小説 2025/01/29 Wed 四季送り現行未通過×うちよそです。注意実際にあるお店の名前が出ています。知人から聞いた話を想像し誇張して書いていますので苦手な場合は読まないでください。#CoC #ネタバレ #四季送り #うちよそ 続きを読む策士というには余りに拙く、けれども標的は意外と気付かないもので。「”あび”、休み?」そう不思議そうに祝に聞いたのは箒を手にし、掃除をしようとしていた雲平だった。テーブルを拭いていた錦玉やチトセも彼の方を見る。「えっ、なんかあったの? もしかしてノーチラス関係の事で警察きた?」「…それとも、四季送りとしての仕事です? 何か出た、とか」「いや違う違う! 厨房の水回りがちょっと傷んできててさ、修理頼んだんだよ。その間は流石に料理を提供できないから。ついで気になってたところも修繕してもらおうと思ってさ。それに色々あっただろ? お店としては休んでたこともあったけど、せっかくだしみんなにまとまった休みでも、と思ってさ」そう言う祝の顔もどこか疲れた様子だ。それもそうだ、厨房の一角を担っていた彼は現在慣れていない業務も兼ねて行っている。落ち着いたら一休みしたいねとは話していたが、いかんせんやることが多すぎたのだ。一向に落ち着くことなくずっと働き詰めだった。そしてそれは四季送りと呼ばれた四人もそうだったわけで。「じゃあ、お言葉に甘えて休ませてもらいます。期間はどれくらいになりそうなんです?」「そうだね…明日のお昼には業者さんが入ってくれて、二日あれば終わるらしいらしいから明日から三日間くらいかな。俺は一日早めに出る予定だけどね。修理した後の状態も確認したいし」「そうですか。何するかな……」「……祝、僕、休み方よくわからない」「雲平は休みの練習がてら俺とのんびりしようか。色々試作してみるから味見してくれる?」「する。やる。今日レポート用紙とボールペンの予備買ってかえる」「いやのんびりでいいんだって。そうだ、錦玉も時間あったらおいでよ」「別にいいです。時間潰すところはありますし」「あはは、気が向いたらでいいんだって」そんなことを祝たちが話している横で、チトセは妹に声を掛ける。「ユキちゃんどこか出かけない? 行きたいところある? せっかくの連休なんだしさ」せっかくだから、賑やかなところや動物とかと触れ合える場所だと楽しいかな? そう思いながらユキを見れば、ユキは御籤と顔を見合わせて、首を横に振った。「ううん! 大丈夫、ユキは御籤ちゃんと遊ぶから!」「え、えっ!? じゃあ御籤ちゃんも一緒に……」「いや、二人で遊ぶからいーよ。クロッシェにも行ってみたいし、ユキに似合うアクセサリー見に行くんだ」「ユキも御籤ちゃんに選んであげるんだぁ!」「そ、そうなの…そっか、うん……えっでも心配だからお兄ちゃんもついて行くよ!?」「あたしいるから大丈夫だろ」「うんうん、ユキも目が見えるから大丈夫!」邪気なく断られて、チトセは行き場のなくなった手を宙で遊ばせたままそ、そっか、気をつけてねと半ば呆然としながら返事をする。兄からのお許しがでたユキと神籤はその場でやったぁ! を声を上げてやれどこにいこう何しようと相談し始めた。その様子を見ながらショックを受けつつ、ああ、今日もユキちゃんがかわいい……と癒されてるんだかそうじゃないんだかよく分からない感情で落ち込んだチトセの服がくい、と控えめに引かれた。振り返れば先ほどまで修繕してもらう場所を片付けていた杏仁がチトセを見上げている。「? どしたの杏ちゃん」「あの、もしよかったら少し付き合って欲しい場所があるんですけどいいですか?」ちょっと欲しいものがあって、と続ける彼女にわかった、手伝うよと日時を決めて約束する。――その様子を遠目で見ていた錦玉はこう思ったらしい。「素直にデートしたいって言えばいいじゃないですか」と。□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□翌日、チトセは集合場所に指定された店で待っていた。業者が入る、ということで平日休みだからか清水寺の近いこの近辺も人が少ない。だから、杏仁がお待たせしましたと駆け寄ってきたのをすぐ見つけることができた。