#CoC #うちよそ #明彦飯
藤堂明彦とフィンセント=スカイグレイのPM12:16
「やあ、来たよ」
「だから連絡・・・誰だアンタ」
「オレが聞きてぇよ・・・」
例によって鮫島が連絡も取らずに清水邸へやってきた。いつもの文句を言おうとして、見知らぬ顔に明彦はぽかんと間抜けな顔をする。自分よりは年上だろう赤毛の外国人に知り合いはいないよな、と思ったところで背後から耳を劈く声が轟いた。
「ア゛ーーーーーーー!!?!??お前!!!なんでここにいやがる!??!?!?!」
なぜかスリッパを両手に持ち威嚇しながら叫ぶウィリアムの声に明彦はもちろん目の前の赤毛の男も耳を閉じる。鮫島だけが面白そうに眺めていたが、彼女を認識したウィリアムの目がぎょろりとそちらを見て吠えたてる。
「ニーナお前か!?こいつ連れてきたの!!」
「そうだよー、フィンくんにご飯をご馳走しようと思ってね」
「連れてくんなよ!!!かえ・・・むぐっ!?」
「ウィルさんうっさい、ちょっと静かにしててくれ。ややこしくなる」
ウィリアムの口に朝顔用のビスケットを押し込み黙らせながら帰ろうと鮫島と格闘する赤毛の青年に声かける。
「・・・取り敢えず、どちら様で?」
「いや、大丈夫。帰るから」
「ここの最寄りのバス次来るの一時間後だよ。今帰るのおすすめしないなぁ」
明彦の質問は無視され、しかし帰ると一点張りの青年にまるで脅しのような鮫島の言葉が内容と噛み合わない呑気さを纏って吐き出される。
青年はまじかよ、と肩を落とした。
*
ことことと音を立てる鍋を眺めながら明彦はちらりと背後を見た。酷く居心地の悪そうな青年の目の前でウィリアムと鮫島が作品が掲載されている冊子を囲んで評論している。と言ってもウィリアムの評価は最終的に自分の作品が一番という自意識過剰まみれのセリフしか出てこず、最初面白がって茶化していた鮫島も飽きたのか自分の好き勝手に評価している。傍から聞いていれば会話になっていない言葉の応酬に頭がおかしくなりそうだ。事実赤い髪はうろたえるように時折すこし揺れている。
「・・・フィンセントさん、ちょっと」
「? オレか?」
大騒ぎする芸術家二人を尻目に明彦が小声で青年の名前を呼ぶ。青年基フィンセントは何故自分が呼ばれたか分からず、しかし目の前の頭がおかしくなりそうな二人の会話を聞くよりマシかと明彦の方へ寄って行く。
近づいた途端ん、と渡された小皿に目を白黒させる。
「なんだ?」
「あの二人泥でも食いそうだし、あんたに味合わせる」
味見しろ、ということらしい。断ろうとしたが鼻をくすぐる匂いに思わず腹がくぅと鳴る。気まずかったが眼前の白い男は笑うことなくずっと小皿を差し出しているのでまあ、と受け取って一口それを飲み込んだ。
煮込んだ野菜特有の優しい甘味と、これは肉の旨味だろうか。舌を滑っていったそれに思わずうまいと呟けばそうかと目の前の白が再び鍋の方を見る。釣られて視線を向ければ黄金色のスープにキャベツの塊が沈んでいた。
「ロールキャベツ・・・?」
「晩飯のつもりだったんだけどな。鮫さん、いっつも突然来るから変更した」
「・・・オレそのつもりじゃなかったし、別に」
「いーよ。アンタ連れてこられただけなんだろ?後でイヤミは鮫さんに言うから気にすんな」
もうちょっとでできっからこっち座ってろよ、とソファではなくテーブルの方を勧められて、のろりと座り込む。えらくしっかりしたガキだなと、フィンセントは上の空そんな事を考えた。
*
目の前に並んだ料理にフィンセントはは?と口をぽかんと開けた。
一人二つずつ並んでいるロールキャベツに、目の前の大きな耐熱容器にはチーズがふんだんに使われたパンキッシュ、綺麗な皿とシルバーが丁寧に並べられている。これを用意したのはお世辞にも(自分が言うのもなんだが)柄が良さそうではない白髪の子供で、しかしこれを作っていたのをフィンセントは見ていた。なんだがリアリティがなくてきょとんとしてしまう。
「赤毛、気持ちは分かるぞ。俺も最初ビビった」
小声でウィリアムが英語でそんな事を言ってきた。まあそうだよな、と普段は揚げ足を取りからかいまくる対象の言葉に素直に頷く。
「早く食べなよ、冷めてしまうよ」
既に口にキッシュを詰め込んでいた鮫島の声に我に返る。と、ウィリアムの反対がをみたら小さなパンが一つ皿に乗せられて押し出されているところだった。
「いや、こんなに食えねえんだけど」
「あーうん。アンタ何食えねえか聞いてなかったから、食えねえんだったらこっちどうかなと」
それだけ言うと明彦は自分の分のキッシュを取り分けて黙々と食べていた。反対側を見ればウィリアムもフィンセントを気にせず既に口にロールキャベツを押し込んでいた。あついあつい、と言いながらも普段見る自称イケメンの普通な仏頂面がどこか本当に美味しそうに見えて、思わず唾液を飲み込んだ。
そういえば、朝から何も食べてない。
今更そんなことを思い出してフィンセントも恐る恐るロールキャベツを切り分けて一口放り込む。まず、熱い。そんなことを思いながらもゆっくり咀嚼していけば先刻味見させてもらったものよりしっかりした味が口の中に広がる。キャベツは芯が取り除いてあるのか固い部分はなく、肉もほろりと崩れるくらい柔らかい。肉汁はコンソメスープに混ざって優しい甘みの中でもしっかり旨みを主張する。ふ、とキッシュに目が向いた。こっちはどうなんだ、と少しだけ取り分ける。周りの記事は食パンの耳を取ったものだった。チーズの下はベーコンとしめじ、スナップエンドウと・・・と考えてもう一つ見慣れないものが目に付いた。見てくれはブロッコリーに近いがフォークでつつくとそれよりもかなり柔らかい。得体の知れないものを食べる気にはなれなくてどうしたものかと視線を泳がせると赤い目とバッチリ視線がかち合った。
「菜の花、嫌いか?」
「ナノハナ?」
「・・・野菜みたいな、花?まあ普通に野菜」
「いやアンタもよくわかってないもん入れるなよ」
「でも旨いのは知ってるからいいだろ」
そんな大雑把な言葉にええいままよとチーズを多めに絡ませて菜の花を口に入れ込んだ。
チーズの味の中にほんのり混ざっているのはオリーブオイルか。胡椒のぴりっとした辛味がアクセントにちょうどいい。絡んでいるのは卵だろうか、ふんわりとした口当たりで生地として敷かれているカリッと焼きあがった食パンと相性がいい。そして、菜の花は思っていた以上に柔らかく、苦味も少なく食べやすい。なんとなく酒が欲しくなるようなそんな味だ。
「・・・不味くはねえな」
「だろ?」
まあ残してもいいけど。そんな明彦の言葉はフィンセントには届かなかった。ゆっくりだが、口を咀嚼するのに忙しくなったからだ。フィンセント用に用意されていたパンはいつの間にかウィリアムが食べていた。
*
「ただいまぁ・・・ありゃ、お客さん?」
ひょこ、と顔をのぞかせたのは芳だった。そういえば仕事午前中で終わるつってたな、と芳の分の用意をしようとして明彦はふとフィンセントの顔が引きつっているのを見た。鮫島はデザートのシフォンケーキに生クリームを乗せながら黙々と食べている。そしてウィリアムはと言うと。
「カオル、おかえり」
いつの間に芳の前に来ていたのだろうか。と、明彦が考えるより早くぎゅ、と芳に抱きついた。客人がいる羞恥心よりウィリアムがいた事の嬉しさのが優ったのか芳も周りを気にせず抱き返す。フィンセントがギギギ、と音が出そうな動きで明彦を振り返る。
「・・・アレ」
「付き合ってる」
「・・・マジだったのかよ」
顔は画像で知ってたけど、と青ざめるフィンセントに苦笑いした明彦は、くいくいと袖を引っ張られて振り向いた。僅かに顔をしかめながら生クリームだけを差し出す鮫島が立っている。
「・・・明彦くん、これお返しするよ。甘すぎる」
「クレームはあっちにつけてくれ・・・」
とんだとばっちりじゃねーか。明彦のぼやきは虚しくキッチンへ散り、人目も気にせず仲睦まじく甘い空気を飛ばす二人を後でしばき倒すと決める。
取り敢えず、明らかに大ダメージを受けたであろう赤毛の客人のためにすっぱいレモネードでも出すか、と明彦は憂鬱になりながら重い腰を上げたのだった。畳む
藤堂明彦とフィンセント=スカイグレイのPM12:16
「やあ、来たよ」
「だから連絡・・・誰だアンタ」
「オレが聞きてぇよ・・・」
例によって鮫島が連絡も取らずに清水邸へやってきた。いつもの文句を言おうとして、見知らぬ顔に明彦はぽかんと間抜けな顔をする。自分よりは年上だろう赤毛の外国人に知り合いはいないよな、と思ったところで背後から耳を劈く声が轟いた。
「ア゛ーーーーーーー!!?!??お前!!!なんでここにいやがる!??!?!?!」
なぜかスリッパを両手に持ち威嚇しながら叫ぶウィリアムの声に明彦はもちろん目の前の赤毛の男も耳を閉じる。鮫島だけが面白そうに眺めていたが、彼女を認識したウィリアムの目がぎょろりとそちらを見て吠えたてる。
「ニーナお前か!?こいつ連れてきたの!!」
「そうだよー、フィンくんにご飯をご馳走しようと思ってね」
「連れてくんなよ!!!かえ・・・むぐっ!?」
「ウィルさんうっさい、ちょっと静かにしててくれ。ややこしくなる」
ウィリアムの口に朝顔用のビスケットを押し込み黙らせながら帰ろうと鮫島と格闘する赤毛の青年に声かける。
「・・・取り敢えず、どちら様で?」
「いや、大丈夫。帰るから」
「ここの最寄りのバス次来るの一時間後だよ。今帰るのおすすめしないなぁ」
明彦の質問は無視され、しかし帰ると一点張りの青年にまるで脅しのような鮫島の言葉が内容と噛み合わない呑気さを纏って吐き出される。
青年はまじかよ、と肩を落とした。
*
