小説 2025/01/17 Fri CoC「インビジブルの慟哭後」のネタバレがある。後日談#CoC #ネタバレ #インビジブルの慟哭 続きを読むいつまでも待っていると思うなよ。病院の入院棟にて。蒼は元々鋭い目を更に釣り上げて吐き捨てた。「そんなこと知りませんよ。好きになさったらいいじゃないですか」ベッドの隣に腰掛ける親友の物言いに、曲がりなりにも親友の今後をどうするか、という相談に冷酷さすらある返事をした蒼に茜は面食らう。返事につまる親友をじろりと分厚いレンズ越しに睨みつけながら蒼は顎に手を添えた。「だって貴女、結婚は誰の相談もなくすっぱり決めれたじゃないですか。あの時のようにささっと決めて動けばいいと思いますし」「で、でもあれは相手がいたし、決まってたからで…!」「その行動力が何故今ないんですか。バカですか」「ば、バカ…!?」おかしい、今までの彼女は自分に対してこんな物言いをしたことがあっただろうか。いやない。絶対ない。茜の記憶の中にはいつだって自分の思うまま研究に明け暮れて、自分の提案に対して真剣な意見を返してくれて、決して今のようにぞんざいな返答を返すような人ではなかったはずだ。けれども動揺する茜にため息を返して蒼は口を開く。「あのですね、二年ですよ。二年。人間二年もあれば変わります。いつまで貴女の中私は教授のままなんです?バカじゃないんですかそんな古臭い情報さっさアップデートしてくださいバカ」「に、二回言うの…!?」「ええ、言います。貴女の欲求のせいで捜査がものすごくややこしくなりましたし」ぎ、と音がしそうな程キツく茜を睥睨する。僅かに息を吸い込んだ蒼に茜はひっ、と悲鳴をこぼした。まずい、この蒼は止まらない。そう思うより早く彼女の口が言葉を氾濫させた。「大体なんで親友という割に結婚するかどうかという相談もなく突然結婚するという報告が直前ギリギリになった挙句残ってた研究も自分の好きな部分だけ全部片付けて残りを全部私に丸投げするし自分は幸せな結婚生活を送ってのには死ぬほど腹がたちましたよでもあの時怒らなかったのは貴女が幸せになるならと祝うだけに止めましたが本当は虚しいわ悔しいわ憎たらしいわで罵詈雑言を吐きたかったんですよでも貴女の嬉しそうな顔を見て私がそんなことを言えると思うんですか言えるわけないでしょうだから我慢したのにその翌年には貴女は未亡人になるわ声をかけたらほっておけと言うわそれで意思を組んでほっておいたらあんなところによりによってひとりで突っ込んで行くなんてバカ以外になんて言えばいいんですか?反論は認めますけどなにかあります?」「ひぇ…ない、ないです……」一息、本当に一息にまくし立てた蒼に茜は降参と手を挙げる。ぐさぐさ刺さる言葉を容赦なく全て言い切る。そこだけは変わらないなと言うのは今は言わない方がいいのだろう。と、無言になった蒼に茜が首をかしげた時だった。「…私がどれだけ、貴女を思ったか。貴女知らないでしょう?」「蒼…?」「才能があるのに、女の幸せだかなんだかわからないけど、そんなものを選んで置いていって。おいて行かれた貴女を見て、今度は戻ってきてくれるんじゃないのかなって期待すれば突き放されて、それなのに私が自由だなんて残した貴女に、私が何を思ったか、知らないでしょう?」「…」「縛られてたんですよ、私。貴女に。憎かった。悔しかった虚しかった寂しかった…それなのに、私、茜さんがずっとずっと大好きなんですよ」「…蒼」「だから、そんな茜さんの今後のことなんて。私知らない。知りません」だって、貴女は自分で考えて歩いていけるじゃないですか。私見たいに貴女がいなくなったら何もできなくなるわけじゃないじゃないですか。どんどん勢いがなくなる言葉尻に、茜は何も言えなかった。ごめん、もありがとう、もなにか違う気がして。親友なのに、何一つ蒼を知らなかったのだと思い知って。逡巡が、沈黙になる。扉一枚を隔てた向こうは大勢の足音や話し声で賑やかなのにこの病室だけは静寂が満ちていた。「…もし、私が。研究に戻るって言ったら…蒼、一緒に来てくれる?」ポツリと、そんな答えをわかりきった質問をする。逸らしていた視線を蒼に向けた茜は息を呑んだ。「絶対にお断りです。だって、研究者としての貴女と私は終わってますから」想像通りの言葉とは裏腹に、どこか清々しい顔で親友が笑っていたから。呆気に取られて思わず茜も笑ってしまったのだ。*科捜研で、つまらない検査を繰り返す。研究者としてこんなに退屈な職場はないだろう。蒼は常々そう思う。けど、このつまらない工程の一つ一つが被害者も加害者も救うなら。親友と再び関わり会えるなら。愚直で、けど眩しくて誰かを信じようと駆け抜ける人の隣で真実を見つけられるなら。案外、つまらないこの工程も嫌じゃないと、誇らしいと思うのだ。畳む
