む毛布の感触、ちりちりと揺れる暖炉の温もりがどうも自分を纏ったまま離してくれそうもない。
頑張って起きあがろうと四苦八苦する反面、身体は正直なものでそのままゆっくりとクッションへと倒れ込んでいく。
その体をそっと支えられて、魅惑のふかふかとの接触は阻まれた。
「おはようございます、潮さん」
眠い目をしぱしぱと瞬かせて声の方を見れば、赤髪を揺らしながら青年が柔らかく笑みを浮かべていた。
*
こちらに来て、潮の環境はひどく忙しないものになった。
まずこの世界のことを知る前に自分の体のことから知るべきだったのだからそれも仕方ないのかもしれない。アンドロイドだった時にはなかった空腹や眠気などの生理現象に翻弄された。それに加えて、ミコッテ族(この世界の人間の種類らしい。自分の世界で言うならアメリカ人やロシア人と言ったものだろうと潮は解釈している)としては長身なのだが体力は人並みやや少なめ、と言ったところらしい。エーテルと言うこの世界を構成するエネルギー量もあまり多くなく、冒険者としては魔術職も前衛職もあまり向かないかもしれないと言うのはルカの言だ。事実潮はやることをやってすぐ眠る、と言う生活スタイルになっている。このままではいけない、と一度無理をして起きていたら何でもないところですっ転んでそのまま寝落ちしてしまい、結果余計に迷惑を掛けてしまっている。
「焦らなくてもいいさ。できるできないより、まずどういう状態であるかの把握やそれに慣れることも大切だと思うし。ウシオさんのペースで掴んでいけばいい」
そう酒を飲みながら朗らかに言うアベルの言葉通り、もどかしい気持ちを抑え込んで自分の体と眠気に抗う日々を送っていた。起きている間はカンパニーハウスの掃除をしてから読み書きをルカやフィオナに教わる。幸い記憶力は良かったので、誰かからの伝言係やメモ帳がわりになったりしている。この辺りはアンドロイドの時とあまり大差ないな、と少しほっとした。文字もゆっくりとなら読めるようになっている。また潮の調子がいい時はその時頼まれた者と近場で買い出しへ向かい、金銭の支払い等を学んでいた。日本のように通貨に種類はなく、ギルと呼ばれる貨幣何枚分と計算するらしい。単純で覚えやすかったから、買い出し要員に任命された時は不安定な自分の足元が少し落ち着いたようで嬉しかった。
ただ、まだ文字の読み書きはあやふやだからまだ付き添いは外されないままだ。少し不服だったりする。
そんな潮を見かねたのか、はたまた本当に言葉の通りだったのか。少し遠いところへの買い出しをルカに言い渡されたのはつい先日の話のことである。
「ウシオはん、ちょいと遠いところへ買い物行って欲しいねん」
「? 構わないがどこへ?」
「リムサや、リムサ・ロミンサ。君が保護された都市やなぁ」
その単語にああ、あそこかと納得する。白い珊瑚礁でできた、潮騒の響く都市。あの時は確かすぐに倒れてしっかり見ることもできなかった。
少しだけ慣れた土地から、あまり知らない場所へ。不安と同時に、感じたことのない気持ちが無縁を過ぎる。
それは、没頭するような内容の本を捲る時の気持ちのような。
それが何かわからず内心首を傾げている潮に気付かず、ルカは続ける。
「あそこになぁ、チビらが使うフライパンとかハンマー注文しとんねん。あと漁師ギルドへ魚の卸やな。ベル坊やらなっちゃんが釣って、余ったやつ。質は悪ないし、ちょっとしたお小遣い程度になるんよ。その買い付けと……ああそうそう、そこに道具一式注文してあんねん。その引き取りやね」
「俺でいいのか? 引き取りとかなら何とかなるが、買い付けはしたことがない」
「構わんよ。アベルとナツキから、って言うたらちゃんと見てもらえるで。あ、せや」
ルカは何か思いついたように懐から紙と封筒を取り出すと、近くに置いてあった羽ペン(日本のような、ボールペンらしきものはないらしい。あちこちにインク瓶と羽ペンが設置されているのだ)にインクをつけてさらさらと何かを書く。それを封筒に入れて蝋で封をすると潮に投げて渡した。
「ついでにこれ、ギルドマスターか、シシプ言う人に渡しといて。あと付き添いは……せやなぁ……あ、丁度ええわ」
少し考え込む素振りを見せたルカは、潮の背後へおういと軽く声をかけた。彼はきょとんとして潮とルカを見、なんですか? と小走りに駆け寄ってきた。
「明日確かなんもあらへんだやろ? ウシオはんの買い出し付き合いついでにあれそれ教えたって。……ウシオはん、この子はなぁ……」
*
「おはよう、龍。悪い、また寝そうになった」
「あはは、ちょっと頑張ってましたけど負けてましたね」
碧の目を細めて龍が笑う。普通なら怒るところなのだろうが、二度寝しかけたのは事実だし龍はおっとりと笑うから、バカにされている感じがしないのだ。事実彼にもそんなつもりはないのだろう、すぐに俺も二度寝しちゃう時あるんで気持ちわかりますよとフォローを入れてくる。
昨日たまたま近くを歩いただけだと言うのに突然自分の面倒を押し付けられてさぞ迷惑だろうな。そう思った潮がそのことについて謝罪すると彼は今のようにふわりと笑って首を横に振った。
「明日予定がないのは本当ですし、大丈夫ですよ。俺でよければお付き合いさせてください」
そこまで言って頭まで下げられた。間違いなく面倒を見てもらう側なのは自分なのに逆に低姿勢に返されて潮がしどろもどろになる。その様子を小さく笑いながら見たルカは龍に何事かを耳打ちしてほな明日朝の便で向かったって、と踵を返したのだ。
「そう言えば、ルカに何を言われていたんだ?」
昨日の光景を思い出し、ふと疑問に思ったことを問えば龍はああ、と教えてくれた。
「ついでに交感のやり方を教えておいてくれと頼まれていました」
「こうかん?」
「はい。難しい理屈は俺もよくわかってないんですけども」
曰く、自分のエーテルと街や都市に設置されているクリスタルへ通し、また自分の中へクリスタルのエーテルを通すことによってその場所へ一瞬でたどり着くことができる、という。色々な理屈はあるが、要は自分とクリスタルのパスを繋ぐ方法を教えておけと頼まれたそうだ。
「それができたら今後は船に乗らなくても、何か用があったらすぐに飛んでいけますから。便利ですよ、テレポ」
「……俺は魔法は向いてないと言われたんだが」
「ああ、多分戦闘職としてはと言うことじゃないでしょうか? 生まれつきエーテル量が少なすぎるとかでないなら結構誰でもできる魔法です」
思わず、潮の耳がぴょこんと跳ねる。魔法。文字通りロボット学やら何やら、科学の結晶であった自分には本当に無縁だったもの。それが使えるかもしれないのだ。
楽しみにならないわけがない。
それが押し殺せないと言わんばかりに耳がぴこぴこ、尻尾がひょこひょこと動いている。その様子を見ながら龍は一瞬目を丸くしてから微笑する。
「ルカさんが多めにお小遣いを渡してくれました。交感と買い出しが終わったらビスマルク風エッグサンドでも食べましょうか」
「びすまるくふうえっぐさんど」
「元は労働者向けの携帯食だったのを、高級レストランがアレンジしたものですね」
「食べる」
潮の食いつきの良さにまた笑って、龍はじゃあいきましょうかと潮をソファから引っ張り起こした。
*
船に揺られて三日後。二人はリムサ・ロミンサの港に立っていた。
「ぉえ……」
「潮さん、これ。多少楽になります」
青い顔をして道の端で座り込んでいた潮に苦笑しながら龍がレザーカンティーンを受け取る。促されるまま蓋を開けておずおずと中身に口をつけて、耳が跳ねた。
「ラッシーだ」
「はい。ミントで風味つけてるからさっぱりしてるでしょう? 船酔いした人はよく飲んでるんですよ」
ちびちび飲み始めた潮の隣に腰掛けが龍は自分たちが乗ってきたのとは別の船を眺めて、物流増えたなぁ、と呟いた。
「? 元々こうじゃなかったのか?」
「ええ、結構色々大変だったんです。ラザハンからの香辛料を手に入れるのに苦労しました」
「他のものじゃダメなのか?」
「使い方によってはそれでもいいんでしょうけど、種類が多くて質もいいんです。グリダニアは木材やハーブがよくて、ウルダハは金属や宝石類だったかな」
「じゃあここは?」
「魚と船ですね。今日は難しいかもしれませんが、その内造船場とか見に行ってもいいかもしれません」
そう言う龍に頷いて、潮はラッシーに口をつける。全部飲み切るとカンティーンをすっと取られた。それくらいは自分で、と言う前に龍に遮られる。最も本人にそのつもりはなかったのだが。
「さて、買い物に行く前に交感してしまいましょうか。ついでにサマーフォードのクリスタルも」
*
ざわざわと数多の人が行き交っている中、それはそこにあった。大きく切り出されたそれに幾つかの装置がついていて、原理も理屈もわからないが浮いて、ゆっくり自転している。それに二人は近いた。
「じゃあ、触れてみてください」
「? 呪文とかそういうのっていらないのか?」
「ええ、交感はあくまでエーテルを通すだけなんです。この場所に、潮さんの事を刻んで残す。やってみてください」
ちょっと思ってたのと違う。耳をへたんと垂れさせながら言われるままクリスタルに手のひらを押し当てた。ひやりと、冷たさが手のひらに伝わったのは一瞬で。
自分の中に何かが流れ込んでくる。それは決して嫌なものじゃなく、じんわりと自分に馴染んでいく。
しばらくすると、その感覚もなくなり後にはクリスタルの冷ややかさだけが残った。
「……多分、終わった? どうだろうか」
「はい、それで大丈夫です。じゃあ次はサマーフォードの方へ行ってみましょう。そっちも交感できたら一度テレポ使ってみましょう」
*
荷物を持って動くのは危ないから、先に交感を。そう言われるまま潮は龍について行った。道中羊に似た生き物や大きくて耳の長いネズミをみているとあれはシープ、あっちはマーモット等龍が簡単に説明してくれた。自分が最初襲われていたあの気持ち悪い生き物も遠目に見えて思わず及び腰になってしまったが、大丈夫ですよと龍が笑う。
「グーブゥはこっちから手を出さない限り襲ってきません。大きくて口も怖いですけど、基本的には他の種と共生できるくらい大人しいんです」
「……俺、最初にあいつに襲われたんだが」
「それは……状況を見てないから何とも言えないですね……もしかして何か、別の事で気が立ってたのかも」
そんな説明を受けながら、サマーフォードまでの道を歩く。
目的地のクリスタルが見えてきた、その時だった。
急に周りを囲まれる。それはその辺りを歩いている生物ではなく人間だった。恐らく、脛に傷を持つ者たちなのだろう。冷静に考えてから潮ははっとした。
(そうだ、俺戦えない)
「よお、お兄ちゃんたち。俺たちちょっと困ってんだわ。少し助けちゃくれねえか?」