ことことと音を立てる鍋を眺めながら明彦はちらりと背後を見た。酷く居心地の悪そうな青年の目の前でウィリアムと鮫島が作品が掲載されている冊子を囲んで評論している。と言ってもウィリアムの評価は最終的に自分の作品が一番という自意識過剰まみれのセリフしか出てこず、最初面白がって茶化していた鮫島も飽きたのか自分の好き勝手に評価している。傍から聞いていれば会話になっていない言葉の応酬に頭がおかしくなりそうだ。事実赤い髪はうろたえるように時折すこし揺れている。
「・・・フィンセントさん、ちょっと」
「? オレか?」
大騒ぎする芸術家二人を尻目に明彦が小声で青年の名前を呼ぶ。青年基フィンセントは何故自分が呼ばれたか分からず、しかし目の前の頭がおかしくなりそうな二人の会話を聞くよりマシかと明彦の方へ寄って行く。
近づいた途端ん、と渡された小皿に目を白黒させる。
「なんだ?」
「あの二人泥でも食いそうだし、あんたに味合わせる」
味見しろ、ということらしい。断ろうとしたが鼻をくすぐる匂いに思わず腹がくぅと鳴る。気まずかったが眼前の白い男は笑うことなくずっと小皿を差し出しているのでまあ、と受け取って一口それを飲み込んだ。
煮込んだ野菜特有の優しい甘味と、これは肉の旨味だろうか。舌を滑っていったそれに思わずうまいと呟けばそうかと目の前の白が再び鍋の方を見る。釣られて視線を向ければ黄金色のスープにキャベツの塊が沈んでいた。
「ロールキャベツ・・・?」
「晩飯のつもりだったんだけどな。鮫さん、いっつも突然来るから変更した」
「・・・オレそのつもりじゃなかったし、別に」
「いーよ。アンタ連れてこられただけなんだろ?後でイヤミは鮫さんに言うから気にすんな」
もうちょっとでできっからこっち座ってろよ、とソファではなくテーブルの方を勧められて、のろりと座り込む。えらくしっかりしたガキだなと、フィンセントは上の空そんな事を考えた。
*
目の前に並んだ料理にフィンセントはは?と口をぽかんと開けた。
一人二つずつ並んでいるロールキャベツに、目の前の大きな耐熱容器にはチーズがふんだんに使われたパンキッシュ、綺麗な皿とシルバーが丁寧に並べられている。これを用意したのはお世辞にも(自分が言うのもなんだが)柄が良さそうではない白髪の子供で、しかしこれを作っていたのをフィンセントは見ていた。なんだがリアリティがなくてきょとんとしてしまう。
「赤毛、気持ちは分かるぞ。俺も最初ビビった」
小声でウィリアムが英語でそんな事を言ってきた。まあそうだよな、と普段は揚げ足を取りからかいまくる対象の言葉に素直に頷く。
「早く食べなよ、冷めてしまうよ」
既に口にキッシュを詰め込んでいた鮫島の声に我に返る。と、ウィリアムの反対がをみたら小さなパンが一つ皿に乗せられて押し出されているところだった。
「いや、こんなに食えねえんだけど」
「あーうん。アンタ何食えねえか聞いてなかったから、食えねえんだったらこっちどうかなと」
それだけ言うと明彦は自分の分のキッシュを取り分けて黙々と食べていた。反対側を見ればウィリアムもフィンセントを気にせず既に口にロールキャベツを押し込んでいた。あついあつい、と言いながらも普段見る自称イケメンの普通な仏頂面がどこか本当に美味しそうに見えて、思わず唾液を飲み込んだ。
そういえば、朝から何も食べてない。
今更そんなことを思い出してフィンセントも恐る恐るロールキャベツを切り分けて一口放り込む。まず、熱い。そんなことを思いながらもゆっくり咀嚼していけば先刻味見させてもらったものよりしっかりした味が口の中に広がる。キャベツは芯が取り除いてあるのか固い部分はなく、肉もほろりと崩れるくらい柔らかい。肉汁はコンソメスープに混ざって優しい甘みの中でもしっかり旨みを主張する。ふ、とキッシュに目が向いた。こっちはどうなんだ、と少しだけ取り分ける。周りの記事は食パンの耳を取ったものだった。チーズの下はベーコンとしめじ、スナップエンドウと・・・と考えてもう一つ見慣れないものが目に付いた。見てくれはブロッコリーに近いがフォークでつつくとそれよりもかなり柔らかい。得体の知れないものを食べる気にはなれなくてどうしたものかと視線を泳がせると赤い目とバッチリ視線がかち合った。
「菜の花、嫌いか?」
「ナノハナ?」
「・・・野菜みたいな、花?まあ普通に野菜」
「いやアンタもよくわかってないもん入れるなよ」
「でも旨いのは知ってるからいいだろ」
そんな大雑把な言葉にええいままよとチーズを多めに絡ませて菜の花を口に入れ込んだ。
チーズの味の中にほんのり混ざっているのはオリーブオイルか。胡椒のぴりっとした辛味がアクセントにちょうどいい。絡んでいるのは卵だろうか、ふんわりとした口当たりで生地として敷かれているカリッと焼きあがった食パンと相性がいい。そして、菜の花は思っていた以上に柔らかく、苦味も少なく食べやすい。なんとなく酒が欲しくなるようなそんな味だ。
「・・・不味くはねえな」
「だろ?」
まあ残してもいいけど。そんな明彦の言葉はフィンセントには届かなかった。ゆっくりだが、口を咀嚼するのに忙しくなったからだ。フィンセント用に用意されていたパンはいつの間にかウィリアムが食べていた。
*
「ただいまぁ・・・ありゃ、お客さん?」
ひょこ、と顔をのぞかせたのは芳だった。そういえば仕事午前中で終わるつってたな、と芳の分の用意をしようとして明彦はふとフィンセントの顔が引きつっているのを見た。鮫島はデザートのシフォンケーキに生クリームを乗せながら黙々と食べている。そしてウィリアムはと言うと。
「カオル、おかえり」
いつの間に芳の前に来ていたのだろうか。と、明彦が考えるより早くぎゅ、と芳に抱きついた。客人がいる羞恥心よりウィリアムがいた事の嬉しさのが優ったのか芳も周りを気にせず抱き返す。フィンセントがギギギ、と音が出そうな動きで明彦を振り返る。
「・・・アレ」
「付き合ってる」
「・・・マジだったのかよ」
顔は画像で知ってたけど、と青ざめるフィンセントに苦笑いした明彦は、くいくいと袖を引っ張られて振り向いた。僅かに顔をしかめながら生クリームだけを差し出す鮫島が立っている。
「・・・明彦くん、これお返しするよ。甘すぎる」
「クレームはあっちにつけてくれ・・・」
とんだとばっちりじゃねーか。明彦のぼやきは虚しくキッチンへ散り、人目も気にせず仲睦まじく甘い空気を飛ばす二人を後でしばき倒すと決める。
取り敢えず、明らかに大ダメージを受けたであろう赤毛の客人のためにすっぱいレモネードでも出すか、と明彦は憂鬱になりながら重い腰を上げたのだった。畳む
#CoC #うちよそ #明彦飯
藤堂明彦と鮫島新名のPM13:01
「やあ、ご相伴にあずかりに来たよ」
「電話しろつったろーが」
のんびりとした声と共に鮫島がひょっこりと顔を出す。こんな辺鄙なところによくもまぁ、と思いながらも自分と同じく色の抜けた髪にどこか安心しながらも明彦は悪態をついた。
彼女と知り合ったのはなんだったか、と考えながら玉ねぎを刻む。確か、ウィリアムにくっついてきたんだったか。先天性白皮症、アルビノ体質自体は明彦の身近に来栖がいたが、彼は明彦ほど白くはない。西洋系のハーフだと言えばそれで通ってしまうほどのものだ。だから、そのときは驚いたもので、自分と同じくらい白い人間がいたのかと凝視してしまった。
あの時の得体の知れない安心感はなんだったんだろうか。
そんな事を考えながら背後で秋に特撮について熱く語っている鮫島の声を聞きながら刻んだ玉ねぎをバターで炒める。今日は晶と朝顔はいないが秋がいるので多少甘くしておかないと玉ねぎだけほじくり返すのである。それは作り手あるまじきだ、と思いつつ飴色になった玉ねぎを冷ましつつ、その時間でマッシュルームを細かく刻んで、人参をミキサーでペースト状にしていく。肉に可能な限り野菜を突っ込んでおかないと、朝顔や晶はともかくとして秋が絶対に食べないのだ。鮫島には付き合わせるようで申し訳ないが犠牲になってもらう。
冷めた飴色玉ねぎとマッシュルームを合挽きのミンチ肉と卵、牛乳、パン粉を練り混ぜる。地味にこの作業が好きで、気を付けないと延々とこねている上に自分の握力の強さを読み違えて混ぜた具材も潰しかねない。やがて小判型に整えて真ん中を凹ませ、熱しておいたフライパンにそっと置いていく。
ジュウ、といかにもな音を立てて焼いていると背後から秋にしがみつかれた鮫島が覗き込んできた。
「おぉ、ハンバーグかい?楽しみだねぇ」
「おー。焼いたら終わりだからもうちょい向こうで秋に遊ばれててくれ」
「おう、まかせろ!さめ!オレが遊んでやるんだからもっとたのしそうにしろよ!」
「遊んであげてるのこっちなんだけどなぁ?」
なんだかなぁ、と言いながらも秋を抱えて鮫島が離れていく。子供は苦手と言ってたっけ?と思いつつ普段連絡もなく飯だけたかりにくるのでそれくらいのことはしてもらわないとこっちも持たない、と三チビの中でも最も暴れん坊の秋を押し付けるあたり明彦も人が悪い。
さて、と蓋をしたフライパンの隣でソースを煮詰めている小鍋の火を見ながら明彦は洗い物に取り掛かった。
*
できたぞ、と言う言葉に秋より先に鮫島がすっ飛んできた。
「おい・・・秋は・・・」
「さめー!こら!オレをおいてくなバカ!!」
「悪いね、出来立てが逃げるから追いかけて捕まえなきゃと思ったのさ」
「はっ!!なるほどな・・・!?できたて、つかまえたか!?」
「完璧だよ」
「ごくろう!!」
なんの会話だ、と思いながら二人の前にプレートを置いていく。ほわぁ、とそんな間抜けな声を上げたのはどちらだろうか。目の前で湯気が揺らいでいる。
まず、目に付いたのは花形の目玉焼き。赤いケチャップソースがハンバーグを包み込むようにかけられている。白い米に、マグカップには黄金色のオニオンスープが注がれている。そしてレタス・胡瓜・プチトマトの簡単なサラダ。
「お昼から豪勢だねぇ。毎日こんな感じなのかい?」
「普段は夜の間に仕込みだけしてんだよ。アンタが急に来たから予定変更したんだっつーの」
「それはそれは。嬉しい限りだねえ」