ふわりと揺れたチュールスカートとちらりと見えたブーツに目を瞬かせる。「珍しいね、上は着物だけどスカートだ」「はい、この間こんな感じの着こなしをしてる人を見かけて真似してみました。変じゃないですか?」「ううん、かわいい。普段純和風! って感じの着物だから新鮮だ」「ありがとうございます。千歳さんも私服、かっこいいですよ」ふわりとはにかんで杏仁はいきましょうかと店内へ入っていく。一瞬固まっていたチトセはさらっと褒められたことに時間差で顔に熱を篭らせてもお、と小さく呟いた。□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□入ってわかったのだが、店ではなく瑞光窯という陶芸の工房だったらしい。あれ、買い物するんじゃないの? そう首をかしげているチトセの隣で杏仁は受付で手続きをしていた。そして、あれよあれよと言わんばかりに案内される。席に案内されるとひざ掛けを貸し出されていた。目の前にはろくろと、のっぺりとした粘土の塊がひとつ。状況を飲み込めないまま見た隣には、同じくひざ掛けをした杏仁が早速スタッフに教えてもらいながら粘土に手を這わせていた。ゆっくりと動かす手に合わせて粘土が少しずつ整形されていく。普段から器用なんだろうな、と思っていたのは実際その通りで、時間が掛かりながらも綺麗に仕上がっていく。(綺麗だなぁ)それをぼんやり見ていたら、大丈夫ですか? とスタッフに声をかけられた。我に帰ったチトセは後で理由を杏仁に聞くとして、今はやってみようと粘土に手を伸ばす。思った以上に粘土は柔らかく中々思うとおりにならない。隣の杏仁の様子をみては少しずつ焦ってくる。それに呼応するかのようにぐにゃりと曲がってしまうそれにはぁ、とため息を付いてしまう。と、隣で指導してくれていたスタッフが安心させるように声をかけた。「お客様、大丈夫ですよ。最初は誰でもこんな感じですし」「え? あ、はい! あはは、ちょっと恥ずかしいなぁ……」「思うに、綺麗に仕上げようとしすぎて力んじゃってるのかなって思います。自分もそうですし」「スタッフさんも?」「あはは、先生にはよく怒られますよ。でも、そうですね……どんな形になったってお客様が作ったものは世界にひとつだけですから、上手く作るよりも楽しく作ったほうがいいかもしれませんよ」その言葉にきょとんとして、それもそうだと思ったら、さっきまでムキになって取り掛かっていた自分がおかしくてふはっと笑い出す。驚いたのか隣で杏仁の粘土がぐにゃりと曲がったのが見えて、ああ、こういうことかなと何となく思った。思うままに手を動かせば、今度は曲がることなく整形されていく。それが嬉しくて楽しくて、早く共有したくなって思わず隣を見た。「ねえ杏ちゃん、粘土遊びって大人になっても楽しいね」「……はい。楽しいですね」しかもこのあと、カップになるんですよ? この粘土。そう言う杏仁の声も楽しげに揺れていて、同じ気持ちなのかもとチトセも嬉しくなった。□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□次に連れてこられたのは大阪屋マーケット。ここで買い物かな? と思うも中に入ってチトセは買い物という目的が頭からすっぽ抜けてしまうくらい驚いた。外観はお世辞にも言い難いのだが、中には店舗がひしめき合って活気づいている。入っている店舗に規則性は全くなく、混沌としている。けれども、どれも魅力的で思わずユキちゃん、と思ってしまった。「この中のお店で、ユキさんが喜びそうなものを見つけたんです。一緒に選びましょう」そんな杏仁からの言葉に心読まれた!? と一瞬動揺する。が、そんなことはなく元々そのつもりだったらしい杏仁はチトセの手を引いて歩いていく。普段一緒に歩くと人ごみに流されそうになっている彼女が、目的地をしっかり持って歩くのは始めて見たな、と引っ張られながらチトセは思った。さて、杏仁の案内であおぞらと言う店舗の中に入ると、少しだけ色あせた花々が所狭しと並んでいる。所謂ドライフラワーと言うものなのだが、どれも状態が良く、またそれを使ったのだろうインテリア雑貨が並んでいた。