口調こそお願いの体を取っていたが、明らかに威圧だった。略奪者たちと対面し、しかも自分は戦えないと焦る潮をよそに龍はどこ吹く風、と行った様子で
「あ、無理です。だってメリットないし」
「アァ!?」
「んだと……?てめえ、下手に出てりゃいい気になりやがって」
「いや全然下手に出てないじゃないですか。思いっきり圧かけて脅しにかかってるじゃないですか」
「ちょ、おい……龍、それ以上は」
「こんなことしてないでさっさと手に職つけてはどうですか? 折角世界情勢も落ち着いてきたんですから」
潮の静止も虚しく龍の煽りが止まらない。当然それに乗っからない程ならず者達の気は長くない。怒声を上げながら、二人へ得物を手に襲いかかってくる。
どうする、逃げるか? そう考える潮に龍の荷物が投げ渡された。
「ッ」
「潮さん、少し待っててくださいね」
言うや否や、潮の返事も待たずに龍は浅く腰を落とした。斧を振り上げた一人に向かって突っ込んでいく。
りゅう、と声をかけようとして音にならなかった。
どん、と音がしたと思ったら斧を構えていたルガディン族の男が呻き声を一つ零して血に倒れ伏す。一瞬男たちに動揺が走るが数では圧倒していると龍へと打って出る。
柔らかな光を湛えたまま、龍の目が細められる。
背後から襲ってきたハイランダー族の男の腹を容赦なく蹴りあげ正面から剣を振り下ろしてきたミコッテ族を自分の得物で受け止める。
彼が手にしていたのは刀だった。叩き切る事に長けている剣と鍔迫り合うには相性が悪い。それを相手も分かっているのだろう、押し切れると口元を笑みの形に歪めていた。
それを一瞥して小さく、しかし相手に分かるように溜息を着いた。碧の目が退屈そうに男を見下ろす。
なんだ、と男が疑問に思うより龍が動くのが早かった。
すっ、と自分の身ごと刀を引いた。力を込めていた男は当然前へとバランスを崩して倒れそうになる。踏ん張らせない、と言わんばかりに龍の刀が男の首へと振り下ろされた。
声も上げれず立て続けに倒れた仲間を見て、ならず者達はたたらを踏んだ。龍は手にした刀を肩に担ぐと彼等を睥睨する。
「ああ、殺してません。峰打ちなので生きてますよ。このままこの人達ごと消えていただけるならイエロージャケットにも言いません。何処へでも行けばいい」
「……断ったらどうする」
「殺します」
ああ、どっちにしろイエロージャケットには通報しないことになるなぁ。退屈そうに龍がそう言い放つ。前者は情けだった。後者は、明確な殺意だった。殺すなら、通報する意味も無いだろう? そう言外に意味を含ませる。
それを挑発だと受け止め、いきり立つ男達を制し、彼らの代表だろうミッドランダー族の男は倒れた仲間を担がせて撤退していく。その姿が遠く離れるまでじい、と彼等を見ていた龍は姿が無くなったのを確認するとふう、と溜息を着いた。
「ああ、潮さん。すいませんお待たせしてしまって。行きましょうか」
「……」
けろりと、男達に襲われる前の雰囲気で接してくる龍の目の前で、へたり込んでしまった。同時に嫌な汗がぶわりと溢れる。潮さん!? と慌てる龍に大丈夫だと言いたいのに目が合わせられない。
戦闘は、ああ言う風に敵意を向けられることはアンドロイドの時からあって、平気だと思っていた。事実、平気だったのだ。
生身で感じる悪意と殺意が、ひどく恐ろしい。
こんなものを人間は——伊智や六月は、公安として受けていたのか。
そっと背中をさすられる。一瞬びくりと震えて、ゆっくり見上げると龍が心配そうに潮の背中に手を這わせていた。
「わ……るい、驚いて」
「いや、俺もごめんなさい。失念してました、ちゃんと潮さんのことを聞いていたのに。怖かったですよね」
潮は口籠る。怖かったと認めるのが恥ずかしいのも少しはあったかもしれない。けど、それ以上に何を言えば気遣いをくれる彼を困らせないのかがわからない。困らせたいわけでも、萎縮させてしまいたいわけでもないのだ。
なのに言葉は思いつかなくて、何が正解かもわからない。いつもなら演算で最適解がわかったのに。
ずっと、暗い所で歩き回っているような気分だ。
申し訳ないと思うのに。そう思いながら動けない潮が大丈夫だと言えるようになるまで龍は側で座って待っていた。
*
しかし人間とは現金なもので、ある程度落ち着いてからもう一つ新しい経験をした後に美味いものを食うとすぐ立ち直ってしまうらしい。ビスマルク風エッグサンドを口いっぱいに頬張りながら潮は尻尾を揺らしていた。
あの後、無事サマーフォードのクリスタルと交感し、早速テレポを使用してみた。直前まで龍が青い顔をしていたが多分、クリスタルの色が照り返しただけなのだろう。そう思い、教えられた通りその魔法を行使する。
最初に感じたのは視界のブレだった。その後自分という存在が解けて行き、『リムサ・ロミンサに行きたい』という意思だけがふわふわと漂って——気がついたら都市の雑踏の中に立っていたのだ。後から追いかけてきた龍がほっとした様子で潮を見る。
「よかった、うまく行ったみたいで」
確かにそう言った。その言葉の意味を潮は——聞かなかった。
それどころでは無い。大興奮だった。尻尾の毛と言う毛はぶわりと広がり耳は忙しなく跳ねまくる。思わず龍の両腕を掴んで揺さぶっていた。
「り、りりりり龍!! いま、ふわって、ふわってした!!」
「あ、ああ……それは……」
「ふわってしたと思ったらここにいた!! なあ、これが魔法なのか!?」
ギラギラと両目をカッ開き、頬を紅潮させて自分が魔法を使ったという事実にはしゃぐ潮にあはは、と龍は苦笑いをする他ない。
「気分が悪いとかは」
「ない!!」
「無いならよかった……あいてててて、潮さん、痛い、腕痛いです」
ぎゅううう、と力一杯握られて、なんなら爪も立てられながらも龍はどう、どうと潮を宥める。漸く手を離すが興奮が冷めない潮に小さく笑みが溢れる。ぴこぴこ、ぴこぴこと耳がよく動くこと。微笑ましさを感じながらも「お使い済ませてご飯にしましょうか」と龍は潮に告げた。
*
言われていた物を引き取り、ついでにと他のメンバーに頼まれていた物も買って、ついでに龍から潮へと、言語を学ぶための羽ペンと羊皮紙を教えてもらいご機嫌でサンドイッチを頬張る。柔らかいパンには炒ったくるみが入っており、甘みの中にも香ばしさを感じる。そのパンの間には新鮮なレタスとスクランブルエッグが挟まっていた。これだけ見れば、潮の世界にもあったエッグサンドだろう。
しかし、使われている卵が違うのかコクがあり、黄色味も少し濃いような気がする。レストラン向けにか、半熟で焼かれた卵はとろりと口の中で溶けて広がった。パンだけ、スクランブルエッグだけでも美味しいのに両方合わさって不味いわけがない。もむ、もむと口の可動域を全力で動かしながら夢中で食べていく。
テーブルを挟んだ反対側では、龍が飲み物を飲んで一息ついていた。薄いピンクの液体が、氷を上へと持ち上げながら揺れている。何かと聞いたらピーチジュースと教えてもらい、せっかくだからと同じものを頼んで、運ばれてきたそれを飲んでみる。
食感はとろりとしていた。果肉をしっかり濾したのか、意外と粗い所は感じない。味も果物だけの味というより、スパイスが含まれているのか時折ぴり、と刺激を感じた。甘みに刺激は合わない物だと思っていたがそうでもない。オレンジもいいが、ピーチもいいな。そう思いながら口でとろみごと味を楽しんだ。
そうしてひと心地ついてから、龍はテーブルに貨幣を置き、潮に声をかける。
「じゃあ最後のお使い、済ませましょうか」
「漁師ギルドだったか?魚の卸売と、商品の受け取り……ああ、そうだ。ルカからこれを預かったんだった」
「? なんですか? それ」
「さあ……ギルドマスターかシシプっていう人に渡せとしか」
「なるほど」
そう言いながら潮を立ち上がり、漁師ギルドへ足を向ける。背後でウエイターがまたのお越しを、と言うのが聞こえた。
*
レストラン『ビスマルク』のあった上甲板層から下甲板層へ降りて、更に裏手側。エーデルワイス商会前にそのギルドはあった。魚がギルド入り口で天日干しされていたり、生簀を覗いているギルド員がちらほら目に映る。屋内にも小さいがしっかりした生簀が備え付けられており、中には魚達が悠々と泳いでいた。
その縁にいる非常に小柄な人物に、龍は声を掛ける。
「シシプさん、ご無沙汰してます」
「あら? まあ、リュウじゃない! 釣ってる?」
「俺は最近園芸ギルドの仕事ばかりですね。人使い荒くって……代わりになっちゃんがアベルさんと頑張ってますよ。はい、これ。アベルさんとなっちゃんの釣果です」
「あら、私としては是非貴方にも頑張って欲しいんだけどな? っと、ありがとう。……うん、さすがアベルさん。状態もいいし、釣った後の処理も完璧ね。こっちはなっちゃんかしら? 魚の口が少し抉れてるわね……これはギルドで買うと少し値段を落とさないといけないわ」
「わかりました。それでお願いします」
「ああっ待って待って! 私が個人的に買わせてもらうわ。なっちゃん、十分お魚さんの扱いが上手になってきたんだもの。特別にはなまるをあげたいわ」
そう言いながらにこにこと笑い、財布から貨幣と取り出していた彼女はふと視線を上げた。龍とのやり取りを眺めていた潮と視線が合う。
「あら? そっちの人は初めましてね。私はシシプ、ギルドマスター代行よ」
「ああ、潮だ。最近彼と同じFCで世話になってる」
「そうなのね。あっ、じゃあ、これは貴方のかしら」
そう言いながら彼女は立てかけてあった細長い包みを潮に手渡した。首を傾げながら受け取る潮に、龍が開けていいですよと頷く。
そっと開けると、そこには釣り竿と他の釣具が一式包まれていた。
目を瞬かせる潮に、シシプはにこりと笑いかける。
「アベルさんから連絡をもらっていたの。初心者向けの釣具を一式用意してくれないか、って」
「……俺の」
「そう、貴方の。ほら、ここ。持ち手を見て頂戴。紫色に染色した皮を使っているの。ここのリクエストはミツコからだったわ。貴方の色だったのね」
そう言って微笑むシシプの事が視界に入らなかった。
アンドロイドだった時は、自分に実装されているシステムや備品の全ては使用権こそあれど全て警察の、『人間』の物だった。相方からはアクセサリーをいくつか貰ったり、食事機能があるから料理を作ってもらったりはしたが、そういう稀有な事をするのは彼だけで、他の人間からこの様に贈り物として何かを受け取ったことがなかったのだ。
貰えると思っていなかったし、彼以外に願った事もないから。
だから咄嗟にどうアクションすればいいのか、何を言えばいいのか言葉が詰まってしまう。数刻前に龍に対して抱いた恐怖と同じだった。しかしその時よりも血の巡りがいい気がした。ふわりふわりと、浮いてしまうような。そんな心地。