「いや褒めてねーよ。イヤミだっつの」
悪態をつく明彦の服の裾を、秋がぐいと強く引っ張る。見てみればまだ食わねえのかと顔面で訴えてきていた。毒気を抜かれた明彦はため息をつきながら席につく。
「いただきます」
「いたっきます!」
「いただきまーす」
挨拶もそこそこに秋と鮫島は勢いよくお互いの目玉焼きに箸を突き立てる。何やってんだ、と思いつつ様式美なので明彦はほっといて黙々と食っていた。
以下、二人の行動である。
箸を固く握ったまま両者、睨み合う(鮫島は普通に見下ろしていただけだが)
「・・・やるな、サメ」
「そっちこそ。けど今日はわたしが早かったよね?」
「は!?オレだろ!?」
「いーや、わたしのが早かった。そうだろうあっきー?」
「あきひこにぃ!!オレ!!オレのが早かった!!」
「知らねえよ、ドローにしとけ」
「「やだー!!」」
箸を握ったまま二人揃って明彦に食ってかかる。当の明彦は酷くめんどくさそうに咀嚼していた。ごくんと飲み込んで箸を一旦置き、すっと手を出す。
それを見た二人も箸から手を離した。そして。
「「「じゃんけんポン!!!!!」」」
勢いよく手を降り出す。明彦がグー、秋と鮫島両名はチョキ。明彦の一人勝ちだ。
「くっ、まけた・・・」
「あきひこにぃジャンケンつよすぎー!!」
「俺が強いんじゃねえよ、お前らがジャンケン弱すぎんだ」
「あ、少しイキったね。しゅーちん、今この人イキったよ」
「イキった!あきひこにぃのイキりむしー!」
勝ったのに散々な言われようの明彦は、しかしこれも鮫島が来たときのいつものことだったからはいはいと受け流した。
大人所帯でいつもの食事は秋も含めて皆行儀よく食べている。しかし、たまにはこういう風に大騒ぎしながら食べる食事も悪くなく、何より普段お兄ちゃんぶってしかめっ面をしている秋が楽しそうだから、明彦は勝手に来る鮫島を強く拒むことはしなかった。
少し冷えたハンバーグは、ちょっとだけ人参の味がした。畳む
藤堂明彦と鮫島新名のPM13:01
「やあ、ご相伴にあずかりに来たよ」
「電話しろつったろーが」
のんびりとした声と共に鮫島がひょっこりと顔を出す。こんな辺鄙なところによくもまぁ、と思いながらも自分と同じく色の抜けた髪にどこか安心しながらも明彦は悪態をついた。
彼女と知り合ったのはなんだったか、と考えながら玉ねぎを刻む。確か、ウィリアムにくっついてきたんだったか。先天性白皮症、アルビノ体質自体は明彦の身近に来栖がいたが、彼は明彦ほど白くはない。西洋系のハーフだと言えばそれで通ってしまうほどのものだ。だから、そのときは驚いたもので、自分と同じくらい白い人間がいたのかと凝視してしまった。
あの時の得体の知れない安心感はなんだったんだろうか。
そんな事を考えながら背後で秋に特撮について熱く語っている鮫島の声を聞きながら刻んだ玉ねぎをバターで炒める。今日は晶と朝顔はいないが秋がいるので多少甘くしておかないと玉ねぎだけほじくり返すのである。それは作り手あるまじきだ、と思いつつ飴色になった玉ねぎを冷ましつつ、その時間でマッシュルームを細かく刻んで、人参をミキサーでペースト状にしていく。肉に可能な限り野菜を突っ込んでおかないと、朝顔や晶はともかくとして秋が絶対に食べないのだ。鮫島には付き合わせるようで申し訳ないが犠牲になってもらう。
冷めた飴色玉ねぎとマッシュルームを合挽きのミンチ肉と卵、牛乳、パン粉を練り混ぜる。地味にこの作業が好きで、気を付けないと延々とこねている上に自分の握力の強さを読み違えて混ぜた具材も潰しかねない。やがて小判型に整えて真ん中を凹ませ、熱しておいたフライパンにそっと置いていく。
ジュウ、といかにもな音を立てて焼いていると背後から秋にしがみつかれた鮫島が覗き込んできた。
「おぉ、ハンバーグかい?楽しみだねぇ」
「おー。焼いたら終わりだからもうちょい向こうで秋に遊ばれててくれ」
「おう、まかせろ!さめ!オレが遊んでやるんだからもっとたのしそうにしろよ!」
「遊んであげてるのこっちなんだけどなぁ?」
なんだかなぁ、と言いながらも秋を抱えて鮫島が離れていく。子供は苦手と言ってたっけ?と思いつつ普段連絡もなく飯だけたかりにくるのでそれくらいのことはしてもらわないとこっちも持たない、と三チビの中でも最も暴れん坊の秋を押し付けるあたり明彦も人が悪い。
さて、と蓋をしたフライパンの隣でソースを煮詰めている小鍋の火を見ながら明彦は洗い物に取り掛かった。
*
できたぞ、と言う言葉に秋より先に鮫島がすっ飛んできた。
「おい・・・秋は・・・」
「さめー!こら!オレをおいてくなバカ!!」
「悪いね、出来立てが逃げるから追いかけて捕まえなきゃと思ったのさ」
「はっ!!なるほどな・・・!?できたて、つかまえたか!?」
「完璧だよ」
「ごくろう!!」
なんの会話だ、と思いながら二人の前にプレートを置いていく。ほわぁ、とそんな間抜けな声を上げたのはどちらだろうか。目の前で湯気が揺らいでいる。
まず、目に付いたのは花形の目玉焼き。赤いケチャップソースがハンバーグを包み込むようにかけられている。白い米に、マグカップには黄金色のオニオンスープが注がれている。そしてレタス・胡瓜・プチトマトの簡単なサラダ。
「お昼から豪勢だねぇ。毎日こんな感じなのかい?」
「普段は夜の間に仕込みだけしてんだよ。アンタが急に来たから予定変更したんだっつーの」
「それはそれは。嬉しい限りだねえ」
「いや褒めてねーよ。イヤミだっつの」
悪態をつく明彦の服の裾を、秋がぐいと強く引っ張る。見てみればまだ食わねえのかと顔面で訴えてきていた。毒気を抜かれた明彦はため息をつきながら席につく。
「いただきます」
「いたっきます!」
「いただきまーす」
挨拶もそこそこに秋と鮫島は勢いよくお互いの目玉焼きに箸を突き立てる。何やってんだ、と思いつつ様式美なので明彦はほっといて黙々と食っていた。
以下、二人の行動である。
箸を固く握ったまま両者、睨み合う(鮫島は普通に見下ろしていただけだが)
「・・・やるな、サメ」
「そっちこそ。けど今日はわたしが早かったよね?」
「は!?オレだろ!?」
「いーや、わたしのが早かった。そうだろうあっきー?」
「あきひこにぃ!!オレ!!オレのが早かった!!」
「知らねえよ、ドローにしとけ」
「「やだー!!」」
箸を握ったまま二人揃って明彦に食ってかかる。当の明彦は酷くめんどくさそうに咀嚼していた。ごくんと飲み込んで箸を一旦置き、すっと手を出す。
それを見た二人も箸から手を離した。そして。
「「「じゃんけんポン!!!!!」」」
勢いよく手を降り出す。明彦がグー、秋と鮫島両名はチョキ。明彦の一人勝ちだ。
「くっ、まけた・・・」
「あきひこにぃジャンケンつよすぎー!!」
「俺が強いんじゃねえよ、お前らがジャンケン弱すぎんだ」
「あ、少しイキったね。しゅーちん、今この人イキったよ」
「イキった!あきひこにぃのイキりむしー!」
勝ったのに散々な言われようの明彦は、しかしこれも鮫島が来たときのいつものことだったからはいはいと受け流した。
大人所帯でいつもの食事は秋も含めて皆行儀よく食べている。しかし、たまにはこういう風に大騒ぎしながら食べる食事も悪くなく、何より普段お兄ちゃんぶってしかめっ面をしている秋が楽しそうだから、明彦は勝手に来る鮫島を強く拒むことはしなかった。
少し冷えたハンバーグは、ちょっとだけ人参の味がした。畳む
#CoC #明彦飯 #現代組
藤堂明彦と庭木のPM13:09
牛肉の塊を熱したフライパンの上に置く。その瞬間肉が焼ける音と匂いが響き渡って明彦はほうと息をついた。
「あきっちなにしてんのー!?」
「ギャアアアアアアアアアアアアア!?!?」
突然ここにいないはずの男の声が聞こえて、明彦は思わず拳を振りかぶった。
「いたい」
「自業自得だろうが。謝んねえぞ」
頬をパンパンに腫らせた庭木をじっとりと睨んで明彦はため息をついた。この男がどうやって伝えてもいない辺鄙な場所にあるこの家のことを知ったのかはわからない。が、庭木の職業柄簡単だったんだろうなと勝手に納得してフライパンへ視線を戻す。特に焦げている場所もないため続きを続行する。トングで焼き色を見ながらひっくり返し全ての面を焼いていく。
「肉?」
と、暇を持て余したのだろう庭木がひょっこり後ろから顔を覗かせた。じっとしているのが苦手なのは知っていたしそろそろきそうだなとも思っていたので明彦も別段怒ることなく返す。
「肉。ローストビーフ焼いてんの。腹減ってっから」
「へー・・・うまい?」
「・・・何。食いてぇの?」
「あきっちの手作りはおっかない気がすっけど、匂いうまそーで腹減った」
「わかった。食うな」
「ごめんなしゃい」
即座に土下座する庭木を呆れ顔で見ながらも手を止めない。やがてしっかり焼き目のついた肉を冷ましている間にあらかた片付けを済ませ、冷めてからアルミホイルで二重に巻いていく。
「それ何の音・・・」
「アルミホイル巻いてんの。こうやってしっかり中まで熱通すんだよ」
「俺その音嫌いだわ・・・」
「じゃああっち行ってろよ・・・」
「えー!?暇じゃん!!」
「・・・」
もう何も言えねえ、と明彦が遠い目をする。見えていない庭木はお構いなしで、明彦の周りをちょろちょろと動き回っていた。邪魔、というのも気が引けて明彦はダメ元でぐい、と庭木に玉ねぎとすりおろし器を押し付ける。
「ほ?」
「玉ねぎすりおろせ。暇なんだろーが」
「俺っち手元見えないけど、だいじょぶ?」
「安心しろ、手すっちまわないようにするとって付いてっから見えなくてもできる」
庭木を椅子に座らせてこう、と最初に明彦が後ろから庭木の手を取り体感で覚えさせる。きょとんとしていた庭木は次の瞬間にはぱぁ、と嬉しそうに顔をにたつかせて一人で玉ねぎをおろし始めた。取っ手がついて最後まで野菜をおろせるタイプのおろし器買ってよかった、と明彦がひとりごちながらソースの準備をする。芳秘蔵の赤ワイン、醤油、みりん、砂糖を合わせておく。