見ていて楽しいな、と思いながら妹が喜びそうなものを探していると、ちょいちょちと服の裾を引っ張られる。振り返れば杏仁が小さなあみぐるみを持ってきていた。「ぬいぐるみ? かわいいね、杏ちゃんそれ買うの?」「どうしましょうね? 私の分は考え中なんですけど、これならユキさんも楽しいんじゃないかなって思います。手触りもいいし、種類も多くて。猫や猿なんかもあるんです。ユキさんはどれが好きなんですか?」「え? うーん…基本的になんでも喜んでくれるんだけど……選ぶなら、一番喜んでもらえそうなものがいいなぁ……あ、これとかいいかも」そう言って手にとったのはクリーム色のうさぎのあみぐるみだった。身につけるものではない、お守りというわけでもない。ただ、ほんの少しだけ願いを込める。ユキは、戻ってきてからいろんなものを見るたびに感動していた。音や匂いで世界に触れていた彼女に加わった色彩と造形と名のついた世界のひとかけら。なら一等かわいくて優しい色を見てほしい。二度目の生がもっと優しく鮮やかであってほしい。その様子に何故か、杏仁がどこかホッとした顔になる。どうしたのかと聞く前にさっとそのあみぐるみを取り上げて、彼女は踵を返してカウンターへ向かってしまう。あまりの速さに一瞬呆然と小さな背中を見送ったが、慌てて追いかけた。「ちょ、ちょっと杏ちゃん! お金、僕払うよ!」「まとめて支払った方が早いと思いますし。後でちゃんと請求しますよ」「そ、そう? じゃあ、後でレシート見せて」「はい」にこにこと微笑みながら頷いた杏仁を見送る。ふと、ひときわ鮮やかな色を視界に引っ掛けてなんだろう? とそちらを見た。小さなガラスドームだ。中には色とりどりの花が詰められている。これはブリザーブドフラワーなのだろうか、店内のドライフラワーよりもはっきりとした色味をしていた。一瞬、杏仁にと考える。が、彼女がこういうものを好むのか正直聞いたことがない。渡せばなんでも嬉しそうに受け取ってくれる彼女だから、反応から本当に好きなの探るのも難しいだろう。(今度、料理以外の好きなものとかも聞いてみよう)どうせなら、一番喜んで欲しいし。ふわりと生まれた柔らかい感情がほんの少しくすぐったくて、顔に熱が籠る。何自分で考えたことで照れてるんだろう。どうしました? 会計から戻ってきた杏仁に見上げられながらそう聞かれてなんでもない! と慌てたのは仕方ない。□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□もう用事は終わりました。杏仁がそう言ってじゃあ途中まで送っていくよ、と帰路につく。なんとなく買い出し、というには買い物はしていないなぁとチトセが考えた時だった。「あ! お兄ちゃんだ!」そう言ってチトセへ手を振るユキと、反対側の手を繋いで荷物を持っている御籤の姿があった。「ユキちゃんにみっちゃん! 買い物、どうだった? 楽しかった? あっこれお土産!」チトセはすぐに駆け寄って例のあみぐるみを差し出した。喜んでもらえるかな、と思っていたチトセはしかし、ユキの言葉に固まった。差し出されたお土産をにこにこと受け取ってお礼を言いながら、ユキは言う。杏仁を見ながら。「杏仁お姉ちゃん、お兄ちゃんとデート、成功した?」「は?」思わず出た「は?」だった。そして勢いよく杏仁のいた方を見る。顔を真っ赤にして固まっている杏仁がそこにいた。「えっ、言ってなかったのか? 今日は二人がでーと? ってユキと錦玉と祝が言ってたんだけど」更に、御籤からの追い打ち。雲平が気づいているかは知らないが、どうやらそれ以外のメンバーは杏仁の目論見などとっくに気が付いていたらしい。知らなかったのはチトセ本人だけだった。なんで気づいて、あの、だって、えっと。もごもごと何かを言い訳しようと、しかし事実過ぎるが故に返す言葉もない杏仁にチトセは思わず「先に言ってよ!!!!」と、京都駅の真ん前で叫ぶ羽目になったのだった。「普通に誘えばいいじゃないですか、公認なんですから」「そ、そういう問題じゃ、あああああ………!!」畳む
注意
