小説 2025/01/09 Thu #CoC #明彦飯 #現代組 続きを読む藤堂明彦と庭木のPM13:09 牛肉の塊を熱したフライパンの上に置く。その瞬間肉が焼ける音と匂いが響き渡って明彦はほうと息をついた。 「あきっちなにしてんのー!?」 「ギャアアアアアアアアアアアアア!?!?」 突然ここにいないはずの男の声が聞こえて、明彦は思わず拳を振りかぶった。 「いたい」 「自業自得だろうが。謝んねえぞ」 頬をパンパンに腫らせた庭木をじっとりと睨んで明彦はため息をついた。この男がどうやって伝えてもいない辺鄙な場所にあるこの家のことを知ったのかはわからない。が、庭木の職業柄簡単だったんだろうなと勝手に納得してフライパンへ視線を戻す。特に焦げている場所もないため続きを続行する。トングで焼き色を見ながらひっくり返し全ての面を焼いていく。 「肉?」 と、暇を持て余したのだろう庭木がひょっこり後ろから顔を覗かせた。じっとしているのが苦手なのは知っていたしそろそろきそうだなとも思っていたので明彦も別段怒ることなく返す。 「肉。ローストビーフ焼いてんの。腹減ってっから」 「へー・・・うまい?」 「・・・何。食いてぇの?」 「あきっちの手作りはおっかない気がすっけど、匂いうまそーで腹減った」 「わかった。食うな」 「ごめんなしゃい」 即座に土下座する庭木を呆れ顔で見ながらも手を止めない。やがてしっかり焼き目のついた肉を冷ましている間にあらかた片付けを済ませ、冷めてからアルミホイルで二重に巻いていく。 「それ何の音・・・」 「アルミホイル巻いてんの。こうやってしっかり中まで熱通すんだよ」 「俺その音嫌いだわ・・・」 「じゃああっち行ってろよ・・・」 「えー!?暇じゃん!!」 「・・・」 もう何も言えねえ、と明彦が遠い目をする。見えていない庭木はお構いなしで、明彦の周りをちょろちょろと動き回っていた。邪魔、というのも気が引けて明彦はダメ元でぐい、と庭木に玉ねぎとすりおろし器を押し付ける。 「ほ?」 「玉ねぎすりおろせ。暇なんだろーが」 「俺っち手元見えないけど、だいじょぶ?」 「安心しろ、手すっちまわないようにするとって付いてっから見えなくてもできる」 庭木を椅子に座らせてこう、と最初に明彦が後ろから庭木の手を取り体感で覚えさせる。きょとんとしていた庭木は次の瞬間にはぱぁ、と嬉しそうに顔をにたつかせて一人で玉ねぎをおろし始めた。取っ手がついて最後まで野菜をおろせるタイプのおろし器買ってよかった、と明彦がひとりごちながらソースの準備をする。芳秘蔵の赤ワイン、醤油、みりん、砂糖を合わせておく。 「あきっち終わったっぽい?」 「おー、ご苦労さん」 「変なとこない?できてる?」 「できてるできてる。上等だって」 少々しつこいくらい聞いてくる庭木に苦笑して答える。見えないから不安なのだろうな、というのはなんとなくわかるので怒る気にならないのだ。上等、と伝えられた庭木は嬉しいのを隠しもせずにへへ、と笑う。あとは任せてくれとすり下ろされた玉ねぎを預かった。 先ほど合わせた調味料へ玉ねぎを合わせてから軽く煮込む。その間に別の鍋で湯を沸かす。沸いたのを確認して明彦はそっと湯の中へアルミホイルをかぶせた肉を沈めた。十分後、火を止めてそのまま放置する。 その間に洗濯物だとか、庭木が割った植木鉢の片付けとか、風呂掃除とか、庭木がひっくり返したローテーブルを直したりだとか、何かと忙しかった。三十分程してから肉を取り出し更に常温で置く。芳の仕事部屋に入ろうとする庭木を阻止して、もうできるからとテーブルに無理やり座らせるのに1時間かかった。 肉の塊を薄くスライスする。それを丼に盛った白米の上へ乗せ、卵黄を落とす。周りに覚ましたソースを掛けて、庭木の前へ置いた。 「箸、使えんの?」 「使えるよーん」 明彦の一見バカにしたような質問に腹を立てることなく返事を返す。その質問が盲目の自分を気遣ってのことだとわかっていたからだ。伊達に彼の上司をしているわけではないのである。 明彦のいただきます、を真似してイタダキマス、と庭木がオウム返しする。咀嚼音が聞こえたので恐らく食べ始めたんだろうなと理解して庭木も一口、それを入れる。 まず感じたのは甘いソースと肉の柔らかさ。卵のとろりとした感触。そして冷たい肉やソースとは真逆のあたたかい白米の温度。 「・・・うま」 「下手くそじゃなくて悪かったな」 得意げな明彦の声が聞こえる。旨い。素直にそう思った瞬間庭木は丼にがっついていた。喉をつまらせてむせれば明彦が何かを渡してきた。飲めよ、と言われて飲めばほんのりあたたかいお茶だった。 不思議な気分だった。基本的には一人で飯を食うことが普通でたまに同じ空間に西郷か山田がいるだけだ。いるだけで今のように誰かと向かい合って食べることなんてしたことはなかった。何とも言えない、けれど嫌ではない気分だった。 やがて食べ終わる。明彦が食器を片付ける音を聞きながら庭木はのろりと口を開けた。 「また一緒に食べよ。飯」 明彦が無言になって、吹き出す。何かおかしいことでも言ったっけ?と首をかしげる庭木に明彦は次は連絡入れてから来いよ、と言った。畳む