「……もしかして、気に入らなかったかしら?」
シシプの不安そうな声に我に返って、ゆっくりと首を横に振る。
「いや……驚いたんだ。驚いて、嬉しくて。どうしたらいいかわからなくなった」
「そう、それなら良かった! うふふ、そうよね。人間嬉しいとびっくりが同時にきたらどうしたらいいのかわからなくなってしまうもの。よくわかるわ」
「シシプもそうなるのか?」
「ええ、勿論! 自分が今まで出会えなかったお魚さんを釣り上げた時とかね!」
ちゃめっ気たっぷりにウインクする彼女に思わず笑って、はたとポケットに入れっぱなしだった手紙の存在を思い出す。
「ああ、そうだ。これルカから預かったんだ」
「あら、secretの経理さんから?」
シシプは手紙を受け取ると、封を切り手紙を読み始める。あの組織はシークレットって言うのか、と潮がぼんやり考えているとかさりとかみが擦れる音がした。
「ええ、わかりました。ルカさんに承りましたって伝えておいて」
「わかった」
「……その様子だと手紙の内容は知らないわね? ネタバラシはしていいかしら?」
シシプが龍を見る。龍は苦笑いを浮かべて「多分いいと思いますよ。あの人もドッキリ大好きだし」とGOを出す。わからないのは潮だけだ。
首を傾げている潮ににんまりと笑ったシシプはずい、とその小さな手で潮を指差した。
「後継人ルカ・ミズミとアベル・ディアボロス両名から依頼により……本日付でウシオ・ホンジョウを漁師ギルド員見習いとして歓迎しましょう!」
「は……はい……?」
突然歓迎され、訳がわからないと言った潮に「やっぱり事前説明必要じゃないかしら?」「俺もそう思います」と言うシシプと龍の会話が耳に飛び込んできてやっと事態を飲み込んでいく。
「ちょ、っと待ってくれ! 事情があって、俺はこの世界の言語が危ういんだ。それなのにここでも世話になるなんて……それに釣りなんてした事がない!」
「ええ、だから見習いだと言ったでしょう? 文字の読み書きの件についても手紙に書いてあったわ。それを踏まえてうちに来てもらおうかなって」
「かなって、そんな簡単に……」
「それとも釣りは嫌かしら? 興味ない?」
そう言われて、潮はうぅんと呻いた。
興味があるかないかで言うなら、ある。時折魚以外のものが釣れると(なんでグリフォンが釣れるんだ。グリフォンも釣られるなよ、と突っ込んだのは記憶に新しい)皆楽しそうだった。ああやって喜んでもらえるならやってみたいと思う。
人が楽しいと、自分も嬉しくなる。存在意義を感じて安心するのだ。
しかし、同時に自分が過眠気味であることも自覚している。釣り糸を垂らして待っているなんてできるのだろうか。何より今の自分は、アンドロイドだった時に比べてできないことが余りに多すぎる。人間が当たり前にできる事すらもできない。漸く飲食と眠気に違和感がなくなってきたと言うレベルだ。
口籠る潮に、龍がぽんと肩を叩く。
「できるできないじゃなくて、やりたいかそうじゃないかで選んだらどうですか?」
「……やりたいか、そうじゃないか」
「できるできないなんて、始めないとわからないし。それにこう言うきっかけを貰えたのなら遠慮なく使えってしまえばいいと思います」
あの人たちだってそのつもりでしょうし。何か問題起きたら責任取って貰えばいいんですよ。
そんなことを笑って言われてしまえば、できるかどうかで選んでいられなくなる。後ろ盾になってもらって、ここまで付き添ってもらって。道具を贈ってもらって口添えだってしてもらった。それでしないのはどうなんだろう。
正解がわからない。甘えているように感じて気が引けている。けれども用意したのはこちらだと言われてしまったら潮が断る理由はなくなってしまうのだ。
「じゃあ……色々迷惑をかけると思うが」
ぺこ、とシシプに頭を下げる。小さなララフェルのマスター代行はできないうちはそれでいいじゃないと言って笑った。
*
さて、その日の夜。テレポでFCハウスまで戻った二人を出迎えたのはルカだった。おかえりぃ、と間延びした声に龍が戻りましたと返す。その後ろでテレポの余韻に浸っていた潮を見て、無事やったんやなとこれまたのんびりと言った。その言葉に現実へ帰ってきた潮は首を傾げる。
「? 無事だったとは?」
「んあ? ああ、テレポてな。魔法適正低すぎると途中でエーテルが解けて消えるねん」
まあ死ぬんと同義やなあ。
ほけほけととんでもない事を言われ潮はびん、と尻尾を立たせ龍はあちゃあと頭を抱える。その様子を見てぐるんと龍に向き直ると最初テレポした時のように彼の両腕を引っ掴みぐわんぐわんと揺らした。
「あちゃあって!! 知ってたのか!!」
「ええ……まあ……」
「何で!! 言って!! くれない!!」
「俺が口止めしたからやなぁ」
いたたたたた、と痛がり困る龍を掴んだまま顔だけルカに向くと尖った牙をむき出しにして潮は噛み付いた。
「そう言う重要なことは先に言え!! 何も知らずに大はしゃぎしてただろうが!! 下手したら俺はふわふわしながら消えてたところだぞ!!」
「ええやん、ちゃんとできたんやで」
「それは結果論だ!!」
「結果論やね、でもちゃあんと理屈もある。説明したるで……おん、龍坊のこと離したり。腕ちぎれてまうわ」
それを言われてはっとして、慌てて龍の腕から手を離す。いてて、と腕をさする龍に謝ると悪いのはルカさんなのでとにこやかに返された。
それをジト目で返してからしっしと龍を手で追い払う。荷物片付けてきまーす、と龍はその場を去った。
「ほんなら理屈やね。君、テレポした瞬間どないなった?」
「どうって……なんか目がぼやけたと思ったらふわっと……」
「自分が解けてく感じしたやろ」
そう言われてん、と小さく頷く。ええ、ええ。その感覚正しいで。そう答えてルカは続ける。
「実際、解けとるんよ。テレポ言うんは、一度自分の存在を分解しとるんよ。それをエーテライトクリスタルを目印に地脈……この星の血管みたいなもんやな。それを辿って目的地へと移動し、その先で肉体を再構築する魔法なんや。せやから、結構メンタルに負担が来るんやわ」
「……つまり、最初から『失敗すると死ぬかも知れない』と知ってたら…」
「頭の回転良うて助かるわぁ。せやね、雑念入ったらそれこそ地脈で迷子になってお陀仏や」
「……黙ってた理屈はわかった。でもなんで魔法適性の低い俺に使わせようとした。その理由がその話はないぞ」
「なんで、て。魔法使ったことない、機械の魔力なんぞ知らへんわ。あるかないかの想像もつかんのやったら無い~言うんが最善やろ」
呆れたようにため息を突かれ、潮は押し黙る。自分も同じ問題に当たったら全く同じ答えを出していたのがわかるから。
それはそれとして、未だ納得ができない。
「……今回は成功したが、もし失敗して死んでたらどうするつもりだったんだ」
「ワンチャン、帰れるんちゃう?」
あっけらかんと言い放ったルカに目をひん剥く。彼曰く、潮より先にいた、赤毛の『同郷』が不慮の事故で死にかけた。だが、手当をしよう、助けようと動いている間に体ごとごっそり消えていたという。またあるものは「帰ります」と一言告げてクルザス西部地方の氷山から身を投げた。だが付近をどれだけ探しても遺体が見つからず、しばらくしてからけろりと現れ「お久しぶりです」としばらく過ごすとまた帰るという言葉と共に自死地味た行動を取ったのだ。それ以降、彼女は現れていないし、当然遺体も見つかっていない。
「……盲点だったというか、なんというか」
「まあほんまに帰れとるんかは知らんで? ナギちゃんとコハクはんはそれ以来見とらへんし、センリちゃん、マサシはんやったかな。そいつらも戦乱のある地域行って帰ってきてへんからね。ただ、帰れとる可能性はあるんちゃうかな。せやもんで、今回テレポが失敗してもプラスもマイナスもあらへんかなぁ、と」
「……それはそれとして伝えておいて欲しかったというか」
「なっはっは。まあ俺はそう言う性やねん。許したって。ところで……就職、できましたかいな」
意地の悪い笑みをふっと和らげたルカに、潮は一瞬虚を突かれる。なんのことか思い当たって、ふっと笑ってしまった。
「おかげさまで。見習いという身分からだが」
「それは良かったわ。……ひとつだけ、言うといたるわな。俺が知っとる感じやとそっちは命は等しく大切なんやろうけど、こっちはちゃう」
「!」
「等しいのは死の方や。それ以外はびっくりするくらい不条理で、命の価値に大小がある。せやから、小競り合いもするし……今んとこ大丈夫やろうけど、大きな戦争かて起きる。そんなもん起きんでも、物盗りに命ごと持ってかれる言うんはここじゃあ珍しないことなんよ。気を抜いとったら死ぬんは力のない方やし、相手が間違えとっても力が強い方がまかり通る」
今朝の、龍とならず者たちとのやり取りを思い出す。自分たちが敵わないと知った瞬間撤退を指示した男と、過剰なまでに殺意を向けていた龍と。それがこの世界の命の縮図なのだろうか。
押し黙った潮に、ルカはふっと笑う。
「元が機械であっても覚えておき。ここじゃあ命のやり取りは身近なもんで、けど誰かが死ぬ言うんはきっと、そっちと変わらんくらい悲しいし、さみしい。せやからな、ある程度は力つけ。物としての性能ちゃうよ、命としての力や」
そいでそれは、戦うことだけやないんやで。
そう言う彼の顔はどこまでも穏やかで、凪いでいた。
*
その理由が、わからない。三日ぶりの地下のソファで船を漕ぎながら潮はルカの言葉を考える。
死ぬことだけが平等で、命に価値の差がある。けれども、喪失の悲しみは世界を超えていても同じ。そして、戦うことだけじゃない強さ。今までは考えたことはなく、潮からすれば人間は全員等しく助け守る存在だった。そしてそんな彼らを物としての価値で救い、性能で圧倒しても彼らには向けられることはない。だから、ルカの言葉が。この世界のあり方が上手く飲み込めずにいた。
きっと、今はとても眠いから。頭が上手く働かないんだ。
そう思い、思考に無理やり蓋をする。眠りに落ちる。今日はとにかく忙しなくて――とても驚いたり嬉しかったりしたから、良く眠れそうだ。
根拠もなくそう思いながら瞼を閉じる。寝息はすぐに地下室に響いた。畳む
#CoC #VOID #本城潮 #クロスオーバー
COC「VOID」HO2自機・潮がエオルゼアでミコッテになって過ごす話。ただの私得。該当シナリオ及びFF14暁月のフィナーレのネタバレはありませんが暁月エリアまでの地名が出ます。気になる方は閲覧をお控えください。
潮ッテオムニバス
どん、と全身に走る衝撃で意識が浮上する。次いでじんじんと響くような痛みが広がって身動きが取れなくなる。
(あれ?俺、センサー切ってたっけ?)