実際にあるお店の名前が出ています。知人から聞いた話を想像し誇張して書いていますので苦手な場合は読まないでください。
#CoC #ネタバレ #四季送り #うちよそ
策士というには余りに拙く、けれども標的は意外と気付かないもので。
「”あび”、休み?」
そう不思議そうに祝に聞いたのは箒を手にし、掃除をしようとしていた雲平だった。テーブルを拭いていた錦玉やチトセも彼の方を見る。
「えっ、なんかあったの? もしかしてノーチラス関係の事で警察きた?」
「…それとも、四季送りとしての仕事です? 何か出た、とか」
「いや違う違う! 厨房の水回りがちょっと傷んできててさ、修理頼んだんだよ。その間は流石に料理を提供できないから。ついで気になってたところも修繕してもらおうと思ってさ。それに色々あっただろ? お店としては休んでたこともあったけど、せっかくだしみんなにまとまった休みでも、と思ってさ」
そう言う祝の顔もどこか疲れた様子だ。それもそうだ、厨房の一角を担っていた彼は現在慣れていない業務も兼ねて行っている。落ち着いたら一休みしたいねとは話していたが、いかんせんやることが多すぎたのだ。一向に落ち着くことなくずっと働き詰めだった。そしてそれは四季送りと呼ばれた四人もそうだったわけで。
「じゃあ、お言葉に甘えて休ませてもらいます。期間はどれくらいになりそうなんです?」
「そうだね…明日のお昼には業者さんが入ってくれて、二日あれば終わるらしいらしいから明日から三日間くらいかな。俺は一日早めに出る予定だけどね。修理した後の状態も確認したいし」
「そうですか。何するかな……」
「……祝、僕、休み方よくわからない」
「雲平は休みの練習がてら俺とのんびりしようか。色々試作してみるから味見してくれる?」
「する。やる。今日レポート用紙とボールペンの予備買ってかえる」
「いやのんびりでいいんだって。そうだ、錦玉も時間あったらおいでよ」
「別にいいです。時間潰すところはありますし」
「あはは、気が向いたらでいいんだって」
そんなことを祝たちが話している横で、チトセは妹に声を掛ける。
「ユキちゃんどこか出かけない? 行きたいところある? せっかくの連休なんだしさ」
せっかくだから、賑やかなところや動物とかと触れ合える場所だと楽しいかな? そう思いながらユキを見れば、ユキは御籤と顔を見合わせて、首を横に振った。
「ううん! 大丈夫、ユキは御籤ちゃんと遊ぶから!」
「え、えっ!? じゃあ御籤ちゃんも一緒に……」
「いや、二人で遊ぶからいーよ。クロッシェにも行ってみたいし、ユキに似合うアクセサリー見に行くんだ」
「ユキも御籤ちゃんに選んであげるんだぁ!」
「そ、そうなの…そっか、うん……えっでも心配だからお兄ちゃんもついて行くよ!?」
「あたしいるから大丈夫だろ」
「うんうん、ユキも目が見えるから大丈夫!」
邪気なく断られて、チトセは行き場のなくなった手を宙で遊ばせたままそ、そっか、気をつけてねと半ば呆然としながら返事をする。兄からのお許しがでたユキと神籤はその場でやったぁ! を声を上げてやれどこにいこう何しようと相談し始めた。
その様子を見ながらショックを受けつつ、ああ、今日もユキちゃんがかわいい……と癒されてるんだかそうじゃないんだかよく分からない感情で落ち込んだチトセの服がくい、と控えめに引かれた。
振り返れば先ほどまで修繕してもらう場所を片付けていた杏仁がチトセを見上げている。
「? どしたの杏ちゃん」
「あの、もしよかったら少し付き合って欲しい場所があるんですけどいいですか?」
ちょっと欲しいものがあって、と続ける彼女にわかった、手伝うよと日時を決めて約束する。
――その様子を遠目で見ていた錦玉はこう思ったらしい。「素直にデートしたいって言えばいいじゃないですか」と。
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翌日、チトセは集合場所に指定された店で待っていた。業者が入る、ということで平日休みだからか清水寺の近いこの近辺も人が少ない。だから、杏仁がお待たせしましたと駆け寄ってきたのをすぐ見つけることができた。ふわりと揺れたチュールスカートとちらりと見えたブーツに目を瞬かせる。