藤堂明彦と庭木のPM13:09
牛肉の塊を熱したフライパンの上に置く。その瞬間肉が焼ける音と匂いが響き渡って明彦はほうと息をついた。
「あきっちなにしてんのー!?」
「ギャアアアアアアアアアアアアア!?!?」
突然ここにいないはずの男の声が聞こえて、明彦は思わず拳を振りかぶった。
「いたい」
「自業自得だろうが。謝んねえぞ」
頬をパンパンに腫らせた庭木をじっとりと睨んで明彦はため息をついた。この男がどうやって伝えてもいない辺鄙な場所にあるこの家のことを知ったのかはわからない。が、庭木の職業柄簡単だったんだろうなと勝手に納得してフライパンへ視線を戻す。特に焦げている場所もないため続きを続行する。トングで焼き色を見ながらひっくり返し全ての面を焼いていく。
「肉?」
と、暇を持て余したのだろう庭木がひょっこり後ろから顔を覗かせた。じっとしているのが苦手なのは知っていたしそろそろきそうだなとも思っていたので明彦も別段怒ることなく返す。
「肉。ローストビーフ焼いてんの。腹減ってっから」
「へー・・・うまい?」
「・・・何。食いてぇの?」
「あきっちの手作りはおっかない気がすっけど、匂いうまそーで腹減った」
「わかった。食うな」
「ごめんなしゃい」
即座に土下座する庭木を呆れ顔で見ながらも手を止めない。やがてしっかり焼き目のついた肉を冷ましている間にあらかた片付けを済ませ、冷めてからアルミホイルで二重に巻いていく。
「それ何の音・・・」
「アルミホイル巻いてんの。こうやってしっかり中まで熱通すんだよ」
「俺その音嫌いだわ・・・」
「じゃああっち行ってろよ・・・」
「えー!?暇じゃん!!」
「・・・」
もう何も言えねえ、と明彦が遠い目をする。見えていない庭木はお構いなしで、明彦の周りをちょろちょろと動き回っていた。邪魔、というのも気が引けて明彦はダメ元でぐい、と庭木に玉ねぎとすりおろし器を押し付ける。
「ほ?」
「玉ねぎすりおろせ。暇なんだろーが」
「俺っち手元見えないけど、だいじょぶ?」
「安心しろ、手すっちまわないようにするとって付いてっから見えなくてもできる」
庭木を椅子に座らせてこう、と最初に明彦が後ろから庭木の手を取り体感で覚えさせる。きょとんとしていた庭木は次の瞬間にはぱぁ、と嬉しそうに顔をにたつかせて一人で玉ねぎをおろし始めた。取っ手がついて最後まで野菜をおろせるタイプのおろし器買ってよかった、と明彦がひとりごちながらソースの準備をする。芳秘蔵の赤ワイン、醤油、みりん、砂糖を合わせておく。
「あきっち終わったっぽい?」
「おー、ご苦労さん」
「変なとこない?できてる?」
「できてるできてる。上等だって」
少々しつこいくらい聞いてくる庭木に苦笑して答える。見えないから不安なのだろうな、というのはなんとなくわかるので怒る気にならないのだ。上等、と伝えられた庭木は嬉しいのを隠しもせずにへへ、と笑う。あとは任せてくれとすり下ろされた玉ねぎを預かった。
先ほど合わせた調味料へ玉ねぎを合わせてから軽く煮込む。その間に別の鍋で湯を沸かす。沸いたのを確認して明彦はそっと湯の中へアルミホイルをかぶせた肉を沈めた。十分後、火を止めてそのまま放置する。
その間に洗濯物だとか、庭木が割った植木鉢の片付けとか、風呂掃除とか、庭木がひっくり返したローテーブルを直したりだとか、何かと忙しかった。三十分程してから肉を取り出し更に常温で置く。芳の仕事部屋に入ろうとする庭木を阻止して、もうできるからとテーブルに無理やり座らせるのに1時間かかった。
肉の塊を薄くスライスする。それを丼に盛った白米の上へ乗せ、卵黄を落とす。周りに覚ましたソースを掛けて、庭木の前へ置いた。
「箸、使えんの?」
「使えるよーん」
明彦の一見バカにしたような質問に腹を立てることなく返事を返す。その質問が盲目の自分を気遣ってのことだとわかっていたからだ。伊達に彼の上司をしているわけではないのである。
明彦のいただきます、を真似してイタダキマス、と庭木がオウム返しする。咀嚼音が聞こえたので恐らく食べ始めたんだろうなと理解して庭木も一口、それを入れる。
まず感じたのは甘いソースと肉の柔らかさ。卵のとろりとした感触。そして冷たい肉やソースとは真逆のあたたかい白米の温度。
「・・・うま」
「下手くそじゃなくて悪かったな」
得意げな明彦の声が聞こえる。旨い。素直にそう思った瞬間庭木は丼にがっついていた。喉をつまらせてむせれば明彦が何かを渡してきた。飲めよ、と言われて飲めばほんのりあたたかいお茶だった。
不思議な気分だった。基本的には一人で飯を食うことが普通でたまに同じ空間に西郷か山田がいるだけだ。いるだけで今のように誰かと向かい合って食べることなんてしたことはなかった。何とも言えない、けれど嫌ではない気分だった。
やがて食べ終わる。明彦が食器を片付ける音を聞きながら庭木はのろりと口を開けた。
「また一緒に食べよ。飯」
明彦が無言になって、吹き出す。何かおかしいことでも言ったっけ?と首をかしげる庭木に明彦は次は連絡入れてから来いよ、と言った。畳む