そもそも今どういう状況なんだ。
潮は困惑と共に目を開いた。……目を開いた?
潮は最新型のアンドロイドだ。状況を把握する際にはカメラが起動し、映像として周囲を捉えると同時に演算機能が稼働しデータとして物事を捉える。瞬きはするが所詮は人間としての模倣のため、する必要がない。
だから、本来何かを見るのに目を開くなんて行為はありえないのだ。それを己がやった事。周りを見ても状況がまるで分からない事。遮断出来ない痛みがあること。回るはずの思考が止まったままであること。その全てに潮は困惑した。
困惑したままだったから、眼前の驚異に意識が向かなった。本来、ありえない事なのに。
ぶん、と何かを振ったような音がして潮がそれに意識を向けた時には既にそれは振り下ろされようとしていた。
人間など優に超える巨躯は灰色で、極端に短い足とは対照的に振り上げられた腕はとても長い。頭の上に咲いている花の可憐さと、その顔に付いている牙の並んだ巨大な口がアンバランスで不気味さを強調していた。
それに向けられていたのは、明確な敵意で。
見上げたまま潮は固まった。何かしようと言う考えすら思いつけなかった。ああ、あれに打たれたら流石に壊れるな――そんなことを考えた。
振り下ろされた腕は、しかし身構える事すら出来なかった潮を襲うことはなかった。
ひらりと、視界に淡く桜色が靡く。
それと同時に灰色の巨躯がずしんと音を立てて地へ倒れ伏す。砂埃に咳き込んで、その事にまた困惑する。
「おにいさん〜大丈夫〜?」
そんな潮に、緊迫感も何も無い、間伸びた声がかけられた。
見れば、尻もちを付いている自分を見下ろすように少女が立っている。潮より随分小柄なその少女は、薄い桜色の変わったデザインの服を着ていた。先程見たのはこれか、と納得しながらも彼女を観察する。そして首をかしげるはめになった。
金髪に薄桃色のグラデーション。それだけ見ればそういうヘアカラーなのだろうかと思うだろう。事実潮も(人間とは事情は違うが)黒から紫という不思議な色合いの髪色をしている。だが、目を引いたのはそこではない。
本来人間の耳に当たる場所に、白い角が生えている。それだけではなく、同色の鱗が顔や手を覆っていた。更には腰くらいの場所からひょろりと鱗に覆われた尾が揺れていた。
更に両手で麗美な装飾の、しかしその体躯に対して大きすぎる斧を苦もなさげに持ち、不思議そうに潮を見ていた。
「? どうしたの〜?」
「あ、ああ。いや、何でもない」
流石に不躾に見過ぎたか。そう思って潮が目を逸らすと、少女は斧を背に背負いすいと手を差し出してきた。
「怪我とか大丈夫そうだねぇ。見えないところが痛かったら、アベルさんかフィオナさんに魔法で治してもらおっか。……でも、うーん。ちょっと埃っぽい? あっちに川があるから、そこで軽く顔とか洗ったほうがいいかも〜? 服もボロボロだし、イエロージャケットのおじさんたちに怪しまれちゃう」
なんだなんだ。知ってるけど普段聞かないような単語と全く知らない単語が同時に出てきたぞ。
目を白黒させる潮を、少女は問答無用で川へと引き摺っていった(比喩ではなく、本当に引きずられた)
*
がやがやと賑やかな、中世の日本を連想させるような都市内にある船着場に潮と少女はいた。
「……なあ、あの話って」
「うん〜。ウシオさん、私が拾ったから大事にするね〜」
「冗談じゃなかったかァ〜…」
にこにこと笑う少女に頭を抱える。ここに至るまで、あっという間だったというか長かったというか。何とも言えない気持ちになる。
まず、彼女の名前だがミツコと言うらしい。漢字は知らない、と言うよりわからない。漢字というものがあるのか、という問題まで遡る。と言うのも、話している内容はわかるし潮も当然の様に会話をしているのだが、あちこちにある看板を見ても知らない言語で書かれているのだ。それだけでかなり詰んでいる。
だが、それよりも潮を混乱の極みに突き落としたのは自分の状態だった。
まず、現在の潮はアンドロイドではない。それは痛覚がシャットアウトできないことと、ミツコに握られた手に彼女の手のひらにあるだろうマメの硬さと人肌が伝わって、ぞわりと何とも言えない感覚になったことで明確になった。そっと触れた自分の胸から響いた鼓動が決定的になり、今の潮は物ではなく人であると理解する。それだけならまだマシだったかもしれない。いや、マシではないのだが。
顔を洗って〜、とミツコに促されるまま近づいた川、その水面に映った自分の姿に絶句した。一応、人の形ではある。あるのだが、間違いなく余計なものがついていた。
ぴこぴこと、自分の頭で揺れる三角の細長い耳と、埃に塗れた毛長の尻尾。どちらも自分の感情で激しく蠢いている。と言うことは。
(……ねこじゃん!!!!)