「あきっち終わったっぽい?」
「おー、ご苦労さん」
「変なとこない?できてる?」
「できてるできてる。上等だって」
少々しつこいくらい聞いてくる庭木に苦笑して答える。見えないから不安なのだろうな、というのはなんとなくわかるので怒る気にならないのだ。上等、と伝えられた庭木は嬉しいのを隠しもせずにへへ、と笑う。あとは任せてくれとすり下ろされた玉ねぎを預かった。
先ほど合わせた調味料へ玉ねぎを合わせてから軽く煮込む。その間に別の鍋で湯を沸かす。沸いたのを確認して明彦はそっと湯の中へアルミホイルをかぶせた肉を沈めた。十分後、火を止めてそのまま放置する。
その間に洗濯物だとか、庭木が割った植木鉢の片付けとか、風呂掃除とか、庭木がひっくり返したローテーブルを直したりだとか、何かと忙しかった。三十分程してから肉を取り出し更に常温で置く。芳の仕事部屋に入ろうとする庭木を阻止して、もうできるからとテーブルに無理やり座らせるのに1時間かかった。
肉の塊を薄くスライスする。それを丼に盛った白米の上へ乗せ、卵黄を落とす。周りに覚ましたソースを掛けて、庭木の前へ置いた。
「箸、使えんの?」
「使えるよーん」
明彦の一見バカにしたような質問に腹を立てることなく返事を返す。その質問が盲目の自分を気遣ってのことだとわかっていたからだ。伊達に彼の上司をしているわけではないのである。
明彦のいただきます、を真似してイタダキマス、と庭木がオウム返しする。咀嚼音が聞こえたので恐らく食べ始めたんだろうなと理解して庭木も一口、それを入れる。
まず感じたのは甘いソースと肉の柔らかさ。卵のとろりとした感触。そして冷たい肉やソースとは真逆のあたたかい白米の温度。
「・・・うま」
「下手くそじゃなくて悪かったな」
得意げな明彦の声が聞こえる。旨い。素直にそう思った瞬間庭木は丼にがっついていた。喉をつまらせてむせれば明彦が何かを渡してきた。飲めよ、と言われて飲めばほんのりあたたかいお茶だった。
不思議な気分だった。基本的には一人で飯を食うことが普通でたまに同じ空間に西郷か山田がいるだけだ。いるだけで今のように誰かと向かい合って食べることなんてしたことはなかった。何とも言えない、けれど嫌ではない気分だった。
やがて食べ終わる。明彦が食器を片付ける音を聞きながら庭木はのろりと口を開けた。
「また一緒に食べよ。飯」
明彦が無言になって、吹き出す。何かおかしいことでも言ったっけ?と首をかしげる庭木に明彦は次は連絡入れてから来いよ、と言った。畳む
藤堂明彦と庭木のPM13:09
牛肉の塊を熱したフライパンの上に置く。その瞬間肉が焼ける音と匂いが響き渡って明彦はほうと息をついた。
「あきっちなにしてんのー!?」
「ギャアアアアアアアアアアアアア!?!?」
突然ここにいないはずの男の声が聞こえて、明彦は思わず拳を振りかぶった。
「いたい」
「自業自得だろうが。謝んねえぞ」
頬をパンパンに腫らせた庭木をじっとりと睨んで明彦はため息をついた。この男がどうやって伝えてもいない辺鄙な場所にあるこの家のことを知ったのかはわからない。が、庭木の職業柄簡単だったんだろうなと勝手に納得してフライパンへ視線を戻す。特に焦げている場所もないため続きを続行する。トングで焼き色を見ながらひっくり返し全ての面を焼いていく。
「肉?」
と、暇を持て余したのだろう庭木がひょっこり後ろから顔を覗かせた。じっとしているのが苦手なのは知っていたしそろそろきそうだなとも思っていたので明彦も別段怒ることなく返す。
「肉。ローストビーフ焼いてんの。腹減ってっから」
「へー・・・うまい?」
「・・・何。食いてぇの?」
「あきっちの手作りはおっかない気がすっけど、匂いうまそーで腹減った」
「わかった。食うな」
「ごめんなしゃい」
即座に土下座する庭木を呆れ顔で見ながらも手を止めない。やがてしっかり焼き目のついた肉を冷ましている間にあらかた片付けを済ませ、冷めてからアルミホイルで二重に巻いていく。
「それ何の音・・・」
「アルミホイル巻いてんの。こうやってしっかり中まで熱通すんだよ」
「俺その音嫌いだわ・・・」
「じゃああっち行ってろよ・・・」
「えー!?暇じゃん!!」
「・・・」
もう何も言えねえ、と明彦が遠い目をする。見えていない庭木はお構いなしで、明彦の周りをちょろちょろと動き回っていた。邪魔、というのも気が引けて明彦はダメ元でぐい、と庭木に玉ねぎとすりおろし器を押し付ける。
「ほ?」
「玉ねぎすりおろせ。暇なんだろーが」
「俺っち手元見えないけど、だいじょぶ?」
「安心しろ、手すっちまわないようにするとって付いてっから見えなくてもできる」
庭木を椅子に座らせてこう、と最初に明彦が後ろから庭木の手を取り体感で覚えさせる。きょとんとしていた庭木は次の瞬間にはぱぁ、と嬉しそうに顔をにたつかせて一人で玉ねぎをおろし始めた。取っ手がついて最後まで野菜をおろせるタイプのおろし器買ってよかった、と明彦がひとりごちながらソースの準備をする。芳秘蔵の赤ワイン、醤油、みりん、砂糖を合わせておく。
「あきっち終わったっぽい?」
「おー、ご苦労さん」
「変なとこない?できてる?」
「できてるできてる。上等だって」
少々しつこいくらい聞いてくる庭木に苦笑して答える。見えないから不安なのだろうな、というのはなんとなくわかるので怒る気にならないのだ。上等、と伝えられた庭木は嬉しいのを隠しもせずにへへ、と笑う。あとは任せてくれとすり下ろされた玉ねぎを預かった。
先ほど合わせた調味料へ玉ねぎを合わせてから軽く煮込む。その間に別の鍋で湯を沸かす。沸いたのを確認して明彦はそっと湯の中へアルミホイルをかぶせた肉を沈めた。十分後、火を止めてそのまま放置する。
その間に洗濯物だとか、庭木が割った植木鉢の片付けとか、風呂掃除とか、庭木がひっくり返したローテーブルを直したりだとか、何かと忙しかった。三十分程してから肉を取り出し更に常温で置く。芳の仕事部屋に入ろうとする庭木を阻止して、もうできるからとテーブルに無理やり座らせるのに1時間かかった。
肉の塊を薄くスライスする。それを丼に盛った白米の上へ乗せ、卵黄を落とす。周りに覚ましたソースを掛けて、庭木の前へ置いた。
「箸、使えんの?」
「使えるよーん」
明彦の一見バカにしたような質問に腹を立てることなく返事を返す。その質問が盲目の自分を気遣ってのことだとわかっていたからだ。伊達に彼の上司をしているわけではないのである。
明彦のいただきます、を真似してイタダキマス、と庭木がオウム返しする。咀嚼音が聞こえたので恐らく食べ始めたんだろうなと理解して庭木も一口、それを入れる。
まず感じたのは甘いソースと肉の柔らかさ。卵のとろりとした感触。そして冷たい肉やソースとは真逆のあたたかい白米の温度。
「・・・うま」
「下手くそじゃなくて悪かったな」
得意げな明彦の声が聞こえる。旨い。素直にそう思った瞬間庭木は丼にがっついていた。喉をつまらせてむせれば明彦が何かを渡してきた。飲めよ、と言われて飲めばほんのりあたたかいお茶だった。
不思議な気分だった。基本的には一人で飯を食うことが普通でたまに同じ空間に西郷か山田がいるだけだ。いるだけで今のように誰かと向かい合って食べることなんてしたことはなかった。何とも言えない、けれど嫌ではない気分だった。
やがて食べ終わる。明彦が食器を片付ける音を聞きながら庭木はのろりと口を開けた。
「また一緒に食べよ。飯」
明彦が無言になって、吹き出す。何かおかしいことでも言ったっけ?と首をかしげる庭木に明彦は次は連絡入れてから来いよ、と言った。畳む
#CoC #うちよそ #明彦飯
藤堂明彦と射守屋衣慧のPM19:57
明彦はどきまぎしながらそのマンションの一室のチャイムを鳴らす。以前驚かせようと無言で場所を(職権乱用し)調べアポ無しで突入したところ笑いながら説教させたのを思い出す。今回は事前連絡をしたから大丈夫だ、と思っているとはーいと明るい声がドア越しに聞こえて、がちゃと開かれ招かれる。
「待っとったで、アキ!」
満面の笑みを浮かべながらドアを支える衣慧を見て、思わず明彦も笑った。
関西圏のとある集会、明彦はそれに参加するために衣慧を訪ねた。何の集会かというとサバイバルゲーム、所謂サバゲーの定例集会だ。月に何度か、店舗ごとに集会を開き初心者・玄人問わず一緒にサバゲーを楽しめるイベントである。衣慧の知り合いの店舗の集会が近かった、というのもあり参加に漕ぎ着けたのだ。
サバゲー初心者です、といったフル装備の明彦をうんうんと満足げに見ながら衣慧がバンバンと背中を叩く。
「似合っとるやん!ヘルメットはなんやおもろいことになっとるけど!」
「・・・ブカブカする」
「まあ一回目やからなぁ、怪我せえへんようにかぶっとき!慣れてきたら帽子とかに変えたらええし!」
もぞ、とヘルメットを動かす明彦を微笑ましく見ながら、集合をかける声が耳に届いた衣慧はぐいと明彦をひっぱる。
「ほらアキ!初陣やで!頑張っといで!」
「お、おう!」
上擦った声で返事をして走っていった明彦の背中に行ってらっしゃい!と衣慧は手を振った。
集会が終わり、店舗から二人が撤収したのは日も大分と傾きかけた夕方頃だった。いろんなチームに混ぜてもらいながら3ゲームたっぷり遊んだ明彦はえらくご機嫌で、また疲れた様子を見せない彼に衣慧が感心したように声をかける。
「アキ、ほんま体力あるんやなぁ!というか、初めてするサバゲであそこまで動けへんで普通!」
衣慧の脳裏には単身で敵陣へ突っ込んでいく明彦の姿がリプレイされている。初心者特有の先走って突っ込んでいく傾向だな、と誰もが微笑ましく笑っていた所自分に向けられた銃口を察知して物陰へ隠れたり、スナイパーの位置を見つけたと味方に伝えた後前衛へ繰り出し三人キルを取ったのだ。敵も味方も驚かせながら明彦自身も楽しそうに撃ったり撃たれたり。帰り間際等は玄人たちに囲まれ肩や背中を叩かれながら目を白黒させていた明彦が面白かった。
