小説 2024/11/12 Tue CoC「黒幕が如く!」ネタバレあり。該当シナリオ後日談。よそ様のキャラクターをお借りしています。続きを読むつみかさね目の前の小さな箱の中から聞こえる断末魔をつまらなさそうに聞きながら、芳は何もないところから異形のフィギュアを引っ張り出す。それを無造作に箱の中に放り込めばそれは中にいるものにとっての致命的な敵対者となり、圧倒的捕食者として非捕食者と成り下がった者を食い荒らした。「精が出ますね」仕切られた箱の隅に飛び散る血を眺めていると背後から声がかけられる。この数週間で幾分と聞き慣れた声に振り替える必要も感じず、箱を眺めたまま芳は薄ら笑いを浮かべた。「まあな。ただ最近ボキャ貧やわ」「そう言う割には律儀に皆殺しではありませんか」「後出しで負けるジャンケンがあるやろか?」その言葉に声の主がそれもそうだ、と心底楽しそうに笑う。彼はぽん、と芳の肩に手を置いた。吐息が耳に掛かる。ともすれば唇が触れそうな位の距離で男は芳に囁いた。「本当に貴方は良い拾い物です。我が後継が天職なほどだ」「お褒めに預かり光栄やわ、元祖様?」「心は痛みませんか?」気を使うような言葉だった。だがそこに一切の感情はない。ただ時々芳を揺さぶりたいのかこの男は唐突に芳の倫理観が一般からかけ離れているぞ、と暗に小馬鹿にしてくる時がある。最初こそ腹を立てたが今はそれすら可愛いと思えてしまうのだ。「傷んだら、癒してもらえるやろか?」「まさか」「せやろ? そもそもほんまに痛むと思うてます?」「それこそまさか、ですよ」 くつくつと、混じり気なしの低い笑い声がふたつ。黒い空間に溶けて消えた。 *「芳、あのガングロ野郎に関わるのやめろ」唐突だった。ウィリアムも小桃も、子供たちや嘉人もおらず明彦と二人きりという珍しい日だった。太陽が一番高い所から落ち始めた頃に起き出した芳を見るなり開口一番明彦がそんなことを言い出した。威圧的とも取れるその声音と言葉の意味に呆けていた頭がじわじわと覚醒する。そして芳は自分の機嫌が急降下するのを自覚した。「……俺の人脈にケチつけるんか。俺の顧客から仕事取っておいて、ええ根性やないか」「ああ、あいつに関してはクレーム入れさせてもらう」少し脅かせば目の前の子犬のような不良は引っ込むだろうとたかを括っていた芳は、しかし食らいついてきた明彦に面食らう。明彦は忌々しい、と心配を入り混ぜたような複雑な顔をしていた。それ以上に赤い目が芳を真っ直ぐ見ていたのがなんとなく居た堪れなくて芳の方から目を逸らしてしまった。その事実に釈然としないまま頭を通さず言葉を放り出す。「なんや? お友達でもいじめられたんかいな。それやったらそういうんやめたれってお願いしといたろか? それやったら俺が誰とお付き合いしようが明彦には関係あらへんやろ」「その台詞、あいつが人間じゃないってわかって言ってんのか。あいつは芳が、つか人間が関わって良いもんじゃない。あんたあいつに思ってるより軽く見られてんだよ。どうせ玩具だと思われてる。さっさと関わるのやめろ」「は、何を言うてんの。そない妄想は卒業せんと痛いで」なんだ。なんで俺は責められているんだ。芳はわけがわからなかった。いつもなら明彦と口論すれば口八丁が十八番の芳が地団駄を踏む明彦を丸め込んで終わりで、今回もそなるはずだったのだ。なのに明彦は至極冷静に正論を返してくる。そう、正論を。「今一番痛いのはお前だよ」正論、を。言葉の意味を理解する前に芳は思わず明彦に殴りかかった。自分が沼男だということも頭から抜けて、触れば明彦を沼男にするということも考慮せず、ただ黙らせたくて殴りかかる。だが明彦はそれを分かっていたと言わんばかりに避ける。修羅場の数は芳のが潜っているだろう。しかし現場に出て、時折荒事もこなしている明彦のが自分の体の使い方を分かっていた。芳が勢いよく床に倒れ込む。明彦に、自分より格下に見下ろされている。面倒を見てやっているものに、自分より下の存在に。思わず部屋を呼び出しそうになった。明彦の失望したような表情は見ないふりをして、自分にできる最大を持って排除しようとして、そして。 *断末魔が上がる箱を、芳はただつまらなさそうに見ていた。血飛沫が上がる。肉片が飛び散る。最後まで生きたいと視線を彷徨わせるその瞳が濁る瞬間を見る。「あの子供も放り込んで仕舞えば良かったのに」つい先程姿を消した男はやれやれと肩を竦めてそういった。芳は明彦をこの箱に入れなかった。我に帰ったからではない。無抵抗の明彦の間に割って入った白い毛玉の生き物に邪魔されたからだ。触手のような尾をバシン、と床に叩きつけながら唸りを上げるその小さな生き物に芳は正気を引き戻される。それを抱えながら明彦がボソリと呟いた。『戻って来れなくなる前にどうにかしろよ』そこから明彦とは会話をしていない。というよりもその真っ直ぐさがあまりに忌々しいと感じてしまい直視できなくなった芳から避けているのだ。明彦は何か言いたげにしているがそれにも気づかないふりをして。もう一人、可哀想な人間を放り込む。悲鳴。血飛沫。断末魔。倒錯。迷走。発狂。明彦の言葉が薄れていく。(こんなん、やめれるわけあれへんやろ)他人を掌握する全能感に、芳はとっくの昔に戻れなくなっていたのだから。畳む#CoC #ネタバレ
つみかさね