猫人間になってしまったのだと自覚するには十分すぎる程の情報量で、演算機能のない頭はすぐにパンクした。固まった潮に、ミツコが不思議そうに覗き込んでくるのを視認して勢いよく彼女の肩を引っ掴む。結構乱暴だったのに彼女は微動だにしていなかったのが少し傷付いた。
「な、なあ!!ここってどこだ!?」
「ふぇ?ここ〜? えっとねえ、中央ラノシアだよ〜。オレンジが美味しいの〜」
「オレンジうまいのか。いいな……じゃなくて!!ラノシアってどこだ!?」
「??? ラノシアは、ラノシアだよ〜。あっちに行くとサマーフォード庄があって〜、あっちにいったらリムサ・ロミンサがあるの〜」
「さま…りむ……なんてなんて??」
「うんうん〜わかるよ〜リムサ・ロミンサって言いづらいし、覚えにくいよね〜。ラザハンとかウルダハみたいに、短くて覚えやすい名前にしたら良かったのにって思うよ〜」
ダメだ、会話の前提が噛み合ってない。はぁ、とため息をつきながら頭を抱えるとぐぅぅ、と音がする。発生源は潮の腹からだった。
「そうだ……腹って減るんだった……」
「大きな音だったねえ、お腹すいたの〜?」
「……多分」
そう答えた瞬間、視界がぐるりと回る。慌てるミツコの顔とどこか緊張感のない悲鳴にああ、俺って実は結構限界だったんだなぁと他人事のように考えて、そこで意識が途切れた。
*
潮が目を覚ましたのは、船の中だった。一瞬ここだどこ、と考えて自分が恐らく全く知らない場所に来たと言うことを思い出す。それはそれとしてなぜ船に? またしても変わった状況に困惑しているとすぐ近くにいたらしいミツコが顔の覗き込んできた。
「あ、おにいさん起きた〜。大丈夫〜?」
「あ、ああ……なあ、ここは? あの後どうなったんだ?」
「うん、その前におにいさんのお名前、知りたいな〜。呼び方わかんないんだもん」
「……悪い。本城潮だ」
「ホンジョウウシオ?ホンジョウさん?」
「潮でいい」
「ウシオさんが名前かぁ〜。なんだか、ドマの人みたいなお名前だねえ。私は、ミツコです。ミツコ・ハチヤ。お母さんがクガネ人で〜、お父さんがシャーレアン人の、デニールの遺烈郷生まれの遺烈郷育ちなの〜」
にこにことそう自己紹介をしてもらうものの、全く頭に入ってこない。それどころかまた知らない土地の話が出て目が回りそうになる。潮はそれらを聞くのを一旦やめて、今の状況だけをミツコに聞くことにした。
「みつこ、だな。で、今ってどうなってるんだ?」
「? どう?」
「ここ、船の中だよな?」
「ああ〜そうなの、そうなの!それお話しようと思っててぇ〜……その前にこれ、どうぞ〜」
「あ、どうも」
す、と差し出された串焼きを思わず手に取る。話を聞こうとすると「あの後二日間、寝てたんだよ〜。先に食べてね〜」と言われてしまってはそうするしかない。恐る恐る、串焼きを口にする。
最初に感じたのは旨味だった。何の肉かはわからないが、柔らかく焼き上げられたそれから肉汁が溢れ出しスパイスの香りと混ざって口いっぱいに広がる。暖かいのは彼女が気を遣ってできたてを用意してくれたからなのか温め直してくれたからなのか。そのまま崩れそうなトマトにもかぶりつけば熱されて増した甘みが口の中をリセットする。もう一つ赤いのはパプリカか。よく味わえば塩加減も程よく口の中からなくなってしまうのが勿体無い。
相方の作る料理もうまいと思っていたが、どうやら自分は今まで食事をちゃんとした意味で楽しめていなかったらしい。匂いという情報が追加されるだけでこうも化けるのかと感心した。
気がついたら二本あった串焼きはすぐになくなる。名残惜しそうな潮にミツコが小さく笑ったのが聞こえた。
「美味しかった?」
「……ああ、美味かった。ありがとう」
「よかったぁ〜、ウシオさんムーンキーパーだから好きかなぁと思って作ったの〜。確か、あなた達の伝統料理だって聞いたから〜」
「……そ、そうか……って、作った? 取ってきたじゃなくて??」
「そうなの〜。材料もあったしね〜。……あっ、そうそう。今だね〜。今はねえ、リムサ・ロミンサからクガネに向かってる船に乗ってるんだよ〜」
「……移動したのか」
「うん。アベルさんがねえ、ウシオさんに会いたいって言ってたから〜」
曰く、潮が気絶した後ミツコは彼女の属するグループの責任者に連絡を取ったらしい。その責任者がアベルという人物らしいことまでは理解した。
潮は自分の状況をミツコではなくアベルに話すと決める。彼女を信用できないわけではないのだが、いかんせん自分より子供なのだ。絵空事だと笑い飛ばされるなら理解はできるが鵜呑みにしてしまうと彼女のためにもならないだろう。ならば判断力がありそうな人に話をするべきだと、いつもより回らない頭でそうきめる。
そう決めた潮の耳に、ミツコのとんでもない言葉がとびこんできた。
「それでね〜、アベルさんに‘迷子拾ったの〜。飼ってい〜い〜?’って聞いたんだぁ。そしたらねえ、‘イイヨォ!!!’だってぇ! 良かったねえ〜。でもねえ、ルカさんが一回どんな人か見なきゃいけないから、連れてきてって言ってたの〜。会った日は経費で飲みや〜!って言ってた!」
「………」
……迷子は拾って飼うものじゃないだとか、そんな軽いノリで見ず知らずの男を連れ込む許可を出すなだとか、人をダシにして宴会するなだとか言いたいことが物凄くあるが、飲み込んでそうか、とだけ返す。
俺の判断、間違ってるかも。そんな一抹の不安を抱えながら二人を乗せた船は波に揺られていた。
*
クガネについてから、更に小舟に揺られる。そうしてたどりついたのはシロガネ冒険者住居区の小さな家だった。ミツコに手を引かれながらその建物へと入っていく。
「ただいま〜」
「あー!みっちゃんおかえり、おかえりー!」
「なっちゃんだぁ〜!ただいま〜、リュウさんと釣り、楽しかった〜?」
「楽しかったー!!あのねえ、めちゃくちゃでっっっっかいおしゃかなが……あれ? その人誰ー?」
「あ!そうだ! アベルさんいる?」
「いるよいるよー!下でお酒飲んでるよー」
「ありがと〜」
「どいたまして!」
ミツコと青髪の、自分と同じように耳と尾の生えた少女が楽しげに話しているのを聞きながら潮は俄かに顔を顰めた。来客があるのに酒を飲むのか、という呆れと果たしてそんな相手に荒唐無稽な話をしていいものか、と言う不安だ。
(……いつもなら、不安だったら感情切ってしまえるのにな)
少し不便に思いながらミツコに促されるまま建物の地下へと案内される。
さて、地下とは言うものの想像よりも何というか、ぬるい空気感が漂っていた。自分と同じ形の人や、明らかに頭身のおかしい小さな人、耳が尖った長身の人に最早獣に分類した方が良い人らしき存在が潮へ不躾に視線を投げかける。
そんな中、アベルという責任者の姿を捉えて思わず半歩ひいてしまった。
本棚の前に置かれた椅子にこしかけても潮の肩くらいの高さに頭がある。それだけで相当な巨躯を思わせた。
加えて潮を見る双眼は鮮やかな赤と、自分のメインボディと同じく白目の部分が黒い。客観的に見るとこうも不気味に感じるものなのかと思った。それに肌も髪も、抜けるように白い。光の加減では気味悪く映る。
更に、ミツコと同じ種類の人間なのだろう。彼にも角と鱗、尾が付いている。その色は肌色と対照的に真っ黒で照明を鈍く照らし返している。
「ウシオさん…で良いのか? アベル・ディアボロスだ。楽にしてくれ、面接とかそういう堅苦しいものではないから」
しかし聞こえてきた声が存外柔らかく穏やかで、潮は呆気にとられる。尻尾が動揺に反応してか、忙しなく揺れてしまう。その様子に苦笑しながら「見目はまあ、よく怖いと言われるから大丈夫だ」と彼は続けた。
「みっちゃんから大体のことは聞いた。何でも迷子だとか」
「……まあ、そう言う感じだな。……飼うって言われたんだが」
「あー……彼女、言葉の選びが独特だからな……保護したいって意味だったんだろう……多分」
「多分って……不安になるようなことを言わないでくれ」
「はは、すまない」
苦笑交じりにそう言ってくるアベルに潮は脱力した。なんと言うか、ペースが乱れるというか。けれどもこれはこれで悪くないような。
「所でウシオさんはどうしたいんだ? 元居た場所に戻りたいだろうが……住まいや自分の一族の事は何か話せるだろうか?」
「それは、そのだな……帰りたい場所はあるしどこかもわかるんだが…どうすればいいか検討もつかないんだ」
そこまで言って、潮は口籠った。どう切り出すべきか、そもそもこれをこの場で言っていいのか。人目もあるのに?
「ルカ」
「はいな。……ほーい全員仕事しいや~? ほれほれ、しゃきしゃき稼いで我らがマスターの酒代出したってや」
「は? ベルの酒代に消すくらいなら川に金捨てるわ」
「なんでェ!?!?」
部屋にいた人たちは、自分と同じ種族だろう訛りの強い男の発言に文句を言いつつ出ていく。人払いをしてくれたらしい。後には潮とアベル、訛りの強い男だけが残った。
「話を切って申し訳ない。人が多いと話しにくいかと勝手にしてしまったんだが」
「……いや、助かる。俺も人前でしていい話かどうか悩んだから」
「よかった。……ああ、彼はルカ・ミズミ。うちの経理件面白おじさんだ」
「紹介に預かりましたァ、面白おじさんことルカ・ミズミですゥ。よろしゅうね。あとベル坊話し終わったらど突かせろや」
「全力で迎え撃っていいか?」
「アホか。お前の全力とか俺消し飛ぶわボケ。……ほんでウシオはんですっけ? 事情、仔細伺ってもええやろか?」
アベルに言いたいことだけ言ったルカは潮に向き直る。色彩の異なる目が興味深そうに覗き込んできて居心地が悪い。
それでも、戻るためのきっかけでも掴めれば。そう思い潮は口を開く。
「俺もばからしいとは思うんだが、別の世界から来たっていう奴かもしれないんだ」
*
潮が一通り自分の身の上を語る。途中アンドロイドという存在についてルカがやたら食い気味に質問してきた以外は特に茶々を入れられず最後まで話し切った。
一息つくと、アベルは自分の顎を撫でながらルカを見る。彼は何を聞かれるのか察したのか、先ほどまでの気味悪い笑みを苦笑いに変えた。
「ルカ、今日ってじい様は?」
「ピクシー族にいたずらされてん。笑いながらあやつら全員一羽残らず羽毟ってやる言うて第一世界に飛んでったわ」