本人よりも興奮しているかもしれない衣慧に、明彦は引きつった笑みを浮かべるしかない。まさか仕事でよく似たことをしています、とは言えないためだ。口は災いのもとである。無難に運動好きだから、と答えて無理やり話題を変換した。
「と、所でさ。いささん腹減ってね?」
「ん?あー、そいやあ観戦しとって興奮して昼飯食うの忘れとったから腹減ったなぁ。どっか寄ろか?」
「じゃあ、パン屋」
「ほえ?」
思っていた所と違う場所をきいて衣慧がきょとんとする。明彦はおずおずと自分を指さした。
「俺、作るよ。泊めてもらうし」
悪いわ、と断る衣慧に実は準備してきたと言えば観念したように苦笑してじゃあ、と任せてもらった明彦はパン屋に立ち寄りバケットを二本購入した。何がでるんやろか、と明彦を見る衣慧の目は興味津々に輝いていて、絶対うまいの作ろうと決心する。
さて衣慧の部屋に戻ってきた明彦は冷蔵庫に入れさせてもらっていたジップロックを取り出す。
「アキ、これなんや?サバ?」
「うん。塩ヨーグルトで付けてある」
「ヨーグルト!?すごい珍しい組み合わせやな・・・!」
「安心しろよ、ゲテモノじゃねえから」
そう言って笑って、ふと明彦は衣慧がどことなくそわそわしているのに気がついた。
「・・・どした?まじでゲテモノじゃないぞ?」
「あー、そうやなくてな?自分ちでなんもせんの落ち着かんくて」
「じゃあ、これ。三等分に切ってから真ん中で半分に切ってマーガリン塗って焼いといてくれ」
そう言いながら二本のバケットを衣慧に渡せば気使わせてごめんなぁ、と苦笑しながらも取り掛かってくれる。一人暮らしだけあって手際がいいなぁ、と思いながらフライパンにオーブンシートを敷き、皮の面から焼いていく。しばらくして皮の面に綺麗な焼きいろが着いたのを確認して裏返し蓋をする。火を弱めて蒸し焼きにしている相田にトマトと赤玉ねぎ、レモンを輪切りにする。
「アキー、パン焼けたで!」
「あんがと、じゃあレタスちぎってくれね?挟める感じで」
「任せとき!」
ふんす、と得意げに鼻を鳴らしながら返事をする衣慧を心強く思いながら明彦は小ぶりのじゃがいもを皮ごとくし切りにし小鍋で揚げ焼きし、パセリと塩を塗す。
丁度蒸しあがった鯖の小骨を取り除き、衣慧が用意してくれたバケットにレタスやトマト等野菜と一緒に挟んでいく。
最後に塩コショウで味を整えてテーブルへ並べた。
「お待たせ」
「おおお・・・!途中からハンバーガーかな思うてたんやけど魚って珍しいなぁ!」
「サバサンド、って言うらしいぞ。秋奈さんから教えてもらった」
「・・・サバゲーやから?」
「・・・わりぃか」
「ほんまに!?っふふ、洒落効いとるやん!」
不貞腐れた明彦の頭を乱暴になでてて、さてさてと衣慧が両手を合わせる。
「いただきます!」
「おう」
ハツラツとした声で食前の挨拶をして、衣慧は大きな口でかぶりつく。最初見たときはどうなるのか想像もつかなかった塩ヨーグルトに付けられた鯖は生臭さは一切なくふっくらと仕上がっている。かりっと焼かれた皮にトマトとレモンの違う酸味が味を引き締める。少し焼いたバケットの香ばしさと甘さもマッチしている。
「いささん、これ」
「おん?マスタード?」
明彦が渡した容器に入れられたマスタードソースを言われるままちょっと付けてかぶりつく。ぴり、とした辛味が先ほどとは違う旨さを舌に訴えて来た。
「うっわ味変わったわ!アキすごない!?サバはふわふわやし臭ないし!ポテトも塩加減ばっちりやで!」
「そっか、よかった」
そう言ってへにゃりと明彦が笑う。うまいうまいと咀嚼する衣慧にホッとした。
「そいやあ明日には帰るんやな?」
後片付けを二人でしながら衣慧は明彦を見上げながら聞いてきた。うん、と答えると残念やわぁ、と本当に残念そうに言われて少し名残惜しくなる。なんとなく、明彦は思っていたことを口に出した。
「また、一緒に遊ばね?今日はいささんゲーム出てなかったし、一緒のチームで」
「! ええよ!今度はボクがそっち行くわ!」
「待ってる。あ、後でおすすめの武器教えてくれよ。ハルさん達・・・向こうの友達にも布教しとくからさ」
そんな他愛ない話をしながら、次の約束をしたのだ。畳む
藤堂明彦と射守屋衣慧のPM19:57
明彦はどきまぎしながらそのマンションの一室のチャイムを鳴らす。以前驚かせようと無言で場所を(職権乱用し)調べアポ無しで突入したところ笑いながら説教させたのを思い出す。今回は事前連絡をしたから大丈夫だ、と思っているとはーいと明るい声がドア越しに聞こえて、がちゃと開かれ招かれる。
「待っとったで、アキ!」
満面の笑みを浮かべながらドアを支える衣慧を見て、思わず明彦も笑った。
関西圏のとある集会、明彦はそれに参加するために衣慧を訪ねた。何の集会かというとサバイバルゲーム、所謂サバゲーの定例集会だ。月に何度か、店舗ごとに集会を開き初心者・玄人問わず一緒にサバゲーを楽しめるイベントである。衣慧の知り合いの店舗の集会が近かった、というのもあり参加に漕ぎ着けたのだ。
サバゲー初心者です、といったフル装備の明彦をうんうんと満足げに見ながら衣慧がバンバンと背中を叩く。
「似合っとるやん!ヘルメットはなんやおもろいことになっとるけど!」
「・・・ブカブカする」
「まあ一回目やからなぁ、怪我せえへんようにかぶっとき!慣れてきたら帽子とかに変えたらええし!」
もぞ、とヘルメットを動かす明彦を微笑ましく見ながら、集合をかける声が耳に届いた衣慧はぐいと明彦をひっぱる。
「ほらアキ!初陣やで!頑張っといで!」
「お、おう!」
上擦った声で返事をして走っていった明彦の背中に行ってらっしゃい!と衣慧は手を振った。
集会が終わり、店舗から二人が撤収したのは日も大分と傾きかけた夕方頃だった。いろんなチームに混ぜてもらいながら3ゲームたっぷり遊んだ明彦はえらくご機嫌で、また疲れた様子を見せない彼に衣慧が感心したように声をかける。
「アキ、ほんま体力あるんやなぁ!というか、初めてするサバゲであそこまで動けへんで普通!」
衣慧の脳裏には単身で敵陣へ突っ込んでいく明彦の姿がリプレイされている。初心者特有の先走って突っ込んでいく傾向だな、と誰もが微笑ましく笑っていた所自分に向けられた銃口を察知して物陰へ隠れたり、スナイパーの位置を見つけたと味方に伝えた後前衛へ繰り出し三人キルを取ったのだ。敵も味方も驚かせながら明彦自身も楽しそうに撃ったり撃たれたり。帰り間際等は玄人たちに囲まれ肩や背中を叩かれながら目を白黒させていた明彦が面白かった。
本人よりも興奮しているかもしれない衣慧に、明彦は引きつった笑みを浮かべるしかない。まさか仕事でよく似たことをしています、とは言えないためだ。口は災いのもとである。無難に運動好きだから、と答えて無理やり話題を変換した。
「と、所でさ。いささん腹減ってね?」
「ん?あー、そいやあ観戦しとって興奮して昼飯食うの忘れとったから腹減ったなぁ。どっか寄ろか?」
「じゃあ、パン屋」
「ほえ?」
思っていた所と違う場所をきいて衣慧がきょとんとする。明彦はおずおずと自分を指さした。
「俺、作るよ。泊めてもらうし」
悪いわ、と断る衣慧に実は準備してきたと言えば観念したように苦笑してじゃあ、と任せてもらった明彦はパン屋に立ち寄りバケットを二本購入した。何がでるんやろか、と明彦を見る衣慧の目は興味津々に輝いていて、絶対うまいの作ろうと決心する。
さて衣慧の部屋に戻ってきた明彦は冷蔵庫に入れさせてもらっていたジップロックを取り出す。
「アキ、これなんや?サバ?」
「うん。塩ヨーグルトで付けてある」
「ヨーグルト!?すごい珍しい組み合わせやな・・・!」
「安心しろよ、ゲテモノじゃねえから」
そう言って笑って、ふと明彦は衣慧がどことなくそわそわしているのに気がついた。
「・・・どした?まじでゲテモノじゃないぞ?」
「あー、そうやなくてな?自分ちでなんもせんの落ち着かんくて」
「じゃあ、これ。三等分に切ってから真ん中で半分に切ってマーガリン塗って焼いといてくれ」
そう言いながら二本のバケットを衣慧に渡せば気使わせてごめんなぁ、と苦笑しながらも取り掛かってくれる。一人暮らしだけあって手際がいいなぁ、と思いながらフライパンにオーブンシートを敷き、皮の面から焼いていく。しばらくして皮の面に綺麗な焼きいろが着いたのを確認して裏返し蓋をする。火を弱めて蒸し焼きにしている相田にトマトと赤玉ねぎ、レモンを輪切りにする。
「アキー、パン焼けたで!」
「あんがと、じゃあレタスちぎってくれね?挟める感じで」
「任せとき!」
ふんす、と得意げに鼻を鳴らしながら返事をする衣慧を心強く思いながら明彦は小ぶりのじゃがいもを皮ごとくし切りにし小鍋で揚げ焼きし、パセリと塩を塗す。
丁度蒸しあがった鯖の小骨を取り除き、衣慧が用意してくれたバケットにレタスやトマト等野菜と一緒に挟んでいく。
最後に塩コショウで味を整えてテーブルへ並べた。
「お待たせ」
「おおお・・・!途中からハンバーガーかな思うてたんやけど魚って珍しいなぁ!」
「サバサンド、って言うらしいぞ。秋奈さんから教えてもらった」
「・・・サバゲーやから?」
「・・・わりぃか」
「ほんまに!?っふふ、洒落効いとるやん!」
不貞腐れた明彦の頭を乱暴になでてて、さてさてと衣慧が両手を合わせる。
「いただきます!」
「おう」
ハツラツとした声で食前の挨拶をして、衣慧は大きな口でかぶりつく。最初見たときはどうなるのか想像もつかなかった塩ヨーグルトに付けられた鯖は生臭さは一切なくふっくらと仕上がっている。かりっと焼かれた皮にトマトとレモンの違う酸味が味を引き締める。少し焼いたバケットの香ばしさと甘さもマッチしている。