「珍しいね、上は着物だけどスカートだ」
「はい、この間こんな感じの着こなしをしてる人を見かけて真似してみました。変じゃないですか?」
「ううん、かわいい。普段純和風! って感じの着物だから新鮮だ」
「ありがとうございます。千歳さんも私服、かっこいいですよ」
ふわりとはにかんで杏仁はいきましょうかと店内へ入っていく。一瞬固まっていたチトセはさらっと褒められたことに時間差で顔に熱を篭らせてもお、と小さく呟いた。
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入ってわかったのだが、店ではなく瑞光窯という陶芸の工房だったらしい。あれ、買い物するんじゃないの? そう首をかしげているチトセの隣で杏仁は受付で手続きをしていた。そして、あれよあれよと言わんばかりに案内される。席に案内されるとひざ掛けを貸し出されていた。
目の前にはろくろと、のっぺりとした粘土の塊がひとつ。状況を飲み込めないまま見た隣には、同じくひざ掛けをした杏仁が早速スタッフに教えてもらいながら粘土に手を這わせていた。ゆっくりと動かす手に合わせて粘土が少しずつ整形されていく。普段から器用なんだろうな、と思っていたのは実際その通りで、時間が掛かりながらも綺麗に仕上がっていく。
(綺麗だなぁ)
それをぼんやり見ていたら、大丈夫ですか? とスタッフに声をかけられた。我に帰ったチトセは後で理由を杏仁に聞くとして、今はやってみようと粘土に手を伸ばす。
思った以上に粘土は柔らかく中々思うとおりにならない。隣の杏仁の様子をみては少しずつ焦ってくる。それに呼応するかのようにぐにゃりと曲がってしまうそれにはぁ、とため息を付いてしまう。
と、隣で指導してくれていたスタッフが安心させるように声をかけた。
「お客様、大丈夫ですよ。最初は誰でもこんな感じですし」
「え? あ、はい! あはは、ちょっと恥ずかしいなぁ……」
「思うに、綺麗に仕上げようとしすぎて力んじゃってるのかなって思います。自分もそうですし」
「スタッフさんも?」
「あはは、先生にはよく怒られますよ。でも、そうですね……どんな形になったってお客様が作ったものは世界にひとつだけですから、上手く作るよりも楽しく作ったほうがいいかもしれませんよ」
その言葉にきょとんとして、それもそうだと思ったら、さっきまでムキになって取り掛かっていた自分がおかしくてふはっと笑い出す。驚いたのか隣で杏仁の粘土がぐにゃりと曲がったのが見えて、ああ、こういうことかなと何となく思った。思うままに手を動かせば、今度は曲がることなく整形されていく。それが嬉しくて楽しくて、早く共有したくなって思わず隣を見た。
「ねえ杏ちゃん、粘土遊びって大人になっても楽しいね」
「……はい。楽しいですね」
しかもこのあと、カップになるんですよ? この粘土。
そう言う杏仁の声も楽しげに揺れていて、同じ気持ちなのかもとチトセも嬉しくなった。
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次に連れてこられたのは大阪屋マーケット。ここで買い物かな? と思うも中に入ってチトセは買い物という目的が頭からすっぽ抜けてしまうくらい驚いた。
外観はお世辞にも言い難いのだが、中には店舗がひしめき合って活気づいている。入っている店舗に規則性は全くなく、混沌としている。けれども、どれも魅力的で思わずユキちゃん、と思ってしまった。
「この中のお店で、ユキさんが喜びそうなものを見つけたんです。一緒に選びましょう」
そんな杏仁からの言葉に心読まれた!? と一瞬動揺する。が、そんなことはなく元々そのつもりだったらしい杏仁はチトセの手を引いて歩いていく。普段一緒に歩くと人ごみに流されそうになっている彼女が、目的地をしっかり持って歩くのは始めて見たな、と引っ張られながらチトセは思った。