「何やってんだあのじじい!!」
いやほんと何やってんのあの人!! と頭を抱えて叫ぶアベルを見、きょとんとする潮にルカが肩をすくめる。
「結構な、君みたいなんが多いんよ、うち。更にそういうのに詳しい人がおるんやけど、今マジでしょーもない事情で留守にしとってなぁ」
「そ、そうなのか……? 珍しくないのか」
「いんや? 珍しいんは珍しいんよ。ただうちはそういうもんの遭遇率が異様に高いってだけや。ただ、ウシオはんみたいに元が機械やった存在は初めてやからなぁ」
「は、はぁ…」
「……詳しいわけではないんやけど、君、ニホンいう国はわかるん?」
「俺のいる国だ!」
知った単語に思わず食いついた潮にルカはそうかそうかぁ、とのんびり笑う。
「せやったら、いずれ戻れるやろ。どないなっとるかわからんけど、戻ったと思うたらこっちに帰ってきて~ってやつもおんねん。そことここ、壁のようなもんが緩いんやろうね」
「だったら、尚のこと早く戻りたい。残しておきたくない人がいるんだ」
「あんなぁ。世界超えるてひょんなことで出来てまう割に方法がまだ確立されとらんのやで? 焦って危険なことしてまうより少しでもええ方法選べるんやったら慌てんでええやろ」
「それは……そうだが」
「それになぁ。はよ戻りたいって思うくらいええ人おんねんやろ? 尚の事無事で帰らなあかん。その方法が今はのんびり構えるだけしかないなら、それでもええやん」
じい様帰ってくるまでのんびりここで過ごしてええと思うで? あの人おらんと俺らだけやとできることって限られとるし。
その言葉に何となく、目が覚めたような心地になった。
よくよく考えれば、元々そうだった。人間を守り手助けする側の存在だったから、自分の無事を顧みずとも、人間さえ生きていれば自分は直るのだから思考や演算に自分の安否をいれたことがなかったのだ。
そうだ。俺が壊れてたら伊智が悲しむ。いや、こちらでは『死ぬ』なんだろう。どちらにせよ、いい顔はしない。
「……で、ウシオさんはどうしたいんだ? 身元の保証が必要ならうちを利用してもらって構わない。みっちゃんが責任とって面倒見てくれるだろうし」
「冗談じゃなかったのか、それ」
「うちは元々こうだ。拾ってきたり、連れてきた奴が面倒をみる。俺が集まりの代表としてできるのは身元と、衣食住の約束だけだ」
「ちなみに、この世界のことを教えてもらえたりは」
「ああ、せやったらグブラ図書館かヌーメノン大書院連れてったるわ。俺本借りててん、ついでやし色々調べたらええ。元が機械なんやったら人間の生き方もようわからんのやろ?」
「……こちらの文字の読み書きが、できない。多分」
「「あぁ~」」
アベルとルカが口を揃えて苦笑いをする。聞けば、こちらに来た『同郷』たちも最初はそうだったという。その事情も含めて他のメンバーに口添えしてくれるとのことだった。
断る理由が、潮にはない。なのに、「助けてもらう」事実に対してこんなに後ろめたいのはアンドロイドの性なのだろうか。
潮がはっきり答えを出す前に、返事を待っていたアベルが口を開いた。
「……勿論、ただじゃない。同伴ありで、まだ大人だと認められていない子たちも働いているんだ。最低限の言語を覚えたら、この世界のことを学んでもらいながらウシオさんにも働いてもらう」
「……! それは、いい。こちらもその方がいい、というかただ助けてもらうのは嫌だ、俺は助ける側だから、だから、その……」
「なら問題ない。帰るまでは君のペースで、この世界で、沢山のことを聞いて、感じて、そのことに考えてながら生きてみればいいさ」
そして、少しだけ俺達の生きている世界を好きになってくれたら嬉しいと思う。
最後にグラスを傾けてから、柔く笑ってアベルは言った。
*
「あ!ウシオさん!」
地下から上がってきた潮にミツコが駆け寄っていく。
「ね、ね?アベルさん、ウシオさん飼っていい?」
開口一番あらゆる方面に誤解をうみそうな言葉を発したミツコにルカも潮もアベルも苦笑いする。
「みっちゃん、実は迷子は飼えないんだ。でもしばらくはここで一緒に過ごしてもらうことになったから、先輩として助けてあげて欲しい」
「え!? でもそれって、飼うってことだよね~?」
「いや、だから違」
「私ねえ、一度飼ってみたかったの~! おおきなねこちゃん!」
おおきなねこちゃん。総言い放ち眩しいまでの笑顔の彼女に、邪気はない。
その瞬間、これ本気だと潮の耳と尾が総毛立つ。アベルはミツコにニコラスと同種の匂いを嗅ぎつけた。ルカは半笑いでその光景を見ていた。
三者三様の有様にミツコは気付くことなくぎゅう、と潮の両手を握る。痛い。大変に痛い。
「大事にするねえ~。これからよろしくねぇ、ウシオさん~!」
「ア、アア、ウン、ハイ、ヨロシクオネガイシマス」
潮のカタコトの発言を鵜呑みにし、よ~しがんばるぞ~とミツコがそのまま手をぶんぶんと振る。
その様子をあまりに哀れに思ったのだろう。「ほんまやったらタダ働きなんぞごめんやねんけど…普通にかわいそうがすぎるんでなんかあったら言いや? 助けたるわ」とルカがこそりと耳打ちし、潮は勢いよく頷いた。こればかりはアンドロイドの性がどうこう言っていては、尊厳が破壊される気がしたので。
――そんな感じで、潮はミコッテ族としてしばらくそこで生きることになったのだった。畳む
#CoC #FF14 #本城潮 #クロスオーバー
潮ッテオムニバス
どん、と全身に走る衝撃で意識が浮上する。次いでじんじんと響くような痛みが広がって身動きが取れなくなる。
(あれ?俺、センサー切ってたっけ?)
そもそも今どういう状況なんだ。
潮は困惑と共に目を開いた。……目を開いた?
潮は最新型のアンドロイドだ。状況を把握する際にはカメラが起動し、映像として周囲を捉えると同時に演算機能が稼働しデータとして物事を捉える。瞬きはするが所詮は人間としての模倣のため、する必要がない。
だから、本来何かを見るのに目を開くなんて行為はありえないのだ。それを己がやった事。周りを見ても状況がまるで分からない事。遮断出来ない痛みがあること。回るはずの思考が止まったままであること。その全てに潮は困惑した。
困惑したままだったから、眼前の驚異に意識が向かなった。本来、ありえない事なのに。
ぶん、と何かを振ったような音がして潮がそれに意識を向けた時には既にそれは振り下ろされようとしていた。
人間など優に超える巨躯は灰色で、極端に短い足とは対照的に振り上げられた腕はとても長い。頭の上に咲いている花の可憐さと、その顔に付いている牙の並んだ巨大な口がアンバランスで不気味さを強調していた。
それに向けられていたのは、明確な敵意で。
見上げたまま潮は固まった。何かしようと言う考えすら思いつけなかった。ああ、あれに打たれたら流石に壊れるな――そんなことを考えた。
振り下ろされた腕は、しかし身構える事すら出来なかった潮を襲うことはなかった。
ひらりと、視界に淡く桜色が靡く。
それと同時に灰色の巨躯がずしんと音を立てて地へ倒れ伏す。砂埃に咳き込んで、その事にまた困惑する。
「おにいさん〜大丈夫〜?」
そんな潮に、緊迫感も何も無い、間伸びた声がかけられた。
見れば、尻もちを付いている自分を見下ろすように少女が立っている。潮より随分小柄なその少女は、薄い桜色の変わったデザインの服を着ていた。先程見たのはこれか、と納得しながらも彼女を観察する。そして首をかしげるはめになった。
金髪に薄桃色のグラデーション。それだけ見ればそういうヘアカラーなのだろうかと思うだろう。事実潮も(人間とは事情は違うが)黒から紫という不思議な色合いの髪色をしている。だが、目を引いたのはそこではない。
本来人間の耳に当たる場所に、白い角が生えている。それだけではなく、同色の鱗が顔や手を覆っていた。更には腰くらいの場所からひょろりと鱗に覆われた尾が揺れていた。
更に両手で麗美な装飾の、しかしその体躯に対して大きすぎる斧を苦もなさげに持ち、不思議そうに潮を見ていた。
「? どうしたの〜?」
「あ、ああ。いや、何でもない」
流石に不躾に見過ぎたか。そう思って潮が目を逸らすと、少女は斧を背に背負いすいと手を差し出してきた。
「怪我とか大丈夫そうだねぇ。見えないところが痛かったら、アベルさんかフィオナさんに魔法で治してもらおっか。……でも、うーん。ちょっと埃っぽい? あっちに川があるから、そこで軽く顔とか洗ったほうがいいかも〜? 服もボロボロだし、イエロージャケットのおじさんたちに怪しまれちゃう」
なんだなんだ。知ってるけど普段聞かないような単語と全く知らない単語が同時に出てきたぞ。
目を白黒させる潮を、少女は問答無用で川へと引き摺っていった(比喩ではなく、本当に引きずられた)
*
がやがやと賑やかな、中世の日本を連想させるような都市内にある船着場に潮と少女はいた。
「……なあ、あの話って」
「うん〜。ウシオさん、私が拾ったから大事にするね〜」
「冗談じゃなかったかァ〜…」
にこにこと笑う少女に頭を抱える。ここに至るまで、あっという間だったというか長かったというか。何とも言えない気持ちになる。
まず、彼女の名前だがミツコと言うらしい。漢字は知らない、と言うよりわからない。漢字というものがあるのか、という問題まで遡る。と言うのも、話している内容はわかるし潮も当然の様に会話をしているのだが、あちこちにある看板を見ても知らない言語で書かれているのだ。それだけでかなり詰んでいる。
だが、それよりも潮を混乱の極みに突き落としたのは自分の状態だった。
まず、現在の潮はアンドロイドではない。それは痛覚がシャットアウトできないことと、ミツコに握られた手に彼女の手のひらにあるだろうマメの硬さと人肌が伝わって、ぞわりと何とも言えない感覚になったことで明確になった。そっと触れた自分の胸から響いた鼓動が決定的になり、今の潮は物ではなく人であると理解する。それだけならまだマシだったかもしれない。いや、マシではないのだが。
顔を洗って〜、とミツコに促されるまま近づいた川、その水面に映った自分の姿に絶句した。一応、人の形ではある。あるのだが、間違いなく余計なものがついていた。
ぴこぴこと、自分の頭で揺れる三角の細長い耳と、埃に塗れた毛長の尻尾。どちらも自分の感情で激しく蠢いている。と言うことは。
(……ねこじゃん!!!!)