「いささん、これ」
「おん?マスタード?」
明彦が渡した容器に入れられたマスタードソースを言われるままちょっと付けてかぶりつく。ぴり、とした辛味が先ほどとは違う旨さを舌に訴えて来た。
「うっわ味変わったわ!アキすごない!?サバはふわふわやし臭ないし!ポテトも塩加減ばっちりやで!」
「そっか、よかった」
そう言ってへにゃりと明彦が笑う。うまいうまいと咀嚼する衣慧にホッとした。
「そいやあ明日には帰るんやな?」
後片付けを二人でしながら衣慧は明彦を見上げながら聞いてきた。うん、と答えると残念やわぁ、と本当に残念そうに言われて少し名残惜しくなる。なんとなく、明彦は思っていたことを口に出した。
「また、一緒に遊ばね?今日はいささんゲーム出てなかったし、一緒のチームで」
「! ええよ!今度はボクがそっち行くわ!」
「待ってる。あ、後でおすすめの武器教えてくれよ。ハルさん達・・・向こうの友達にも布教しとくからさ」
そんな他愛ない話をしながら、次の約束をしたのだ。畳む
#CoC #明彦飯 #うちよそ
藤堂明彦とウィリアム=J=ブラウンの正午12:00
「おいポメヒコ早くしろよ!カオル帰ってくるだろ!?」
「急かすなよウィルさん・・・開けるぞ・・・!」
ごくり、と明彦とウィリアムが喉を鳴らす。がぱ、と冷蔵庫から肉の塊を取り出してお互いの顔を見合わせた。
事の始まりは一週間前、昼食をウィリアムと明彦が二人でとっていた時だった。スマホを眺めながら明彦がおお、と感嘆の声を上げた。
「? どしたポメ」
「ウィルさんこれ知ってっか?くんせーき」
ん、と渡されたスマホの画面を見れば煙で肉やチーズ、魚を燻している動画だった。やけにのんびり食べていると思ったらこれを見ていたらしい。くんせーき、という聞きなれない言葉にウィリアムが首をかしげる。
「いや、知らねえな。なにやってんだこれ」
「自分でハムとかベーコン作るらしいぜ」
「へー、んなこと家でできるのか?」
「ちょっと待ってろ」
そう言うとスマホを返してもらった明彦はたしたしと画面を叩く。ぱっと顔を明るくしてその画面をウィリアムに見せつけながら楽しそうに声を揺らす。
「専用の道具もあるけどダンボールとか一斗缶でもできるってよ!」
「まじか!?えっポメお前」
「作る」
わくわく。わくわく。そんな効果音が聞こえてきそうな明彦に釣られたのかウィリアムの顔もいたずらっ子のような笑みを浮かばせていく。
「肉はブタバラ?のブロックでいいよな?」
「おう、そみゅーる液?とかの材料は家にある奴でいけっから・・・あ」
「ポメ?」
「・・・最大ミッション、芳にバレない」
「あ」
芳、と家主の名前に二人で固まる。細身の大食いである芳にバレでもしたら全部食べられる、と二人で顔を見合わせる。
「・・・ウィルさん」
「わかってる」
スニーキングミッションだ、と二人で神妙な顔で頷いた。
豚バラのブロックを買ってきたウィリアムと下準備を済ませた明彦が二人で並んで台所に立つ。二人の手にはゴム手袋がピッタリと嵌められている。
「ポメヒコ、これいるのか?」
「元々保存食だから雑菌が入らねーように一応?」
「ふーん」
そう言いながら二人は目の前の肉の塊にフォークで穴を開けていく。ぶつぶつと肉が刺さる感触を感じながら表裏と側面にまんべんなく穴を開ける。
そしてウィリアムは表面に塩をすり込んだ。少し塩っからさが欲しかったので肉の重さに対して2パーセントよりも心なし多めにすり込んだ。明彦は既に終わったのかごそごそと何かしていた。しかし自分の分に夢中なウィリアムが明彦のしていることに特に興味を持たず、しっかりと肉をラップでくるんでジップロックに入れる。
ジップロックの表面にあきひこ、うぃると小学生のような字が並んでいる。それを明彦が冷蔵庫の配置を変えて芳に見つからないようにしているのを見ながらウィリアムは口を開ける。
「これで一週間だっけか」
「って書いてあんな。時々ひっくり返すといいらしいぞ」
「そうか・・・カオルの足止めは任せとけ」
「わかった、ひっくり返すのは頼ってくれていいぞ」
きり、と二人で表情を引き締めた。
そこから一週間、ウィリアムと明彦の戦いが始まった。運悪く芳の休みが重なってしまい、腹を空かせた芳が台所をうろつく。ウィリアムがわざと甘えたり、明彦が大量に食べ物を与え冷蔵庫への接触がないように立ち回り続けた。その間明彦がまたこそこそと一人で何かをしているのをウィリアムは見かけたが今は内緒、とにんまり笑った明彦に楽しみにしてるとだけ伝えていた。
そして一週間後、昨日のことである。
その人翌日は芳が泊りがけの仕事だと聞いていた。叫び出しそうなのを抑えながら二人は冷蔵庫を開ける。血の混じった水分が出ているのを確認した明彦はうぃる、と書かれている方の肉をウィリアムに渡す。
「おお・・・!ちょっと水出てるぞ!」
「ウィルさん早くしろよ、塩抜きして乾燥まであんだぞ!」
「そうだな!」
興奮が冷めないまま二人は慌てて肉を水で洗い、少しの間だけ浸す。そうすることによって余分な塩分が抜け程よい塩辛さになると書いてあった。のだが。
「あれ、ポメのだけ色ちがくね?」
にわかに茶色味を帯びて、植物の破片のような物がくっついている明彦のブロック肉を見てウィリアムが首をかしげる。よくぞ聞いてくれた、と言わんばかりに明彦は親指をたてた。
「ピックル液作って浸した」
「? なんだそれ」
「ベーコンに味つける液。二人合わせて二キロもあんだ、味変えたほうがいいじゃん?」
「おっまえ・・・おっまえ!!俺の次くらいに天才かよ!?」
「そうかもしれねえ!!」
もはや声を抑えることもせず叫ぶ。と、入れたタイマーが二十分たったことを知らせる音が響いた。肉を明彦に託しウィリアムは庭先へ出る。
並べられた一斗缶を万能鋏で無理やり切っていく。煙がもれないように組み立てたり、鉄串を刺して行けば簡易版燻製器の完成である。ちょうど明彦の方も乾燥が終わったのか肉を持ってきた。タコ糸で結ばれたそれを見てウィリアムが思わず噴き出す。
「ちょ、ポメヒコお前、おまえぇ!それ、くっそ!うわははははは!!」
「まあやりたくなるよな!!」
どやぁ、とこの上なく腹の立つ顔をしながら亀甲縛りにされた肉の塊を両手に持ってウィリアムの前で揺らしてみせる。二人してテンションの落ち着かせどころを完全に見失っていた。
肉を吊るせるように渡された鉄串に合計二キロもの肉の・・・亀甲縛りされた塊が吊るされる。まだ吹き出しそうなウィリアムの隣で明彦がそっと仏のような顔でアルミホイルを敷いた。その上に乗っているものをみてウィリアムが目を見開く。
「・・・ポメ、お前ってやつは・・・!」
「ポメヒコさん、って呼んでいいぜ」
そっと閉じられる燻製器の戸の隙間から、水気を取ったたまごやササミが乗っていた。
そして片付けもとい証拠隠滅をし、味をなじませるために更に一晩おいた今日。明彦とウィリアムの昼食の時間。冷蔵庫で寝かせられたそれに思わず生唾を飲み込んだ。落とさないように取り出した肉の塊、いやベーコンを見て明彦がそっと包丁を取り出す。
「ウィルさん、厚さは」
「めっちゃ分厚くで!」
「任せろ!!」
もう誰にもとめられないテンションで明彦がベーコンを分厚く、大きく切り分けていく。今回したのは温燻という燻し方でしっかりと水分が抜けた肉特有の弾力が包丁越しに伝わる。それを熱していたフライパンに並べれば油も引いていないのにじゅう、といい音を立ててベーコンが焼ける。ウィリアムに頼んで食器の準備やパンを焼いている間、明彦が卵を割りながら別の作業も同時に進行していた。
そして、分厚いベーコンのベーコンエッグが並べられる。更に明彦が隣に並べたのはほんの少し茶色く色づいたカマンベールチーズや、ササミとたまごの燻製で作ったであろうサラダと、ウィリアムの席に赤ワインの入ったグラスを並べる。自分のところには牛乳の入ったマグであったが。
「ポメ、おいポメヒコ。まだ昼だぞ」
そうたしなめるようなことを言いながらもウィリアムの顔はにやけてひくついている。明彦がにひ、と笑い声を立てながらピースサインを向けた。
「飛鳥井は仕事、芳も仕事。普段やったら怒られるフルコースにんな野暮ったいこと関係ねーだろ?」
「そうだな、さんせー!」
「「いただきます!!」」
言うやいなやベーコンエッグ、というかベーコンにかぶりつく。ジューシーな歯ごたえと共に口内にふわりと広がったのは桜の香りで。ウィリアムの作ったベーコンはしっかりと塩味が付いていて卵の黄身を絡ませるだけでも十分おいしい上、明彦が味付けた方のベーコンは塩辛さだけではなく玉ねぎの甘みが加わってそれで酒が進む。サラダも、ササミとたまごにあらかじめ味をつけていたのだろうドレッシングなしでもフォークが止まらないし、明彦の思いつきで燻されたカマンベールチーズはとにかく伸びる。それをカリカリに焼いたフランスパンで掬ってかじればやはりチーズの匂い意外にも薫香が口の中いっぱいに広がる。
簡単に言うと、美味かった。うますぎた。市販のベーコンはなんなんだ、と言いたくなるレベルだった。二人共無言で口の中にベーコンだのなんだのを押し込み、飲み物で流し込む。
やがて空になった食器に腹をさすりながら二人そろって大きな息を吐いた。
「食いすぎた・・・」
「だな・・・いやでもこんなの食っちまうだろ、普通に・・・」
ワイン二本開けちまった、とぼやくウィリアムに苦笑した明彦がさて、と立ち上がる。
「ささっと片そうぜ。証拠隠滅、大事」
「そーだな、カオルにバレたらやべえしな」
「俺にバレたら、なんやの?」
時間が止まった。ぎぎぎ、と音が出ていそうな動きで振り返った二人の視線の先、にこにこと芳が笑って立っている。
「えろう美味そうなもん、二人で食うてるんやねぇ。ウィリアムは昼から酒ですかぁ」