さて、杏仁の案内であおぞらと言う店舗の中に入ると、少しだけ色あせた花々が所狭しと並んでいる。所謂ドライフラワーと言うものなのだが、どれも状態が良く、またそれを使ったのだろうインテリア雑貨が並んでいた。見ていて楽しいな、と思いながら妹が喜びそうなものを探していると、ちょいちょちと服の裾を引っ張られる。振り返れば杏仁が小さなあみぐるみを持ってきていた。
「ぬいぐるみ? かわいいね、杏ちゃんそれ買うの?」
「どうしましょうね? 私の分は考え中なんですけど、これならユキさんも楽しいんじゃないかなって思います。手触りもいいし、種類も多くて。猫や猿なんかもあるんです。ユキさんはどれが好きなんですか?」
「え? うーん…基本的になんでも喜んでくれるんだけど……選ぶなら、一番喜んでもらえそうなものがいいなぁ……あ、これとかいいかも」
そう言って手にとったのはクリーム色のうさぎのあみぐるみだった。身につけるものではない、お守りというわけでもない。ただ、ほんの少しだけ願いを込める。
ユキは、戻ってきてからいろんなものを見るたびに感動していた。音や匂いで世界に触れていた彼女に加わった色彩と造形と名のついた世界のひとかけら。なら一等かわいくて優しい色を見てほしい。二度目の生がもっと優しく鮮やかであってほしい。
その様子に何故か、杏仁がどこかホッとした顔になる。どうしたのかと聞く前にさっとそのあみぐるみを取り上げて、彼女は踵を返してカウンターへ向かってしまう。あまりの速さに一瞬呆然と小さな背中を見送ったが、慌てて追いかけた。
「ちょ、ちょっと杏ちゃん! お金、僕払うよ!」
「まとめて支払った方が早いと思いますし。後でちゃんと請求しますよ」
「そ、そう? じゃあ、後でレシート見せて」
「はい」
にこにこと微笑みながら頷いた杏仁を見送る。ふと、ひときわ鮮やかな色を視界に引っ掛けてなんだろう? とそちらを見た。
小さなガラスドームだ。中には色とりどりの花が詰められている。これはブリザーブドフラワーなのだろうか、店内のドライフラワーよりもはっきりとした色味をしていた。
一瞬、杏仁にと考える。が、彼女がこういうものを好むのか正直聞いたことがない。渡せばなんでも嬉しそうに受け取ってくれる彼女だから、反応から本当に好きなの探るのも難しいだろう。
(今度、料理以外の好きなものとかも聞いてみよう)
どうせなら、一番喜んで欲しいし。ふわりと生まれた柔らかい感情がほんの少しくすぐったくて、顔に熱が籠る。何自分で考えたことで照れてるんだろう。
どうしました? 会計から戻ってきた杏仁に見上げられながらそう聞かれてなんでもない! と慌てたのは仕方ない。
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もう用事は終わりました。杏仁がそう言ってじゃあ途中まで送っていくよ、と帰路につく。なんとなく買い出し、というには買い物はしていないなぁとチトセが考えた時だった。
「あ! お兄ちゃんだ!」
そう言ってチトセへ手を振るユキと、反対側の手を繋いで荷物を持っている御籤の姿があった。
「ユキちゃんにみっちゃん! 買い物、どうだった? 楽しかった? あっこれお土産!」
チトセはすぐに駆け寄って例のあみぐるみを差し出した。喜んでもらえるかな、と思っていたチトセはしかし、ユキの言葉に固まった。
差し出されたお土産をにこにこと受け取ってお礼を言いながら、ユキは言う。杏仁を見ながら。
「杏仁お姉ちゃん、お兄ちゃんとデート、成功した?」
「は?」
思わず出た「は?」だった。そして勢いよく杏仁のいた方を見る。
顔を真っ赤にして固まっている杏仁がそこにいた。
「えっ、言ってなかったのか? 今日は二人がでーと? ってユキと錦玉と祝が言ってたんだけど」
更に、御籤からの追い打ち。雲平が気づいているかは知らないが、どうやらそれ以外のメンバーは杏仁の目論見などとっくに気が付いていたらしい。知らなかったのはチトセ本人だけだった。
なんで気づいて、あの、だって、えっと。もごもごと何かを言い訳しようと、しかし事実過ぎるが故に返す言葉もない杏仁にチトセは思わず
「先に言ってよ!!!!」
と、京都駅の真ん前で叫ぶ羽目になったのだった。
「普通に誘えばいいじゃないですか、公認なんですから」
「そ、そういう問題じゃ、あああああ………!!」畳む