猫人間になってしまったのだと自覚するには十分すぎる程の情報量で、演算機能のない頭はすぐにパンクした。固まった潮に、ミツコが不思議そうに覗き込んでくるのを視認して勢いよく彼女の肩を引っ掴む。結構乱暴だったのに彼女は微動だにしていなかったのが少し傷付いた。
「な、なあ!!ここってどこだ!?」
「ふぇ?ここ〜? えっとねえ、中央ラノシアだよ〜。オレンジが美味しいの〜」
「オレンジうまいのか。いいな……じゃなくて!!ラノシアってどこだ!?」
「??? ラノシアは、ラノシアだよ〜。あっちに行くとサマーフォード庄があって〜、あっちにいったらリムサ・ロミンサがあるの〜」
「さま…りむ……なんてなんて??」
「うんうん〜わかるよ〜リムサ・ロミンサって言いづらいし、覚えにくいよね〜。ラザハンとかウルダハみたいに、短くて覚えやすい名前にしたら良かったのにって思うよ〜」
ダメだ、会話の前提が噛み合ってない。はぁ、とため息をつきながら頭を抱えるとぐぅぅ、と音がする。発生源は潮の腹からだった。
「そうだ……腹って減るんだった……」
「大きな音だったねえ、お腹すいたの〜?」
「……多分」
そう答えた瞬間、視界がぐるりと回る。慌てるミツコの顔とどこか緊張感のない悲鳴にああ、俺って実は結構限界だったんだなぁと他人事のように考えて、そこで意識が途切れた。
*
潮が目を覚ましたのは、船の中だった。一瞬ここだどこ、と考えて自分が恐らく全く知らない場所に来たと言うことを思い出す。それはそれとしてなぜ船に? またしても変わった状況に困惑しているとすぐ近くにいたらしいミツコが顔の覗き込んできた。
「あ、おにいさん起きた〜。大丈夫〜?」
「あ、ああ……なあ、ここは? あの後どうなったんだ?」
「うん、その前におにいさんのお名前、知りたいな〜。呼び方わかんないんだもん」
「……悪い。本城潮だ」
「ホンジョウウシオ?ホンジョウさん?」
「潮でいい」
「ウシオさんが名前かぁ〜。なんだか、ドマの人みたいなお名前だねえ。私は、ミツコです。ミツコ・ハチヤ。お母さんがクガネ人で〜、お父さんがシャーレアン人の、デニールの遺烈郷生まれの遺烈郷育ちなの〜」
にこにことそう自己紹介をしてもらうものの、全く頭に入ってこない。それどころかまた知らない土地の話が出て目が回りそうになる。潮はそれらを聞くのを一旦やめて、今の状況だけをミツコに聞くことにした。
「みつこ、だな。で、今ってどうなってるんだ?」
「? どう?」
「ここ、船の中だよな?」
「ああ〜そうなの、そうなの!それお話しようと思っててぇ〜……その前にこれ、どうぞ〜」
「あ、どうも」
す、と差し出された串焼きを思わず手に取る。話を聞こうとすると「あの後二日間、寝てたんだよ〜。先に食べてね〜」と言われてしまってはそうするしかない。恐る恐る、串焼きを口にする。
最初に感じたのは旨味だった。何の肉かはわからないが、柔らかく焼き上げられたそれから肉汁が溢れ出しスパイスの香りと混ざって口いっぱいに広がる。暖かいのは彼女が気を遣ってできたてを用意してくれたからなのか温め直してくれたからなのか。そのまま崩れそうなトマトにもかぶりつけば熱されて増した甘みが口の中をリセットする。もう一つ赤いのはパプリカか。よく味わえば塩加減も程よく口の中からなくなってしまうのが勿体無い。
相方の作る料理もうまいと思っていたが、どうやら自分は今まで食事をちゃんとした意味で楽しめていなかったらしい。匂いという情報が追加されるだけでこうも化けるのかと感心した。
気がついたら二本あった串焼きはすぐになくなる。名残惜しそうな潮にミツコが小さく笑ったのが聞こえた。
「美味しかった?」
「……ああ、美味かった。ありがとう」
「よかったぁ〜、ウシオさんムーンキーパーだから好きかなぁと思って作ったの〜。確か、あなた達の伝統料理だって聞いたから〜」
「……そ、そうか……って、作った? 取ってきたじゃなくて??」
「そうなの〜。材料もあったしね〜。……あっ、そうそう。今だね〜。今はねえ、リムサ・ロミンサからクガネに向かってる船に乗ってるんだよ〜」
「……移動したのか」
「うん。アベルさんがねえ、ウシオさんに会いたいって言ってたから〜」
曰く、潮が気絶した後ミツコは彼女の属するグループの責任者に連絡を取ったらしい。その責任者がアベルという人物らしいことまでは理解した。
潮は自分の状況をミツコではなくアベルに話すと決める。彼女を信用できないわけではないのだが、いかんせん自分より子供なのだ。絵空事だと笑い飛ばされるなら理解はできるが鵜呑みにしてしまうと彼女のためにもならないだろう。ならば判断力がありそうな人に話をするべきだと、いつもより回らない頭でそうきめる。
そう決めた潮の耳に、ミツコのとんでもない言葉がとびこんできた。
「それでね〜、アベルさんに‘迷子拾ったの〜。飼ってい〜い〜?’って聞いたんだぁ。そしたらねえ、‘イイヨォ!!!’だってぇ! 良かったねえ〜。でもねえ、ルカさんが一回どんな人か見なきゃいけないから、連れてきてって言ってたの〜。会った日は経費で飲みや〜!って言ってた!」
「………」
……迷子は拾って飼うものじゃないだとか、そんな軽いノリで見ず知らずの男を連れ込む許可を出すなだとか、人をダシにして宴会するなだとか言いたいことが物凄くあるが、飲み込んでそうか、とだけ返す。
俺の判断、間違ってるかも。そんな一抹の不安を抱えながら二人を乗せた船は波に揺られていた。
*
クガネについてから、更に小舟に揺られる。そうしてたどりついたのはシロガネ冒険者住居区の小さな家だった。ミツコに手を引かれながらその建物へと入っていく。
「ただいま〜」
「あー!みっちゃんおかえり、おかえりー!」
「なっちゃんだぁ〜!ただいま〜、リュウさんと釣り、楽しかった〜?」
「楽しかったー!!あのねえ、めちゃくちゃでっっっっかいおしゃかなが……あれ? その人誰ー?」
「あ!そうだ! アベルさんいる?」
「いるよいるよー!下でお酒飲んでるよー」
「ありがと〜」
「どいたまして!」
ミツコと青髪の、自分と同じように耳と尾の生えた少女が楽しげに話しているのを聞きながら潮は俄かに顔を顰めた。来客があるのに酒を飲むのか、という呆れと果たしてそんな相手に荒唐無稽な話をしていいものか、と言う不安だ。
(……いつもなら、不安だったら感情切ってしまえるのにな)
少し不便に思いながらミツコに促されるまま建物の地下へと案内される。
さて、地下とは言うものの想像よりも何というか、ぬるい空気感が漂っていた。自分と同じ形の人や、明らかに頭身のおかしい小さな人、耳が尖った長身の人に最早獣に分類した方が良い人らしき存在が潮へ不躾に視線を投げかける。
そんな中、アベルという責任者の姿を捉えて思わず半歩ひいてしまった。
本棚の前に置かれた椅子にこしかけても潮の肩くらいの高さに頭がある。それだけで相当な巨躯を思わせた。
加えて潮を見る双眼は鮮やかな赤と、自分のメインボディと同じく白目の部分が黒い。客観的に見るとこうも不気味に感じるものなのかと思った。それに肌も髪も、抜けるように白い。光の加減では気味悪く映る。
更に、ミツコと同じ種類の人間なのだろう。彼にも角と鱗、尾が付いている。その色は肌色と対照的に真っ黒で照明を鈍く照らし返している。
「ウシオさん…で良いのか? アベル・ディアボロスだ。楽にしてくれ、面接とかそういう堅苦しいものではないから」
しかし聞こえてきた声が存外柔らかく穏やかで、潮は呆気にとられる。尻尾が動揺に反応してか、忙しなく揺れてしまう。その様子に苦笑しながら「見目はまあ、よく怖いと言われるから大丈夫だ」と彼は続けた。
「みっちゃんから大体のことは聞いた。何でも迷子だとか」
「……まあ、そう言う感じだな。……飼うって言われたんだが」
「あー……彼女、言葉の選びが独特だからな……保護したいって意味だったんだろう……多分」
「多分って……不安になるようなことを言わないでくれ」
「はは、すまない」
苦笑交じりにそう言ってくるアベルに潮は脱力した。なんと言うか、ペースが乱れるというか。けれどもこれはこれで悪くないような。
「所でウシオさんはどうしたいんだ? 元居た場所に戻りたいだろうが……住まいや自分の一族の事は何か話せるだろうか?」
「それは、そのだな……帰りたい場所はあるしどこかもわかるんだが…どうすればいいか検討もつかないんだ」
そこまで言って、潮は口籠った。どう切り出すべきか、そもそもこれをこの場で言っていいのか。人目もあるのに?