「いや、あの」
「えっと、か、カオ」
「もちろん、あるんやんね?俺の分」
薄ら目を開きながら笑みを向け続ける芳に、ウィリアムも明彦もひぇ、と悲鳴を零す。
その目は笑っておらず、ただ、自分をのけものにした二人をどうしてやろうかと楽しげに歪んでいたのである。
更に一週間後、夜風味の強いベーコンや各燻製料理で酒を楽しむ芳と小桃がいる傍ら、様々な食材を合計二十キロほど延々と燻製し続け、その間芳からの催促を浴び続けた明彦とウィリアムが床に転がっていたのは言うまでもない。
「隠し事なんて、えらいさみしいことせんでもいくらでも言うてくれたら良かったのになぁ?俺もいくらでも頂けるんやし?」
「そうね、今度の新刊はこの二人で描くことにするわ」
「「慈悲はねーのかよ!?」」畳む
藤堂明彦とウィリアム=J=ブラウンの正午12:00
「おいポメヒコ早くしろよ!カオル帰ってくるだろ!?」
「急かすなよウィルさん・・・開けるぞ・・・!」
ごくり、と明彦とウィリアムが喉を鳴らす。がぱ、と冷蔵庫から肉の塊を取り出してお互いの顔を見合わせた。
事の始まりは一週間前、昼食をウィリアムと明彦が二人でとっていた時だった。スマホを眺めながら明彦がおお、と感嘆の声を上げた。
「? どしたポメ」
「ウィルさんこれ知ってっか?くんせーき」
ん、と渡されたスマホの画面を見れば煙で肉やチーズ、魚を燻している動画だった。やけにのんびり食べていると思ったらこれを見ていたらしい。くんせーき、という聞きなれない言葉にウィリアムが首をかしげる。
「いや、知らねえな。なにやってんだこれ」
「自分でハムとかベーコン作るらしいぜ」
「へー、んなこと家でできるのか?」
「ちょっと待ってろ」
そう言うとスマホを返してもらった明彦はたしたしと画面を叩く。ぱっと顔を明るくしてその画面をウィリアムに見せつけながら楽しそうに声を揺らす。
「専用の道具もあるけどダンボールとか一斗缶でもできるってよ!」
「まじか!?えっポメお前」
「作る」
わくわく。わくわく。そんな効果音が聞こえてきそうな明彦に釣られたのかウィリアムの顔もいたずらっ子のような笑みを浮かばせていく。
「肉はブタバラ?のブロックでいいよな?」
「おう、そみゅーる液?とかの材料は家にある奴でいけっから・・・あ」
「ポメ?」
「・・・最大ミッション、芳にバレない」
「あ」
芳、と家主の名前に二人で固まる。細身の大食いである芳にバレでもしたら全部食べられる、と二人で顔を見合わせる。
「・・・ウィルさん」
「わかってる」
スニーキングミッションだ、と二人で神妙な顔で頷いた。
豚バラのブロックを買ってきたウィリアムと下準備を済ませた明彦が二人で並んで台所に立つ。二人の手にはゴム手袋がピッタリと嵌められている。
「ポメヒコ、これいるのか?」
「元々保存食だから雑菌が入らねーように一応?」
「ふーん」
そう言いながら二人は目の前の肉の塊にフォークで穴を開けていく。ぶつぶつと肉が刺さる感触を感じながら表裏と側面にまんべんなく穴を開ける。
そしてウィリアムは表面に塩をすり込んだ。少し塩っからさが欲しかったので肉の重さに対して2パーセントよりも心なし多めにすり込んだ。明彦は既に終わったのかごそごそと何かしていた。しかし自分の分に夢中なウィリアムが明彦のしていることに特に興味を持たず、しっかりと肉をラップでくるんでジップロックに入れる。
ジップロックの表面にあきひこ、うぃると小学生のような字が並んでいる。それを明彦が冷蔵庫の配置を変えて芳に見つからないようにしているのを見ながらウィリアムは口を開ける。
「これで一週間だっけか」
「って書いてあんな。時々ひっくり返すといいらしいぞ」
「そうか・・・カオルの足止めは任せとけ」
「わかった、ひっくり返すのは頼ってくれていいぞ」
きり、と二人で表情を引き締めた。
そこから一週間、ウィリアムと明彦の戦いが始まった。運悪く芳の休みが重なってしまい、腹を空かせた芳が台所をうろつく。ウィリアムがわざと甘えたり、明彦が大量に食べ物を与え冷蔵庫への接触がないように立ち回り続けた。その間明彦がまたこそこそと一人で何かをしているのをウィリアムは見かけたが今は内緒、とにんまり笑った明彦に楽しみにしてるとだけ伝えていた。
そして一週間後、昨日のことである。
その人翌日は芳が泊りがけの仕事だと聞いていた。叫び出しそうなのを抑えながら二人は冷蔵庫を開ける。血の混じった水分が出ているのを確認した明彦はうぃる、と書かれている方の肉をウィリアムに渡す。
「おお・・・!ちょっと水出てるぞ!」
「ウィルさん早くしろよ、塩抜きして乾燥まであんだぞ!」
「そうだな!」
興奮が冷めないまま二人は慌てて肉を水で洗い、少しの間だけ浸す。そうすることによって余分な塩分が抜け程よい塩辛さになると書いてあった。のだが。
「あれ、ポメのだけ色ちがくね?」
にわかに茶色味を帯びて、植物の破片のような物がくっついている明彦のブロック肉を見てウィリアムが首をかしげる。よくぞ聞いてくれた、と言わんばかりに明彦は親指をたてた。
「ピックル液作って浸した」
「? なんだそれ」
「ベーコンに味つける液。二人合わせて二キロもあんだ、味変えたほうがいいじゃん?」
「おっまえ・・・おっまえ!!俺の次くらいに天才かよ!?」
「そうかもしれねえ!!」
もはや声を抑えることもせず叫ぶ。と、入れたタイマーが二十分たったことを知らせる音が響いた。肉を明彦に託しウィリアムは庭先へ出る。
並べられた一斗缶を万能鋏で無理やり切っていく。煙がもれないように組み立てたり、鉄串を刺して行けば簡易版燻製器の完成である。ちょうど明彦の方も乾燥が終わったのか肉を持ってきた。タコ糸で結ばれたそれを見てウィリアムが思わず噴き出す。
「ちょ、ポメヒコお前、おまえぇ!それ、くっそ!うわははははは!!」
「まあやりたくなるよな!!」
どやぁ、とこの上なく腹の立つ顔をしながら亀甲縛りにされた肉の塊を両手に持ってウィリアムの前で揺らしてみせる。二人してテンションの落ち着かせどころを完全に見失っていた。
肉を吊るせるように渡された鉄串に合計二キロもの肉の・・・亀甲縛りされた塊が吊るされる。まだ吹き出しそうなウィリアムの隣で明彦がそっと仏のような顔でアルミホイルを敷いた。その上に乗っているものをみてウィリアムが目を見開く。
「・・・ポメ、お前ってやつは・・・!」
「ポメヒコさん、って呼んでいいぜ」
そっと閉じられる燻製器の戸の隙間から、水気を取ったたまごやササミが乗っていた。
そして片付けもとい証拠隠滅をし、味をなじませるために更に一晩おいた今日。明彦とウィリアムの昼食の時間。冷蔵庫で寝かせられたそれに思わず生唾を飲み込んだ。落とさないように取り出した肉の塊、いやベーコンを見て明彦がそっと包丁を取り出す。
「ウィルさん、厚さは」
「めっちゃ分厚くで!」
「任せろ!!」
もう誰にもとめられないテンションで明彦がベーコンを分厚く、大きく切り分けていく。今回したのは温燻という燻し方でしっかりと水分が抜けた肉特有の弾力が包丁越しに伝わる。それを熱していたフライパンに並べれば油も引いていないのにじゅう、といい音を立ててベーコンが焼ける。ウィリアムに頼んで食器の準備やパンを焼いている間、明彦が卵を割りながら別の作業も同時に進行していた。
そして、分厚いベーコンのベーコンエッグが並べられる。更に明彦が隣に並べたのはほんの少し茶色く色づいたカマンベールチーズや、ササミとたまごの燻製で作ったであろうサラダと、ウィリアムの席に赤ワインの入ったグラスを並べる。自分のところには牛乳の入ったマグであったが。
「ポメ、おいポメヒコ。まだ昼だぞ」
そうたしなめるようなことを言いながらもウィリアムの顔はにやけてひくついている。明彦がにひ、と笑い声を立てながらピースサインを向けた。
「飛鳥井は仕事、芳も仕事。普段やったら怒られるフルコースにんな野暮ったいこと関係ねーだろ?」
「そうだな、さんせー!」
「「いただきます!!」」
言うやいなやベーコンエッグ、というかベーコンにかぶりつく。ジューシーな歯ごたえと共に口内にふわりと広がったのは桜の香りで。ウィリアムの作ったベーコンはしっかりと塩味が付いていて卵の黄身を絡ませるだけでも十分おいしい上、明彦が味付けた方のベーコンは塩辛さだけではなく玉ねぎの甘みが加わってそれで酒が進む。サラダも、ササミとたまごにあらかじめ味をつけていたのだろうドレッシングなしでもフォークが止まらないし、明彦の思いつきで燻されたカマンベールチーズはとにかく伸びる。それをカリカリに焼いたフランスパンで掬ってかじればやはりチーズの匂い意外にも薫香が口の中いっぱいに広がる。
簡単に言うと、美味かった。うますぎた。市販のベーコンはなんなんだ、と言いたくなるレベルだった。二人共無言で口の中にベーコンだのなんだのを押し込み、飲み物で流し込む。
やがて空になった食器に腹をさすりながら二人そろって大きな息を吐いた。
「食いすぎた・・・」
「だな・・・いやでもこんなの食っちまうだろ、普通に・・・」
ワイン二本開けちまった、とぼやくウィリアムに苦笑した明彦がさて、と立ち上がる。
「ささっと片そうぜ。証拠隠滅、大事」
「そーだな、カオルにバレたらやべえしな」
「俺にバレたら、なんやの?」
時間が止まった。ぎぎぎ、と音が出ていそうな動きで振り返った二人の視線の先、にこにこと芳が笑って立っている。
「えろう美味そうなもん、二人で食うてるんやねぇ。ウィリアムは昼から酒ですかぁ」
「いや、あの」
「えっと、か、カオ」
「もちろん、あるんやんね?俺の分」
薄ら目を開きながら笑みを向け続ける芳に、ウィリアムも明彦もひぇ、と悲鳴を零す。
その目は笑っておらず、ただ、自分をのけものにした二人をどうしてやろうかと楽しげに歪んでいたのである。