目の前の小さな箱の中から聞こえる断末魔をつまらなさそうに聞きながら、芳は何もないところから異形のフィギュアを引っ張り出す。それを無造作に箱の中に放り込めばそれは中にいるものにとっての致命的な敵対者となり、圧倒的捕食者として非捕食者と成り下がった者を食い荒らした。
「精が出ますね」
仕切られた箱の隅に飛び散る血を眺めていると背後から声がかけられる。この数週間で幾分と聞き慣れた声に振り替える必要も感じず、箱を眺めたまま芳は薄ら笑いを浮かべた。
「まあな。ただ最近ボキャ貧やわ」
「そう言う割には律儀に皆殺しではありませんか」
「後出しで負けるジャンケンがあるやろか?」
その言葉に声の主がそれもそうだ、と心底楽しそうに笑う。彼はぽん、と芳の肩に手を置いた。吐息が耳に掛かる。ともすれば唇が触れそうな位の距離で男は芳に囁いた。
「本当に貴方は良い拾い物です。我が後継が天職なほどだ」
「お褒めに預かり光栄やわ、元祖様?」
「心は痛みませんか?」
気を使うような言葉だった。だがそこに一切の感情はない。ただ時々芳を揺さぶりたいのかこの男は唐突に芳の倫理観が一般からかけ離れているぞ、と暗に小馬鹿にしてくる時がある。最初こそ腹を立てたが今はそれすら可愛いと思えてしまうのだ。
「傷んだら、癒してもらえるやろか?」
「まさか」
「せやろ? そもそもほんまに痛むと思うてます?」
「それこそまさか、ですよ」
くつくつと、混じり気なしの低い笑い声がふたつ。黒い空間に溶けて消えた。
*
「芳、あのガングロ野郎に関わるのやめろ」
唐突だった。ウィリアムも小桃も、子供たちや嘉人もおらず明彦と二人きりという珍しい日だった。太陽が一番高い所から落ち始めた頃に起き出した芳を見るなり開口一番明彦がそんなことを言い出した。威圧的とも取れるその声音と言葉の意味に呆けていた頭がじわじわと覚醒する。
そして芳は自分の機嫌が急降下するのを自覚した。
「……俺の人脈にケチつけるんか。俺の顧客から仕事取っておいて、ええ根性やないか」
「ああ、あいつに関してはクレーム入れさせてもらう」
少し脅かせば目の前の子犬のような不良は引っ込むだろうとたかを括っていた芳は、しかし食らいついてきた明彦に面食らう。明彦は忌々しい、と心配を入り混ぜたような複雑な顔をしていた。それ以上に赤い目が芳を真っ直ぐ見ていたのがなんとなく居た堪れなくて芳の方から目を逸らしてしまった。その事実に釈然としないまま頭を通さず言葉を放り出す。
「なんや? お友達でもいじめられたんかいな。それやったらそういうんやめたれってお願いしといたろか? それやったら俺が誰とお付き合いしようが明彦には関係あらへんやろ」
「その台詞、あいつが人間じゃないってわかって言ってんのか。あいつは芳が、つか人間が関わって良いもんじゃない。あんたあいつに思ってるより軽く見られてんだよ。どうせ玩具だと思われてる。さっさと関わるのやめろ」
「は、何を言うてんの。そない妄想は卒業せんと痛いで」
なんだ。なんで俺は責められているんだ。
芳はわけがわからなかった。いつもなら明彦と口論すれば口八丁が十八番の芳が地団駄を踏む明彦を丸め込んで終わりで、今回もそなるはずだったのだ。なのに明彦は至極冷静に正論を返してくる。
そう、正論を。
「今一番痛いのはお前だよ」
正論、を。
言葉の意味を理解する前に芳は思わず明彦に殴りかかった。自分が沼男だということも頭から抜けて、触れば明彦を沼男にするということも考慮せず、ただ黙らせたくて殴りかかる。だが明彦はそれを分かっていたと言わんばかりに避ける。修羅場の数は芳のが潜っているだろう。しかし現場に出て、時折荒事もこなしている明彦のが自分の体の使い方を分かっていた。芳が勢いよく床に倒れ込む。
明彦に、自分より格下に見下ろされている。面倒を見てやっているものに、自分より下の存在に。
思わず部屋を呼び出しそうになった。
明彦の失望したような表情は見ないふりをして、自分にできる最大を持って排除しようとして、そして。
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断末魔が上がる箱を、芳はただつまらなさそうに見ていた。血飛沫が上がる。肉片が飛び散る。最後まで生きたいと視線を彷徨わせるその瞳が濁る瞬間を見る。
「あの子供も放り込んで仕舞えば良かったのに」
つい先程姿を消した男はやれやれと肩を竦めてそういった。芳は明彦をこの箱に入れなかった。我に帰ったからではない。無抵抗の明彦の間に割って入った白い毛玉の生き物に邪魔されたからだ。触手のような尾をバシン、と床に叩きつけながら唸りを上げるその小さな生き物に芳は正気を引き戻される。それを抱えながら明彦がボソリと呟いた。
『戻って来れなくなる前にどうにかしろよ』
そこから明彦とは会話をしていない。というよりもその真っ直ぐさがあまりに忌々しいと感じてしまい直視できなくなった芳から避けているのだ。明彦は何か言いたげにしているがそれにも気づかないふりをして。
もう一人、可哀想な人間を放り込む。悲鳴。血飛沫。断末魔。倒錯。迷走。発狂。明彦の言葉が薄れていく。
(こんなん、やめれるわけあれへんやろ)
他人を掌握する全能感に、芳はとっくの昔に戻れなくなっていたのだから。畳む
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