#CoC #ネタバレ #インビジブルの慟哭
いつまでも待っていると思うなよ。
病院の入院棟にて。蒼は元々鋭い目を更に釣り上げて吐き捨てた。
「そんなこと知りませんよ。好きになさったらいいじゃないですか」
ベッドの隣に腰掛ける親友の物言いに、曲がりなりにも親友の今後をどうするか、という相談に冷酷さすらある返事をした蒼に茜は面食らう。返事につまる親友をじろりと分厚いレンズ越しに睨みつけながら蒼は顎に手を添えた。
「だって貴女、結婚は誰の相談もなくすっぱり決めれたじゃないですか。あの時のようにささっと決めて動けばいいと思いますし」
「で、でもあれは相手がいたし、決まってたからで…!」
「その行動力が何故今ないんですか。バカですか」
「ば、バカ…!?」
おかしい、今までの彼女は自分に対してこんな物言いをしたことがあっただろうか。いやない。絶対ない。茜の記憶の中にはいつだって自分の思うまま研究に明け暮れて、自分の提案に対して真剣な意見を返してくれて、決して今のようにぞんざいな返答を返すような人ではなかったはずだ。
けれども動揺する茜にため息を返して蒼は口を開く。
「あのですね、二年ですよ。二年。人間二年もあれば変わります。いつまで貴女の中私は教授のままなんです?バカじゃないんですかそんな古臭い情報さっさアップデートしてくださいバカ」
「に、二回言うの…!?」
「ええ、言います。貴女の欲求のせいで捜査がものすごくややこしくなりましたし」
ぎ、と音がしそうな程キツく茜を睥睨する。僅かに息を吸い込んだ蒼に茜はひっ、と悲鳴をこぼした。
まずい、この蒼は止まらない。そう思うより早く彼女の口が言葉を氾濫させた。
「大体なんで親友という割に結婚するかどうかという相談もなく突然結婚するという報告が直前ギリギリになった挙句残ってた研究も自分の好きな部分だけ全部片付けて残りを全部私に丸投げするし自分は幸せな結婚生活を送ってのには死ぬほど腹がたちましたよでもあの時怒らなかったのは貴女が幸せになるならと祝うだけに止めましたが本当は虚しいわ悔しいわ憎たらしいわで罵詈雑言を吐きたかったんですよでも貴女の嬉しそうな顔を見て私がそんなことを言えると思うんですか言えるわけないでしょうだから我慢したのにその翌年には貴女は未亡人になるわ声をかけたらほっておけと言うわそれで意思を組んでほっておいたらあんなところによりによってひとりで突っ込んで行くなんてバカ以外になんて言えばいいんですか?反論は認めますけどなにかあります?」
「ひぇ…ない、ないです……」
一息、本当に一息にまくし立てた蒼に茜は降参と手を挙げる。ぐさぐさ刺さる言葉を容赦なく全て言い切る。そこだけは変わらないなと言うのは今は言わない方がいいのだろう。
と、無言になった蒼に茜が首をかしげた時だった。
「…私がどれだけ、貴女を思ったか。貴女知らないでしょう?」
「蒼…?」
「才能があるのに、女の幸せだかなんだかわからないけど、そんなものを選んで置いていって。おいて行かれた貴女を見て、今度は戻ってきてくれるんじゃないのかなって期待すれば突き放されて、それなのに私が自由だなんて残した貴女に、私が何を思ったか、知らないでしょう?」
「…」
「縛られてたんですよ、私。貴女に。憎かった。悔しかった虚しかった寂しかった…それなのに、私、茜さんがずっとずっと大好きなんですよ」
「…蒼」
「だから、そんな茜さんの今後のことなんて。私知らない。知りません」
だって、貴女は自分で考えて歩いていけるじゃないですか。私見たいに貴女がいなくなったら何もできなくなるわけじゃないじゃないですか。
どんどん勢いがなくなる言葉尻に、茜は何も言えなかった。ごめん、もありがとう、もなにか違う気がして。
親友なのに、何一つ蒼を知らなかったのだと思い知って。
逡巡が、沈黙になる。扉一枚を隔てた向こうは大勢の足音や話し声で賑やかなのにこの病室だけは静寂が満ちていた。
「…もし、私が。研究に戻るって言ったら…蒼、一緒に来てくれる?」
ポツリと、そんな答えをわかりきった質問をする。逸らしていた視線を蒼に向けた茜は息を呑んだ。
「絶対にお断りです。だって、研究者としての貴女と私は終わってますから」
想像通りの言葉とは裏腹に、どこか清々しい顔で親友が笑っていたから。呆気に取られて思わず茜も笑ってしまったのだ。
*
科捜研で、つまらない検査を繰り返す。研究者としてこんなに退屈な職場はないだろう。蒼は常々そう思う。
けど、このつまらない工程の一つ一つが被害者も加害者も救うなら。親友と再び関わり会えるなら。愚直で、けど眩しくて誰かを信じようと駆け抜ける人の隣で真実を見つけられるなら。
案外、つまらないこの工程も嫌じゃないと、誇らしいと思うのだ。畳む