更に一週間後、夜風味の強いベーコンや各燻製料理で酒を楽しむ芳と小桃がいる傍ら、様々な食材を合計二十キロほど延々と燻製し続け、その間芳からの催促を浴び続けた明彦とウィリアムが床に転がっていたのは言うまでもない。
「隠し事なんて、えらいさみしいことせんでもいくらでも言うてくれたら良かったのになぁ?俺もいくらでも頂けるんやし?」
「そうね、今度の新刊はこの二人で描くことにするわ」
「「慈悲はねーのかよ!?」」畳む
#CoC #明彦飯
藤堂明彦と清水芳のPM18:14
「どヘタクソ」
「…」
綾小路邸の台所にて、最早台所の主と化した明彦は目の前の男にひたすら淡々と罵声を浴びせていた。
「何回言えばみじん切りとさいの目切り覚えんだよあんた。もう4回目だぞ」
「ど、どっちも一緒やん…」
「一緒に見えるなら眼科行け。もしくは前髪上げろ馬鹿」
「…ボク一応君より年上ですけど」
「今教えてるのは俺だけど」
明彦の冷たい視線を受けながら清水芳は返す言葉もありませんと両手をあげた。
ことの発端は芳が学校帰りの明彦を待ち伏せていたところだった。部活中の小桃を待つ間の暇つぶしをしている明彦の前にふらりとこの男が現れたのだ。そして明彦の用など気にもとめずに引きずるように明彦共々綾小路邸へと押しかけた。(尚この様子をプールサイドから小桃が見ていたことを明彦は知らない)
話を聞けば料理を教えて欲しい、という内容に明彦は開いた口がふさがらなかった。お互い面識はあるがいい印象はない。胡散臭くて気味が悪い、が明彦の芳への認識だ。
そんな男が気まずそうに自分に料理を教えてくれ、と頭を下げてきたのだ。食わせてくれ、ではなく。教えてくれ、と。
明彦は最初「くっだらねえ、自分で調べろ」と切り捨てたのだが芳の「これ、欲しい?」とすっと差し出された小桃の部活中の姿(スクール水着)と京都三条の某有名包丁店の包丁を差し出された瞬間
「しゃーねぇなぁ任せとけよ!!!」
と力いっぱい了承してしまったわけだ。我ながら情けないレベルのちょろさだった、とは後日本人談である。
そんなわけで急遽始まった料理教室だが芳は右も左もわからない状態だった。本人に聞けばインスタントを温めるくらいはできる、と胸を張っていたが明彦からすれば言語道断もいいところだ。新聞を丸めてその後頭部を思い切り張り倒すと顎で早く台所へ行けと指示したのが10分前。
それからは散々だった。火を使わせればすぐに焦がし、包丁を持たせると指を切りまくり、米を洗剤で洗おうとし始めるわで散々だった。重要なので二度言わせてもらった。10分の間で既に散々だった。三度言わせてもらった。
ただ芳は不器用ではあるが物覚えは早かった。いびつながらも皮の剥かれたじゃがいもの芽を取りながら明彦はほう、と感嘆の息を漏らす。いつも秋奈の所用を聞きに来る時のあのニヤケ顔は今は微塵もなく、細い目はいつになく真剣だった。いて、という言葉とともに指に新しい傷ができたのを見て明彦は絆創膏を渡す。ありがとお、と言う間伸びた言葉は普段見ている彼からは想像つかないほど穏やかだった。
「なあ、なんで料理しようとしたんだ?」
芳のできない部分、主に味付けのあたりをフォローしながら明彦は聞いてみた。ただの好奇心だった。しかしその問に返事はなく、訝しげに芳を見上げた明彦は開いた口が塞がらなかった。
顔面を真っ赤にしたままこっちを凝視し、顔を引きつらせている芳にただただ驚いた。明彦はみりんを計量カップから大量にこぼしていたし芳は深く指を切っていたがお互いそれどころではない。明彦は驚いているし芳は引きつっている。とてもシュールな光景だった。
やがて二人はぎこちない動きで手当と片付けをする。その合間に芳はぼそぼそと呟くように明彦の問に応えた。
「…同居しとるやつの、負担になりたないねん…ろくなこと、できへんから…」
その答えに明彦は目を丸くする。ただ意外だった。答えてくれることも、その答えの内容も。血も涙もないような、ろくでなしだと思っていたからだ。
だから次の明彦の言葉も仕方ないといえば仕方ないのだが、これが自爆になるとは誰が予想できようか。
「でもあんた、そんなのは女にやらせそうじゃねえか」
「お、んなやのうて…男やねん…」
昔の明彦なら、わからなかった。
しかし今の明彦には彼女がいる。飛鳥井小桃という、彼女(腐女子)が。
「あんたゲイかよ!!!うわこっちくんな!!!」
「ゲイちゃうわ!!!あとお前とかこっちから御免こうむるわボケェ!!!」
つまり、そういうことである。
ぎゃあぎゃあ騒いでいる二人を尻目に、煮込んでいた肉じゃがはほくほくと炊き上がっていた。
できた肉じゃがを大きめのタッパーに入れて芳に渡し、追い出してから明彦はiPhoneを見た。Lineの通知を見て思い切り床にiPhoneを叩きつけ破壊する。
『ねえ明彦くん、隣にいたお兄さんは誰?どっちが攻でどっちが受かしら?』
その一言に対する返事を放棄しながら。
しかしそのあと芳が何を思ったのか明彦の料理を教わりに来るのが習慣化して明彦の心は一部死んだ。畳む
藤堂明彦と清水芳のPM18:14
「どヘタクソ」
「…」
綾小路邸の台所にて、最早台所の主と化した明彦は目の前の男にひたすら淡々と罵声を浴びせていた。
「何回言えばみじん切りとさいの目切り覚えんだよあんた。もう4回目だぞ」
「ど、どっちも一緒やん…」
「一緒に見えるなら眼科行け。もしくは前髪上げろ馬鹿」
「…ボク一応君より年上ですけど」
「今教えてるのは俺だけど」
明彦の冷たい視線を受けながら清水芳は返す言葉もありませんと両手をあげた。
ことの発端は芳が学校帰りの明彦を待ち伏せていたところだった。部活中の小桃を待つ間の暇つぶしをしている明彦の前にふらりとこの男が現れたのだ。そして明彦の用など気にもとめずに引きずるように明彦共々綾小路邸へと押しかけた。(尚この様子をプールサイドから小桃が見ていたことを明彦は知らない)
話を聞けば料理を教えて欲しい、という内容に明彦は開いた口がふさがらなかった。お互い面識はあるがいい印象はない。胡散臭くて気味が悪い、が明彦の芳への認識だ。
そんな男が気まずそうに自分に料理を教えてくれ、と頭を下げてきたのだ。食わせてくれ、ではなく。教えてくれ、と。
明彦は最初「くっだらねえ、自分で調べろ」と切り捨てたのだが芳の「これ、欲しい?」とすっと差し出された小桃の部活中の姿(スクール水着)と京都三条の某有名包丁店の包丁を差し出された瞬間
「しゃーねぇなぁ任せとけよ!!!」
と力いっぱい了承してしまったわけだ。我ながら情けないレベルのちょろさだった、とは後日本人談である。
そんなわけで急遽始まった料理教室だが芳は右も左もわからない状態だった。本人に聞けばインスタントを温めるくらいはできる、と胸を張っていたが明彦からすれば言語道断もいいところだ。新聞を丸めてその後頭部を思い切り張り倒すと顎で早く台所へ行けと指示したのが10分前。
それからは散々だった。火を使わせればすぐに焦がし、包丁を持たせると指を切りまくり、米を洗剤で洗おうとし始めるわで散々だった。重要なので二度言わせてもらった。10分の間で既に散々だった。三度言わせてもらった。
ただ芳は不器用ではあるが物覚えは早かった。いびつながらも皮の剥かれたじゃがいもの芽を取りながら明彦はほう、と感嘆の息を漏らす。いつも秋奈の所用を聞きに来る時のあのニヤケ顔は今は微塵もなく、細い目はいつになく真剣だった。いて、という言葉とともに指に新しい傷ができたのを見て明彦は絆創膏を渡す。ありがとお、と言う間伸びた言葉は普段見ている彼からは想像つかないほど穏やかだった。
「なあ、なんで料理しようとしたんだ?」
芳のできない部分、主に味付けのあたりをフォローしながら明彦は聞いてみた。ただの好奇心だった。しかしその問に返事はなく、訝しげに芳を見上げた明彦は開いた口が塞がらなかった。
顔面を真っ赤にしたままこっちを凝視し、顔を引きつらせている芳にただただ驚いた。明彦はみりんを計量カップから大量にこぼしていたし芳は深く指を切っていたがお互いそれどころではない。明彦は驚いているし芳は引きつっている。とてもシュールな光景だった。
やがて二人はぎこちない動きで手当と片付けをする。その合間に芳はぼそぼそと呟くように明彦の問に応えた。
「…同居しとるやつの、負担になりたないねん…ろくなこと、できへんから…」
その答えに明彦は目を丸くする。ただ意外だった。答えてくれることも、その答えの内容も。血も涙もないような、ろくでなしだと思っていたからだ。
だから次の明彦の言葉も仕方ないといえば仕方ないのだが、これが自爆になるとは誰が予想できようか。
「でもあんた、そんなのは女にやらせそうじゃねえか」
「お、んなやのうて…男やねん…」
昔の明彦なら、わからなかった。
しかし今の明彦には彼女がいる。飛鳥井小桃という、彼女(腐女子)が。
「あんたゲイかよ!!!うわこっちくんな!!!」
「ゲイちゃうわ!!!あとお前とかこっちから御免こうむるわボケェ!!!」
つまり、そういうことである。
ぎゃあぎゃあ騒いでいる二人を尻目に、煮込んでいた肉じゃがはほくほくと炊き上がっていた。
できた肉じゃがを大きめのタッパーに入れて芳に渡し、追い出してから明彦はiPhoneを見た。Lineの通知を見て思い切り床にiPhoneを叩きつけ破壊する。
『ねえ明彦くん、隣にいたお兄さんは誰?どっちが攻でどっちが受かしら?』
その一言に対する返事を放棄しながら。
しかしそのあと芳が何を思ったのか明彦の料理を教わりに来るのが習慣化して明彦の心は一部死んだ。畳む
フリーダムウォーズ
操作感もっさりしてるなぁ、と思う以上に私こんなゲーム下手だったかぁ。。。が強く心折れた。なんか寝たり走っただけで刑期延びるし
でも楽しいですね。目下大剣の練習をしています。でもこれもうちょい進めないとフレンド機能的なものは使えない感じだろうか。頑張ろう