「ルカ」
「はいな。……ほーい全員仕事しいや~? ほれほれ、しゃきしゃき稼いで我らがマスターの酒代出したってや」
「は? ベルの酒代に消すくらいなら川に金捨てるわ」
「なんでェ!?!?」
部屋にいた人たちは、自分と同じ種族だろう訛りの強い男の発言に文句を言いつつ出ていく。人払いをしてくれたらしい。後には潮とアベル、訛りの強い男だけが残った。
「話を切って申し訳ない。人が多いと話しにくいかと勝手にしてしまったんだが」
「……いや、助かる。俺も人前でしていい話かどうか悩んだから」
「よかった。……ああ、彼はルカ・ミズミ。うちの経理件面白おじさんだ」
「紹介に預かりましたァ、面白おじさんことルカ・ミズミですゥ。よろしゅうね。あとベル坊話し終わったらど突かせろや」
「全力で迎え撃っていいか?」
「アホか。お前の全力とか俺消し飛ぶわボケ。……ほんでウシオはんですっけ? 事情、仔細伺ってもええやろか?」
アベルに言いたいことだけ言ったルカは潮に向き直る。色彩の異なる目が興味深そうに覗き込んできて居心地が悪い。
それでも、戻るためのきっかけでも掴めれば。そう思い潮は口を開く。
「俺もばからしいとは思うんだが、別の世界から来たっていう奴かもしれないんだ」
*
潮が一通り自分の身の上を語る。途中アンドロイドという存在についてルカがやたら食い気味に質問してきた以外は特に茶々を入れられず最後まで話し切った。
一息つくと、アベルは自分の顎を撫でながらルカを見る。彼は何を聞かれるのか察したのか、先ほどまでの気味悪い笑みを苦笑いに変えた。
「ルカ、今日ってじい様は?」
「ピクシー族にいたずらされてん。笑いながらあやつら全員一羽残らず羽毟ってやる言うて第一世界に飛んでったわ」
「何やってんだあのじじい!!」
いやほんと何やってんのあの人!! と頭を抱えて叫ぶアベルを見、きょとんとする潮にルカが肩をすくめる。
「結構な、君みたいなんが多いんよ、うち。更にそういうのに詳しい人がおるんやけど、今マジでしょーもない事情で留守にしとってなぁ」
「そ、そうなのか……? 珍しくないのか」
「いんや? 珍しいんは珍しいんよ。ただうちはそういうもんの遭遇率が異様に高いってだけや。ただ、ウシオはんみたいに元が機械やった存在は初めてやからなぁ」
「は、はぁ…」
「……詳しいわけではないんやけど、君、ニホンいう国はわかるん?」
「俺のいる国だ!」
知った単語に思わず食いついた潮にルカはそうかそうかぁ、とのんびり笑う。
「せやったら、いずれ戻れるやろ。どないなっとるかわからんけど、戻ったと思うたらこっちに帰ってきて~ってやつもおんねん。そことここ、壁のようなもんが緩いんやろうね」
「だったら、尚のこと早く戻りたい。残しておきたくない人がいるんだ」
「あんなぁ。世界超えるてひょんなことで出来てまう割に方法がまだ確立されとらんのやで? 焦って危険なことしてまうより少しでもええ方法選べるんやったら慌てんでええやろ」
「それは……そうだが」
「それになぁ。はよ戻りたいって思うくらいええ人おんねんやろ? 尚の事無事で帰らなあかん。その方法が今はのんびり構えるだけしかないなら、それでもええやん」
じい様帰ってくるまでのんびりここで過ごしてええと思うで? あの人おらんと俺らだけやとできることって限られとるし。
その言葉に何となく、目が覚めたような心地になった。
よくよく考えれば、元々そうだった。人間を守り手助けする側の存在だったから、自分の無事を顧みずとも、人間さえ生きていれば自分は直るのだから思考や演算に自分の安否をいれたことがなかったのだ。
そうだ。俺が壊れてたら伊智が悲しむ。いや、こちらでは『死ぬ』なんだろう。どちらにせよ、いい顔はしない。
「……で、ウシオさんはどうしたいんだ? 身元の保証が必要ならうちを利用してもらって構わない。みっちゃんが責任とって面倒見てくれるだろうし」
「冗談じゃなかったのか、それ」
「うちは元々こうだ。拾ってきたり、連れてきた奴が面倒をみる。俺が集まりの代表としてできるのは身元と、衣食住の約束だけだ」
「ちなみに、この世界のことを教えてもらえたりは」
「ああ、せやったらグブラ図書館かヌーメノン大書院連れてったるわ。俺本借りててん、ついでやし色々調べたらええ。元が機械なんやったら人間の生き方もようわからんのやろ?」
「……こちらの文字の読み書きが、できない。多分」
「「あぁ~」」
アベルとルカが口を揃えて苦笑いをする。聞けば、こちらに来た『同郷』たちも最初はそうだったという。その事情も含めて他のメンバーに口添えしてくれるとのことだった。
断る理由が、潮にはない。なのに、「助けてもらう」事実に対してこんなに後ろめたいのはアンドロイドの性なのだろうか。
潮がはっきり答えを出す前に、返事を待っていたアベルが口を開いた。
「……勿論、ただじゃない。同伴ありで、まだ大人だと認められていない子たちも働いているんだ。最低限の言語を覚えたら、この世界のことを学んでもらいながらウシオさんにも働いてもらう」
「……! それは、いい。こちらもその方がいい、というかただ助けてもらうのは嫌だ、俺は助ける側だから、だから、その……」
「なら問題ない。帰るまでは君のペースで、この世界で、沢山のことを聞いて、感じて、そのことに考えてながら生きてみればいいさ」
そして、少しだけ俺達の生きている世界を好きになってくれたら嬉しいと思う。
最後にグラスを傾けてから、柔く笑ってアベルは言った。
*
「あ!ウシオさん!」
地下から上がってきた潮にミツコが駆け寄っていく。
「ね、ね?アベルさん、ウシオさん飼っていい?」
開口一番あらゆる方面に誤解をうみそうな言葉を発したミツコにルカも潮もアベルも苦笑いする。
「みっちゃん、実は迷子は飼えないんだ。でもしばらくはここで一緒に過ごしてもらうことになったから、先輩として助けてあげて欲しい」
「え!? でもそれって、飼うってことだよね~?」
「いや、だから違」
「私ねえ、一度飼ってみたかったの~! おおきなねこちゃん!」
おおきなねこちゃん。総言い放ち眩しいまでの笑顔の彼女に、邪気はない。
その瞬間、これ本気だと潮の耳と尾が総毛立つ。アベルはミツコにニコラスと同種の匂いを嗅ぎつけた。ルカは半笑いでその光景を見ていた。
三者三様の有様にミツコは気付くことなくぎゅう、と潮の両手を握る。痛い。大変に痛い。
「大事にするねえ~。これからよろしくねぇ、ウシオさん~!」
「ア、アア、ウン、ハイ、ヨロシクオネガイシマス」
潮のカタコトの発言を鵜呑みにし、よ~しがんばるぞ~とミツコがそのまま手をぶんぶんと振る。
その様子をあまりに哀れに思ったのだろう。「ほんまやったらタダ働きなんぞごめんやねんけど…普通にかわいそうがすぎるんでなんかあったら言いや? 助けたるわ」とルカがこそりと耳打ちし、潮は勢いよく頷いた。こればかりはアンドロイドの性がどうこう言っていては、尊厳が破壊される気がしたので。
――そんな感じで、潮はミコッテ族としてしばらくそこで生きることになったのだった。畳む
#CoC #FF14 #本城潮 #クロスオーバー
某アクティビティ顔文字さんところのてがろぐ更新履歴、やってみたいなーと思いつつ今のをいじくりまわしたら崩れるのでは…?と怯えるなどしている。
怯えるんですけどもやりてえよなァ!!!帰宅後やります。卓あるんで今日は寝ないっすよ!!
怯えるんですけどもやりてえよなァ!!!帰宅後やります。卓あるんで今日は寝ないっすよ!!
昨日の自分があまりに怠惰。なぜなら作業をせずに寝たからです。
寝落ち?とか疲れてたんだよ、とか雨だったからとか言ってもらえると思っているので先に言います。
私は!!!!気分が変わって疲れてもなければ体調悪くもねえのに寝ることを選びましたァ!!!!!!
御心配には及びません。まーーーーーーーじでやるやる詐欺をかましただけです。不調どころか絶好調でした。なんかご飯食べたら昨日という日に満足してしまった。ただそれだけです。
満足した状態で取る睡眠ってめっちゃ気持ちよくない???私は気持ちいいし気分もいい。
反省してマース。
寝落ち?とか疲れてたんだよ、とか雨だったからとか言ってもらえると思っているので先に言います。
私は!!!!気分が変わって疲れてもなければ体調悪くもねえのに寝ることを選びましたァ!!!!!!
御心配には及びません。まーーーーーーーじでやるやる詐欺をかましただけです。不調どころか絶好調でした。なんかご飯食べたら昨日という日に満足してしまった。ただそれだけです。
反省してマース。
刀木は一般社会人やりながら殺し屋やってますね。
と言うのも彼女、他caseと違って生粋の狂信者ではない上に気質が研究者寄りなのでできることを考えた結果、表社会にも裏社会にもつてを広げつつ最終的にはズ=チェ=クォンの眷属になれるならなろうとしてます。刀木は置いていかれる寂しさも悲しさも、その後続く孤独の地獄も知っているのでそんな思いはさせられないし、して欲しくない。できれば自分が死ぬ前に自分に飽きて欲しいなとさえ思ってる。
あとこれは助走付けて殴られても文句言えないんですけど、刀木は國人が付き合ってくれてたのは「大人が子供の遊びに付き合うようなもの」って思っているところと「禍津はいつか自分に飽きる」と思っているところですね。
すげえ厄介なことにこいつ頭悪くないんですよ。だから國人のなりや言動で単純に完璧人間だから片手間に付き合ってくれているだけだと思っているし(未だに本気でそう思ってる)禍津に関しては「もしこの神が自分の抱えている感情に対して人間のものだ、と見切りをつけたら自分は用済みになる」とも思ってるんですよ(本気でそう思っている)
何がそう思わせてるってあれです、ディスコードでのあほなやり取りで出たネタなんですが國人と刀木、童貞処女なんですよ。手を出されていない=つまり子供扱いされてた、って結論を出してしまっているし(まあ多分めちゃくちゃ忙しかったのもある)、神が最初から愛なんぞ知ってるわけではないからその自愛を情愛と勘違いしている可能性がある、って考えを持ってるからなんですよね。
だから刀木は禍津が求めない限り自分から抱いてなんて言わないし、こっそり処理してるしそれでいいと思ってる。恋人を依代にしたばかりに勘違いを起こした神の手助けできればいいや、程度で満足してるところですよね。本気で惚れてるし愛してるくせに、自分からは欲しいって思ってない。とんでもねえ女だな。
後はまあ、髪切って黒く染めてますね。社会に紛れるというのは彼女の中で決定しているし、それをできるだけの技術(コンピューターとライフル)があるし。身分さえどうにかできれば刀木は安定するので。各方面への伝手の作り方とかWSSで見て覚えとるやろ知らんけど。その合間にすずぱいとか天童ちゃんの近況聞いて、必要なら手助けしたりとかクレイくんとはWSSの残党動いてそう?とか相談してそうなんだよな。後殺し屋するので掃除屋(死体処理)としてお金出すので手伝ってくれません?みたいなことも言う。この辺はたぶん、三人に対する贖罪も込みなのかなと。覚えてないことを差し引いても結果的に奪ってしまったものが大きいので。刀木自身がしたことでもないんですけど、間違いなく奪った側にいたのは事実だし刀木はそれを良しとしないので。このあたりものすごく強情なので諦めて世話焼かれてください。
今の状況が新興宗教興すとか逃亡を続ける以前の問題なのでとにかく基盤・安定・安寧を最優先に動いてそう。ここまでは禍津に何の相談もなく勝手に決めてぱぱぱっと動いてしまうと思う。全部事後承諾。やっちゃったもんはしゃーない精神。
やったもん勝ち精神とも言う。ただ、静かなところでっていうのは唯一の願いのようなものなので金たまったら郊外に古い家でも買って禍津の為の環境整えてひっそりこっそり生きていくんじゃないでしょうかね。禍津が信者が欲しいならそこから宗教興す段取り付けるし。土地は案外安いのでごっそり買って、信者が増えたら開拓改築したりとかね。そのあたりだけは禍津と話しするんじゃないんだろうか。
本当に嘘しかつかねえなこの女。畳む
#CoC #シビュラ #ネタバレ